著者
数井 みゆき 遠藤 利彦 田中 亜希子 坂上 裕子 菅沼 真樹
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.323-332, 2000-09-30
被引用文献数
4

本研究では現在の親の愛着とそれが子の愛着にどのように影響を及ぼしているのかという愛着の世代間伝達を日本人母子において検討することが目的である。50組の母親と幼児に対して, 母親には成人愛着面接(AAI)から愛着表象を, 子どもには愛着Qセット法(AQS)により愛着行動を測定した。その結果, 自律・安定型の母親の子どもは, その他の不安定型の母親の子どもよりも, 愛着安定性が高いことと, 相互作用や情動制御において, ポジティブな傾向が高いことがわかった。また特に, 未解決型の母親の子は, 他のどのタイプの母親の子よりも安定性得点が低いだけでなく, 相互作用上でも情動制御上でも行動の整合性や組織化の程度が低く混乱した様子が, 家庭における日常的状況において観察された。ただし, 愛着軽視型ととらわれ型の母親の子どもは, 安定型と未解決型の母親の子どもらの中間に位置する以外, この両者間での差異は認められなかった。愛着の世代間伝達が非欧米圏において, 実証的に検証されたことは初めてであり本研究の意義は大きいだろう。しかし, さらなる問題点として, AAIやAQSの測定法としての課題と母子関係以外における社会文化的文脈の愛着形成への影響という課題の検討も今後必要であろう。
著者
坂上 裕子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.411-420, 1999-12-30
被引用文献数
4 3

本研究では,人格特性と認知との関連を検討するため,大学生169名を対象に,個人の感情特性と図版刺激における感情情報の解釈との関連について調べた。感情特性の指標として,5つの個別感情(喜び,興味,悲しみ,怒り,恐れ)の日常の経験頻度を尋ねた。また,感情解釈の実験を行う直前に,被験者の感情状態を測定した。感情解釈の課題としては,被験者に,人物の描かれた曖昧な図版を複数枚呈示し,各図版について,状況の解釈を求めた上で登場人物の感情状態を評定するよう求めた。両者の関連を調べたところ,喜びを除く全ての感情特性と,それぞれに対応した感情の解釈との間に,正の相関が認められた。すなわち,被験者は,自分が日頃多く経験する感情を図版の中にも読みとっていた。また,特定の感情(悲しみと怒り,恐れと悲しみ,恐れと怒り)については,感情特性と感情解釈との間に相互に関連が認められた。感情特性と感情解釈の相関は,感情状態の影響を取り除いてもなお認められたことより,感情特性は,感情状態とは独立に個別の感情に関する認知と関連を持っていることが示唆された。
著者
梅村 智恵子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.p123-131, 1981-06

(1) 読字課題では仮名は音節文字であるために機能的にも連鎖反応が容易で,音韻の符号化も単一処理ですむために,音訓両音を持つ漢字よりも音韻の転換速度が速いことがわかった。 (2) 再認課題では音韻にのみ依存する仮名は系列的に処理されるために,文字間の弁別が難しく,意味を持つ漢字にくらべて再認が悪いことが考察された。また,同じ漢字でも意味が手がかりとして有効に働かない時は仮名と同様に再認が悪くなった。 (3) 自由再生課題ではリストの長短にかかわらず,直後再生では仮名(化)群の方が漢字群よりも良く,遅延再生では逆に漢字群よりも良くなった。これは短期の記憶では音韻情報が有効に働き,音連鎖の方略が取りやすかったのに対し,長期の記憶では逆に意味情報が有効に働いたためと考えられる。また,同じ漢字でも音韻に依存して符号化する場合と意味も同時に符号化する場合とでは結果が異なることが考察された。
著者
牛山 聡子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.203-213, 1969

