著者
湯澤 正通 山本 泰昌
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.377-387, 2002-09-30
被引用文献数
8

本研究では,理科と数学の関連づけの仕方を変えた授業が,生徒の学習にどのように影響するかを調べた。公立中学校の2年生が金属の酸化に関して定比例の法則(化合する物質の質量比は一定である)を2種類の授業方法で学習した。実験群の生徒は,最初に,定比例の法則を原子モデルから演繹した後,数学で学習した比例の知識を用いて,酸化前後の金属の質量比を求める課題を2回行った。その際,理科と数学の教師がチームで指導に当たった。他方,統制群の生徒は,マグネシウムの酸化の実験を行い,そこから,定比例の法則を帰納した。また,酸化前後の金属の質量比を求める課題を1回行い,すべて理科の教師から指導を受けた。その結果,成績高群の場合,実験群の生徒は,統制群の生徒よりも,授業後のテストで,数学の関数の知識を用いて,酸化前後の金属の質量関係を予測し,計算する得点が高かった。また,実験群の生徒は,統制群の生徒よりも,誤差のある測定値を適切に理解することができた。
著者
杉浦 義典
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.240-252, 2001
被引用文献数
1

心配は, 制御困難な思考であると同時に, 困難な問題に対処するために能動的に制御された過程でもある。心配研究の主要な課題は, 心配がなぜ制御困難性になるのかを説明することである。本論文では, 先行研究を,(1) 心配の背後の自動的処理過程を制御困難性のメカニズムとして重視する流れと,(2) 心配の能動性そのものの中に制御困難性の要因を見いだそうとする流れ, の2つに分けたうえで,(2) に重点を置いて概観する。(2) の立場からの研究の課題は, さらに, a. 心配の機能や目標を明らかにするという大局的なものと, b. そのような機能や目標を実現するための方略を明らかにするという微視的なものとに区分される。本論文では特にb. のような微視的な視点に立った研究の必要性を提唱する。
著者
海津 亜希子 田沼 実畝 平木 こゆみ 伊藤 由美 VAUGHN SHARON
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.534-547, 2008-12-30

Response to Intervention/Instruction (RTI)を基にした,通常の学級における多層指導モデル(Multilayer Instruction Model:MIM 〔ミム〕)の開発を行った。MIMを用いて小学1年生7クラス計208名に行った特殊音節の指導の効果が,学習につまずく危険性のある子どもをはじめ,その他の異なる学力層の子どもにおいてもみられるかを統制群小学1年生31クラス計790名との比較により行った。まず,参加群,統制群を教研式標準学力検査CRT-IIの算数の得点でマッチングし,25,50,75パーセンタイルで区切った4つの群に分けた。次に,パーセンタイルで分けた群内で,教研式全国標準読書力診断検査A形式,MIM-Progress Monitoring (MIM-PM),特殊音節の聴写課題の得点について,参加群と統制群との間で比較した。t検定の結果,4つ全てのパーセンタイルの群で,読み書きに関する諸検査では,参加群が高く,有意差がみられた。参加群の担任教員が行った授業の変容を複数観察者により評価・分析した結果,MIM導入後では,指導形態の柔軟化や指導内容,教材の多様化がみられ,クラス内で約90%の子どもが取り組んでいると評定された割合が2倍近くにまで上昇していた。
著者
前田 啓朗 田頭 憲二 三浦 宏昭
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.273-280, 2003-09-30
被引用文献数
3

