著者
櫻井 洋一
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.85-91, 2020 (Released:2020-05-15)
参考文献数
31
被引用文献数
1

L‐カルニチン (L‐carnitine;以下LCARと略) はエネルギー代謝に深く関わる重要な栄養素であり, 日本人の食事摂取基準では必須栄養素として列挙されてはいないがLCAR欠乏症となると重篤な臨床症状を呈し, 極度のQOLの低下をきたす. LCARは生体内にて生合成されるが, LCARプールの大部分は食事由来であるため経口摂取不可能な患者では容易にLCAR欠乏症となる. 経口摂取が不可能な患者で長期的に栄養管理が必要な場合にはLCAR含有栄養剤を使用する必要がある. 高齢者において栄養不良やサルコペニアとなると生体内LCARプールが不足しやすくカルニチン欠乏に陥ることからカルニチン欠乏症予防や骨格筋に対する筋肉痛などのストレス軽減の観点からも栄養管理に用いるTPN製剤・医薬品扱いの経腸栄養剤にもカルニチンを含有した製品を積極的に使用することが望ましい. またLCAR不足のない健常者に対してもLCAR投与することにより脂肪酸化を促進しエネルギー代謝を改善することからアスレティックパーフォーマンス向上効果や骨格筋保護効果を認めることからその有用性が期待される.

1 0 0 0 OA CONUT

著者
宮田 剛
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.189-190, 2015 (Released:2016-02-25)
参考文献数
9
被引用文献数
1
著者
海堀 昌樹 宮田 剛 谷口 英喜 鍋谷 圭宏 深柄 和彦 鷲澤 尚宏 小坂 久 福島 亮治
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.221-227, 2021-12-15 (Released:2022-01-15)
参考文献数
9

本学会では2012年からESSENSE(ESsential Strategy for Early Normalization after Surgery with patient’s Excellent satisfaction)プロジェクトを立ち上げた.プロジェクトでの方策が現実に患者満足度を向上させて身体的回復を促進するか否かを検証するために,2014年に前向き多施設共同研究を行った.【方法】食道切除,胃全摘あるいは胃切除,膵頭十二指腸切除,肝切除,大腸切除を対象術式とした.対照期間として各施設従来通りの周術期管理を行う6カ月とした.その後ESSENSE介入による周術期管理を行う6カ月を介入期間とし,介入前後を術式ごとに比較する前向きコホート試験とした.【結果】術後3,7病日での質問法QoR40を用いた患者満足度の定量的評価では,5対象術式において介入群でのQoR40改善効果は認めなかった.各術式における生化学検査所見,Clavien‐Dindo分類による術後合併症発生率,在院日数,医療費においても両群間に差を認めなかった.【考察】ESSENSE介入群において良好な周術期管理結果が導けなかった要因として,「周術期不安軽減と回復意欲の励起に対する取り組み」としての患者自らのESSENSE日記記載ではQoR40患者満足度に対しては不十分であった.非介入群におけるQoR40結果自体が低値ではなく,さらなる上乗せ効果のエンドポイント設定自体が問題であったのではないかと推察された.また身体活動性の早期自立,栄養摂取の早期自立に対しても今回の介入策では不十分であったと考えられた.
著者
立石 渉 竹前 彰人 常川 勝彦
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.234-237, 2021-12-15 (Released:2022-01-15)
参考文献数
13

本邦での心臓血管外科領域におけるERASの報告が少ない中, われわれは積極的にERAS管理を行い, 術後早期回復の指標として早期食事開始, 離床, 退院の結果は得られた. しかし, Postoperative fatigueをいかになくすかという観点から見た際に, 現状ではどれくらいのを効果が得られたかの客観的な指標を示すことができていない. またさまざまな介入項目の効果などについての報告はあるものの, 一定の見解が得られていない項目が多い. 現状では以上のようなERASの問題点が存在しており, 今後は解剖し検証していることが必要になってくると考える.
著者
谷口 英喜
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.228-233, 2021-12-15 (Released:2022-01-15)
参考文献数
17

わが国の麻酔科領域において,enhanced recovery after surgery(以下ERAS)プロトコルが知られはじめたのは,術前経口補水療法(preoperative oral rehydration therapy:POORT)が導入された2009年にさかのぼる.その後,麻酔科領域にも広くERASプロトコルの概念が普及していく中で,プロトコル原型を実施する際の課題が明らかになってきた.課題としては,わが国では術前炭水化物負荷の実施が積極的ではないこと,硬膜外鎮痛の実施頻度がいまだに高いこと,術前準備期間が短いこと,麻酔科医が手術室外で十分に業務できないこと,などがあげられる.理想的には,麻酔科医が手術室外で現在よりも業務を実施できる環境となればERASプロトコルの実施における外科医の負担軽減および達成度の向上に貢献できると考える.本稿では,それぞれの課題と対策について述べる.
著者
松井 康輔 松島 英之 小坂 久 山本 栄和 関本 貢嗣 海堀 昌樹
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.246-249, 2021-12-15 (Released:2022-01-15)
参考文献数
7

