著者
松岡 弥玲 加藤 美和 神戸 美香 澤本 陽子 菅野 真智子 詫間 里嘉子 野瀬 早織 森 ゆき絵
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.522-533, 2006-12-30

本研究では,成人期を対象に,複数の他者(子ども,配偶者,両親,友人,職場の人)から望まれている自己(他者視点の理想自己)と現実自己のズレが自尊感情に及ぼす影響について,性,性役割観,世代,就業形態との関連から検討した。調査参加者は就学前もしくは大学生の子どもを持つ成人期(子育て期,巣立ち期)の男女計404名。自尊感情を基準変数,5つの他者視点の理想-現実自己のズレを説明変数とした重回帰分析を行った結果,際立った性差がみられ,全体的に男性は職場のみ,女性は複数の他者(子ども,友人,両親のうち2者)の視点からの理想-現実自己のズレが自尊感情に影響していた。また,性役割観の違いによってどの他者視点から影響を受けるのかが異なり,子育て期の男性では伝統主義の場合は職場が影響していたが,平等主義群では子どもが影響していた。女性においては性役割観の違いが両親と友人の影響の差として現れ,世代差は子どもと職場の影響の違いにみられた。就業形態別では,専業主婦は両親のみが影響していた。以上のことから他者視点の理想-現実自己のズレが自尊感情に及ぼす影響は性,性役割観,世代,就業形態によって異なることが示された。
著者
池田 幸恭
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.487-497, 2006-12-30

本研究の目的は,青年期における母親に対する感謝の心理状態について明らかにすることである。そのため,母親に感謝しているときに感じる気持ちと,自分が苦労しているのは母親のせいだと感じる気持ちを合わせて検討した。中学生,高校生,大学生の585名に質問紙調査を実施した結果,次の3点が示された。(1)母親に感謝しているときに感じる気持ちとして,援助してくれることへのうれしさ,産み育ててくれたことへのありがたさ,負担をかけたことへのすまなさ,今の生活をしていられるのは母親のおかげだと感じる気持ちという4種類の気持ちが抽出された。(2)援助してくれることへのうれしさ,産み育ててくれたことへのありがたさ,今の生活をしていられるのは母親のおかげだと感じる気持ちは,青年期のどの時期でも感じられていた。(3)青年期における母親に対する感謝には,自分が苦労しているのは母親のせいだと感じる傾向がみられる要求的な心理状態から,負担をかけてすまないと感じる自責的な心理状態が現れ,そして負担をかけたことへのすまなさと自分が苦労しているのは母親のせいだと感じる傾向が小さくなる充足的な心理状態が現れるという変化の順序性がみられた。
著者
安藤 史高 布施 光代 小平 英志
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.160-170, 2008-06-30
被引用文献数
1

本研究の目的は,児童の積極的授業参加行動に対する動機づけの影響について,自己決定理論の枠組みを用いて検討することであった。小学校3年生から6年生までの1064名を2群に分け,国語または算数いずれかの積極的授業参加行動と動機づけに関する調査を実施した。分析の結果,「注視・傾聴」「挙手・発言」「準備・宿題」の3つの積極的授業参加行動がどちらの教科でも確認され,その尺度得点についても教科差は見られず,積極的授業参加行動は両教科において共通してみられるものであることが示された。積極的授業参加行動に対する動機づけの影響について構造方程式モデリングによる検討を行ったところ,内発的動機づけは全ての積極的授業参加行動を促進しているが,低自律的外発的動機づけは積極的授業参加行動を抑制することが明らかとなった。また,高自律的外発的動機づけは「挙手・発言」と関連しておらず,子どもの授業に対する意欲・動機づけを判断するためには,多様な行動を考慮する必要があると言える。さらに,学年差についても検討を行ったが,学年が上がることに伴う何らかの方向性を持った変化は確認されなかった。
著者
野口 隆子 鈴木 正敏 門田 理世 芦田 宏 秋田 喜代美 小田 豊
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.457-468, 2007-12-30

