著者
栗山 直子 上市 秀雄 齊藤 貴浩 楠見 孝
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.409-416, 2001-12-30

我々の進学や就職などの人生の意思決定においては,競合する複数の制約条件を同時に考慮し,理想と現実とのバランスを満たすことが必要である。そこで,本研究では,高校生の進路決定において,意思決定方略はどのような要因とどのような関連をもっているのかを検討することを目的とした。高校3年生359名に「将来の目標」「進学動機」「考慮条件」「類推」「決定方略」についての質問紙調査を実施した。各項目の要因を因子分析によって抽出し,その構成概念を用いて進路決定方略のパスダイアグラムを構成し,高校生がどのように多数存在する考慮条件の制約を充足させ最終的に決定に達するのかの検討を行った。その結果,意思決定方略には,「完全追求方略」「属性効用方略」「絞り込み方略」「満足化方略」の4つの要因があり,4つの要因間の関連は,「熟慮型」と「短慮型」の2つの決定過程があることが示唆された。さらに,「体験談」からの類推については,重視する条件を順番に並べて検討する「属性効用方略」の意思決定方略に影響していることが明らかになった。
著者
井上 正明 小林 利宣
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.p253-260, 1985-09
被引用文献数
29 35

This paper presents a survey of the research domain and scale construction of adjective-pairs in a Semantic Differential Method in Japan. 233 papers or articles using Semantic Differential to measure the meanings or images of the concepts were collected. Among the collected articles 99 papers using factor analysis on scales were examined. From the point of factor analysis on the adjective-scales 382 pairs were collected. Also 68 effective scales having high frequencies in the Semantic Differential study were examined. On the bases of these results, 68 proper scales fitting to measure the meanings or images of self-concepts, ideas of children, and personality cognition were hypothetically constructed.
著者
植木 理恵
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.301-310, 2002
被引用文献数
16

本研究の目的は, 学習方略との関連から高校生の学習観の構造を明らかにすることである。学習観を測定する尺度はすでに市川 (1995) によって提案されているが, 本研究ではその尺度の問題点を指摘し, 学習観を「学習とはどのようにして起こるのか」という学習成立に関する「信念」に限定するとともに, その内容を高校生の自由記述からボトムアップ的に探索することを, 学習観をとらえる上での方策とした。その結果,「方略志向」「学習量志向」という従来から想定されていた学習観の他に, 学習方法を学習環境に委ねようとする「環境志向」という学習観が新たに見出された。さらに学習方略との関連を調査した結果,「環境志向」の学習者は, 精緻化方略については「方略志向」の学習者と同程度に使用するが, モニタリング方略になると「学習量志向」の学習者と同程度にしか使用しないと回答する傾向が示された。また全体の傾向として, どれか1つの学習観には大いに賛同するが, それ以外の学習観には否定的であるというパターンを示す者が多いことも明らかになった。
著者
小塩 真司
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.261-270, 2002-09-30
被引用文献数
25

本論文の目的は理論的に指摘される2種類の自己愛を考慮した上で,自己愛傾向の観点から青年を分類し,対人関係と適応の観点から各群の特徴を明らかにすることであった。研究1では511名の青年(平均年齢19.84歳)を対象に,自己愛人格目録短縮版(NPI-S),対人恐怖尺度,攻撃行動,個人志向性・社会志向性,GHQを実施した。NPI-Sの下位尺度に対して主成分分析を行い,自己愛傾向全体の高低を意味する第1主成分と,「注目・賞賛欲求」が優位であるか「自己主張性」が優位であるかを意味する第2主成分を得た。そして得られた2つの主成分得点の高低によって被調査者を4群に分類し,各群の特徴を検討した。研究2では,研究1の各被調査者のイメージを彼らの友人が評定した。384名を分析対象とし,各群の特徴を検討した。2つの研究を通して,自己愛傾向が全体的に高い群を,理論的に指摘される2種類の自己愛に類似した特徴を示す2つの群に分類可能であることが示された。
著者
中川 恵正
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.38-47, 1980-03-30