本研究では,日本の高校生英語学習者による語彙学習方略(以下VLS)の使用に焦点を当て,VLS使用の一般的傾向と異なる学習成果の段階における傾向を明らかにすること,簡便にVLS使用を測定できる質問紙を提供すること,英語学習をより促進できるようなVLS指導への示唆を導くこと,を目的とした。先行研究で示された高校生英語学習者のVLSを用いて調査を行い,15高等学校からの1,177の回答を分析し,先行研究に示される「体制化方略」「反復方略」「イメージ化方略」の3因子を仮定するモデルが確認された。同時に学習成果を測定し,上位・中位・下位に分割して分析を行った結果, VLS使用の強さが上位・中位はあまり異ならないがそれら2群と下位では顕著に異なり,異なるVLS間の相関は中位と下位ではあまり相違ない一方で上位ではイメージ化方略と他の2方略が比較的独立している,という結果が得られた。このことから,VLS指導や語彙指導の際に,学習成果の度合いに応じて効果的なVLSは異なるという点に留意する必要性が示唆された。
著者
小浜 駿
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.325-337, 2010-09-30
被引用文献数
1

本研究の目的は,大学生が学業課題を先延ばししたときに,その前・中・後の3時点で生じる意識の感じやすさを測定する先延ばし意識特性尺度を作成し,その信頼性および妥当性を検討することであった。研究1では,先延ばし意識特性尺度の作成と尺度の内的整合性および構成概念妥当性の検討を行った。研究2では,尺度の再検査信頼性の検討を行った。探索的因子分析によって先延ばし意識特性尺度の7因子構造が採択され,確認的因子分析でその構造の妥当性が確認された。同尺度とこれまでに作成された先延ばし特性尺度との関連から弁別的証拠が,同尺度と認知特性,感情特性との関連から収束的証拠が得られ,構成概念妥当性が確認された。先延ばし意識特性尺度と他の尺度との関連から,否定的感情が一貫して生起する決断遅延,状況の楽観視を伴う習慣的な行動遅延,気分の切り替えを目的とした計画的な先延ばし,の3種類の先延ばし傾向の存在が示唆された。考察では3種類の先延ばし傾向と先行研究との理論的対応について議論され,学業場面の先延ばしへの介入に関する提言が行われた。
著者
田村 節子 石隈 利紀
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.328-338, 2003-09

本研究では,不登校生徒15例に対する援助チームの実践をもとに,次のことを明らかにすることを目的とした。(1)保護者を含む援助チームの実践モデルを提案し有用性を検討する。ただし,有用性とは援助チームにより援助が促進されることを意味する(2)保護者の状況に応じた援助チームの実践例について,その形態を分類し,その特徴や実践に当たっての問題点を分析・検討する。実践の結果,援助チームは次の4タイプに分類された。タイプ1(典型例)…担任・保護者・スクールカウンセラーの3者で相互コンサルテーションを行う。タイプ2…担任・スクールカウンセラーの2者が相互コンサルテーションを行いながら,それぞれ保護者ヘコンサルテーションを行う。タイプ3…担任がスクールカウンセラーと相互コンサルテーションを行いながら,担任が保護者ヘコンサルテーションを行う。タイプ4…スクールカウンセラーが担任と相互コンサルテーションを行いながら,スクールカウンセラーが保護者ヘコンサルテーションを行い,同時にカウンセリングも行う。このように,担任・保護者・スクールカウンセラーが,核(コア)となって援助を主導し,相互コンサルテーションおよびコンサルテーションを行い,子どもへ援助する形態を"コア援助チーム"と定義し,学校教育においてチーム援助のモデルのひとつとして意義があることを示唆した。
著者
後藤 宗理
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.85-93, 1979-06-30

