著者
中谷内 一也 野波 寛 加藤 潤三
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.205-216, 2010 (Released:2010-02-20)
参考文献数
26
被引用文献数
2 2

本研究の目的は,沖縄県赤土流出問題を題材として,環境リスク管理組織への信頼が,一般住民と被害を受けてきた漁業関係者との間でどのように異なるかを検討することであった。何が信頼を導くのかという問いへの,社会心理学の長年にわたる標準的な回答は,能力認知と誠実さ認知が信頼を導くというものである。これに対して,リスク研究分野で注目されている主要価値類似性モデル(SVSモデル)は,人々が,リスク管理者に対して自分たちと同じ価値を共有していると認知することこそが信頼を導く基本要因だと主張する。われわれは両モデルが統合可能であると考えた。すなわち,当該環境問題に利害関係の強い人びとは主要価値が明確であるので,SVSモデルが予測するように,価値の類似性評価によって信頼が導かれる。一方,直接の利害関係にない人びとの信頼は代表的な信頼モデルが予測するように,能力評価や誠実さ評価によって導かれる。この統合信頼モデルを検証するために,沖縄県宜野座村をフィールドとして質問紙調査を実施し,一般住民(n=234)と漁業関係者(n=72)から回答を得た。分析の結果は仮説をおおむね支持するものであり,利害関係の強い漁業関係者の信頼は価値類似性評価と関連し,一方,一般住民の信頼は能力評価と関連することが見いだされた。最後に,今回の知見がリスク管理実務に与える示唆について考察した。
著者
村井 剛 猪俣 公宏
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.28-36, 2010 (Released:2010-08-19)
参考文献数
21
被引用文献数
2 2

リーダーシップは集団メンバー個々の行動と集団活動に決定的な影響をあたえるものとして一般に理解されている。本研究では,勝利志向型のスポーツチームの理想のキャプテン像の特徴を質問紙調査によって明らかにすることを目的とした。116項目のキャプテンの理想像に関する質問紙を808名,9競技種目のチームスポーツの選手を対象として調査を行った。項目の因子分析の結果,「目標志向性」,「人間関係の維持発展」,「メンバーへの激励」,「競技知識」,「競技能力」の5つの因子を抽出した。これらの結果は概ね先行研究で得られた見解と類似していた。 信頼性を検討するため,Cronbachのα係数の算出と,再検査法によるピアソンの相関係数を算出した。 α係数,再検査法による相関はともに比較的高い値であった。従って今回得られた結果はある程度の信頼性を有していると考えられる。 妥当性は基準関連的妥当性,内容的妥当性について検討した。また,性差の観点から比較を行った。
著者
東村 知子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.140-154, 2004 (Released:2004-04-16)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

日本の高校教育は,高校全入の時代を迎える一方,多数の不本意入学者や高校中退者という新たな困難に直面している。サポート校は,こうした事態に対応するものとして生まれ,現在まで急速に発展してきた。サポート校とは,通信制高校に在籍する生徒の卒業資格取得をサポートする私塾であり,不登校や高校中退を経験した生徒が数多く通っている。本研究では,あるサポート校C学院においてフィールドワークを行った。C学院における教育実践は,以下の3つの特徴―(1)教師と生徒が親密な関係にあること,(2)ふだんの授業では,学習よりも生徒が学校を楽しいと感じることが重視されており,高校卒業資格取得については特別な授業が設けられ,徹底した指導が行われていること,(3)教師が生徒一人一人に合わせた丁寧な対応を行っていること―を有していた。これらの特徴が,C学院に多く在籍する,不登校経験のある生徒や学力の低い生徒にとって有効であることを,事例研究から明らかにした。このように,サポート校における教育実践は,一般の学校にはない意義を有するものであるが,サポート校は学校教育を代替することはできない。その理由を,「制度化された教育」と「制度化されない教育」(林,1994)という観点から考察した。「サポート校=制度化されない教育」と「学校=制度化された教育」では,常に後者に正統性が与えられるがゆえに,サポート校は困難や矛盾を抱えることになる。意義と矛盾を共に抱えこむサポート校のあり方は,われわれが暗黙のうちに支えている学校教育制度の正統性に疑問を呈し,その再考を迫るものである。
著者
東村 知子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.122-144, 2005 (Released:2006-02-18)
参考文献数
12
被引用文献数
1