本研究は3コの実験からなっている。実験Iでは,併行弁別訓練事態において過剰訓練によって手掛り結合が形成されるか否かが,実験IIでは,手掛り結合に基づいて2コの弁別課題遂行間に相互作用が生じるか否かが,実験IIIでは,3コの弁別課題が併行して訓練される事態においても過剰訓練によって手掛り結合が形成され,そして相互作用が生起するか否かが検討された。 実験Iでは,32名の幼児は2コの弁別課題を用いた併行弁別訓練を受け,そして過剰訓練(24試行または0試行)を受けた後,テストを受けた。テスト条件: 群Iは2コの弁別刺激対の負刺激が互に入れ替る条件であり,群IIIは2コの弁別刺激対とともに原学習時の正刺激が残存し,負刺激がともに新しい刺激に替る条件であり,群IVは2コの弁別刺激対ともに原学習時の負刺激が残存し,正刺激がともに新しい刺激に替る条件であり,群IIは群Iと同じ条件だが,過剰訓練を受けない条件である。主要な結果は次の通りである。1,群I,IIIおよびIVの弁別遂行間に差がみられなかった。しかもこれら3群のテストでの弁別遂行は過剰訓練期間中の弁別遂行に比べてそこなうことがなかった。 2,群IIは他の3群に比べて弁別遂行が劣っていた。 実験IIでは,64名の幼児は2コの弁別課題を用いた併行弁別訓練を受け,過剰訓練(20試行または10試行と0試行)を受けた後,逆転学習の訓練を受けた。逆転学習条件: 全体逆転群は2コの弁別課題ともに同時に逆転された。部分逆転群は1コの弁別課題のみが逆転され,もう1コの弁別課題は逆転されなかった。分離逆転群は1コの弁別課題のみが逆転され,もう1コの弁別課題は除去された。統制群は原学習,逆転学習ともに1コの弁別課題の訓練を受けた。主要な結果は次の通りである。1,過剰訓練を受けたとき,全体逆転群は他の3群より早く,また分離逆転群と統制群は部分逆転群に比べて早く逆転学習を完成した。2,全体逆転群の逆転学習は過剰訓練によって促進され,分離逆転群および統制群の逆転学習も促進される傾向がみられたが,部分逆転群の逆転学習は遅延された。 実験IIIでは,60名の幼児は3コの弁別課題を用いて併行訓練を受け,過剰訓練(30試行と0試行)を受けた後,逆転学習の訓練を受けた。逆転学習条件:全体逆転群は3コの弁別課題ともに逆転された。部分逆転-I群は1コの弁別課題のみ逆転され,残りの2コの弁別課題は逆転されなかった。部分逆転-II群は2コの弁別課題がともに逆転され,もう1コの弁別課題は逆転されなかった。主要な結果は次の通りである。1,標準訓練条件下と過剰訓練条件下とにおいて,全体逆転群の学習の速度と部分逆転群(IおよびII群ともに)のそれとが逆関係になった。2,部分逆転群(IおよびII群ともに)の逆転されない弁別課題における誤反応は過剰訓練によって増大した。
著者
深谷 優子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.78-86, 1999-03
被引用文献数
1 2

本研究では, 生徒の学習を促進させる記述に改善するための, 実際的なテキスト修正の手法を提案する。ここで用いた手法はBritton & Gulgoz(1991)に由来するが, 本研究においてはそれを日本語のテキストにも適用可能で実用的となるように調整した。予備研究においては, その手法を中学校の歴史の教科書からの抜粋に適用し, 局所的な連接性がオリジナルテキストよりも高まるようにした修正テキストを作成した。実験では, テキスト該当箇所の内容をまだ学習していない中学1年生115人を2群に分け, 1群にはオリジナルテキストを, もう1群には修正テキストを呈示して学習させた。そして彼らの遂行成績を直後条件と遅延条件とで測定した。結果は, 修正テキストを読んだ群の方がオリジナルテキスト群よりもよい成績であった。この研究からの教育的示唆は以下の2点である。a) 新しい事項をテキストで学ぶときには, 局所的な連接性がよい(配慮されている)テキストを用いる方が, そうでないテキストを使うよりも生徒にとって恩恵がある。b) 本研究で用いた局所的な連接性の修正手法は, 教科書にも実際に適用可能であろう。
著者
大塚 義孝
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.61-63, 1964-03-30
著者
新原将義 太田礼穂 広瀬拓海 香川秀太 佐々木英子 木村大望# 高木光太郎 岡部大介#
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第57回総会
巻号頁・発行日
2015-08-07

