著者
原田 唯司
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.12-21, 1982
被引用文献数
2

本研究は, まず最初に, 青年期における政治的態度を測定する視点として, 保守的, 革新的それぞれの態度を仮定し, その年齢や性別による差異を知ろうとした (調査1)。次に, 調査IとNHK調査 (1978) の結果の矛盾を解釈するために, 面接調査を実施した (調査II)。<BR>調査Iと調査IIの結果に基づいて, 政治的態度をとらえる視点として, 政治志向 (保守的-革新的) と政治への関与 (積極的-消極的) の両側面を設定した。そして, それぞれの測定尺度を作成し, さらに, 政治的態度に関連する要因を明らかにするために, 質問紙調査を行った (調査III)。<BR>本研究で得られた結果は以下のようである。<BR>1. 青年の政治志向はかなり革新的であり, 保守的傾向は弱い。また, 年齢とともにより革新的傾向が強まり, 保守的傾向は弱まる。<BR>2. 政治的態度には, 政治的関心, 投票やデモ, 陳情の有効性の感覚, 政治的な団体への好意や興味, 社会をよくするための活動などの要因が関連している。社会統計学的要因はあまり関連を持たない。
著者
河内 清彦
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.81-90, 2001-03

本研究では,視覚障害学生及び聴覚障害学生に対し大学生が想起するイメージの意味構造を解明するため,体育学系の男子学生108名と,教育・社会学系の男女学生137名にイメージ連想テストを実施した。得られた2686の記述語を,KJ法により分類し,43項目を選んだ。これらの記述語に数量化理論III類を適用し,標的概念と記述語の重み係数により相互の関連を検討した。その結果,障害学生の標的概念は,障害,性,学科を超え,「痛ましさ」と「忍耐力」の軸に囲まれた意味空間に位置していたが,記述語のレベルではグループ差がみられた。これらの標的概念と最もかけ離れていたのは,「好みの女子学生」と,「学力優秀な学生」の標的概念であったが,ここでは性と学科の影響が推測された。スチューデント・アパシー傾向を示す「自分自身」の標的概念は,他の標的概念との関連はなかった。障害学生の標的概念について記述語別の出現頻数による考察を行ったが,「視覚障害学生」は努力家で強く素晴らしいが,大変で苦しいという相反する記述語が共存していた。「聴覚障害学生」も全体的にはこれと類似していたが,性格面では前者が暗く,後者が明るいなど,部分的には障害種別の違いが示された。
著者
高橋佳代
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第56回総会
巻号頁・発行日
2014-10-09

【目的】 本研究の目的は,学校期における体罰経験が自己肯定意識に及ぼす影響を明らかにすることである。体罰は明確に禁止されているにも関わらず継続されてきた。学校現場で体罰が容認され続ける要因の一つに,体罰が子どもに与える影響について明確に示されていないことがあると考えられる。体罰に関しては種々意見があるが,体罰否定論の根拠とされる心理学実験は限られた被験者を対象に行われたものを根拠にしており,学校現場での体罰が子どもの心身の成長に与える影響を検討した研究は少ない。よって,本研究では子どもの健全な人格の形成への影響を理解するため,自己肯定意識(平石,1990)に注目し,体罰経験が自己肯定意識に与える影響を検討する。特に,体罰経験を被害者がどのように捉えたかという体罰に対する個人の認知に注目し検討を行う。【方法】1.調査方法:2013年10~11月,A県の大学生(1年生~4年生)726名に対し,心理学およびキャリア関連の授業後に質問紙の協力依頼をし,その場で配布,回収した。倫理的配慮として回答は任意で無記名であり,希望者に結果をフィードバックする旨を記載した。得られたデータのうち欠損のあるものを除いた655名(男子,458名,女子172名,不明25名)を分析対象とした。2.調査内容:1)体罰経験・体罰目撃経験・体罰加害経験:これまでの学校期における上記経験の有無,態様,被害内容について。2)体罰経験の捉え方:体罰経験後の生活の変化に対する認知2項目。3)体罰容認意識:体罰は学校生活に必要かどうかについて2項目。4)自己肯定意識:平石(1990)の自己肯定意識尺度のうち対自己領域の 「自己受容」,対他者領域の「自己閉鎖性・人間不信」「自己表明・対人的積極性」「被評価意識・対人緊張」の計26項目を使用し,5件法で回答を求めた。 【結果】1.体罰被害体験と加害経験との関連 体罰被害経験×体罰加害状況のχ2検定が有意(χ2(3,N=655)=39.23,p2.体罰被害状況と体罰容認意識の関連 体罰被害状況×体罰容認意識のχ2検定が有意(χ2(2,N=655)=7.02,p3.体罰経験,その捉え方と自己肯定意識との関連 自己肯定意識の各下位尺度を構成する項目の評定値の平均点を尺度得点(「自己受容得点」「自己閉鎖得点」「対人積極性得点」「対人緊張得点」)として算出した。 体罰経験の有無および被害の重症度を独立変数,自己肯定意識の下位尺度得点を従属変数として分散分析を行ったところ,有意差は認められなかった。 体罰経験の捉え方と自己肯定意識との関連を検討するため,体罰経験後に「学校が嫌になった」等ネガティブな変化を認知している群をネガティブ群,「技術・技能が上達した」等ポジティブな変化を認知している群をポジティブ群,双方とも認知している群を葛藤群とし,各群を独立変数,自己肯定意識の各下位尺度得点を従属変数について分散分析を行ったところ「対人緊張得点」において群の効果が有意であった(F(3,327)=3,98,p【考察】 体罰被害経験が体罰加害経験および体罰容認意識と関連することが明らかになった。一方で、自己肯定意識との関連を検討すると,体罰被害経験の有無や被害の重症度と自己肯定意識との関連は示されず、体罰経験の認知が自己肯定意識に影響する事が示された。体罰経験を両価的に捉えている者は対人緊張を高めている可能性が示唆された。
著者
鹿毛 雅治
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.p345-359, 1994-09
被引用文献数
2

