著者
岡田 いずみ
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.287-299, 2007-06-30
被引用文献数
1

学習者の学習意欲を高めることは難しい。本研究は,学習者の学習意欲を高めるために介入研究を行い,その効果を検討したものである。学習意欲と関連の深いものに学習方略がある。学習意欲と学習方略の関係については「意欲があるから方略を使う」という見方がなされることが多かった。それに対して,本研究では「方略を教授されることで意欲が高まる」という仮説の下,介入を行った。対象は高校生であり,内容は英単語学習であった。英単語学習のなかでも,特に体制化方略を取り上げた。研究1では授業形態で介入を行った結果,学習方略の教授により,ある程度は学習意欲が高まったことが示されたが,十分とは言えなかった。そこで研究2では,方略の学習がより確実なものになるよう,教材を改訂し,介入を行った。また,研究2では,個人差を捉えるために検討項目として,方略志向という学習観と,英単語に対する重要性の認知が学習意欲の変化に及ぼす影響を検討した。その結果,方略志向の高低や,英単語に対する重要性の認知にかかわらず,学習意欲が高まったことが確認された。
著者
藤井 恭子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.146-155, 2001-06-30
被引用文献数
3

本研究では, 青年期の重要な友人との関係における心理的距離をめぐる葛藤について検討する。具体的には, 青年が友人との心理的距離をめぐり, 「近づきたいけれども近づきすぎたくない」, 「離れたいけれども離れすぎたくない」というように, 「適度さ」を模索して生じる葛藤である。本研究ではこの葛藤を, 「山アラシ・ジレンマ」として捉え, (1)青年期の友人関係における「山アラシ・ジレンマ」を抽出する, (2)「山アラシ・ジレンマ」に対する心理的反応の仕方を明らかにする, (3)「山アラシ・ジレンマ」とそれに対する心理的反応の仕方の関係について, 心理的距離の程度から明らかにする, ことを目的として研究を行った。その結果, 近づくことに対するジレンマ, 離れることに対するジレンマにおいて, 心理的要因がそれぞれ2つずつ抽出された。それらは, 対自的要因によるジレンマと, 対他的要因によるジレンマであると整理された。また, 生じた「山アラシ・ジレンマ」に対して, 「萎縮」, 「しがみつき」, 「見切り」という3つの心理的反応があることが明らかとなった。さらに, 対自的要因による「山アラシ・ジレンマ」ほど, 心理的反応に結びつきやすく, その傾向は相手との心理的距離を遠く認知しているほど強まることが明らかとなった。
著者
宮下 一博 小林 利宣
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.297-305, 1981-12-30

本研究では,疎外感尺度を作成し,青年期における疎外感の発達的変化および疎外感と適応との関係を検討した。主な結果は,次の通りである。1.疎外感は青年期において発達的に減少する。2.疎外感は自我同一性(古沢の尺度による)と負の有意な相関がある。3.問題児は,問題を持たない者に比べ有意に高い疎外感を示す。しかし,次のような問題や限界も考えられる。第1に,疎外感の発達的変化は,横断的方法により分析されたが,これは,対象の選択の仕方により,結果が若干異なる可能性もある。今後さらに,縦断的研究によって,この点を検討することが必要であろう。第2に,疎外感と適応との関連を分析する場合に,疎外感の強弱という量的側面からの接近のみでは,十分でないことが考えられる。たとえば,疎外感をどうとらえるか(受容できるもの,或は拒絶すべきものと感じるなど)により,適応の様相も異なってくると想定される。このような観点からは,疎外感は問題行動などのネガティヴな心理側面と密接な関わりを持つと同時に,独創性や創造性や創造性などの人問の積極的な行動特性との関連において,ポジティヴな側面から問題にすることも可能であろう。
著者
徳舛 克幸
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.34-47, 2007-03-30
被引用文献数
2

本研究では,若手小学校教師(教師歴1年目〜3年副の教師の実践共同体への参加の過程を正統的周辺参加(Lave & Wenger,1991)概念を主な分析の視点として検討した。半構造化面接によって調査を実施し,トランスクリプションを作成した。そして,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(木下,1999,2003)を分析方法として用い,若手小学校教師の認知に基づく実践共同体への参加(学習)過程モデルを作成した。若手小学校教師は,教師として身につけるべきスキルや知識があると語る一方で,他の教師や児童,保護者,地域との相互交渉によって教師としての学習がなされると考えていることがわかった。そのため,「教師になる」とは,個人主義的に達成されるものではなく,社会的相互交渉によって社会的に達成されることが示唆された。さらに,学習の概念とは,従来の個人主義的な達成に加え,社会的達成物であることも示された。
著者
田村 綾菜
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.13-23, 2009-03-30
被引用文献数
4