The two following experiments were carried out in order to point out that earlier studies of social reinforcement were defective in the way of presenting reinforcement, and to state that the social context should be chosen as a determinant of social reinforcement effectiveness. The manipulations in each experiment had much in common. First, day-nursery boys and girls were subjected to a 10-minute treatment session, in which they received the reinforcing stimuli either twice (deprivation) or 16 times (satiation) from a male experimeter. This was followed by a discrimination test made of 75 trials, in which the same reinforcing stimuli as in treatment session were given to all correct responses by the experimenter. At the end of the test, they were inquired about their awareness of response-reinforcement contingencies. The measure analyzed was the number of correct responses in the test. In experiment I, the partial replication of Massari (1971) study was carried out to point out that earlier studies of social deprivation-satiation were defective in the way of presenting reinforcement. Forty subjects were instructed to read picture books in treatment session, in which they received the reinforcing stimuli, either "orikou-san-dane" ("good child" in Japanese) or a sound of bell, on the fixed schedule. This was followed by a discrimination test. The dependent measure for the four experiment groups was subjected to an analysis of variance. The results of the analysis showed no significant effects for the type of reinforcement (social-nonsocial) and the treatment (deprivation-satiation). It was discussed that the mechanical presentation of reinforcement in treatment session caused these results. And it was proposed that social reinforvement, in order to find the social deprivation-satiation relation should be presented in social context, and that the procedure in treatment session should be modified Experiment II was carried out to show that social context was an important factor of social reinforcement effectiveness. One hundred and thirty-six subjects took part in playing with building blocks in a 10-minute treatment session, either with an experimenter (social interaction condition) or alone (no interaction condition). In this session, two-thirds of them received the stimulus words on the fixed schedule, but one-third of them received no words. This was followed by the test. In interaction condition, only boys made more correct responses in the deprivation group than in the satiation group. Among girls in interaction condition, Ss of the satiation group tended to make fewer responses than those in no word condition. These results suggested that the social deprivation-satiation hypothesis was supported only when reinforcement was given in the context of social situation, not when it was given according to the method used in earlier studies. In a general discussion, it was pointed out that social reinforcement ought to be presented in a social context.
著者
下仲 順子 中里 克治
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.231-243, 2007-06-30

本研究は25〜84歳の地域住民(男187,女225)を対象にして,目的1)創造性の年齢差と性差要因を分析すること,目的2)創造性に影響を及ぼす要因を分析することを行った。創造性の測定はJ.P.Guilfordの指導の下に考案されたS-A創造性検査を用い,活動領域(応用力,生産力,空想力)と思考特性(流暢性,柔軟性,独創性,具体性)を測定した。目的1では教育年数を共変数として,5年齢群と性を要因とした共分散分析を行った。結果は,活動領域の応用力,生産力と思考特性の流暢性と独創性では年齢差はなかった。性差は生産力と流暢性で女性が男性よりも有意に得点が高かった。結果より,創造性の量的側面は加齢と共に低下するが,質的側面は成人期中維持され,創造性の成熟が示唆された。また,性差は創造性に余り影響しないことが結論された。目的2では,活動領域と思考特性に共通して開放性と実際的問題解決能力が寄与し,人格と日常生活上の経験によって育まれてゆく解決能力が創造性の基礎となっていた。自尊感情,病気の有無,社会的問題解決能力は創造性の種々の側面に異なって寄与することが示された。
著者
林 美樹雄
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.11-17, 1955-07-15

美的観照を力動的な対象把握過程と考え、その力動性を画面の均衡把握について吟味するために成人式及び中学校生徒男女587名を対象としてテストを行った。テストの内容は単純図形を、画面としての矩形の内部に定位し中央位及び両側偏位の3種の構図について順位づけを求めた。被験者が幾何学的均衡(中央構図)と力動的均衡(偏位構図)との何れを選ぶかを18図形につき分析した結果を要約すれば次の通りである。(1)一般的傾向として中央構図の選択率%は略々50%を占め相称構図が支持せられる。これは特に相称図形において著しい(80%)。(2)図形が方向性緊張をもつ場合には方向性と逆方向の偏位構図が支持せられる。抽象幾何図形群においても方向性が把握せられるがそれが意味づけによって強化せられた 場合に偏位支持率が顕著となる。(3) 上下方向の変位図形においては下方偏位構図が支持せられる。(4)構図選択傾向を数値化した場合発達差よりも性差が著しく又その値は略々一定している。この差は主として男子群の方向性偏位支持率が集中的であるのに対し女子群のそれが稍曖昧である点によると思われる。(5)このテストと他種アーティストとの相関は極めて低い。知能テストとの相関は0.318であった。以上の結果はこのテストが諸条件を単純化しているために一般的な構図選択や複雑な画面の観照に適用することは出来ないが、而もそれは幾何学的図形においても相貌的方向性が認められそれが構図的均衡に影響を与えること、偏位は図形の方向性と逆方向において支持せられる等の点を明かにし力動的異質的均衡を分析する手掛りを提供する。この発展としては稍複雑な図形と連続的偏位法を用いて画面の均衡点を見出す操作により群差及び性差を一層明瞭に規定することと、画面諸要素の重さ及び方向性を精細に吟味することによって力動的均衡の特性を明らかにする側面とが残されている。但しこの様なテスト形式では画面の左右上下による重さの不等性を含む力動性の分析には不適当でありこの目的のためには瞬間露出法が有利であると考えられる。
著者
遠藤 愛
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.116-126, 2008-03-30