本研究では,教師が実践を語る際に頻繁に用いる語に着目し,語が暗黙的に含み込む多様な観点を明らかにするとともに,幼稚園及び小学校教師が用いる語の意味について比較検討をおこなった。対象となる語として「子ども中心」,「教師中心」,「長い目で見る」,「子ども理解」,「活動を促す」,「環境の構成」,「仲間作り」,「トラブル」の8語を選択。幼稚園計9園に勤務する保育者計92名(平均経験年数6.33年,SD=7.27),小学校計6校に勤務する教師101名(平均経験年数17.1年,SD=9.68)に対し語のイメージを連想し回答する質問紙調査を実施した。各語毎に内容をカテゴリー化し,幼稚園・小学校教師の発生頻度を比較したところ,全ての語において有意な偏りがみられた。全体的に,幼稚園教師は子どもの主体性や自発性を重視し,内面や行動について教師側が読み取りをおこない共に活動をおこなっていく観点を持っている。一方,小学校教師は教師側の指導,方向付けを重視し,子どもを理解する際直接な対話を重視する観点を持っていた。同じ語を対象としながらも,幼稚園・小学校の教師間では語の受けとめ方や理解に相違があることが示唆された。
著者
若松 養亮 大谷 宗啓 小西 佳矢
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.219-230, 2004-09-30
被引用文献数
1

本研究は, 小・中学生を対象に, 学習意欲と「現在の学習活動が自身の成功や幸福の実現のために有効であるとの認知」(学習の有効性認知)との関係について検討した。学習の有効性認知は, 「学習内容や活動の意義や正統性を認める(a)」, 「将来の職業や生活で役立つ(b)」, 「進学や就職の試験で役立つ(c)」, 「有効性を認めない(d)」という4カテゴリーを設定した。分析の結果, 小・中学生どちらにおいても, (1)学習の有効性認知と学習意欲の間には正の関係があること, (2)各カテゴリーの有効性認知を強く有する人を比較すると, a, b, c, dの順で学習意欲が高いこと, (3)「好きな教科の多少」で統制しても, 学習意欲は有効性認知a, b, c, dの順に高いこと, が明らかとなった。
著者
橘 春菜 藤村 宣之
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.1-11, 2010-03-30
被引用文献数
1 1

本研究では,高校生のペアでの問題解決に焦点をあて,他者と相互に知識を関連づける協同過程を通じて,概念的理解をともなう知識統合が個人内の変化としてどのように促進されるかを検討した。問題解決方略の質的変化(複数の知識を個別に説明する方略から複数の知識を関連づけて包括的に説明する方略への変化)が想定される数学的問題を事前課題-介入(協同または単独)-事後課題のデザインで実施した。実験1では(1)協同条件では単独条件よりも事前から事後にかけての解決方略の質的変化が生じやすいこと,(2)協同場面での複数の要素を関連づけた説明が事後課題での包括的説明方略の適用と関連が強いことが示された。実験2では,方略の質的変化をより促進するため,介入課題において,実験1の教示(以後,一括教示)と比べて,要素の関連づけ過程やその前段階の要素の抽出過程の活性化を目指した段階的教示を行った。その結果,(1)段階的教示では,事前から事後にかけての方略変化が一括教示よりも生じやすく,協同条件でその促進効果が顕著であること,(2)方略の質的変化が生じる協同過程では,ペアで相互に知識を構築する協同過程がみられることが示された。
著者
橘 春菜
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.469-479, 2007-12-30