本研究では,就学前障害児の通園施設において,卒園児の親が自らの語る「物語」を通して,通園児の親を支援するという試みを行った。具体的には,かつて施設に在籍した子どもの母親のメッセージを,現在通園している親に伝えることによって通園児の親に対して心理的な支援を行い,世代を超えた親同士のネットワークを作り出すことを目指した。第1部では,この試みを行った背景として,長期にわたるフィールドワークをもとに,障害児をもつ親の抱える問題を通園開始から卒園まで時間軸に沿って詳述し,施設における支援の意義と課題を明らかにした。第2部では,やまだ(2000a)のライフストーリー論にもとづいて筆者が行った具体的な試みについて考察した。その際,物語の「内容」に着目するのではなく,語られた物語と「物語る―聴く」という相互行為が,語り手である卒園児の親と聞き手である通園児の親,および両者の関係性に対してもつ意義に焦点をあてて分析を行った。その結果,語られた物語が,語り手と聞き手の間での行き来を通して,両者にとって自らを映し出す「鏡」のような役割を果たしていること,そのように他者を通して自らの姿を見つめることが,親が障害のあるわが子をしっかりと受けとめ,自信をもって育てていくために必要なプロセスであることを見出した。さらに,通園施設におけるこうした試みを,障害児を育てる親のネットワークづくりのプロセスとして位置づけた。
著者
竹ノ山 圭二郎
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.42-53, 2005 (Released:2005-08-26)
参考文献数
18

本研究の目的は,援助の意思決定における状況の重大性の影響およびWeiner(1995)の認知(原因帰属)―感情―行為モデルについて検討することであった。被験者は,重大性(高:車道で倒れる―低:歩道で倒れる)×倒れる人(病人―酔っぱらい)で構成された4種類のシナリオを読み,それぞれに対して,援助意思,重大性,原因帰属,および困窮者に対する感情を訊ねられた。その結果,重大性高―酔っぱらい条件の被験者は,重大性低―酔っぱらい条件よりも援助意思を高く評定していた。この結果は,重大性が高くなるほど援助意思も高くなるということを示唆していた。しかし,重大性高―病人条件と重大性低―病人条件の援助意思には有意な差がなかった。この結果は,重大性高―病人条件の被験者が困窮者に責任を帰属したことにより援助意思が低下したことを示唆していた。また,相関分析の結果は,酔っぱらい条件における援助意思と原因帰属の相関が病人条件よりも大きいことを示唆していた。
著者
法理 樹里 牧野 光琢 堀井 豊充
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.42-50, 2017 (Released:2017-09-07)
参考文献数
37
被引用文献数
2 3

2011年3月11日に発生した,東北地方太平洋沖地震によって引き起こされた福島第一原子力発電所の事故に伴う風評被害は水産物にも及んでいる。福島県産農産物に対する消費者意識調査で用いられた手法を援用し,二重過程理論に基づき震災後の福島県産水産物の購買意図へ影響をおよぼす消費者意識を調査した。本研究で用いた,二重過程理論のシステム1には,「放射線・原発不安」意識および「被災地支援」意識,システム2には,「知識による判断」意識および「合理的判断」意識が含まれていた。共分散構造分析の結果,「放射線・原発不安」は購買意図を抑制することが示された。一方,「被災地支援」は,購買意図を促進することが示された。さらに,先行研究とは異なり,福島県産水産物の購買においては,「被災地支援」は「放射線・原発不安」を抑制する効果があることが明らかとなった。消費者は不安を抱えながらも復興支援の意識を持ち,福島県産水産物の「購買意図」を培っていることが示唆された。
著者
田垣 正晋
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.173-184, 2007 (Released:2007-09-05)
参考文献数
8
被引用文献数
4 2