【はじめに】当院では肝癌肝切除において,これまでのERASプロトコールによる周術期管理を改善し,ESSENSEプロトコールに基づいた周術期管理を行っており,その効果と問題点について検討を行った.【対象と方法】2018年1月より2020年12月までの肝細胞癌肝切除206例を対象に,当院におけるESSENSEプロトコールに基づいた周術期管理について検討した.【結果】ESSENSEプロトコールのうち,「腹腔ドレーンの排除」の検討では94.2%にドレーン留置が行われており,「術翌日よりの食事再開」において,術翌日に5割以上の食事摂取が可能であった症例は38.7%であり,いずれも遵守困難と考えられた.【考察】ドレーン留置は身体活動の抑制につながるが,肝癌肝切除においては,難治性腹水や術後胆汁漏の観点からドレーン留置が必要となる症例も多く存在し,ドレーン留置必須症例を正確に抽出する必要があると考える.また,術翌日よりの食事再開は困難であり,再開においても患者の食事意欲や腹部症状に合わせた食事内容での再開に努める必要があると考える.

1 0 0 0 OA 食道外科

著者
佐藤 弘 宮脇 豊 李 世翼 桜本 信一 牧田 茂
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.242-245, 2021-12-15 (Released:2022-01-15)
参考文献数
10

周術期早期回復プログラムの1つにEnhanced Recovery after Surgery (ERAS®)という概念がよく知られている. 当初は, 高度侵襲手術の1つに分類される胸部食道癌手術には適用が困難とも考えられていたが, 次第に普及し, 効果的に運用されている. しかしながら, 適用が進むにつれて, 多くの問題点が認められるのも現状と考えられる. 確かに“早期に回復する”ことは重要である. しかし周術期だけのアウトカムがよければよいというものではない. 本来, 本プログラムを適用することによって, 術後6カ月, 1年など中長期的にみても有用であることを証明しなければいけないと考える. また診療報酬上も, 適切に評価されるべきと考えられる. 診療報酬として算定されることになれば, 本プログラムがより多くの施設で適用されるようになり, 医療の質の向上につながることが期待される. 本稿は, 消化器癌の中でも高度侵襲手術の1つに分類される胸部食道癌根治手術を例にとり, ERAS術後早期回復プログラムの問題点について述べたい.
著者
眞次 康弘
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.250-254, 2021-12-15 (Released:2022-01-15)
参考文献数
25
被引用文献数
2

Enhanced recovery after surgery(ERAS)はエビデンスのある周術期管理方策をパッケージ化して実施し,合併症を減らして術後の機能回復促進を目的とする.ERASは現代医療ニーズにフィットするが欧州の医療システムに即して開発されてきたため,医療費抑制と包括ケアおよび急性期/回復期医療の役割分担を強化している.ESSENSEはERASをわが国で展開するためにその問題点を整理し,患者視点も重視して開発された.膵頭十二指腸切除術のERASプログラムは大腸手術プログラムから派生したものであり,これまでの報告から,ERAS実装は安全で入院期間短縮と一般合併症減少が期待できることはほぼ証明された.しかし,術後膵液瘻などの臓器・手術固有の合併症リスクはERASで制御することは困難であり,代謝ストレス制御は容易ではなく,早期経口栄養を開始できても必要量を充足できるとは限らない.エビデンス構築が十分でない推奨事項もある.総合評価指標と認知されている在院日数を第一義的に追求するのではなく,疾患に応じた科学的・病態生理学的原則に沿って運用することが重要である.
著者
荻野 晃
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.71-76, 2020 (Released:2020-05-15)
参考文献数
25

L‐カルニチンは長鎖脂肪酸のエネルギー産生, 生理機能の保持に重要な役割を果たしており, 生命活動に必要な栄養素である. また, 必要量の75%を食事に依存する条件的必須栄養素である. L‐カルニチン欠乏症を発症する病態は多岐にわたるが, 静脈・経腸栄養施行患者においてもL‐カルニチン欠乏症が報告されており, L‐カルニチン補充の必要性が指摘されている. 本邦では静脈・経腸栄養施行時におけるL‐カルニチン欠乏症はあまり問題とされていないが, 欧米の栄養学会ではL‐カルニチンの補充が推奨されている. L‐カルニチン欠乏症の治療には補充療法としてレボカルニチン製剤を投与する. また, L‐カルニチン添加の経腸栄養剤がL‐カルニチン欠乏症の予防に有効である. 最近, 医薬品L‐カルニチン添加経腸栄養剤としてエネーボ®配合経腸用液, イノラス®配合経腸用液が発売され, 経腸栄養施行患者のL‐カルニチン欠乏症の予防に期待される. 一方, 静脈栄養剤ではいまだ静脈栄養用L‐カルニチン製剤は存在しておらず, 今後の開発が望まれる.
著者
田附 裕子 米山 千寿 塚田 遼 當山 千巌 東堂 まりえ 岩崎 駿 出口 幸一 阪 龍太 上野 豪久 和佐 勝史 奥山 宏臣
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.100-106, 2021 (Released:2021-05-15)
参考文献数
16