本研究は,加害者の謝罪の言葉と表情が児童の謝罪認知(怒りの変化および罪悪感の認知)に及ぼす影響について,その発達的変化を検討したものである。大学生を対象とする予備調査により表情図の妥当性を確認した後,小学校1,3,5年生(N=346)を対象に質問紙調査を行った。仮想場面における加害者の表情(罪悪感あり顔,罪悪感なし顔)×謝罪の言葉(あり,なし)の4条件を被験者内要因とし,怒りの変化と罪悪感の認知についての回答を求め,その学年差を検討した。その結果,加害者の表情は怒りの変化と罪悪感の認知の両方に影響すること,その影響は3年生以降にみられることが明らかになった。他方,謝罪の言葉は怒りの変化にのみ影響すること,その影響は1年生でもすでにみられることがわかった。これらの結果から,謝罪を識別することが可能となる3年生以降においても,「ごめんね」と言われたら「いいよ」と答えるという言葉のやりとりが強く根づいている可能性が示唆された。
著者
杉澤 武俊
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.150-159, 1999-06-30
被引用文献数
2

日本でなされている教育心理学の研究では, 統計的検定によって有意な結果が得られる確率(検定力)はどのくらいであろうか。本研究では, 1992年から1996年までに発行された『教育心理学研究』に掲載されている論文で用いられている検定について調査し, ある特定の大きさの母集団効果量(小・中・大)が存在するときに, その研究で用いられた大きさの標本によって有意な結果が得られる確率を求めた。その結果, 対象となった論文の60%は中効果量を検出できる確率さえ.8にも満たないことがわかった。実験的方法を用いることが多い認知的側面を扱った研究は, 調査による研究を行うことの多い情緒的側面を扱った研究に比べて, 同一の母集団効果量に対する検定力が低くなっていた。また, 帰無仮説を研究仮説とした場合は, 特に高い検定力が必要であるにもかかわらず, 有意でない結果をもって仮説を支持できるほど検定力が高いとはいえなかった。また, 標本効果量を算出し, Cohen(1992)の効果量の基準の見直しを試みた。一部基準が不適切であるようにも考えられるものがみられたり, 研究領域や研究方法によって異なった基準を用いるべきであることを示唆する結果が得られたが, この点に関しては今後更なる検討が必要である。さらに, 標本効果量と標本の大きさの関係について分析した結果, 研究者は検定力を明確に意識こそしていないが, 効果量の小さいものに対しては標本を大きくして検定力を高めていることが示唆された。検定力は日本ではほとんど問題とされてこなかったが, 統計的検定が分析の中心となっている以上, もっと検定力に目をむけていかなければならない。
著者
佐藤 有耕
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.347-358, 2001-09-30
被引用文献数
1

本研究では, 大学生の自己嫌悪感と自己肯定の間の関連を検討した。目的は, どのような自己肯定のあり方が, 大学生の自己嫌悪感を高めているのかを明らかにすることである。自己嫌悪感49項目, 自尊心48項目, 自愛心56項目から構成された質問紙が, 18才から24才までの大学生ら535名に実施された。その結果明らかにされたことは, 以下の通りである。(1)自己嫌悪感は, 自分を受容的に肯定できるかどうかと関連が強い。(2)自己に対する評価も低く, 自己に対する受容も低いというどちらの次元から見ても自己肯定が低い場合には, 自己嫌悪感が感じられることが多い。(3)しかし, 最も自己嫌悪感を感じることが多くなるのは, 自分を高く評価するという点では自己を肯定している一方で, 受容的な自己肯定ができていない場合である。本研究では, 自己嫌悪感をより多く感じている青年とは, 自分はすばらしいと高く評価していながら, しかし現在の自分に満足できず, まだこのままではたりないと思っている青年であると結論した。
著者
宮下 一博
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.p455-460, 1991-12
被引用文献数
2

the purposes of the present paper were to examine the relations of narcissistic personality to Ss' present recollections concerning their parents' earlier attitudes and home environment. The Narcissistic Personality Inventory (NPI) revised by Miya-shita and Kamiji (1985), and three other questionnaires measuring mother's and father's attitudes together with the home environment were administered to 270 college students. Correlations were performed between NPI scores and the other three measures. The results showed that in case of females, a significant negative correlation was found between narcissism and the emotional acceptance of the mother : such result supported the theory of narcissism. In the case of male subjects a significant positive correlation was found between narcissism and the father's dominating attitude. With such a result, it was suggested that the father could not be neglected in the theory of narcissism.
著者
加藤 司
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.225-234, 2000-06

