著者
村瀬俊樹 岩崎俊#
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第59回総会
巻号頁・発行日
2017-09-27

問 題 自己決定理論(Deci & Ryan, 1970)では,動機づけを内発的なものに促進するものとして,自律性への欲求,有能さへの欲求,関係性への欲求という3つの心理的欲求の充足が関連していると考えられている。本研究は,自己決定理論に基づき,大学生の運動部活動における動機づけに,以上の3つの心理的欲求の充足がどのように関連しているのかを明らかにすることを目的とする。また,動機づけと心理的欲求の充足との関係が,学年によって異なるのかどうかを検討することも目的とする。方 法調査対象者 運動部に所属している島根大学生1~4年生74名を対象とした(1年生29名,2年生21名,3年生16名,4年生8名; 男性58名,女性16名)。質問項目 質問項目は,部活動への動機づけ(12項目),自律性への欲求の充足(8項目),有能さへの欲求の充足(10項目),関係性への欲求の充足(11項目)から構成され,6件法で回答を求めた。結 果部活動への動機づけ 動機づけに関する質問項目を因子分析した結果,内発的・同一化動機づけ因子,外的調整動機付け因子,取り入れ動機付け因子の3因子が抽出された。心理的欲求の充足 自律性への欲求の充足,有能さへの欲求の充足,関係性への欲求の充足について,それぞれ因子分析を行った。その結果,自律性については,1因子構造であった。有能さについては,身体的有能感と統制的有能感の2因子が抽出された。関係性については,被信頼感と安心感の2因子が抽出された。動機づけと心理的欲求の充足との関係 動機づけの各因子に対応する尺度得点を目的変数,3つの心理的欲求の充足の各因子に対応する尺度得点を説明変数として重回帰分析を行った結果,内発的・同一化動機づけ得点へは,統制的有能感得点と身体的有能感得点から有意な正の標準偏回帰係数が見られた。外的調整動機づけ得点へは,自律性得点から有意な負の標準偏回帰係数が見られた。学年による違い 1年生29人,3・4年生24人それぞれについて,動機づけ各得点を目的変数,心理的欲求の充足各得点を説明変数として重回帰分析を行った。その結果,内発的・同一化得点へは,1年生では信頼感と統制的有能感から有意な正の標準偏回帰係数が見られ,3・4年生では統制的有能感と身体的有能感から有意な正の標準偏回帰係数が見られた。また,外的調整得点へは,1年生も3・4年生も,自律性から有意な負の標準偏回帰係数が見られた。考 察 自己決定理論では,自律性を最も重視しているが,本研究の結果では,内発的な動機付けを最も説明していたのは,統制的有能感であった。これには,文化的な要因,すなわち,日本人の「努力」を重視する傾向が働いている可能性がある。ただし,自律性への欲求の充足も,それが満たされないことが動機づけを外的調整的なものにしているという点で働いている。 学年による違いでは,内発的・同一化動機づけに対して,統制的有能感がいずれの学年でも正の関連性を示していたが,1年生では関係性についての1つの因子である信頼感への欲求の充足が正の関連性を示していたのに対して,3・4年生では身体的有能感が正の関連性を示すというように,他者との関係性から部活動を行う上での身体的能力へと動機づけと関連する欲求が変化している。
著者
郡司菜津美
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第59回総会
巻号頁・発行日
2017-09-27