われわれは, 2019年の市販セレン製剤の販売まで, 低セレン血症を認める在宅中心静脈栄養(HPN)患者に対して院内調剤のセレン注射剤(セレン製剤)の提供を行ってきたので, その投与量と安全性について報告する. 対象および方法 : 2019年末においてセレン製剤を6カ月以上当科で継続処方している27名のHPN患者を対象とし, セレン製剤の使用量, 使用期間, 血清セレン値の変動, 有害事象の有無などを後方視的に検討した. 結果 : 患者の年齢は2~78歳(中央値22歳)で, うち16歳以上は17例であった. 基礎疾患の内訳では短腸症が13例と最も多かった. 血中セレン値をモニタリングしながら正常値を目指して投与した. 最終的に1日のセレン投与量は, 市販製剤の推奨(2μg/kg/日)より多く, 25~200μg/dL/日(4μg/kg/日)で, 血清セレン値(正常値:13‐20μg/dl)は8.3‐23μg/dL(中央値14.8μg/dL)で調整された. 血清セレン値に変動はあるが有害事象は認めなかった. まとめ : HPN患者におけるセレン製剤の必要量は市販製剤の推奨量より多く, また長期投与が必要であった. 市販セレン製剤の販売によりセレン製剤の供給は安定したが, 長期投与の症例では今後も血清セレン値を定期的に確認し, セレン製剤の投与量の調整が必須と思われる.
著者
冨樫 仁美
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.70-73, 2021-04-15 (Released:2021-05-15)
参考文献数
4

外科治療の進歩とともに栄養療法も進歩し, 手術の成功率の向上や術後合併症の減少を可能にしてきた. 栄養療法の基本は腸を使うことであり, 栄養補給法の第一選択は経口栄養法となる. しかし, 経口栄養法である患者給食を提供するにあたっては食材費, 目標栄養量, 衛生管理などの観点から規制があり, 患者のニーズに合わせた食事提供には限界を感じることもある. 入院患者にとって, 食事は唯一の楽しみであり, ‘食べる’という当たり前だと思っていた行為ができないときに,楽しみは苦痛になりかねない. さまざまな規制はあるものの経口栄養の基本である患者給食は, 患者が食べる喜びを得られる形で提供されるべきである. われわれ管理栄養士がなお一層の努力をするとともに, この現状を他職種の医療関係者にもご理解いただくことが, より良い患者給食の提供につながると信じている.
著者
前田 恵理 鍋谷 圭宏 河津 絢子 金塚 浩子 實方 由美 高橋 直樹 若松 貞子
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.62-69, 2021-04-15 (Released:2021-05-15)
参考文献数
35

外科とくに消化器外科周術期栄養管理の重要性は論を待たないが, その一環として給食の意義が論じられることは少ない. わが国ではかつて, 流動食から全粥までの段階食で外科医ごとに異なる術後管理が一般的であった. その後, 施設・術式ごとのクリニカルパスが普及し, 主に段階食で画一化された術後管理が行われるようになった. 最近は, 術後早期回復プログラムに則り術後早期経口摂取再開と早期退院を目指すクリニカルパス管理が増えているが, 実際の給食摂取状況や栄養状態などアウトカムの評価は少ない. 一方で, 患者の希望も考慮した術後食の個別化管理で, 栄養摂取増加や体重減少抑制などの有効性が報告されている. 今後は, 食事再開日, 段階食の必要性, 食形態, 提供量を患者ごとに考慮したアウトカム指向の個別化給食管理を念頭におき, 「栄養源として食べてもらえる」給食の考案と環境整備が望まれる. 適切な患者給食からの栄養摂取は患者の満足感や回復意欲の励起にも繋がると思われるが, 一方で栄養源としての限界も理解する必要があり, 癌患者の予後に影響するような栄養状態の低下を招かないように適時適切な経腸栄養・静脈栄養の併用を忘れてはならない.
著者
丸山 道生
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.57-61, 2021-04-15 (Released:2021-05-15)
参考文献数
11