本研究の目的は,障害者施策における住民会議のあり方を検討すること,および,その過程を通じて,アクションリサーチにおいて研究者はいかにフィールドと関わるべきかについて方法論的に検討することである。本研究でとりあげた事例は,ある地方都市の障害者施策推進に関する住民会議であり,筆者は住民会議の運営において中心的な役割を果たした。筆者の会議への関わりを,筆者の発言,提出資料,メールから時系列的に再構成した。住民会議の当初目標は,結果的には達成されなかった。その主な原因は,活動の目標が共有されなかったこと,文書資料の準備不足,市職員,座長,筆者の打ち合わせの不足であった。この過程をアクションリサーチの方法論の問題として検討した結果,当事者,すなわち,住民会議のメンバーのセンスメーキングを促すようなセンスメーキングを研究者が行うことが重要であるとわかった。例えば,メンバー間をコーディネートすること,住民会議の場で自明視されていたり,人々がうまく言葉にできなかったりする現象を研究者が言語化することである。また,得られた知見の文脈を同定し,他の事例への転用可能性を高めるために,研究範囲と期間(ローカリティ)を限定することも重要であることが示唆された。さらに,このためには,研究者とフィールドとのコンタクトの記録を保存して,フィールドワークの文脈を明示化することが重要との知見が得られた。
著者
横川 和章 上野 徳美
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.61-67, 1982-08-20 (Released:2010-11-26)
参考文献数
18

本研究の目的は, 集団極化現象の生起するメカニズムについて, 社会的比較説の立場から検討することであった。特に, 能力比較を基礎とした意見の比較が, 同質的集団内で生起する極化現象のメカニズムとして意味があるか否かを検討した。被験者は83名で, 彼らは, 比較の対象となる他者が高い能力をもつ条件 (H条件), 平均的な能力をもつ条件 (M条件) の実験条件, および統制条件にそれぞれ無作為に割り当てられた。実験条件の被験者は, 他者の意見 (アドバイスの平均値) に接触した。比較の対象となる他者は同じクラスの学生であった。材料としてはCDQ (Choice Dilemma Questionnaire) 4事例が用いられた。主な結果は以下の通りであった。事例1では, H条件においてriskyな方向への意見変化がみられた。すなわち高能力の他者との比較を通して極化現象が生起した。事例3でも同様にH条件においてriskyな方向への意見変化がみられた。また, アドバイスの初期態度の位置によって極化の程度が異なる傾向にあった。以上の結果は, 能力比較を基礎とした意見の比較が起こり得ることを示しており, 自分よりある程度能力の高い他者との比較を通して集団極化現象が生起することを示唆するものであった。また, 筆者らの前研究との考察において, 比較他者の属する集団の性質, すなわち, 被験者にとって同質的であるか, 異質的であるかによって集団極化現象の生起の様相の異なることが示唆された。
著者
清成 透子 井上 裕香子 松本 良恵
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.si5-11, (Released:2022-12-01)
参考文献数
26
被引用文献数
1

COVID-19のパンデミックは,行動免疫システムと感染予防行動や態度などの関係を検討する格好の機会である。本研究は,感染拡大の鍵を握る若年層(大学生)を対象に身近にCOVID-19の罹患者がいる群とそうではない群を比較し,行動免疫システムから予測される通り身近に迫る感染脅威が予防行動を実際に引き出しているかを検討した。調査は2021年7月5日から21日の期間にオンラインで実施した。有効回答のうち,感染経験者あるいは検査中の回答者(13名)を除外した456名を分析した結果,予測に反して身近有感染群(152名)は無感染群(304名)と比較すると全体として感染回避反応が低く,予防行動を行っていないことが明らかにされた。若年層では病原体曝露によるリスクと人間関係維持による利益間にトレードオフが生じている可能性が示唆された。
著者
黒川 雅幸 三島 浩路 吉田 俊和
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.32-39, 2008 (Released:2008-11-14)
参考文献数
28
被引用文献数
1 1

