著者
園山 繁樹
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.57-68, 1994-11-30
被引用文献数
2

障害を持つ幼児を障害を持たない幼児の集団の中で保育するという統合保育については、その利点が多くの研究者によって示唆されているが、実際に成功するための条件は複雑である。本研究ではわが国と米国の文献を概観し、統合保育を行う上で考慮すべき要因を相互行動的立場の状況要因の視点から分析した。分析した状況要因は、(1)概念的要因、(2)障害を持つ幼児の要因、(3)プログラムの要因、(4)障害を持たない幼児の要因、(5)保育者の要因、(6)園の要因、(7)療育専門機関の要因であり、これらの諸要因を検討せずに統合保育の有効性を論ずることはできない。また、今後の課題として、実際の統合保育場面での実践研究、保育者と療育専門家との共同研究、統合保育の専門性の確立、統合保育が困難な幼児への対策、保育場面以外での社会的統合を挙げた。
著者
林 和治
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.416-417, 2010-01-31
著者
河内 清彦 佐藤 泰正 黒川 哲宇
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.1-13, 1985-06-30

本研究では、特教学生・盲学校教師(関係群)と一般学生、普通校教師(無関係群)に視覚障害者に対する態度質問紙を自己の意見と社会的望ましさの規準で評定させた。正準相関分析の結果からは、自己の意見と社会的望ましさの下位次元間に対応関係のある5次元的関係性が見い出された。しかし、冗長度分析によると、互いに予測できるのは自己の意見分散の20.2%、社会的望ましさ分散の23.6%で、両者の線形独立の可能性が示唆された。また、因子得点によるグループの比較では、特殊能力は関係群が自己の意見で否定し、統合教育は普通校教師が自己の意見で否定、関係群が社会的望ましさで肯定し、当惑的拒否では、自己の意見、社会的望ましさ共、関係群が否定、無関係群が肯定し、相互理解では、それと全く逆の態度が見られた。このことから、予測の問題に焦点を当てた研究と態度改善での社会的望ましさの役割を顧慮した活動の必要性が提言されている。
著者
井澤 信三 霜田 浩信 氏森 英亜
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.33-42, 2001-11-30

本研究は、自閉症生徒間の社会的非言語行動連鎖において、「相手の行動遂行の中断状況を設定する(以下、中断操作と記す)」という行動連鎖中断法によって、仲間の行動を促す要求言語行動(「○○君、どうぞ!」)を成立させること、他の社会的行動連鎖においても中断操作が要求言語行動を生起させるかを検討すること、を目的とした。初めに自閉症3生徒間における社会的非言語行動連鎖(ボーリング)を形成し、その後、連鎖の途中での中断操作を行った。般化プローブでは他の社会的行動連鎖(黒ひげ・ダーツ)において中断操作の有無を変数とした。結果は、行動連鎖中断法により社会的非言語行動連鎖に要求言語行動を組み込むことができたこと、中断操作が標的行動の生起を制御する変数であること、を示した。中断操作は条件性確立化操作として機能したことが示唆され、行動連鎖の文脈としての意義と要求言語行動の機能化という観点から考察が加えられた。
著者
無藤 賢治 中村 征義 吉田 豊
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.26-32, 1983-12-29
被引用文献数
3