企画趣旨 近年,ヴィゴツキーの「発達の最近接領域(ZPD)」概念はホルツマンによって「パフォーマンス」の時空間として再解釈され,注目を集めている(e.g., Holzman, 2009)。パフォーマンスの時空間という考え方によってZPDは,支援者によって「測定」されたり「支援」されたりするものから,実践者らによって「創造」されるものへと転換したといえるだろう。 こうした潮流において現在,パフォーマンスの時空間を創造するための手法として,インプロ及びそれを題材としたワークショップ形式の実践が注目されている(Lobman& Lundquist, 2007)。こうした試みの多くは,単発的な企画として実施される(e.g., 上田・中原,2013;有元・岡部,2013)。 こうしたインプロ的な手法は,確かに対象についての固定化された見方から脱し,新たな関係性を模索するための手法として有用なものであり,また直接的には協働しないがその後も互いに影響し合う「触発型のネットワーク」を形成する場としての機能も指摘されつつある(青山ら,2012)。しかしインプロやワークショップを,単発の企画としてではなく実践現場への長期的な介入の手法として捉えた場合,ただインプロ活動やワークショップを実施するのみではなく,「それによって実践現場に何が起こったのか」や,「インプロやワークショップは実践現場にとって“何”であったのか」,そもそも「なぜ研究者の介入が必要だったのか」といったことも併せて考えていく必要がある。インプロという手法がパフォーマンスや「学びほぐし」のための方法論として広まりつつある今,問われるべきは「いかにインプロやワークショップ的な手法を現場に持ち込むのか」だけではなく,「パフォーマンスという観点からは,介入研究はいかにあり得るのか」や「インプロやワークショップの限界とは何か」といった問いについても議論するべきであろう。 社会・文化的アプローチではこれまでも,コールの第五次元(Cole, 1996),エンゲストロームの発達的ワークリサーチ (Engeström, 2001) など,発達的な時空間をデザインすることを試みた先駆的な実践が複数行われてきた。本企画ではこうした知見からの新たな取り組みとして,パフォーマンスの時空間の創造としての介入研究の可能性について考える。長期的な介入の観点としてのパフォーマンス概念の可能性のみではなく,そこでの困難や,今後の実践の可能性について,フロアとの議論を通して検討したい。公園で放課後を過ごす中学生への“学習”支援:英語ダンス教室における実践の記録広瀬拓海・香川秀太 Holzman(2009)の若者を対象とした発達的活動には,All Stars projectにおける「YO!」や,「ASTSN」といった取り組みがある。これらの背景には,学習・発達を,社会的・制度的に過剰決定されたアイデンティティや情動をパフォーマンスによって再創造することとしてとらえる哲学および,このような意味での学習・発達の機会を,学校外の場において社会的に奪われた人種的マイノリティの若者の存在がある。近年,日本においても経済的な格差が社会問題化しはじめている。これらの格差は,日本においても子ども達の学校外の体験格差としてあらわれ,特に情動性・社会性といった面での発達格差をもたらすと考えられる。 話題提供者はこのような関心のもと,2014年3月から,放課後の時間に公園で屯する若者を主な対象とした計6回の活動を実施してきた。これは,調査対象者の「英語学習」に対する感情の再創造を目的として,彼らが「興味あること」として語った「ダンス」を活動の基礎に,外国人ダンサーがダンスを英語で教える学習活動を組織したものである。外国人ダンサーとのやりとりの中で,子ども達がデタラメや片言で英語を「話している」状態を作り出すことによって,学校での経験を通して形作られた彼らにとっての英語学習の意味が解放され,新たに創造されることが期待された。 本シンポジウムでは特に,これらの活動に子ども達を参加させることや,ダンスというアクティビティに子ども達を巻き込むうえでの困難に注目してこの活動の経過を報告する。そしてそれらを通して,日本においてこのようなタイプの学習の場を学校外に組織していく上で考慮すべき点について議論したい。パフォーマンスとしてのインプロを長期的に創造し続ける: 方法論から遊びの道具へ木村大望 話題提供者は,2010年10月にインプロチームSAL-MANEを組織した。発足当初のチームは,子どもから大人までを対象とした対外的なワークショップ活動を積極的に行っていた。インプロは「学びほぐし」の方法であり,それを通じた自他の学びや変容が関心の中心であった。しかし,2012年に話題提供者が海外のインプロショーを鑑賞したことをきっかけに,チームは定期公演を主軸としたパフォーマンスとしてのインプロの追究へ活動の方向性をシフトさせた。ここでインプロはチームにとって「遊び」の道具となり,それ以前の方法論的理解は後景に退くこととなった。それに伴い,チームの活動は対外的なワークショップ活動から対内的な稽古的活動に転換していく このようにSAL-MANEの活動はインプロを方法論的に用いて第三者の学習を支援するための場づくりから,チームに携わるメンバー自らがパフォーマンスを「創造」する場づくりへ変遷している。この背景には,インプロに対するメンバーの理解や認識の変化が密接に関連している。インプロを手法として用いながら,自らがインプロによって変容した事例と言えるだろう。 本シンポジウムでは,この経過の中で生じた可能性と課題・困難について報告する。パラダイムシフトする「場」:21世紀のドラマへ佐々木英子 2000年前後から,同時多発的に世界各地で急速に発達してきた応用演劇という分野がある。この多元的な分野は,演劇を応用した,特定のコミュニティや個人のための参加者主体の参加型演劇であり,産業演劇とは一線を画している。この現象は,急速なグローバルチェンジの波を生き延びるための,多様性の中で相互作用によりオーガニックに変容し,持続可能な未来を「再創造」しようとする人類の知恵かもしれない。 話題提供者は,英国にて,応用演劇とドラマ教育を学ぶと共に,それに先駆け,2000~2003年,この21世紀型ドラマの「場」を,社会への「刺激」として,勉強会を行い身の丈で提案活動をした経験がある。社会から突然変異と見られたその活動は,子ども時代,正に「ZPD」において手を差し伸べられず,発達しようとする内的衝動が抑圧され腐らされるような苦痛の中,どうすれば生き延びるかを,体験と観察,思考を積み重ねた末に行った自分なりの代替案でもあった。 本シンポジウムでは,提案活動のきっかけとなった自身の子ども時代のドラマ体験,2001年の発達障害の子ども達が参加した演劇,また,最近では2014年に中学校で行った異文化コミュニケーション授業を通して経験・観察された可能性や困難などについて報告する。
著者
水品 江里子 麻柄 啓一
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.573-583, 2007