Most of us would agree that intrinsic motivation is one of the most important concepts in educational practice. Unfortunately, however, as some researchers have suggested, the concept of intrinsic motivation is so ambiguous that it is very difficult to distinguish it from similar motivational concepts such as the Origin-Pawn and Locus of Control conceptualizations. The purpose of this paper is to make the concept clear by considering trends in conceptualizations of and studies on intrinsic motivation from historical point of view. It is found that the main issue of the studies shifted from "cognitive motivation" (what makes tasks interesting) to "undermining and enhancing effects" of interpersonal and evaluative variables. It is concluded that intrinsic motivation is defined as a motivational state in which learning is undertaken for its own sake and that the mastery orientation and autonomy are its essential components.
著者
村上 安則
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.30-37, 1981

この実験の目的は, 生徒の話す力, 書く力, 要約する力を高めるための条件を調査することであった。そこで次のような実験が行われた。50分間平常の授業で英語を教えられた統制群(C群)を, 40分の平常の授業の後, 最後の10分間で英問英答によって教えられた第1実験群(EI群), および最後の10分間に暗唱して正しく書けるように指導された第2実験群(EII群)と比較した。これらの3群の学習効果を知るために, 次の測度が用いられた。<BR>英文和訳問題と和文英訳問題においては, 通常の主観的採点法が用いられた。要約においては, 小町谷 (1974) にならって次の測度が用いられた。すなわち, 10人の英語教師によるテスト材料の評定に基づいて決められたところの,i) 有効伝達単位点, ii) 非有効伝達単位点, さらに有効及び非有効伝達単位点の相互関係に基づいたiii) 要約評定点, および iv) 伝達単位数である。各群33名の高校1年生からなるマッチングされた3群の被験者は, 次のように訓練をうけ, テストされた。<BR>pre-testではすべての被験者は, O. Henryの短編小説の前半を, post-testでは後半を与えられ, 50分以内に読んで, かつ, 次の3っの質問に答えるように求められた。3つの質問とは,(1)英文和訳問題,(2)和文英訳問題,(3) 英語での要約問題であった。<BR>訓練期間中は, すべての被験者に, 教材を理解するため次のような授業が行われた。すなわち,(1) 外人吹込みのテープを聞く。(2) 教材を読む。(3) 新出単語と新しい重要な文について学び, テキストの英文和訳を行う。C群はこの手順で授業を最後まで行う。EI群では最後の10分間, 教材全体にわたる重要な文について, 教授者が被験者に英問英答を行う。EII群では最後の10分間EI群の被験者が英問英答を行ったのと同じ文を暗唱し, 誤りなく書けるように指導する。この訓練が4回にわたってくり返された。<BR>英文和訳と和文英訳のpost-testの成績とpre-testの成績との差は, 3群の間ではほとんど見られなかった。しかし, 要約問題においてはEI群が全般的にもっともすぐれ, 次にEII群, C群の順であった。英間英答は, 被験者が教材をよりよく理解し, 要約するのに, より効果的であるといえよう。しかしながら, 学習時間を本実験の場合よりも長くすれば, これとは異なる結果の生じることも予想される。<BR>なお, 本研究を行った結果, 今後の問題点と思われるものには次のようなものがある。<BR>(1) 要約問題は, 教材全体の理解度を測るのに最適の問題形式と思われるが, 問題文の伝達単位の有効・非有効等の判定について, 少なくとも数名の英語の専門教師の協力が得られなければならず, 教材毎にこの規準を作成することは困難である。<BR>(2) 実験に関しては,(イ) training教材そのものだけに関する問題と, post-testだけに関する問題を作成すること。<BR>(ロ)英文和訳問題と和文英訳問題は, 客観テストとすること。(ハ) pre-testの問題とpost-testの問題の難易度を同じようにすることなどが望まれ, さらに,(ニ)学習内容に見合った学習時間が与えられることが望ましいと推測される。<BR>(3) これまでの実験的研究は, 平常の授業の多くの側面の中の1つをとり出して, 平常の授業とは異なる状況で扱ってきたために, その結果の平常の授業への一般化や適用が困難であった。それゆえ, 本研究では, 折衷法により, 全く平常の授業に実験をとり入れたのである。本研究には, まだ, 条件統制の上で, いくつかの問題点もあるが, 今後は, 授業の目標にあわせて, 他の実験が追加されたり, 不要な実験が省かれたりして, より一層の考慮が払われるならば, 本研究のような実験授業による英語教育法の研究は成果をあげることができるものと思われる。
著者
佐藤 純
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.367-376, 1998-12
被引用文献数
7

