著者
縣 拓充 岡田 猛
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.503-517, 2009-12-30
被引用文献数
1 2

近年の大学教育には,単に多くのことを知っているだけでなく,それを基に新たなものを創造し,表現する,言わば「能動的な知」を持つ教養人を育成することが求められるようになってきている。しかしながら,これまでの教養教育において,学生が社会で行われている創造活動それ自体について知ることができるような授業はほとんど行われてこなかった。そこで本論文では,「アーティストとの協働の中で,真正な美術の創作プロセスに触れること」をコンセプトに据えた授業をデザインし,実践した。大学1年生11名を対象に授業は行われ,実践終了後約1年半経過した時点でのインタビューによってその教育効果を検討した。その結果,参加した学生は本実践を通じて創造や表現に関する認識を改め,また表現をすることへの動機づけを高めていたことが示唆された。さらに,実践は学生それぞれの記憶に強く残り,生き方の探索にも生かされる重要な体験として位置づいていた。このような成果は,創造的領域の熟達者になることを目指すわけではない大学生に対しても,教養として何らかの創造活動に触れる機会を提供する意義を提起するものであると考えられる。
著者
前田 多美
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.166-170, 1980-06-30

本研究の目的は,概念的特異性課題を用いて,幼児(5歳児)の概念形成過程においてHouseらの注意モデルが妥当であるかどうか,また,特異性課題が概念形成課題としても利用できるかどうかを検討することであった。そのために,概念的特異性課題を行う前に注意モデルにおける第1位相を訓練する群(概念訓練群)と第2位相を訓練する群(特異性訓練群)を設け,後の本課題(概念的特異性課題)における遂行成績を,訓練を行わない統制群の成績と比較した。その結果,本課題における基準達成までの試行数(基準試行を含まない)を指標にすると,特異性訓練群,概念訓練群はともに統制群より有意に試行数が少なく,成績が良かった。しかし,特異性訓練群と概念訓練群との間には有意な差は認められなかった。また,基準達成までに要した試行数が0, 1∼15, 16∼60試行の3つの場合に分けて,各々に属する各群の被験者数によって比較すると,3つの群各々の間に有意な差が認められ,概念訓練または特異性訓練を行う方が訓練を行わない場合よりも本課題の遂行成績は良くなり,またその効果は概念訓練よりも特異性訓練の方が大きいことが明らかにされた。さらに,本課題において10試行を1ブロックとして試行ブロックごとの各群の正反応数を指標として,3(訓練タイプ)×3(試行ブロック)の混合型分散分析を行った。その結果,訓練の主効果および試行ブロックの主効果が認められ,どの試行ブロックにおいても特異性訓練群,概念訓練群は統制群よりも成績が優れていることが示された。 これらの結果から,Houseらの注意モデルは,幼児の概念学習の場合にもあてはめることができ,概念形成課題として特異性課題を用いることができると考えられた。
著者
藤岡 孝志
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.142-154, 1999-03-30

本論文の目的は, まず, 授業における教育臨床的な側面と教師の職能発達, 及び今日的な課題である不登校に焦点を当てた様々な研究を概観し, その上で, 日本独自の教師(特に担任)サポートを中心としだスクールカウンセリングシステムの構築に向けての試論を展開した。その際, 合わせて, スクールカウンセリング活動についてもその研究を概観した。最後に, 今後の展望として, 以下の6つの観点を提案した。(1)個別, 集団によるカウンセリングだけでなく, コンサルテーションやコーディネーション, ピア・カウンセリングなどの重要性 (2)スクールカウンセラーによる多様な側面への介入の必要性。(3)個別教育計画の作成に果たす心理学専門家の役割の明確化と貢献。(4)授業における教育臨床的な観点に焦点を当てた実証的・実践的な研究の推進。(5)教師の職能発達における教育臨床的な側面の実証的・実践的な研究の推進。(6)教師による「教育行為」と心理学の専門家による「心理行為」の明確化と両行為相互の役割供応に関しての実証的・実践的な研究の推進。
著者
及川 昌典
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.504-515, 2005-12-30