問題と目的 学校教員の指導の基礎となる生徒指導堤要には,性に関する指導は「すべての教育活動を通して実施するもの(文部科学省,2010)」と記されている。しかし,大学の教員養成の段階で,性教育指導に関する必須カリキュラムは未だ組まれておらず,教員志望の学生らは,性教育に関する指導スキルを十分に身につけていないまま現場に出て行くことが課題であると指摘されている(天野ら,2001:西田ら,2005:児島,2015:長田ら,2016)。一方で教員を志望する学生自身は,性教育の指導を自己の生活との関わり(自己関与性)の高いものであると捉えており,その理由には取得予定免許種間で質的な差があることが明らかになっている(郡司, 2016)。同調査では,こうした結果から,学生の性教育に対する捉え方や,性に関する指導観の多様性に配慮した授業実施の必要性が指摘された。そこで,本研究では,こうした学生の指導観の多様性を資源化するアクティブ・ラーニングの手法を用いた性に関する指導に関する授業を実施し,多様な価値観を交流させ,その学習効果を検討することを目的とする。方 法 首都圏の私立A大学の教職に関する講義を受講する学部生104名(主に2年生)を対象に,2016年7月,「性に関する正しい知識を指導できるようになろう」という課題を解決するProject Based Learning形式で授業を実施した。授業では筆者が高等学校を対象とする性教育講演で用いるPPT資料を配布し(内容は❶第2次性徴&デートDV❷妊娠と中絶❸性感染症❹性的マイノリティ),1チーム4グループ(3〜4人×4G)で構成し,それぞれの内容の資料を元に授業案を作成,その場で互いに模擬授業を実施させた。授業後に感想を記入させ,それをデータとした。感想記入への協力は事前に(1)授業・成績とは無関係 (2)匿名 (3)データは研究以外の目的に使用されないことを確認した。結果と考察 記入された感想を意味のあるまとまりに切片化したところ,205切片に分けられた。それらをKJ法を用いて分類したところ,「①学習内容について(72)」「②伝え方・教え方(57)」「③性教育観(29)」「④聞き手・学習者の立場(20)」「⑤仲間との交流(7)」「⑥恥ずかしさ(6)」「⑦担当内容について(6)」「⑧自己認識(4)」「⑨その他(4)」の九つに分けられた。以下,幾つかの結果と考察を簡潔に述べる。 「①学習内容について」では「感染症とかも気づかないうちにどんどん広がっていくというのは怖いなと思いました」「コンドームは最初から正しく清潔に行うことが必要と感じた」「最近ではLGBTなどが増えてきているがこれは別におかしいわけではないことがわかった」「初めてデートDVという言葉を知りました」といったように授業内で取り扱った内容について学習者の視点で記述されたものが分類された。仲間と相談し学習内容を教える,グループの仲間に教えられるという経験から具体的な内容が記述されたと考えられる。 「②伝え方・教え方」「③性教育観」「④聞き手・学習者の立場」では,それぞれ「②表現方法,伝達方法によって生徒の受け止め方が大きく異なってくると大きく感じた」「③子供達の人生を守っていくために私たちが『やらなければならない』という使命感が次第に生まれてきた」「④高校生相手だともっと伝えるのが大変で受け入れ難いかもしれない」といったように授業者としての視点で記述されたものが分類された。性教育の指導経験を通して,学習者から指導者としての新たな気付きを得る機会となったと考えられる。 「⑤仲間との交流」では「同じ世代の率直な意見を言い合える場があってよかった」といったように授業の場に意義を感じる記述が分類された。性教育指導について「学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく(中央教育審議会,2012)」経験となった可能性があるだろう。 「⑥恥ずかしさ」では「初めての性授業はやっぱり恥ずかしかった」といったように性教育に特有の恥ずかしさに関する記述が分類された。一方で「筆者の授業を通して性教育と関わる機会が多くなったので人前で性について真剣に話すことに抵抗がなくなってきた」と記述する学生もおり,協働の機会によって教師としての振る舞いを学習し,性教育特有の恥ずかしさを乗り越えるための「慣れ」を経験している可能性が示唆された。 以上の結果から,多様な仲間との対話的な協働機会としての性教育指導の経験は,学習者・指導者としての両側面の認識に影響を与え,恥ずかしさを伴う深い学びの機会となった可能性がある。こうした学びはアクティブ・ラーニング形式の授業による主体的な場の効果であり,未来の教職への備えとして期待できるだろう。
著者
永松 裕希 松川 南海子 大井 真美子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.166-175, 2004
被引用文献数
1