本研究の目的は,幼児期後期から児童期中期の子どもを対象に描画課題を実施し,他者に情報を伝える意図をもつことで対象物の非視覚的性質の表現をどのように調整するか,その発達的変化を検討することであった。具体的には,幼児22名,小学校2年生20名,4年生21名を対象に次の課題を実施した。まず,対象児に外観が同じ2つの対象物の重さを区別する体験をさせた後に,それらの対象物の絵を自由に描かせた(自由課題)。続いて対象物の重さの違いを絵で他者に伝える意図を明示して,再度対象物の絵を描かせた(伝達課題)。分析では,対象児の描画と言語報告に基づき,その表現方略を年齢間で比較した。その結果,自由課題では表現方略に年齢差がみられなかった。伝達課題では,幼児では言葉による説明を付加しながら物語的に重さを伝える「継時付与方略」,2年生では対象物の大きさの違いのみで重さを伝える「同時単独方略」,4年生では媒介物(例:シーソー)等の非実在物を同時に提示することで重さを比較させる「同時付与方略」が多いこと等が示された。これらの結果より,発達にともない他者にわかりやすく意図を伝える表現における質的な変化が示唆された。
著者
樽木 靖夫
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.130-137, 1992-06-30
被引用文献数
1

Effects of positive and negative feedback on students' self-evaluation were investigated. Junior high school students were administered self-esteem scale, the Guess-Who-Test (class members nominations) and rating scales on self-confidence and self-evaluation relating to group behavior items. Then, class teachers gave each student positive feedback based on the peer ratings. The main results were as follows : (1) Though on the whole positive feedback had raising effects on self-confidence and self-evaluation, it was found larger for low self-esteem students than for high self-esteem students ; (2) Additional negative feedback only to high self-esteem students did not lower their self-confidence and self-evaluation but roused their willingness to improve their behavior when they were convinced of the truth of negative feedback. Based on the above results, effects of positive and negative feedback on students' self-evaluation were discussed.
著者
藤村 宣之 太田 慶司
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 = The Japanese journal of educational psychology (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.33-42, 2002

本研究では,算数の授業における他者との相互作用を通じて児童の問題解決方略がどのように変化するかを明らかにすることを目的とした。小学校5年生2クラスを対象に「単位量あたりの大きさ」の導入授業が,児童の倍数関係の理解に依拠した指導法と従来の三段階指導法のいずれかを用いて同一教師により実施された。授業の前後に実施した速度や濃度などの内包量の比較課題と,授業時のビデオ記録とワークシートの分析から,以下の3点が明らかになった。1)倍数関係の理解に依拠した指導法は従来の指導法に比べて,授業時と同一領域の課題解決の点で有効性がみられた。2)授業過程において他者が示した方法を意味理解したうえで自己の方略に利用した者には,他者の方法を形式的に適用した者に比べて,洗練された方略である単位あたり方略への変化が授業後に多くみられた。3)授業時の解法の発表・検討場面における非発言者も,発言者とほぼ同様に授業を通じて方略を変化させた。それらの結果をふまえて,教授・学習研究の新しい方向性や方略変化の一般的特質などについて考察した。The present study examined how children change their problem-solving strategies through social interaction in mathematics classrooms. A mathematics teacher taught a lesson on intensive quantity to 2 fifthgrade classes by means of either a method based on children's intuitive strategies or a conventional method. Children in both classes were asked to solve proportion problems before and after the lesson. Videotaped records of the lesson, and worksheets used by the children, were analyzed. Instruction based on children's intuitive thought was more useful when children were solving near-transfer tasks than was conventional instruction. Those who understood others' ideas presented in the classroom and incorporated those ideas into their own strategies used a sophisticated strategy (a unit strategy) on the posttest more often than those who superficially imitated others' ideas. Both children who had not said anything during the lesson and those who had made comments benefited from the experimental instruction method. A new direction of research in cognition and instruction, and general characteristics of strategy change, were discussed.
著者
栗原 慎二
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.243-253, 2006

