著者
坂本 篤史
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.584-596, 2007-12-30
被引用文献数
2

本研究は,現職教師の学習,特に授業力量の形成要因に関し,主に2000年以降の米国での研究と日本での研究を用いて検討し,今後の展望を示した。現職教師の学習を1)授業経験からの学習,2)学習を支える学校内の文脈,3)長期的な成長過程,という3つの観点から包括的に捉えた。そして,教師を"反省的実践家"と見なす視点から、現職教師の学習の中核を授業経験の"省察(reflection)"に据えた。授業経験からの学習として教職課程の学生や新任教師の研究から,省察と授業観の関係や,省察と知識形成の関係が指摘された。学校内の文脈としては教師共同体や授業研究に関する研究から,教師同士の葛藤を通じた相互作用や,校内研修としての授業研究を通じた学習や同僚性の形成が示唆された。長期的な成長過程としては,教師の発達研究や熟達化研究から,授業実践の個性化が生じること,"適応的熟達者(adaptive expert)"として発達を遂げることを示した。今後の課題として,現職教師の個人的な授業観の形成過程に関する研究,教師同士が学び合う関係の形成に関する実証的研究方法の開発,日本での教師の学習研究の促進が挙げられた。
著者
出口 拓彦
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.219-229, 2001-06-30

本研究は, グループ学習に対する指導を独立変数, グループ学習の効果および問題点に対する児童の認知を従属変数として, 複数の指導の組み合わせの効果について検討することを目的とした。16名の小学校高学年の教師にはグループ学習に対する指導について尋ね, 495名の児童にはグループ学習の効果および問題点に対する認知について尋ねた。グループ学習に対する指導をクラスター分析により「討議に関する指導」と「参加・協力に関する指導」に分類し, 各指導の効果を分散分析によって検討した。その結果, (a)「討議に関する指導」と「参加・協力に関する指導」を共に行っている学級において, 最も肯定的な認知がなされていること, (b)「討議に関する指導」のみを多く行い「参加・協力に関する指導」はあまり行わなかった学級において, 最も否定的な認知がなされていること, などが示された。このことから, グループ学習の指導の際には, 「討議に関する指導」と「参加・協力に関する指導」を共に行うことの重要性と, 「討議に関する指導」のみを行うことの問題が示唆された。
著者
益川 弘如
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.331-343, 2004-09-30
被引用文献数
8

本論文では, 大学学部生を対象に学生自身が協調的な活動を通して知識を構成していく2つの授業の実践と評価を報告する。認知科学研究の基礎資料を理解させる1998年度学部3年生の授業では, 学生自身が担当した研究事例を調べて発表し, 互いの研究事例を関連付け, 全体を統合する3つのフェイズが段階的に含まれるカリキュラムで, これらの学習活動を協調活動作業支援ツールで支援した。理想的な協調学習が起きた場合を想定した学習者モデルを作成し, その学習者モデルとシステムログデータを照らし合わせて分析した。結果, 想定していた積極的な他人のノート参照, 関連付け活動が確認された。特に活発なグループは, 個々の研究例の繋がりを挙げつつ問題解決の特徴をまとめた質の高いレポートを提出していた。この授業成果を元に, 2000年度は授業に段階的に関連付け活動を入れて, 幅広い対象領域においても相互に関連付ける活動を促進させる工夫をした。結果, 統合型のレポートを提出する割合が増加した。以上より, 研究事例の関連付け活動をシステムとカリキュラムで工夫して導入したことで学習者自身による協調的な知識構成活動を促進させることができたと言える。
著者
大野 久
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.p100-109, 1984-06
被引用文献数
1

The purpose of the present research is to investigate the structure of fulfillment sentiment in contemporary adolescence, and to confirm to what extent the sentiment model for contemporary Japanese adolescence proposed by Nishihira(1979)explains the structure of fulfillment sentiment. For the first study, 280 subjects rated 53 items that constituted the fulfillment sentiment instrument. The data were analysed by means of factor-analyses. Results of the analysis revealed that the fulfillment sentiment consisted of 4 factors, thus confirming the model proposed by Nishihira. Four factors were named(1)fulfillment sentiment vs.boredom-emptiness, (2)jiritsu-jishin(independence and self-reliance)vs.amae and lack of self-reliance, (3)solidarity vs.isolation, (4)trust and time-perspective vs.mistrust and time-diffusion. An examination on the pattern of correlations among four scales indicated the followings: the scale for fulfillment vs.boredom-emptiness showed significant positive correlation with the scale for jiritsu-jishin vs.amae and lack of self-reliance, the scale for solidarity vs.isolation, and the scale for trust and time-perspective vs.mistrust and time-diffusion. These results provided positive evidence to support the Nishihira's model. However, it was found that that the Nishihira's model might require a certain modification on the basis of results. The second study was designed to examine stability of each factor of the fulfillment sentiment scale by using the identical factor score method proposed by Bentler(1973). It was found that stability of the fulfillment vs.boredom-emptiness scores was lower than that of jiritsu-jishin vs.amae and lack of self-reliance, solidarity vs.isolation, and trust and time-perspective vs.mistrust and time-diffusion. These results suggested that the scale of fulfillment sentiment vs.boredom-emptiness represented an aspect of mood, while the other scales did the aspect of an ego-identity.
著者
羽野 ゆつ子 堀江 伸
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.393-402, 2002-12-25
被引用文献数
3