知的能力や言語に遅れがなく,また主要な感覚の障害あるいは麻痺などの運動機能に関わる疾患がないにも関わらず,運動技能に困難さを示す子どもたちがいる。このような障害は発達性協調運動障害(DCD)と呼ばれ,子どもの学習や日常生活において問題を生じさせている。従来から「不器用」という言葉で認識されていたこの障害が,公式の国際的な分類体系の中で,独立した障害として認識されるようになったのは,ごく最近になってからである。本稿では,特に,DCDの学習への影響として,眼球の協調運動の問題と読み能力について言及し,読みに問題がある子どもの半数以上に眼球の協調運動の問題が確認されたという調査結果を紹介した。さらに,このような協調運動における問題が2次的に自己認知や社会的有能感の低下を生じさせるという報告もあり,一人ひとりに応じた心理教育的援助の必要性が大きいと考える。
著者
和田 実
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.386-393, 1992-12-30
被引用文献数
2

The purpose of this study is to investigate the effects of perceived social supports by friends and parents on psychological well-being in a life transition. In addition, the levels of ideal as well as present social supports are examined, and it is investigated whether the more social supports they have than they wish, the more effects they have on psychological well-being. Subjects are 165 freshmen (48 males and 117 females). Whether they had a life transition or not are based on their states of residence, i.e. living with parents or alone after getting into a university. Major findings are as follows : (1) Both social supports have an effect on psychological well-being, especially loneliness. That is, those having more social supports feel less lonely than thoes with less support. (2) The level of loneliness is determined by friends' social support, mostly emotional support. (3) The more social supports they have than they disire, the less lonely they feel and the more satisfied with their university life they are.
著者
榊原 彩子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.85-92, 1993-03-30

According to the view that the attribute of tones has two components : "pitch" (tone height) and "chroma" (tone chroma), absolute pitch (AP) is to be defined as the ability of "chroma" identification. The purpose of this study was to examine how well AP possessors of the ability to identify "chroma", and non-possessors of no such ability could identify "pitch". Subjects were 20 non-possessors, 10 AP possessors who were able to identify all tones' chroma (AP possessors [all]) and 10 AP possessors who were able to identify only white key tones' chroma (AP possessors [white]). According to our study, a pitch identification task showed differences among groups. AP possessors [all] showed to be superior to non-possessors. By contrast, AP possessors [white] proved to be the same as non-possessors. The results suggested that AP possessors [all] identified pitch absolutely, and non-possessors did it according to its relative heights of tones. AP possessors [white] showed confused error patterns.
著者
文沢 義永
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.176-186, 1971-09-30

1.日本の神話伝説については,従来,文献学,倫理思想史,神話学の立場から論究されてきたし,最近は文化人類学の立場から研究されつつあるが,心理学的立場からの研究はきわめて少ない。2.日本の神話伝説についての意味づけ,受けとめ方を心理学的に研究するとしても,具体的にはどんな側面をどんな方法で行なうかについて,まだ十分に論議されていない。本研究では,一般的な日本神話の概念を自由記述式の質問紙法,Semantic Differentia1法,因子分析法によってデータを収集し分析した。3.自由記述式質問紙法によると,現代の小中学生は神話物語についての知識が貧弱であり,それに対する感動性も弱い。神話物語を現実性や合理性の立場から受け取ろうとする傾向があり,男子よりも女子の方はその物語を読もうとする関心が高いようである。4.日本の神話伝説についてrelevantに表現すると思われる形容語句を46対選定し,この尺度上にそのイメ一ジを7段階で,高校生,大学生,一般成人に評定させた。その結果に基づいてセマンティック・プロフィールを描いてみると,一般に大学生は日本の神話を否定的な方向に受けとり,高校生と一般成人は肯定的な方向に受けとっている。男女の差では大学生よりも高校生の方が著しいことがわかった。5.大学生グループと高校生グループの形容語対に対する回答データについて因子分析してみると,第I因子幸福性第II因子伝統性第III因子活動性と神秘性第IV因子複雑性と真実性第V因子親近性の5因子が算出された。6.日本の神話伝説についての心理学的な研究の意義および研究方法論について考察を加えた。日本の精神的文化遺産として神話に親しみを愛情をもち続けることが,日本人らしい倫理的情操につながることであろうと思われる。
著者
田口 孝之
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.224-232, 251-252, 1955-03-30