本研究の主な目的は,小学校高学年児童を対象に,異性への寛容性尺度を作成することであった。小学生を対象とするので,できる限り少ない項目数で実施できるように,6項目からなる尺度を作成した。休み時間や昼休みによく一緒に過ごす仲間の人数を性別ごとに回答してもらったところ,同性の仲間が1人以上いて,異性の仲間も1人以上いる児童の方が,同性の仲間が1人以上いて,異性の仲間がいない児童よりも,異性への寛容性尺度得点は有意に高く,妥当性が示された。また,異性への寛容性尺度得点には性差がないことも示された。同性の仲間が1人以上いて,異性の仲間も1人以上いる児童の方が,同性の仲間が1人以上いて,異性の仲間がいない児童よりも,級友適応得点は有意に高く,異性との仲間関係が級友適応に影響する可能性が示された。
著者
田戸岡 好香 石井 国雄 樋口 収
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.si5-3, (Released:2022-10-08)
参考文献数
23

感染症脅威は行動免疫システムにより外国人に対する偏見を生じさせるが,Huang et al.(2011)によればワクチン接種をすることでそうした偏見を低減できることが示されている。本研究では新型コロナワクチンの接種が在留外国人に対する態度に及ぼす影響を検討した。高齢者のワクチン接種が始まる前に,外国人に対する態度をベースラインとして測定する事前調査を行った。その後,全国的にワクチン接種が進んだ段階で,事後調査を行い,感染嫌悪の個人差,ワクチンの接種状況,ワクチンの有効性認知,外国人に対する態度を測定した。調査の結果(n=520),行動免疫システムの想定と一致して,ワクチン接種が完了していない状態では,感染嫌悪が低い場合よりも高い場合に,外国人に対する不寛容な態度が見られた。しかし,ワクチン接種を完了すると,感染嫌悪による影響が弱まっていた。なお,こうしたワクチンの接種が外国人態度に及ぼす影響は,特にコロナワクチンの有効性を高く認知している場合に顕著であった。考察では新型コロナのパンデミック下においてワクチン接種によって偏見が低減することの示唆について議論した。
著者
林 幸史 藤原 武弘
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.17-31, 2008 (Released:2008-11-14)
参考文献数
63
被引用文献数
3 2

本研究の目的は,日本人海外旅行者の観光動機の構造を明らかにし,訪問地域・旅行形態・年令層による観光動機の違いを比較することである。出国前の日本人旅行者1014名(男性371名,女性643名)を対象に観光動機を調査した。主な結果は以下の通りである。(1)観光動機は「刺激性」「文化見聞」「現地交流」「健康回復」「自然体感」「意外性」「自己拡大」の7因子構造であった。(2)観光動機は,年令を重ねるにつれて新奇性への欲求から本物性への欲求へと変化することが明らかになった。(3)アジアやアフリカ地域への旅行者は,今までにない新しい経験や,訪問国の文化に対する理解を求めて旅行をする。一方,欧米地域への旅行者は,自然に触れる機会を求めて旅行をすることが明らかになった。(4)個人手配旅行者は,見知らぬ土地という不確実性の高い状況を経験することや,現地の人々との交流を求めて旅行をする。一方,主催旅行者は,安全性や快適性を保持したままの旅行で,外国の文化や自然に触れることを求めて旅行をすることが明らかになった。これらの結果を踏まえ,観光行動の心理的機能について考察した。
著者
矢守 克也 高 玉潔
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.13-25, 2007 (Released:2008-01-10)
参考文献数
11
被引用文献数
2 2