本研究は,模擬授業および教育実習を経験することによる教員養成系学生の実践的知識の変容を明らかにすることを目的とした。2年次に模擬授業を行い3年次の教育実習に臨むというカリキュラムで教員養成が行われている滋賀大学教育学部をフィールドとし,模擬授業前,模擬授業後(演習後),教育実習後の3回に,同一の学生を対象として,「教材」メタファ生成課題を行った。その結果,以下の諸点が明らかになった。第1に,演習および実習と経験を重ねるにつれ「食」メタファが増え,その質は教材開発,学習,授業展開など多様な側面に言及されるように変化した。授業を複合的に理解するようになった。第2に,演習後以降,授業実践に対する能動性がみられたが自律性は生まれなかった。第3に,実習後は,教師が教える内容を子どもが吸収する授業イメージが強まった。同時に,教材に対する子どもの多様な思考に対応できない不安定さもみられた。第4に,授業における教材の機能として学生は「認知」と「授業展開」を重視しており,自己および関係形成の媒体としての教材の機能は重視されなかった。教員養成の課題として,教材開発演習および実習後の省察の充実が挙げられた。
著者
小橋川 彗慧
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.9-14, 1966-03-31

本研究の目的は(1)同性のモデルが異性玩具で遊んでいるのを被験児が観察した結果として,被験児の異性玩具に対する反応に脱制止の効果がみられるか否か,(2)異一性モデルが適切玩具(被験児にとっては非適切玩具)で遊んでいるのを被験児が観察した場合にも,脱制止の効果が見られるか否か,の2点を検討することであった。幼稚園男児45名,女児45名(年令範囲5才10か月から6才8か月)が,同性モデル,異性モデル,統制の3群に配置された。同性,異性モデル群は,モデルの行動を短時間観察した後に,統制群は観察なしで,異性玩具と中性玩具の置かれている部屋で10分間の自由遊びの時間が与えられた。幼児の行動は15秒ごとに観察室から観察され記録された。測定値として,幼児が異性玩具に反応するまでの時間(潜時)と,観察中に異性玩具で遊んだ割合(異性-%)が算出された。主な結果は,(1)男児同性モデル群の<潜時>は異性モデル,統制両群の測定値より有意に短く,<異性-%>は異性モデル,統制両群のものより有意に大であった。この結果は,異性役割行動に対するモデルの税制止効果を示すものである。女児のデータでは,税制止効果の傾向が認められただけで,3条件間に有意差は見られなかった。(2)適切な性役割行動をおこなっているモデルを観察した被験児には,税制止効果も禁止の効果もともにみられなかった。幼児の異性主役割行動に対するモデルの税制止効果は,モデルの偏倚的行動と,この行動に対して実験者が無反応であったこと(罰を与えなかったこと),その2つを,観察した結果として解釈された。
著者
柳井 晴夫
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.145-160,190, 1967
被引用文献数
2