In Tohoku Districts of Japan, there are many kinds of dialects. Especially the confusions of vocal sounds, for example, between "ki" and "chi", or "e" and "i", are well known. Among 1449 applicants for admission into Teacher's College(Eukushima Univ.)45 persons caused the abovesaid confusions("ki" →← "chi")in the dictation tests last year(1954). They wrote KIKAKU for CHIKAKU. Here we want to divide these applicants into 2 groups, the Corrupted Group and the Normal Group. The success or failure for admission were determined by their synthetic results of tests and some other means. 600 were admitted into the College, only 9 included among them from the Corrnpted Troup. Thus we have the following contingency table. A COMPARISON OF THE APPLICANTS OF CORRUPTED AND NORMAL AS REGARDS THE RESULTS CF EXAMINATION. [table] From this table we have χ_0^2=8.772 as the value of χ^2(χ^2_0.01<χ^2_0). So we must reject the Hypothesis that their success and failure do not depend upon their corruption or normality. Then it is very clear that the dialect or corruption handicapped them. As to the members of Corrupted Group, they are only from particular regions-AIZU district and the northern part of Fukushima Prefecture, almost all parts of Miyagi Pref.and the southern half of Iwate Pref, , but none from other districts. These regions coincide nearly to the dominion of the feudal Lord of Date. Referring to these results, I give a Hearing Test this autumn to pupils of 2 schools in(♂293, ♀287)and 2 schools out(♂190, ♀176)of these regions. The latters are so to say as the control groups. Conclusion: 1)The confusion "ki" →← "chi" was only in Corrupted Group, and not, at all, in other regions. 2)This confusion disappears gradually as classes ascent, and faster in the pupils of higher marks in the same class. In those of lower marks such a confusion is not always diminished. (Thus I guess the confusion perhaps depends upon the sensory or conscious status of not yet differentiated.) 3)This confusion tends to disappear faster in female than in male pupils.
著者
石川 信一 岩永 三智子 山下 文大 佐藤 寛 佐藤 正二
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.372-384, 2010-09-30
被引用文献数
8

本研究の目的は,小学校3年生を対象とした集団社会的スキル訓練(集団SST)の実施による進級後の抑うつ症状への効果を検討することであった。本研究では,ウェイティングリストコントロールデザインが採用された。対象児童は,先に集団SSTを実施する群(SST群114名)と,SST群の介入終了後,同一の介入がなされるウェイティングリスト群(WL群75名)に割り付けられた。集団SSTは,学級単位で実施され,上手な聞き方,あたたかい言葉かけ,上手な頼み方,上手な断り方,教師に対するスキルの全5回(1回45分)から構成された。加えて,獲得された社会的スキルの維持促進の手続きとして,終了後に集団SSTのポイントが記述された下敷きを配布し,進級後には教室内でのポイントの掲示,ワンポイントセッション,ブースターセッションといった手続きが採用された。その結果,SST群とWL群において,訓練直後に社会的スキルの上昇がみられ,進級後もその効果が維持されていることが示された。さらに,訓練群とWL群は,1年後の抑うつ症状が有意に低減していることが示された。以上の結果を踏まえ,早期の抑うつ予防における集団SSTの有効性と有用性に加え,今後の課題について議論がなされた。
著者
河内 清彦
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.471-479, 1999-12-30