本実験は次のことを検証することを目的として行なわれた。<BR>(1) 幼児は, 幼児に対し特に影響力を持つとは考えられないモデル (この場合女子学生) の社会的に望ましいとされている行動をどの位模倣するか。(実験I)<BR>(2) その際, 代理強化はどの程度の効果を及ぼすか。 (実験I)<BR>(3) 模倣された行動はどの程度維持されるか。(実験I)<BR>(4) モデルが同年令児である場合の幼児の模倣の程度。 (実験II)<BR>(5) 暗示的な質問の模倣に及ぼす効果。(実験II)<BR>そのため実験1の被験児には, 4才児組から男児22名女児18名, 5才児組から男児16名, 女児22名をとり, 実験IIの被験児には, 5才児組から男児14名, 女児8名をとった。2名の幼児に1個の玩具しか与えなかったときの幼児の遊び方を観察するために, 被験児は性と年令を同じにしてふたり1組にされた。被験児たちはモデルの行動を観察する前と後, および玩具をかえて, その遊び方を観察された。実験1の被験児たちには, 8mm映画によって, モデルの行動のみ (無報酬群), あるいは, モデルの行動と賞賛の声 (報酬群) が示された。統制群にはそうしたものはなにも示されなかった。実験IIの被験児たちには, 女子学生モデルの行動のみか, あるいは, 幼児モデルの行動のみが示された。その後の遊びの途中で「仲よく遊べたか」という暗示的な質問が与えられた。モデルたちは, まず玩具の使用をゆずりあい, それから「ジャンケン」をし, 交代で玩具を使った。実験1の5才児のみが, モデルの行動を2回観察した。被験児の行動は観察室から観察され, 観察は, おもに, 玩具の所有の移動についてなされた。観察者は, 玩具が移動した時の時間, 移動のしかた, 玩具の所有者, 被験児たちの会話を記録した。会話はテープにも録音された。<BR>実験の結果は次のようであった。<BR>(1) モデルの行動を観察させる前には, 1組の被験児たちも「ゆずりあい」や「ジャンケン」をしなかった。統制群の被験児たちは実験の間中,「ゆずりあい」も「ジャンケン」もしなかった。無報酬群・報酬群 (実験1), および女子学生モデル群 (実験II) の少数の5才児たちが, モデルのゆずりあいとジャンケンを模倣した。以上のことは, 5才児はたった1回または2回, モデルの行動を観察するだけでも, 特に影響力を持つとは考えられないモデルの社会的に望ましいとされている行動を模倣するということを示しているといえよう。<BR>(2) モデルに対する報酬を観察させること (代理強化) は, 必ずしも, モデルの行動の模倣を促進させなかった。<BR>(3) 模倣された行動は, たとえ玩具がかわっても維持される傾向にあった。.<BR>(4) 同年令児モデル群の幼児が1名もモデルの行動を模倣しなかったという事実と, 幼児の自発的な会話から, たとえ幼児はモデルと自分たちとの類似性に気づき, モデルの行動と自分たちの行動との相違に気づいたにしても, それだけで, モデルの行動を模倣するわけではないということがわかった。<BR>(5)「仲よく遊べたか」という暗示的質問は, あらたにモデルの行動の模倣を生じさせはしなかった。
著者
稲田達也 鈴木由美
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第58回総会
巻号頁・発行日
2016-09-22

問題と目的 社会人基礎力は,「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」として経済産業省が2006年から提唱する概念である。 中学校・高校における課外活動の中で大きな割合を占めるのが部活動である。部活動に関する研究は数多くあり,青木(2005)は,運動部所属群は無所属群及び文化部所属群よりも社会的スキルが高いことを明らかにした。郡司・伊藤(2010)は,部活動への参加経験が長いほど学校への適応感が高まり,規範意識が増大することを示唆している。上野・中込(1998)は,運動部員は部活動に参加していない生徒よりも,運動部活動場面における心理社会的スキル(競技状況スキル)を獲得しており,またそれが般化する形で競技状況スキルと同種の側面を持つライフスキルを獲得できることを明らかにした。中学校・高校における部活動と心理的発達の関連に焦点を当てた論文は数多く見られ,中学校・高校の部活動を通して,社会人基礎力も向上すると考えられるが,具体的に両者の関係に焦点を当てた研究はほとんど行われていない。そこで本研究では,中学校・高校での部活動で身についた力(部活動能力)がどのように社会人基礎力に影響するかを明らかにすることを目的とする。方 法 中部地方公立A大学1〜4年生326名を対象に平成27年4月に質問紙調査を行った。回答を求めた項目は以下の通りである。1.個人属性:性別,中学校・高校での部活動系列(運動部か文化部か),活動期間(引退の時期まで続けたか,途中でやめたか)の回答を求めた。2.部活動能力尺度(自作):予備調査より得られた部活動能力尺度について,5件法で回答を求めた。3.改訂版社会人基礎力尺度(西道):西道(2011)が作成した40項目の「改訂版社会人基礎力尺度」を用い,5件法で回答を求めた。なお,改訂版社会人基礎力尺度(西道)は「前に踏み出す力」「考え抜く力」「伝える力」「チームで働く力」の4因子構造である。結果と考察 個人属性と部活動能力尺度(自作)の各因子を独立変数とし,改訂版社会人基礎力尺度(西道)の各因子を従属変数とした重回帰分析(強制投入法)を性別ごとに行った(Table 1,2)。その結果、男子では,部活動能力尺度の「分析・戦略」「キャプテン・統率」因子が,女子では「チームワーク・対人」因子が社会人基礎力に対して強い影響力を持つことが読み取れた。次に,男子では部活動能力尺度の「根性・努力」「規範・礼儀」因子が,女子では「根性・努力」因子が,社会人基礎力にはほとんど影響しないということが明らかになった。最後に,個人属性と部活動能力はともに社会人基礎力に影響しているが、個人属性よりも部活動能力が社会人基礎力に対して強い影響力を持つことが明らかになった。
著者
木村 晴
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.230-240, 2005-06