本研究の目的は, 友人関係を起因としたストレスフルなイベント, すなわち, 対人ストレスイベントに対するコーピングの個人差を測定する対人ストレスコーピング尺度(Interpersonal Stress-Coping Inventory;ISI)を作成し, その信頼性と妥当性を検証することである。因子分析の結果から, ISI(34項目)はポジティブ関係コーピング(16項目), ネガティブ関係コーピング(10項目), 解決先送りコーピング(8項目)の3つの下位尺度から構成されていることがわかった。信頼性に関しては, 内的整合性がα=.79-.87, 再検査法による信頼性係数がγ=.86-.92であった。妥当性に関しては, 内容的妥当性, 及びラザルス式ストレス・コーピング・インベントリー、尾関のストレス反応尺度, 抑うつ傾向を測定するCES-D, 友人関係に関する満足感との比較による構成概念妥当性の検証がなされた。その結果, 妥当性に関して幾つかの課題が残るものの, ISIの信頼性と妥当性を確認することができた。
著者
一柳 智紀
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.373-384, 2009-09-30
被引用文献数
1 2

本研究の目的は,児童の聴くという行為および学習に対する教師のリヴォイシングの影響を明らかにすることである。小学5年生2学級の社会科を対象に,直後再生課題と異なるタイプの問題からなる内容理解テストを行った。結果,話し言葉ならびに板書を伴う教師のリヴォイシングが,児童に発言を自分自身と結びつけて聴く機会を与え,聴くという行為を支援していることが明らかとなった。さらに教師のリヴォイシングの違いが,話し合いの中で1)何を,2)どのように聴くかという,聴くという行為の2つの側面に影響を与え,児童の内容理解の仕方にも影響することが明らかとなった。リヴォイシングにより発言児が主題に沿って位置づけられる学級では,児童が話し合いの流れを捉えて聴いており,授業内容を授業の文脈に沿って統合的に理解していた。一方教師のリヴォイシングが位置づけの機能を持たないもう一方の学級では,リヴォイシングにより個々の発言内容が明確化されており,児童は発言の「著者性」を維持したまま自らの言葉で捉えて発言を聴いていた。テストにおいても後者の学級の児童は授業内容を自らの言葉で積極的に捉え直せるように理解していた。
著者
香川 秀太 茂呂 雄二
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.346-360, 2006-09-30
被引用文献数
1

本研究は,密接に関連する状況間の移動と学習に関する状況論的な諸議論に新たな知見を追加するため,看護学校内学習から周手術期の臨地実習へ移動する看護学生の学習過程を検討した。研究Iでは観察を行い,「校内では,学生は,根拠に基づいて看護することの重要性が実感できず,その学習が希薄になってしまう傾向にあるが,臨地実習に入ると,その重要性をより実感して厳密に実施することを学習する。それはなぜか。」という問いを設定した。研究IIでは,実習期間終了直後の学生に半構造化面接を実施し,修正版グラウンデッドセオリーに基づく分析を行い,この学内と臨地の差異の背景と考えられるものの一つを,【時間の流れ】の相違(異時間性)として概念化した。臨地では,学生の現在の行為が未来の患者の容態変化と繋がっている(共時)上,学生は,患者の変化のつど,継続的に行為を調整していく(通時)が,学内では,学生の現在の行為は看護対象の未来の容態変化ではなく,合格・不合格と繋がっている(共時)上,対象と行為の関係が一時点で終わる(通時)。こうした異時間性が,根拠立ての重要性の実感の差異を説明することが示唆された。
著者
安西 祐一郎 内田 伸子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.323-332, 1981

The purpose of this paper is to identity children's internal process during production of writings. A new procedure was devised to deal with the problem of estimating the internal dynamics of chidren from 8 to 12 years of age. At first, a simple procedural model of discourse production was presented ; then, where and how long pauses were generated during writing was recorded for each child subject. Each child was also interviewed for the introspective report of what he or she thought at each pause.
著者
山森 光陽
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.71-82, 2004-03-31

本研究では,中学校1年生の英語学習に対する学習意欲はどの程度持続するのか,また持続させている生徒とはどのような生徒なのかについて検討を行った。具体的には,中学校1年生の英語学習に対する学習意欲はどの程度持続するものであるのかを生存時間分析を用いて検討し,さらに,学習意欲を持続させている生徒とはどのような生徒なのか,またどのようなことが切っ掛けとなって学習意欲が失われるのかを検討した。その結果,中学校1年生の英語の学習においては,初回の授業では9割以上の生徒が英語の学習に対して高い学習意欲を有していることが確認された。しかし,それを持続させることが出来たのは6割程度の生徒であったことが確認された。また,1年間の中でも,特に2学期において学習意欲が低くなる生徒が顕著に多いことが,本研究の結果明らかになった。さらに,試験で期待通りの成績が得られたかどうかではなく,「もうこれ以上がんばって勉強できない」と感じることの方が,その後の学習意欲の変化に影響を及ぼす可能性のあることが示唆された。さらに,学習意欲が上昇する生徒についても考察を行った。