本研究は, 摂食障害で不登校に陥った女子高校生に対して教員が支援チームを作って関わり, 無事卒業していった事例を通じて, 学校教育相談における教員によるカウンセリングやチーム支援のあり方について検討することを目的とした。本事例の検討を通じてチーム支援の有効性が確認されるとともに, 以下の点が示唆された。(1) 学校や教員の特性を生かしたチーム支援の有効性と可能性,(2) 学校カウンセリング独自の目標設定と方法選択の重要性,(3) コアチームのメンバー構成の重要性,(4) 学校における秘密保持のガイドライン作成の必要性。
著者
井沢,千鶴子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報
巻号頁・発行日
vol.41, 2001-03-30

The Atkinson-Shiffrin (AS, 1988) model enhanced James' (1890) dual memory processes (short-,long-term memory/STM, LTM) over Ebbinghaus' (1885) unitary process. But, Baddeley and Hitch (B-H, 1974) attempted to replace STM by working memory (WM). The Japanese Monbu-sho previously translated WM as "Sagyn Kioku," but later changed to "Sado Kioko." All 30 Japanese-English bilinguals (Exp. 1) and 19 Chinese-English bilinguals (Exp. 2) selected "Sagyo Kioku" as expressing WM heat, and 98% rejected "Sado Kioku". Results underscore the necessity for reviving the older, more accurate terminology, "Sagyo Kioku" henceforth. The alleged demise of STM/replacement of STM by WM claimed by some WM enthusiasts/sympathizers appears inappropriate: No objective signs of the diminution of STM research, contrasted with WM activities, emerged via Psychological Abstracfs, Citation Indices, and the thrusts of 39 critiques in Cowan (2901). Both STM research and the evolution of A-S type models continue to thrive with greater vigor than those of WM. Definitions of WM differ greatly among individual models/experiments. Such difficulties are compounded because WM does not adequately describe the psychological processes by excessively limiting itself to the memory components alone, stifling creative development of this field. To resolve current terminological chaos, Izawa (2001) proposed Working Cognition (WC), a far more comprehensive construct that involves all cognitive processes (including memory) necessary for solving any task. The strengths of WC dwell in its capacity to accommodate many problems/issues raised by representative models because WC includes all cognitive processes and their dynamic and flexible properties toward a Newell (1990) type unified theory.
著者
秦野 悦子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.p160-168, 1979-09

3歳から6∼7歳のいわゆる就学前後期の言語獲得途上における子どもについて,提題助詞「は」,および主格助詞「が」の使用と文中での意味理解を,模倣完成課題を用いて研究した。 聴覚刺激として雑音挿入の不完全文(18文)と,操作を加えていない完全文(10文)を用い,課題解決の手掛りとして,補助的に絵カード(9枚)を提示した。被験者に文の直後模倣再生を求めた。 主な結果は次のようなものである。 1,「が」は「は」より早期に習得され,「は」の正しい使用は就学後の子どもに認められる。 2,6才以上の子どもは,旧情報や,人の感情とか情緒が加わる判断の記述,また,一般に固定した観念の描写の際に,「は」使用を行う。 3,4才以上の子どもは,新情報や,現象の記述,また,眼前描写の際に「が」使用を行う。 4,「は」「が」の習得水準として,次のような段階が示唆される。 水準1:課題文の意味をまったく理解しない段階,つまり,無発話だったり,課題文と無関係な発話をしたり,課題文中の一部の要素を取り出して発話する段階である。 水準2:完全文課題が与えられた場合「が」使用はできるが,その他の場合,助詞欠如,乱用をする段階である。 水準3:完全文課題が与えられた場合,「は」「が」の使用はできるが,不完全文課題では,助詞欠如,乱用,をする段階である。 水準4:2つの助詞を一貫した使い分け基準により使用できる段階である。またこれは,成人の使い分け基準と一致している。 5,「名詞(句)+は+名詞(句)+が+述部」型文は子どもにとっても日常生活で習慣的に使われている型だと認められた。また,旧情報を伝える時,「名詞(句)+は」の省略傾向は,子どもにおいても認められた。