- 著者
-
砂野 唯
- 出版者
- 日本熱帯農業学会
- 雑誌
- 熱帯農業研究 (ISSN:18828434)
- 巻号頁・発行日
- vol.8, no.1, pp.1-6, 2015 (Released:2015-12-25)
- 参考文献数
- 13
紀元前数世紀前まで,世界各地では「貯蔵穴」とよばれるフラスコ状や袋状の地下貯蔵庫が,風雨やスズメ,ネズミ,水,火による劣化や泥棒による盗難を防ぐために穀物や堅果類の貯蔵用として,使われていた.しかし,貯蔵穴内は多湿になり易い。そのため,多湿な環境下での貯蔵に不向きなコメやコムギ,オオムギの栽培が広まるにつれて,姿を消し地上貯蔵庫へと置き換わっていった.
一方,調査地であるエチオピア南部デラシェ地域で暮らすデラシャは,今でもポロタ(polota)と呼ばれる深さ約2m,最大直径約1.5mのフラスコ型の貯蔵欠でモロコシを貯蔵している.先行研究の多くは,貯蔵穴の貯蔵効率を低いとしているが,ポロタでは最大20年間もモロコシを貯蔵することができる.本稿では,貯蔵穴ポロタの構造と機能について明らかにするとともに,他の貯蔵穴が姿を消すなかでもポロタが地域特異的に使われ続けている要因について考察する.
モロコシの入ったポロタ内の酸素濃度と二酸化炭素濃度を分析したところ,低酸素かつ高二酸化炭素な空間が維持されていた.この原因を解明するために,ポロタの造られている層を採取して蛍光X線解析したところ,この層は玄武岩が化学風化して生成された気密性の高い層であり,この高い気密性がポロタ内の低酸素かつ高二酸化炭素状態を形成していることが明らかになった.この低酸素濃度が害虫の食害を防ぎ,高二酸化炭素濃度がポロタでのモロコシの長期貯蔵を誘導していた.
飢饉が起こり易い半乾燥地帯に暮らすデラシャは,ポロタでモロコシを長期貯蔵することで凶作に備えている.ポロタは高い貯蔵効率故に,各地で貯蔵穴が姿を消し,防虫剤や地上貯蔵庫が広まるなかでも利用され続けてきた.