本研究は,高等学校と地域社会において,ゲーミング手法を活用して実施した防災学習実践(アクション・リサーチ)について報告したものである。まず第1に,学習という営為について,Lave & Wenger(1991)らが提唱した学習論(実践共同体学習論)に依拠して整理した。第2に,今日の防災学習をとりまく課題を指摘し,Laveらの学習論はそれらの課題にとり組むとき,有力な指針を与えることを指摘した。第3に,以上を踏まえて,防災学習にゲーミングの手法が有効だと考えうる根拠を,Duke(1974)のゲーミング論をもとにして明らかにした。次に,以上の議論にもとづいて,1年あまりにわたって実施した防災学習のアクション・リサーチについて,その内容と経過を報告した。具体的には,高校生と関係者の協働によって,非常持ち出し品をテーマとした防災ゲームが成果物として完成し,その後,それが地域社会における防災教育のためのツールとして活用されている実態について述べた。最後に,以上の成果を総括し,当初受動的な学習者でしかなかった高校生が,本プロジェクトによって防災に関する実践共同体の有力メンバーとして参加するなど,実践共同体の構造に大きな変化が生じたこと,さらに,こうした共同体の柔軟な構造変容を伴った学習こそが,海溝型地震など周期の長い自然災害を対象とした防災実践には要請されていることを指摘した。
著者
江口 圭一 戸梶 亜紀彦
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.84-92, 2009 (Released:2009-08-25)
参考文献数
30
被引用文献数
3 5

本研究は,使用が簡便な労働価値観測定尺度短縮版の開発を目的として行ったものである。開発にはこれまでに蓄積された全データ(n=720,平均年齢41. 4歳±13. 3,18~74歳)を使用した。労働価値観測定尺度の原版(38項目版)の探索的因子分析の結果に基づき,因子負荷量が高い3項目が短縮版の項目として選択された。短縮版の下位尺度はいずれも高い内的一貫性を示した(α=.814~.878)。いずれの下位尺度についても,労働価値観測定尺度の原版(38項目版)と短縮版の間に高い相関係数が示され(r=.906~.976),基準関連妥当性は支持された。また,検証的因子分析でもモデルの高い適合度が示され(GFI=.929, AGFI=.902, CFI=.953, RMSEA=.056),因子的妥当性が支持された。以上の結果から,短縮版はより少ない項目数で38項目版と同様の構成概念を測定できることが示唆された。
著者
李 旉昕 宮本 匠 矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.81-94, 2019 (Released:2019-03-26)
参考文献数
27
被引用文献数
1 2

災害復興に関する課題として,復興に対する支援が十分に提供されるために,かえって復興の当事者たるべき被災地住民から「主体性」を奪ってしまう課題を指摘できる。支援者と被災住民の間に〈支援強化と主体性喪失の悪循環〉が生じてしまうという課題である。ここで「主体性」とは,当事者が抱える問題や悩みを外部者が同定するのではなく,当事者が自ら問い,言語化し,解決しようとする態度のことである。本研究では,東日本大震災の被災地である茨城県大洗町において,「クロスロード:大洗編」という名称の防災学習ツールを被災地住民が自ら制作することを筆者らが支援することを中心としたアクションリサーチを通して,この悪循環を解消することを試み,浦河べてるの家が推進する「当事者研究」の視点から考察した。第1に,「クロスロード」を作成する作業を通じて,一方に,〈問題〉について「主体的に」考える被災地住民が生まれ,他方に,当事者とは切り離された客体的な対象としての〈問題〉が対象化されている。第2に,「クロスロード」として表現された〈問題〉は,多くの人が共有しうる,より公共的な〈問題〉として再定位される。最後に,一連のプロセスに外部の支援者である筆者らが果たした役割と課題について考察した。
著者
青木 俊明 鈴木 温
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.42-54, 2005 (Released:2006-04-29)
参考文献数
32
被引用文献数
6 5

本研究では,自己関連性と情報提示に着目し,社会資本整備に対する市民の態度形成のメカニズムを検討した。その際,ヒューリスティック・システマティック・モデルおよび精緻化見込モデルに基づいてモデル構造を検討した。インターネットを用いてシナリオ実験を行った結果,情報開示が不十分な状況では,自己関連性の高さに関わらず,プロジェクトの社会的妥当性と信頼感などの周辺情報に基づいて賛否態度が形成されることが示された。その際,どちらの場合であっても周辺情報以上に事業情報の方が賛否態度に強い影響力を持つことが示唆された。一方,十分な情報が開示されている状況では,自己関連性の高低に関わらず,プロジェクトの社会的妥当性と手続き的公正によって賛否態度が形成されることが示唆された。さらに,態度変容モデルに基づいて考察した結果,自己関連性が高い場合には手続き的公正の中身が重要であり,自己関連性が低い場合には手続き的公正が認識させる行為自体が重要であることが示唆された。これらのことから,自己関連性の高さによって手続き的公正の役割や態度形成のメカニズムが異なることが示唆された。
著者
山口 裕幸
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.77-84, 2005 (Released:2006-04-29)
参考文献数
38