ある思考を抑制するとかえって関連する思考が増幅する抑制の逆説的効果が報告されている。この効果は, 抑制の意図が高いほど生じやすいとされていることから, 本研究では, 個人が持つ抑制スタイルが抑制の成否に及ぼす影響を検討した。思考を徹底的に頭から締め出そうとする積極的抑制スタイルを持つ者は, 抑制意図を高め, かえって抑制の逆説的効果を経験するが, 侵入思考を受け流そうとする受動的抑制スタイルを持つ者は, 相対的に逆説的効果が生じないと予測された。実験1では, 参加者は受動的もしくは積極的な抑制スタイルを誘導され, 中性刺激の抑制を行った。また, 実験2では, 事前に行われた質問紙によって, 積極的抑制スタイル群, 受動的抑制スタイル群に分けられ, 個人的な日常の悩みを対象として抑制を行った。両実験において, 積極的抑制スタイルを持つ者は, かえって逆説的効果を生じさせたのに対し, 受動的な抑制スタイルを持つ者は, 逆説的効果を生じさせず, 予測どおりの抑制スタイルの影響が示された。また, 抑制スタイルにかかわらず, 抑制時に代替思考を用いた方略使用抑制群では, 逆説的効果が生じなかった。抑制対象, 抑制方略, そしてメタ評価が抑制の成否に及ぼす影響を論じる。
著者
山内 香奈
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.383-392, 1999-09-30
被引用文献数
1

論文×評定者×観点という3相の論文評定データに,多相Raschモデルと分散分析モデルを適用し,データの整合性の視点から問題となる特異な評定値の検出結果に関して両モデルを比較検討した。データとしては,教育心理学の卒業論文の要旨25編を,大学院生10人が5つの観点について5段階評定したものを用いた。特異な評定値の検出には,いずれのモデルにおいても,実際の評定値とモデルから期待される評定値との残差が用いられる。得られた結果かち,評定値の特異性のタイプによってモデル間で検出精度にやや違いがみられるものの,両モデルの残差は非常に高い相関を示し,両者の性質はほぼ同じものであることがわかった。この類似性は,モデルの適合度を様々に変化させた人工データでも確認された。論文を含む交互作用を考えない多相Raschモデルとの比較のため,分散分析モデルについては主効果モデルが用いられたが,実際のデータにおいて論文×評定者の交互作用を調べたところ,無視できないほど大きな交互作用があることがわかった。そこで,論文×評定者の交互作用を含む分散分析モデルによって特異な評定値の検出を試みたところ,主効果モデルでは複数の交互作用が相殺されたために検出できなかった特異な評定値を一部検出することができた。このように分析目的に応じて柔軟に交互作用をモデルに組み込めることや,分析に必要なデータの大きさ,さらにソフトウェアの利用し易さなど,いくつかの点で分散分析モデルの方が多相Raschモデルより実用的に優れていると判断された。
著者
西村 邦子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.168-178,192, 1963