本研究は, 学習方略に対する有効性の認知, コストの認知, 好みが, 学習方略の使用に及ぼす影響について調べた。426名の小・中学生が, 学習方略の認知及び使用を評定する質問紙に回答した。その結果, 学習方略の有効性を認知し, 好んでいる学習者ほど使用が多く, コストを高く認知するほど使用が少ないことが明らかとなった。また, メタ認知的方略は, 他の方略よりもコストを高く認知され, 使用が少ないことが示された。さらに, メタ認知的方略を多く使用する学習者は, 学習方略のコストの認知が使用に与える影響が少ないことも明らかとなった。
著者
杉本貴代
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第57回総会
巻号頁・発行日
2015-08-07

0.はじめに 本研究では,日本語の心的辞書の中核を成す和語(やまとことば)に固有の現象である「連濁」の獲得過程と言語発達を検証することにより,子どもの言語処理と心的辞書の発達的特徴を検討する。連濁は,複合語の後部要素の語頭子音が濁音化する現象であり(例:いちばん+ほし→いちばんぼし, /h/→[b]),日本語の心的辞書を特徴づける語種の一つである和語に固有の現象として知られている(窪園 1999, 他)。脳科学的手法による研究から,連濁は言語の音声,形態,統語,意味の各範疇の情報処理に関連することが示されており(尾形他 2000, 酒井他 2006),その獲得の過程を明らかにすることは,日本語獲得過程と言語処理の統合的理解に寄与すると考えられる。これまでの成人対象の研究から,連濁が生起されるためには,①和語であるか否かの語種の区別に関する知識と,②単語を解析して有声阻害子音の有無を判別する能力の2条件が求められると考えられてきた(成人の連濁の2条件)。しかしながら,近年の先行研究から,子どもは初めから成人の2条件をそのまま学んでいるわけでなく,幼児は自ら利用可能な言語情報を用いて独自の連濁処理方略を発達変化させ,就学期を境に質的変化を経て成人に近づいていくことが示唆されている(杉本 2014)。1.問題と目的 音声言語を用いる幼児の連濁方略が児童期に質的に変化する要因は何であろうか。本研究では,幼小移行期の文字言語の学習とそれにともなう発達的変化に注目する。かな文字と漢字を学ぶ定型発達児の知見(杉本2015)に新たに点字を習得する盲児の事例を加え比較考察することにより,習得する文字種の特性により,心的辞書の再構成と言語処理方略に差異の有無を検討する。2.方法 実験は,定型発達児対象の先行研究(杉本2015,印刷中)と同じ2(アクセント)*2(既知/新奇語)の2要因反復測定計画とし,複合名詞産出課題を用いた。研究協力者は,東京方言地域(早田 1999)に居住する全盲の幼児2名(59カ月齢,72ヶ月齢)と先天盲の大学生1名であった。幼児2名のうち,1名は点字既習であり,もう1名は未習得であった。実験に際し,盲児に分かりやすい触覚刺激を用いた複合名詞産出課題を開発した。言語産出実験と発達検査を実施し,かな文字・漢字を習得途中の同年齢の定型発達児の知見と比較した。 実験結果の予想として,点字未習得の盲児は,定型発達幼児と同様にプロソディにもとづく連濁方略を用いると予想される。点字既習の盲児においても,ひらがな,カタカナのような区別を学習しないため,点字未習得の幼児と同様に音声特徴のみにもとづく連濁方略を使うと予想される。3.分析と結果 全盲の研究協力者を得にくい状況から,本研究は事例研究として分析した。まず,点字未習得の盲児は,プロソディにもとづく連濁方略(平板型アクセント語をもつ連濁和語のみ連濁させる),同年齢の定型発達幼児と同様の連濁方略を用いていることが明らかになった。一方,定型発達のかな文字習得児と点字習得児では,連濁方略に差異が見られた。すなわち,点字習得児は,幼児期固有の連濁方略には依存しておらず,成人と同様に連濁和語をすべて連濁させること(平板型≒頭高型語)に加え,外来語と漢語もすべて連濁させる非和語への拡張が確認された。点字習得児の非和語への規則的な拡張は,定型発達の幼児・児童にまれな傾向であることから(杉本2013),点字の学習と同時に別の手がかりをもとに語彙を分類(レキシコンの再構成)している可能性が考えられる。4.結論 点字を習得している/していない全盲の幼児の連濁方略に明らかな差異が確認された。点字未習得の幼児は,同年齢の定型発達児と同様の連濁方略を持つが,点字を習得している幼児の連濁方略は,定型発達幼児には見られない傾向であるため,点字学習の影響が考えられる。しかし,その因果関係は,本横断研究からは結論づけられるものでなく,今後の縦断的調査により,個人内の発達変化を追跡する必要がある。【謝 辞】 本研究にご協力くださいましたお子さんと保護者の皆様,先生方に心より御礼を申し上げます。本研究の一部は,平成26年度文部科学省科学研究費補助金挑戦的萌芽研究(課題番号26580080)および国立国語研究所共同研究プロジェクトの助成を受けました。