本稿では,公共事業の実施を巡る社会的合意形成の過程における葛藤のマネジメント方略について,全体連合の形成メカニズムを参照しながら検討を試みた。全体連合は,もともと独立した存在で互いに競争関係にある3者以上の当事者たちが,互いに譲歩したり妥協したりして,皆全員で一致して協同に合意する行為であり,より円滑な社会的合意形成方略の検討に有益な示唆をもたらすことが期待される。連合形成に関する実証研究の知見をレビューして,全体連合への動機づけを高めるには,当事者が自己利益だけでなく全体の利益までも考慮する視野の拡大が効果的であることを確認した。その一方で,当事者たちの協同への動機づけが高まり全体連合の提案頻度は高まっても,報酬分配交渉を経ることによって,実際に形成に至る頻度は減少してしまうことも確認された。これらの知見に基づき,人間は,協同を選択する際にも,より大きな自己利益を追求する動機づけを絶えず持ち続けることを認識することの重要性について議論し,インプリケーションの提示を行った。
著者
宮本 匠
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.60-69, 2016 (Released:2016-10-06)
参考文献数
13

本稿は,アクションリサーチの前提中の前提である,価値志向的であること,よりよい状態を目指そうという態度が,ときにアクションリサーチの現場を閉塞した状況にしてしまうことを指摘したうえで,それがいかに回避され得るのかを考察したものである。アクションリサーチにおけるベターメントの達成は,当事者の内的な世界における「身体の水準」が,共同体における他者との出会いによって,「言語の水準」へと顕在化することとして捉えることが出来る。新潟県中越地震の復興支援の事例では,ベターメントにつながるような「身体の水準」の顕在化に寄与するかかわりは,何らかのよりよい状態に向けて現在を変革する「めざす」かかわりではなく,「変わらなくてよい」ことを前提とした「すごす」かかわりであった。よりよい状態を「めざす」アクションリサーチにおける困難は,近代的な自我がいきつく〈時間のニヒリズム〉からとらえることが出来る。そのニヒリズムを基礎づける「インストルメンタル」な時間態度がどのように生まれたのかをふりかえると,それを保持したまま,なお現在のうちに生の充足を感受する「コンサマトリー」な時間態度が成立可能であることが理解できる。この「コンサマトリー」な時間態度の獲得が,現代社会のアクションリサーチの困難を回避する方策である。
著者
柳澤 さおり 古川 久敬
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.185-192, 2004 (Released:2004-04-16)
参考文献数
18

企業組織における人事考課に関わる研究では,評価目的が評価者の情報処理過程や評価に及ぼす影響について重視されてきた。しかし,そこで問題とされているのは評価目的の内容の差異が及ぼす影響であり,評価目的を与えること自体が及ぼす影響については言及されてこなかった。また,評価目的が,情報処理過程に及ぼす影響についても十分に検討されているとはいえない。本研究は,(a)評価目的を与えること,および評価目的を与える場合には(b)評価目的の内容が異なることが,被評価者の情報の記憶および評価に及ぼす影響について検討した。99名の被験者のうち,評価目的を提示した群には,昇給の査定(昇給査定群),もしくは再教育の必要性の査定(再教育査定群)のために,被評価者を評価することが教示された。評価目的が提示されない群(目的無し群)には,そのような目的が示されなかった。被験者は,被評価者の職務行動に関わる情報を読み,その後にその情報を再生し,被評価者に対する評価と好悪感情について評定した。評価目的が与えられた群は,目的無し群と比較して,多くの情報を再生していた。また,評価目的が与えられた群は,目的無し群よりも,評価と好悪感情が独立した評価を下していた。評価目的が与えられた昇給査定群と再教育査定群の間では,再生した情報および評価と好悪感情との関連に差異はみられなかった