近年の目標研究によって, 意識的な目標追求と非意識的な目標追求は, 同じような特徴や効果を持つことが明らかになっている。しかし, これら2つの目標追求が, どのような状況で, どのように異なるのかは明らかではない。本研究は, 抑制のパラダイムを用いて, 教示による意識的抑制と, 平等主義関連語をプライミングすることによる非意識的抑制との相違点を明らかにするために行われた。実験1では, 非意識的に行われる抑制においては, 意識的に行われる抑制に伴う弊害である抑制の逆説的効果が生じないことが示された。教示により外国人ステレオタイプの記述を避けた群は, 後続の課題で, かえってステレオタイプに即した印象形成を行うのに対し, 非意識的に抑制を行った群では, そのような印象形成は見られなかった。実験2では, 非意識的な抑制は, 意識的な抑制よりも効率的との想定を基に, 相対的に抑制に制御資源が消費されないだろうと予測された。抑制後に行われた自己評定においては, 意識的抑制群においてのみ, 強い疲弊感が報告されていたが, 後続のアナグラム課題においては, 意識的抑制群も非意識的抑制群も同様に課題遂行が阻害されており, 両群において消費される資源量には違いがないことが示された。抑制意図と行動, それに伴う意識の関係について論じる。
著者
松沼 光泰
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.548-559, 2008-12-30

正確な英文読解や英作文には,andが同じ文法的資格の語句を結ぶ等位接続詞である(以下andの本質)ことを知り,文中のandが何と何を同じ文法的資格で結んでいるかを意識することが不可欠となる。本研究では,高校生を対象として,andの本質を問う独自の評価問題を作成し,学習者のandの知識が不十分であることを明らかにすると伴に,学習者にandの本質を理解させる教授方法を考案しこの効果を検討した。プリテストの結果,学習者は,andの日本語訳は知っているが,andの本質を理解していないことが明らかになった。本研究では,この不十分な知識を修正するために,ル・バー研究や学習方略研究の理論を援用し,「(1)学習者の知識では説明のつかない事例を用いてandの本質を教授する」,「(2)等位接続詞という名称とandの本質を関連づけて教授する」,「(3)英文読解や英作文の際に,アンダーラインの使用を促す」という3つの教授方針を採用した授業を実施した。その結果,介入授業後,学習者の成績は上昇し,介入授業の効果が確認された。また,介入授業後,学習者はandを重要な単語であると認識するようになり,英文法の学習意欲が高まり,andに対する自己効力感が高まった。
著者
加藤 隆勝 返田 健
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.1-8, 60, 1961-03-30

The first aim of this study was to determine by Q-sorts the nature of the self, ideal self and ideal opposite sex concept of the adlescent. The second aim was to confirm the relationship among those concepts by Q-technique. 85 cards were prepared and on each of them was described a word which indicated one of various presonality traits. The subjects were required to classify the cards into seven grades in the order of the accordance of the personality traits first with their self concept, second with ideal self concept, and third with ideal opposite sex concept. The results are as follows : 1. There is a similarity between the self concept and ideal self concept. The self concept should be reflected in the ideal self concept. 2. On the other hand, the ideal opposite sex cencept shows a considerable contrast with the self concept. In the ideal opposite sex concept, the subject is likely to highly appreciate the traits he lacks in his self concept. 3. Those subjects who show greater discrepancies between self sorting and ideal self sorting and those who show less discrepancies were selectited. As a result of the analysis of them by Q-technique, two factors are found. The first factor reflects the tendency toward introspection or self reflection, and is found mostly among the subjects who show greater discrepancies. The second factor reflects a tendency toward self acceptance and of setting a high value on social adjustment. It is found primarily among subjects who show less discrepancies.
著者
小泉 令三 若杉 大輔
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.546-557, 2006-12-30
被引用文献数
1

多動傾向のある小学2年生男児Aの立ち歩く,突然衝動的な行動を起こす,トイレに引きこもる,遊びの邪魔をするなどの問題行動を改善させるために,個別指導とクラス対象の社会的スキルトレーニング(CSST)を組み合わせた5回の授業を,1週間に1回ずつ5週間にわたって実施した。その結果,CSST終了後,授業中の児童Aの問題行動はほぼ見られなくなり,休み時間にも友だちと一緒に遊ぶことができるようになった。児童Aの観察者評定,ソシオメトリック指名法による社会測定地位指数,教師評定,そして自宅での保護者評定の得点が上昇した。多動傾向のある児童の教育的支援に関して,個別対応のみならず,クラス集団内での相互作用を考慮した介入を行うことの有効性を示すことができた。なお,実施に当たっては担任教師だけでなく,補助者の必要性を確認することとなった。
著者
外山 美樹
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.361-370, 2006-09-30