著者
森永 康子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.166-172, 1997-06

Work values among women college graduates (N=399) in their sixth to eighth year after college graduation were investigated. Approximately 70% of the study sample were found to be currently employed outside the home. Many working women were single without children, while married women with children did not have jobs outside the home. Although employment, marital status, and parental status were predicted to relate to women's work values, only marital status turned out to be significant. Married women placed a higher value on gender equality and family concerns than did single women. The relationship between individual job turnover and work values was also explored ; women who changed jobs were found to place more importance on intellectual stimulation than those who did not. In the analysis of future work plans, it was found that those who planned to pursue their jobs for a long period or to reenter the work force showed work value patterns significantly different from those of their counterparts.
著者
千島 雄太 村上 達也
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 = The Japanese Journal of Educational Psychology (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.1-12, 2016
被引用文献数
4

本研究では, 現代青年に顕著なキャラを介した友人関係について, 中学生と大学生の比較から検討が行われた。本研究の目的は, キャラの有無による心理的適応の相違に加えて, キャラの受け止め方とキャラ行動が心理的適応に及ぼす影響を明らかにすることであった。中学生396名と大学生244名に質問紙調査を行った。分析の結果, 大学生は中学生よりもキャラがある者の割合が多く, キャラがない者よりも自己有用感が高いことが示された。因子分析の結果, キャラの受け止め方は, "積極的受容", "拒否", "無関心", "消極的受容"の4つが得られた。得点とパス係数の比較を行った結果, 学校段階で違いが見られた。中学生では, 友人から付与されたキャラを受容しにくく, キャラに合わせて振る舞うことが, 心理的不適応と関連することが明らかになった。一方で, 大学生ではキャラ行動と適応には有意な関連が見られず, 付与されたキャラを消極的にでも受け容れることが, 居場所感の高さと関連していた。以上の結果から, 中学生におけるキャラを介した友人関係の危うさについて議論された。