本研究では,特殊学級の教師を対象に,自閉性障害と診断された生徒に対する指導行動を改善する上で有効なフィードバックの検討を行った。具体的には,教師の抵抗感を高めないことを考慮し,教師の指導行動を評価対象とせず,教師の指導場面に類例した「放課後支援」を実施する学生支援スタッフの指導場面を評価対象として,教師に対し2種類の間接的フィードバック(書面によるフィードバックとビデオによるフィードバック)を実施した。その結果,ビデオによるフィードバックの導入後,教師の指導行動が肯定的に変容し,対象生徒の行動も改善した。同時に,教師が行った特定の生徒への指導により,指導効果が期待されていなかった他生徒にも積極的な授業参加が認められた。
著者
五十嵐 哲也 萩原 久子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.264-276, 2004-09-30

本研究では, 中学生の不登校傾向と幼少期の父母への愛着表象との関連を検討した。480名の中学生を対象とし, 以下の結果が得られた。1)「別室登校を希望する不登校傾向」は主に母親の「安心・依存」と「不信・拒否」, 「遊び・非行に関連する不登校傾向」は両親への「安心・依存」と「不信・拒否」が関連していた。また, 「在宅を希望する不登校傾向」では異性親への「安心・依存」と「不信・拒否」が関連していた。一方, 「精神・身体症状を伴う不登校傾向」は, 「分離不安」との関連が強かった。2)女子では, 幼少期の母親への愛着がアンビバレントな型である場合や, 父母間の愛着にズレが生じている場合に不登校傾向が高まる傾向が示された。女子はこうした家族内における情緒的不安定性への感受性が強く, 不登校傾向を示しやすいと言える。3)男子では, 「在宅を希望する不登校傾向」得点が高く, 幼少期の父母両者に対する愛着の「不信・拒否」と関連があることが特徴的であった。これは青年期以降の社会的ひきこもりに見られる状況と一致しており, 登校しながらも在宅を希望している男子の中に, 思春期時点ですでに同様の傾向が示されていると言える。
著者
豊沢 純子 唐沢 かおり 福和 伸夫
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.480-490, 2010-12-30
被引用文献数
13

本研究は,脅威アピール研究の枠組みから,小学生を対象とした防災教育が,児童の感情や認知に変化を及ぼす可能性,および,これらの感情や認知の変化が,保護者の防災行動に影響する可能性を検討した。135名の小学校5年生と6年生を対象に,防災教育の前後,3ヵ月後の恐怖感情,脅威への脆弱性,脅威の深刻さ,反応効果性を測定した。また,防災教育直後の保護者への効力感,保護者への教育内容の伝達意図と,3ヵ月後の保護者への情報の伝達量,保護者の協力度を測定した。その結果,教育直後に感情や認知の高まりが確認されたが,3ヵ月後には教育前の水準に戻ることが示された。また共分散構造分析の結果,恐怖感情と保護者への効力感は,保護者への防災教育内容の伝達意図を高め,伝達意図が高いほど実際に伝達を行い,伝達するほど保護者の防災行動が促されるという,一連のプロセスが示された。考察では,防災意識が持続しないことを理解したうえで,定期的に再学習する機会を持つこと,そして,保護者への伝達意図を高くするような教育内容を工夫することが有効である可能性を議論した。