世界各国には, それぞれの国や地域の食文化を反映した独自の病院給食と術後食のシステムがある. 最近まで術後食に関して「手術後, 消化管運動が回復してから, 流動食から開始し, 段階的に普通食にステップアップしていく」というのが世界共通の考え方であった. 近年, 手術の安全性が増し, 低侵襲化されたことで, 従来の術後食を見直す動きが広がっている. 特に, 術後回復強化策ERASが種々の手術に普及することで, 術後早期の経口栄養と段階食の見直しが行われている. 今後, 術後栄養管理は経口栄養が主流となっていくと推測され, 術後食がさらに重要視されると考えられる. 術後給食の科学的, 臨床的検討と改善が望まれる.
著者
伊地知 秀明
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.84-88, 2021-04-15 (Released:2021-05-15)
参考文献数
4

患者給食は, 入院診療の一部であり, その喫食により栄養状態を保つことが治療効果に影響するため, 喫食率を上げることの重要性を患者も医療者側も意識することが重要である. すなわち, 病院食は単なる楽しみではないのであるが, しかし, 患者に病院食を楽しんで食べてもらえれば喫食率が上がり, それは治療効果に繋がることが期待される. 現行の病院食には衛生基準に加え, 栄養素バランスの基準の遵守が求められているが, それは健康人を対象とした基準であり, 患者に対しては喫食率が上がるようにフレキシブルな対応も考慮されるのではないか. 病院給食は多職種のチーム医療であり, 献立検討・喫食率向上・患者満足度向上へ向けて全院で取り組んでいくことが重要と思われる. また入院時食事療養費の引き上げも病院給食の安定した運営のためには必要と考える.
著者
伊藤 哲哉 中島 葉子
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.57-61, 2020

 薬剤性L‐カルニチン欠乏症は医原性に生じる二次性L‐カルニチン欠乏症の一種である. 原因となる薬剤としては, 抗てんかん薬, 抗菌薬, 抗がん剤, 局所麻酔剤, イオンチャンネル阻害剤, AIDS治療剤, 安息香酸ナトリウムなどの報告があるが, 長期投与を必要とする抗てんかん薬や, カルニチン欠乏のリスクが高い乳幼児期に投与される薬剤には特に注意が必要である. バルプロ酸ナトリウムの副作用として肝障害や高アンモニア血症が知られているが, これらはカルニチン欠乏やカルニチン代謝の異常が大きく関与すると考えられており, L‐カルニチン投与を行うこともある. また, ピボキシル基含有抗菌薬では腸管からの吸収後に生じるピバリン酸がL‐カルニチンと結合して尿中へ排泄されるためL‐カルニチン欠乏を生じる. 副作用として, L‐カルニチン欠乏からくる低血糖, 意識障害, 痙攣などの重篤な症状が報告されているが, これらの副作用は長期投与ばかりでなく短期間の服用でも認める例があるため, 抗菌薬投与の必要性やその選択について十分吟味したうえで適正に使用することが重要である.
著者
篠島 直樹 前中 あおい 牧野 敬史 中村 英夫 黒田 順一郎 上田 郁美 松田 智子 岩崎田 鶴子 三島 裕子 猪原 淑子 山田 和慶 小林 修 斎藤 義樹 三原 洋祐 倉津 純一 矢野 茂敏 武笠 晃丈
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.235-242, 2019 (Released:2019-11-15)
参考文献数
14

【背景・目的】当院では難治性てんかんの患児に「ケトン食」を40年以上提供してきた.その経験に基づきIRB承認の下,悪性脳腫瘍患者を対象にケトン食の安全性,実行可能性,抗腫瘍効果について検討を行った. 【対象・方法】2012年11月から2018年10月までの悪性脳腫瘍患者14例(成人10例,小児4例).栄養組成はエネルギー30~40kcal/kg/日,たんぱく質1.0g/kg/日,ケトン比3:1のケトン食を後療法中ないし緩和ケア中に開始し,自宅のほか転院先でもケトン食が継続できるよう支援を行った. 【結果】ケトン食摂取期間の平均値は222.5日(5‐498日),空腹時血糖値および血中脂質値はケトン食摂取前後で著変なかった.有害事象は導入初期にgrade1の下痢が2例,脳脊髄放射線照射に起因するgrade 4の単球減少が1例でみられた他,特に重篤なものはなかった.後療法中に開始した10例中9例が中断(3例は病期進行,6例は食思不振など),緩和ケア中に開始した4例中3例は継続し,うち2例は経管投与でケトン食開始後1年以上生存した. 【考察】後療法中にケトン食を併用しても重篤な有害事象はなく安全と考えられた.長期間ケトン食を継続できれば生存期間の延長が期待できる可能性が示唆された.中断の主な理由として味の問題が大きく,抗腫瘍効果の評価には長期間継続可能な美味しいケトン食の開発が必要と考えられた.