非行者の理解から矯正・予測・健全育成までを結ぶ一連の研究過程の出発点として, 非行少年に特徴的な気質のパターンを集団的にも個人的にもとり出す目的で本研究は計画された。そのために実験的方法が用いられ, 12 の気質, その他の項目3について知能テストを含めて40 のテストが実施された。被験者は, 非行群として横浜少年鑑別所収容少年30名, 統制群として日本鋼管従業員教習所生徒20名, 橘学苑女子高等学校生徒10名, 計60名であつた。その結果, 非行群と統制群とを比較した場合, 以下の18項目のテストについて特徴的な差異が見出された。すなわち, 1. Embedded pattern, 2問題解決 (迷路), 3. 問題解決 (3語の類似), 4. 数暗示テスト, 5. 焦躁反応検査, 6. ラッキ―パズル (欲求不満の耐性) 7. G. S. R., 8. Aircraft range test,9. 犬→猫, 10 猫→ネズミ, 11. 円→四角, 12分類, 13. タッピング 14. Sears-Hovland test, 15. ラッキ―パズル (持続性), 16. ラッキ―パズル (おちつきのなさ), 17. わなげ, 18. 桐原一Downeyテスト-6 (正確さへの欲求), である。
著者
伊藤 裕子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.84-87, 1981

本研究は女子青年の性役割意識を多次元的に捉え, その構造を明らかにすることが目的であった。取り上げた指標は, 性度, 性役割観, 職経歴選択, 性の受容の4変数で, 136名の女子学生を被調査者として数量化理論III 類による検討を試みた。結果は以下の3点にまとめられる。<BR>1. 得られた軸は第2根までで, 第1軸は〈男性的-女性的価値〉の次元, 第2軸は〈両価的因子内在〉の次元であった。<BR>2. 第2根の第1根への回帰はきれいなU字型を示し, 尺度構成上有益な示唆を得た。<BR>3. 反応カテゴリーのパターンから3類型が導き出され, それらは男性的価値指向型, 女性的価値指向型, 個人内価値指向型であった。<BR>本研究で得られた基本次元および3類型は, 別の側面から検討された既婚男女の結果と基本的に通じるものであり, その存在の普遍性の一部を裏付けていた。
著者
伊藤 裕子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.168-174, 1986
被引用文献数
5

The purpose of this study was to examine (a) the concepts of masculinity and femininity, and their interrelation,(b) the appropriateness of the scale for measurements of sex-roles, and (c) the difference of role expectations for both sexes. Using two types of adjective lists, scores concerning desirabilities for men, women, and 'self' were factor analyzed respectively in unipolar scales among 155 undergraduates and in bipolar (SD) scales also among 217 undergraduates. In both scales, three factors were identified; "agency" emphasizing personal abilities or properties,"communion" oriented to cooperation with-or consideration for others, and "delicacy-charms" consisting of tenderness and sexual attractiveness. The scale was termed ISRS (Ito Sex Role Scale). Agency and communion were the main structural dimensions of sex-roles, mutually related with desirability for both men and women. The unipolar scales were more suitable for measurements of sex-roles than SD scales for the independence of factors. Role expectations for men consisted of agency and communion, while delicacy-charms were added to those for women. Reliability and validity of ISRS were substantiated in various aspects.
著者
伊藤 裕子 秋津 慶子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.146-151, 1983-06-30
被引用文献数
1
著者
中井 大介
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.359-371, 2015
被引用文献数
5

本研究では, 自己決定理論による中学生の教師との関係の形成・維持に対する動機づけを測定する尺度を作成し, 教師との関係の形成・維持に対する動機づけと担任教師に対する信頼感との関連を検討した。中学生483名を対象に調査を実施した。第一に, 探索的因子分析を行い「教師との関係の形成・維持に対する動機づけ尺度」を作成した結果, 「内的調整」「同一化」「取り入れ」「外的調整」の4因子構造であることが明らかになった。第二に, 教師との関係の形成・維持に対する動機づけと担任教師に対する信頼感との関連を性別に検討した。その結果, (1) 「自律的動機づけ」が担任教師に対する信頼感と正の関連, (2) 「統制的動機づけ」が負の関連を示すこと, (3) その関連の様相は性別に違いがみられることが明らかになった。(4) また, 教師との関係に対する動機づけで調査対象者を類型化した結果, 統制的動機づけの高い類型の生徒, すべての動機づけが低い類型の生徒の担任教師に対する信頼感が低いことが明らかになった。以上, 本研究の結果から教師と生徒の信頼関係は, 教師側の要因と生徒側の要因が相互作用を繰り返すことで次第に親密になっていく過程である可能性が示唆された。