本研究の目的は,小学4〜6年生670名を対象にして,社会的コンピテンスにおけるポジティブ・イリュージョンが,8ヵ月後のストレス反応と攻撃行動の変化に及ぼす影響を検討することであった。本研究の結果より,子ども自身が抱えるストレスの程度によって,ポジティブ・イリュージョンの効用が異なることが実証された。ストレス反応があらかじめ高い児童においては,社会的コンピテンスのポジティブ・イリュージョンがストレス反応の低減につながることが示された。また,本研究の結果より,最初に子どもが備えもつ攻撃行動の水準によって,ポジティブ・イリュージョンの影響が異なることが示された。もともと高い攻撃水準を備えもっていた子どもに対しては,ポジティブ・イリュージョンの有害な影響が認められ,8ヵ月後,さらに攻撃行動が増加することが明らかになった。
著者
丸島 令子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.52-62, 2000
被引用文献数
1 1

本研究は「生殖性」の発達と自己概念との関連性について, 一般成人390人 (M/143, F/247) と成人患者 41人 (M/23, F/18) を対象者として (1) 成人期3段階における生殖性の発達,(2) 中年期の自己概念の因子構造の分析,(3)「生殖性/停滞」の発達要因と自己概念の検討の3つの目的から追究する。主な結果は, 1)「心理社会的バランス目録: IPB」(Domino & Affonso, 1990) を用いて一般成人を3年齢群と性による相違を検討したところ, 生殖性は年齢の順に得点が高くなった。2) 中年期の自己概念の因子構造に「達成因子」と「適応因子」および「社会性因子」の3つが抽出され, それらが検討された。3) 中年群と患者群を「GHQ」により精神健康状況を査定して, 2つの精神健康群 (「健康群」「リスク群・患者群」) に再分類し, 各群の生殖性の発達に影響を及ぼす要因を検討したところ, 健康群にはほぼ自己概念の「達成」「適応」の両因子がかかわり, 性差も見られたが, もう一方の停滞状況のリスク群・患者群の生殖性の発達には「適応」因子がかかわった。以上の結果から達成, 適応の自己概念は中年期の心理社会的発達と有意に関連していることが示唆された。
著者
西田 裕紀子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.433-443, 2000-12-30
被引用文献数
7

本研究の目的は,幅広い年代(25〜65歳)の成人女性の多様なライフスタイルについて,複数の構成要素からなる心理的well-beingとの関連から検討することであった。まず研究1では,成人期全般に適用でき,理論的背景が確認されているRyffの概念に基づき,人格的成長,人生における目的,自律性,自己受容,環境制御力,積極的な他者関係の6次元を有する心理的well-being尺度が作成され,6次元の信頼性・妥当性が確認された。また,年代によって心理的well-beingの様相が異なり,次元によっては発達的に変化することが示された。次に研究2では,ライフスタイル要因と心理的well-being各次元との関連について検討した。その主な結果は以下の通りである。(1)年代と就労の有無,社会活動参加度を独立変数,心理的well-being各次元を従属変数とする分散分析を行った結果,就労,社会活動という家庭外での役割は,成人女性の心理的well-beingとそれぞれ異なった形で関連していることが示された。特にこれまで家庭外役割としてほとんど焦点が当てられてこなかった社会活動が,就労とは異なった形で心理的well-beingと強く関連していたことから,成人女性の発達的特徴を考える際に,就労以外の様々な活動にも目を向けることの必要性が示唆された。(2)年代別に,妻,母親,就労者,活動者の各役割達成感と心理的well-being各次元との偏相関係数を検討した結果,長期にわたる成人期においては,各年代に応じた役割を獲得し,それによる達成感を得ることが心理的well-beingと強く関連することが明らかになった。この結果から,それぞれの役割の質的側面が成人女性のライフサイクルの中で異なった重要性を持つことが示唆された。