本研究では,視覚障害学生との交流に対する非障害学生の自己効力を測定するための20項目からなる「キャンパス内交流自己効力尺度(CISES)」を作成した。このCISESによる調査を375名(男子143名,女子232名)の非障害大学生に実施し,その信頼性と妥当性を検討した。因子分析の結果,河内・四日市(1998)の研究で見いだされた2因子と完全に内容が一致した2因子が抽出された。そこで,各因子を代表する10項目からなる「交友関係」と「自己主張」という下位尺度を構成した。下位尺度の再検査信頼性係数はそれぞれ0.778と0.814,Cronbachのα信頼性係数はそれぞれ0.868と0.851であった。また,下位尺度の第1主成分寄与率は,それぞれ47.0%と43.6%で,いずれも満足すべき値であった。G-P分析の結果も,全項目が有意であり,弁別力が確認された。一方,両下位尺度は,視覚障害者との交流に対する当惑の程度を表わす「交流の場での当惑」尺度と負の,また視覚障害者に対する支援意欲と正の関係があり,併存的妥当性が認められた。「交友関係」の下位尺度では,ボランティア活動へのポジティブイメージを表わす「貢献スケール」と正の,またネガティブイメージを表わす「偽善視的スケール」と負の有意な相関関係があったのに対し,「自己主張」の下位尺度では,視覚障害者の能力の過大視の程度を測る「特殊能力」尺度と負の有意な相関関係があった。このことから,両下位尺度の違いが明らかとなり,構成概念妥当性が示された。さらに,両下位尺度は,ボランティア活動参加経験との間にも有意な関連が得られ,基準関連妥当性を示すものと解釈した。
著者
守屋 慶子 森 万岐子 平崎 慶明 坂上 典子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.205-215, 1972-12-31
被引用文献数
1

自己認識の発達を明らかにするために11人の小学生の作文を1年生から5年生まで追跡し,分析してみた。その結果,次のようなことが明らかになった。(a)自己の認識は,他を媒介として可能になる。(b)自己の認識は,はじめは外面的なもの(行動)の認識にとどまるが,次第に内面的なもの(意識内容)の認識が可能になる。(C)自己の認識は,まず現在の自己の認識から始まり,ついで,過去の自己の認識が可能となる。その結果,変化するものとして自己を認識することができる。(d)自己の認識は,個人としての他を媒介として始まるが,次第に,集団としての他を媒介にして深まり,そして,集団の中の個としての自己の認識へと進む。
著者
田中純夫 辻田知晃 佐渡幹也 西田敬志
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第57回総会
巻号頁・発行日
2015-08-07