日本文の「~は」は主語として使われるだけではなく, 提題 (~について言えば) としても用いられる。従って日本文の「~は」は英文の主語と常に対応するわけではない。また, 日本語の文では主語はしばしば省略される。両言語にはこのような違いがあるので, 日本語の「~は」をそのまま英文の主語として用いる誤りが生じる可能性が考えられる。研究1では, 57名の中学生と114名の高校生に, 例えば「昨日はバイトだった」の英作文としてYesterday was a part-time job, を,「一月は私の誕生日です」の英作文としてJanuary is my birthday. を,「シャツはすべてクリーニング屋に出します」の英作文としてAll my shirts bring to the laundry. を提示して正誤判断を求めた。その結果40%~80%の者がこのような英文を「正しい」と判断した。これは英文の主語を把握する際に日本語の知識が干渉を及ぼしていることを示している。研究2では, 日本語の「~は」と英文の主語の違いを説明した解説文を作成し, それを用いて高校生89名に授業を行った。授業後には上記のような誤答はなくなった。
著者
黒丸 正四郎
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.3, no.4, pp.48-53, 1956-03-25

It is not long since clinical psychology became a popular subject of study in Japan. Therefore, studies on the method of diagnosing and treating the patients have not been sufficiently made. The writer of this article wants to comment on methodology of clinical psychology. 1. Needless to say, clinical psychology aims to treat and cure the patients. Its practice calls for specific techniques as well as careful examination of general (or theoretical) psychology. 2. "To diagnose" means to detect the cause of the illness for treatment. To give correct diagnosis, clinicians should be versed with Jaspers' theory of method. Jaspers contends that it is most important in psychopathological studies to apply understanding (verstehende) psychology and explaining (erklaerende) psychology independently. 3. There are three methods in psychotherapy : namely, directive, non-directive and psychoanalytic. Only in actual practice, should one decide which of the three methods is desirable.
著者
藤友 雄暉
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.66-69, 1981