1.大学における9つの系への適性診断検査を作成するために, 性格, 興味, 能力, 職業への関心, 高校教科の得意, 不得意の45の尺度からなる適性検査を大学の専門課程に学ぶ480名の学生に実施した。<BR>2.これらの被験者のうち, 現在学んでいる自分の専門にじゆうぶん適応していないとおもわれる人を除外し, 残つた人を9つの系の基準群として, これらの人が自分の所属している系に, 最も近く診断されるように多重判別関数方式, 因子分析方式による診断方式に従つて診断を行なつた。<BR>3.多重判別関数方式による診断によると, 9つの系は, 4つの因子でかなり明確に分離され, 各人の8つの因子得点と9つの系の重心との距離を測つて, 最も距離の短くなる系を最も適している系とする診断方式によつて, 基準群被験者360名のうちの76.1%が自分の所属する系に最も適していると診断される結果がえられた。<BR>4.因子分析の主因子解によつてえられた因子得点に基づく診断は, 多重判別関数方式による診断よりかなり精度が低いことが判明した<BR>5.距離の算出においては, 多重判別関数方式では市街モデルの方が, 因子分析方式がユークリッドモデルの方がより精度の高い診断がされた。<BR>6.多重判別関数と因子分析によつて得られる函子構成にはかなりの相違がみられる。<BR>6.自分の現在学んでいる専門にじゆうぶん適応できていない人の90%近くは, 自分の所属している系に遠いと診断され, 自分の現在学んでいる専門に比較的適応できていて, 自分の所属している系に遠いと診断された人は14名前後である。これらの結果から, 全体的にみてかなりの高い精度の診断の結果が得られたといえる。 (多重判別関数方式の市街距離モデルによる診断)<BR>7. 1人の例外もなく誤つた診断がされないようにしていくためには, テスト尺度の構成や新しい診断の理論方式についての検討が行なわれていかなければならない
著者
坪井 裕子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.110-121, 2005-03-31
被引用文献数
4 4

本研究の目的は児童養護施設に入所している虐待を受けた子どもたちの行動と情緒の特徴を明らかにすることであった。児童養護施設に入所中の子ども142人(男子: 4〜11歳40人, 12〜18歳45人, 女子: 4〜11歳25人, 12〜18歳32人)を対象に, Child Behavior Checklist (CBCL)の記入を職員に依頼した。その結果, 女子は男子に比べて内向尺度得点が高く, 特に高年齢群女子は身体的訴えと社会性の問題の得点が高かった。被虐待体験群(n=91)と被虐待体験のない群(n=51)に分けて比較したところ, 社会性の問題, 思考の問題, 注意の問題, 非行的行動, 攻撃的行動の各尺度と外向尺度, 総得点で, 被虐待体験群の得点が有意に高かった。被虐待体験群は, 社会性の問題, 注意の問題, 攻撃的行動, 外向尺度, 総得点で臨床域に入る子どもの割合が多かった。虐待を受けた子どもの行動や情緒の問題が明らかになり, 心理的ケアの必要性が示唆された。
著者
中西 信男
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.8-16,65, 1969
被引用文献数
1

(1) 反抗の行動類型は1かんしやく型 (1:0~1:11が最高), II攻撃型 (3:0~3:11が最高), III言語型 (9:3~10:2が最高), IV緘黙型 (11:3~12:2が最高) の順にあらわれ, IVはその後, 青年期にまで持続される傾向を示している。<BR>(2) I, IIの行動的反抗とIII, IVの言語的反抗の類型は5才台では両型とも40~50%の出現率を示しているが, その後, 行動的反抗は漸次減少し, 言語的反抗がしだいに顕著になる。<BR>(3) I, IIの行動類型が児童後期まで持続されるときは神経症的反抗または逸脱した問題行動と考えることができる。<BR>(4) しばしば反抗がくり返される場面は睡眠, 排泄, 食事, 離乳, 服装, 生活空間の拡大, 経済, 遊戯, 非行, 家事, 学業, 娯楽の選択などの各領域においてみられる。<BR>(5) このうち, 1才児においては睡眠, 排泄, 食事習慣, 離乳, 行動空間の拡大などの基本的身体的習慣形成に関する反抗がみられ, 3才児では経済, 遊戯, 家事などに関する反抗がそれに加わる。4才になれば1才児にみられた身体的習慣形成に関する多くの反抗が消失するが, 5才以後, 衣服の選択, 学業, 家事, 娯楽の選択などに関して反抗が増加する。<BR>(6) しかし同じ食事場面の反抗でも1才児では基本的食事習慣に関するものがみられ, 4才以後ではこれらのかわりに食物の嗜好に関する不平が増加する。同様なことは生活空間の拡大についてもいえる。子どもの行動半径が拡大されるにつれて, 寝台から子供部屋へ, 家の周辺部へ, さらに近隣へと葛藤場面が移行している。<BR>(7) 反抗が頻発する場面の発達的変化は児童の運動能力の成長, 社会性の発達, それにともなう子供に対する親の期待の変化, 児童の成長にともなう決定領域の拡大とそれによつておこる家族内の不安定な力関係とに密接な関係がある。<BR>なお本研究は昭和32年度民主教育協会調査研究援助費によつて行われたものである。