Ⅰ 目的 昨年の発表ではBaron-CohenらのEmpathizing-Systemizing理論に基づいて,「男性脳」の特性を示すものは回避型の愛着の得点が有意に高いことを報告した(田中・佐渡・西田,2014;西田・田中,2014)。 今年度は特に成人前期までに内的作業モデルを通して形成された愛着スタイルに着目して,自閉症スペクトラムの特性とどのように関連するのかを探ることを目的とする。Ⅱ 方法1対象:首都圏の大学に在学する大学生225名(男性104名,女性121名,平均年齢19.7)2期間:2014年7月初旬3質問紙の構成:(1)対象者の属性:性別,学年,年齢等からなる。(2)一般他者版成人愛着スタイル尺度(Brennan, 1988):下位尺度は「見捨てられ不安」18項目,「親密性の回避」12項目からなり合計30項目で構成される。(3)内的作業モデル尺度(戸田, 1988):成人の内的作業モデルの質を評価するための尺度である。下位尺度は「安定型」「アンビバレント型」「回避型」の3つからなり,各6項目の合計18項目で構成される。(4)自閉症スペクトラム指数(Autism-SpectrumQuotient, Baron-Cohen, 2001以下「AQ」とする):下位尺度は「社会的スキル」「注意の切り替え」「細部への注意」「コミュニケーション」「想像力」の各10項目からなり,合計50項目で構成される。(5)AS困り感尺度(山本・高橋,2009):自閉症スペクトラムの行動特徴を有する学生の日常生活における支援ニーズの把握を目的としており,合計25項目で構成される。Ⅲ 結果・考察 成人前期の愛着スタイルと自閉症スペクトラムとの関連を検討するために,成人の愛着を測定する「一般他者版成人愛着スタイル」および「内的作業モデル」と自閉症スペクトラムを測定する「AQ全体」と「5下位尺度」および「AS困り感」との間で相関係数を算出した(Table1)。主な結果は以下の通りである。○一般他者版成人愛着スタイルの下位尺度「見捨てられ不安」「親密性の回避」の双方が「AQ全体」および「社会的スキル」「コミュニケーション」という対人関係の側面との間に明確な正相関が示された。○AQ尺度の全般および「AS困り感」は,内的作業モデルの「安定型」との間では負相関を示し(女性の方がより明確に関連している),内的作業モデルの「アンビバレント型」「回避型」とでは正相関を示した。安定した愛着形成は定型発達の基盤となりうること,また発達的な弱点を補填しうる可能性が示唆される。(本研究は,平成26~28年度日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(C)26380954(研究代表者:田中純夫)の助成を受けて実施した調査の一部を使用している。)
著者
西村 邦子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.168-178,192, 1963

非行者の理解から矯正・予測・健全育成までを結ぶ一連の研究過程の出発点として, 非行少年に特徴的な気質のパターンを集団的にも個人的にもとり出す目的で本研究は計画された。そのために実験的方法が用いられ, 12 の気質, その他の項目3について知能テストを含めて40 のテストが実施された。被験者は, 非行群として横浜少年鑑別所収容少年30名, 統制群として日本鋼管従業員教習所生徒20名, 橘学苑女子高等学校生徒10名, 計60名であつた。その結果, 非行群と統制群とを比較した場合, 以下の18項目のテストについて特徴的な差異が見出された。すなわち, 1. Embedded pattern, 2問題解決 (迷路), 3. 問題解決 (3語の類似), 4. 数暗示テスト, 5. 焦躁反応検査, 6. ラッキ―パズル (欲求不満の耐性) 7. G. S. R., 8. Aircraft range test,9. 犬→猫, 10 猫→ネズミ, 11. 円→四角, 12分類, 13. タッピング 14. Sears-Hovland test, 15. ラッキ―パズル (持続性), 16. ラッキ―パズル (おちつきのなさ), 17. わなげ, 18. 桐原一Downeyテスト-6 (正確さへの欲求), である。
著者
石井 怜子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.498-508, 2006-12-30

本研究は,図表呈示と未完成図表の完成タスクが第二言語の読み手の説明文理解に及ぼす影響を検証した。第二言語学習者は,中〜上級になっても言語処理になお困難があり,認知資源容量の制約から,読む過程で結束的なテクスト表象を形成することが難しい。図表は第二言語の読み手の言語処理の負担を減じ,外的表象として,テクスト中のアイデアの記憶保持とその統合を助けると予想される。実験参加者は成人中級後半日本語学習者40名で,実験計画は図表呈示群・未完成図表完成群・統制群の被験者間要因計画である。約1800字の歴史説明文を用い,母語による筆記再生を,テクスト構造における階層及びテクストの冒頭から終結部に至る全体把握の2つを指標にして分析した。結果は,中位階層とテクスト後半部で,呈示群が統制群より有意に多く再生した。図表の呈示は,重要なアイデアを選び取り構造化するのを助けることが示唆された。他方,完成群は上位のアイデアの再生が統制群より有意に低かった。図表完成タスクは,言語の表層レベルの処理に終わるような場合には,必ずしも理解を促進しないことが示唆された。