幼児のことばの研究は, 幼児の生活場面において, メモや録音器を用いてことばを採集し, それを分析することが主流をなしてきた。しかし, このような資料は, 対象児の数が少数とならざるを得ないこと, 対象児によって採録した時の環境が異なり, 資料を直接比較できない場合があること, 対象児間に個体差が大であること, 資料が記述的なものになり勝ちなこと, 実験的に再現し, 追試により実証をすることが困難であることなどが短所として存在していた。それに対して, このような短所を克服する方法として, 全くの実験的手法, 特に学習実験によるものが考えられ, 実施されてきた。しかしながら, 実験的手法によるものは, 幼児の生活場面におけることばとは, かけ離れ過ぎたものが多く, したがって, 得られた結果は現実の幼児については, ほとんど何も言及することができないというような新たな問題を生じた。このような2つの方法が持つ短所を補うものとして, ある程度統制した条件下において, 幼児のことばを採集し, 分析する方法が考えられる。藤友 (1977a, 1977b, 1978, 1979a, 1979b, 1979c, 1979d) は, 幼児に絵カードを提示し, 口頭作文を作らせるという統制条件下において, 幼児のことばを研究した。用いられた被験者は, 4歳児, 5歳児, 6歳児各34名, 計102名, 用いられた絵カードは21枚の採色がほどこされたものであった。得られた資料の分析には, FIG. 1に示された品詞の分類規準が用いられた。自立語の11品詞について, 藤友 (1979a) では4 歳児, 藤友 (1979d) では5歳児, 藤友 (1978) では6歳児の品詞別語彙数と総語数, 及び品詞別語彙表を得た。藤友 (1977a) では, 動詞・助動詞, 形容詞, 接続詞, 名詞の誤用例が分析された。藤友 (1977b) では, 幼児が作った口頭作文の内容分析, 助詞の誤用, 語音の脱落, 構音の誤りが分析された。藤友 (1979b) では, 正しく使用された助詞を分析の対象として, 幼児の助詞の習得に関する発達的研究が行われた。藤友 (1979c) では, 藤田・藤友 (1975) によって得られた93名の4・5歳児の助詞の理解に関する資料と, 藤友 (1979b) によって得られた68名の4・5歳児の助詞の生成に関する資料とが, 比較研究された。本研究は, 藤友 (1977a, 1977b, 1978, 1979a, 1979b, 1979c, 1979d) と同一の資料を用いて, 正しく使用された助動詞を分析の対象として幼児の助動詞の習得に関する発達的研究を行うものである。<BR>大久保 (1967) は, 1人の幼児の1歳から3歳までの発話資料における助動詞を分析して,(1) 「た」「ない」「ん」「う」「よう」「ます」「です」「だ」「れる」「られる」「せ」「させ」「そうに」「そうな」「ように」「みたいに」「たい」などを3歳までに使用している。(2) 大部分の助動詞が3歳までに初出し, 過去, 現在, 未来, 可能, 命令, その他様々の表現が出来るようになってきている。(3) 助動詞全体では終止形がいちばん早く使われ多用され, 連用形, 未然形, 連体形の使われかたは少なかった。初出もおそい。との結果を得た。<BR>また, 竹田・望月・丸尾 (1969) は, 1歳, 1歳6か月, 2歳, 2歳6か月の幼児各20名と3歳児11名の発話資料における助動詞を分析して,(1) 発話内容を品詞別に分類して得られる助動詞の出現率は, 1歳6か月で 1.4%, 2歳0か月で5.7%, 2歳6か月で9.0%, 3 歳0か月で14.3%である。(2) 1歳6か月では完了・過去の夕の使用が稀にみられる。2歳では打消しのナイ, 断定ダ, デス, 2歳6か月では意志を表わすウ, ヨウの使用が増加している。2歳6か月以後, 僅かではあるが, 受身, 可能のラレル, 使役のサセルなどの助動詞も用いられる。(3) 活用形の上からみると終止形が最も多く, 連用形, 未然形の順になり, 仮定形, 連体形は殆ど使用されていない。との結果を得た。<BR>藤友 (1977a) では, 助動詞の誤用例が分析研究されたが, 使役「せる・させる」, 受身「れる・られる」, 可能「れる・られる」, 断定「だ」, 確認・過去「た」に関連する誤用がみられた。<BR>以上引用してきた研究はいずれも助動詞を独立の単語とみとめる立場に立つものであるが, 鈴木 (1968) 「学校文法のいわゆる付属語 (助詞, 助動詞) は, ここでは独立の単語と認めず, 語尾 (単語のおわりの部分), あるいはくっつき (付属辞) とみとめ, ともに単語の文法的な形あるいは文法的な派生語をつくるための文法的な道具とみる。」の立場に立つことも可能であることを付記しておきたい。
著者
山本 真理子 松井 豊 山成 由紀子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.64-68, 1982-03-30
被引用文献数
36
著者
磯部 美良 佐藤 正二
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.13-21, 2003-03-30

本研究の主な目的は,関係性攻撃を顕著に示す幼児の社会的スキルの特徴を明らかにすることであった。年中児と年長児の計362名の攻撃行動と社会的スキルについて,教師評定を用いて査定した。関係性攻撃得点と身体的攻撃得点によって,関係性攻撃群,身体的攻撃群,両高群,両低群の4つの群を選出した。社会的スキルについて群間比較を行った結果,両低群に比べて,関係性攻撃を高く示す子ども(関係性攻撃群と両高群)は,規律性スキルに欠けるものの,この他の社会的スキル(友情形成スキルと主張性スキル)については比較的優れていることが明らかになった。また,関係性攻撃群は,教師に対して良好な社会的スキルを用いていることが示された。さらに,関係性攻撃群の男児は友情形成スキルが全般的に優れているのに対して,関係性攻撃群の女児は友情形成スキルが一部欠けていることが見出された。これらの結果から,関係性攻撃の低減には,規律性スキルの習得を目指した社会的スキル訓練が効果的であることなどが示唆された。