ダウン症児の構音障害の特徴について、より具体的に把握するために、100の単音節を発音材料として検査を行い、その結果をもとに検討をした。対象児は小学部から高等部に至る60名であった。発音は文字の呈示による自発法と聴覚的刺激による模唱法を併用して誘導した。それをテープレコーダーに録音し、個々の発音についての評価を3名で行った。その結果次のような知見を得た。ダウン症児の単音節での構音障害の出現率は極めて高く、その要因には知能の低さに伴うものの他、構音器官の異常さや巧緻性の劣弱さ及び聴覚の障害等も考えられる。単音節別明瞭度の平均は50.8と低く全体の半分程である。範囲は13-80と幅広く、単音節間に明瞭度の差が大である。高明瞭度の単音節は直音かつ清音であり、低明瞭度のものは拗音が大半の中でザ行音も含まれている。直音かつ清音ではラ行音が特に悪い。拗音の平均明瞭度は直音に比べて明らかに低い。子音による明瞭度ではw、t、k、m、j、n、p、b等が高い。低明瞭度の子音は大半が拗音を構成するものであるがdzやrも含まれている。拗音については獲得される時期において正常児との相違が見られる。息のさえぎられ方では破擦音や弾音の明瞭度の低さが目立ち、息のさえぎられる場所では歯音が特に低い。これは正常児や精神薄弱児を対象とした先行研究とは若干異なる。
著者
小柳 恭治 志村 洋 山県 浩 永田 三郎
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.55-70, 1980-03-15

本稿は、わが国におけるオプタコン研究の現状を展望したものであり、これまでに明らかにされてきたオプタコン触読における文字パターン認識のメカニズムや、今後さらに研究を要する諸問題について論議を展開した。1.オプタコン触読訓練プログラムにおいても、「文字→単語→語句→文→文章」の順に学習のステップを組むことが、その読み取りの能力を高めるうえに効果的である。2.最初にカタカナおよびひらがなを学習し、そのあとで漢字を学習したほうが、文字パターンの構成要素についての学習効果の転移その他の面で、より有効である。3.アルファベットやカタカタナ、ひらがなおよび字形が比較的簡単な漢字の場合には、いわゆる<決定的特徴・I型>の把握によって、文字パターン識別が可能である。4.しかし、比較的字形の複雑な漢字の場合にはそれだけでは不十分であり、そこに文字パターンの「分解=合成提示」と、文字の"似顔絵"ともいうべき<決定的特徴・II型>の導入により、字形の全体一部分関係の把握を強める手だてが必要である。5.その文字パターンの<決定的特徴・II型>の導入は、それぞれの文字の触覚的な入力パターンと、記憶の中に定着しているそれぞれの文字の標準パターン(原型)との比較照合過程についての情報処理論とゲシュタルト理論とを統合した考え方によるものである。6.オプタコン触読における誤読傾向の分析は、触知覚による文字パターン認識のメカニズムを知るうえに有力な手がかりとなる。とくに漢字の場合の読み誤りの傾向は、盲人の触覚パターン認識と弱視者の視覚パターン認識との間である共通した原理が働くことを示唆するものとして興味深い。7.漢字辞典でいうところのいわゆる伝統的な部首を考慮しながら、オプタコン触読のための新しい部首の設定を行い、それによって文字パターン識別をより効率化するための漢字のグループ分けの研究が今後必要である。8.学年配当教育漢字の画数の平均値をみると、1年生から2年生にかけてかなり増加し、さらに、3、4年生でも若干増えているが、それ以降はほとんど変わりがない。したがって、高学年になると字形が複雑になり、オプタコン触読が困難になるという心配はない。9.目が見えない子どもたちにも、適切な指導をすれば、表意文字としての漢字の成り立ちやその使い方のおもしろさが理解できる。もちろん、そこには個人差がある。10.文字や数字、記号のみならず、図や表、グラフなども、あまり複雑なものでなければ、オプタコンで読み取ることが可能である。11.教育漢字996字を習得すれば、漢字出現頻度数からいって、一般の漢字かなまじり文をかなりの程度読み取ることができる。12.英文タイプやカナタイプだけではなく、「日本語ワードプロセッサ」などとの併用により、盲人用読書器としてのオプタコンの利用価値は、今後さらに高まっていくであろう。
著者
平澤 紀子 小笠原 恵
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.157-166, 2010
被引用文献数
3

本研究は、行動問題を示す人々への支援アプローチである積極的行動支援の進展と課題について、生活の向上という観点から検討した。Journal of Positive Behavior Interventionsの1999年から2008年までに掲載された支援研究65件について、積極的行動支援の目指す10のテーマをもとに分析した。その結果、発達障害のある個人だけでなく、児童生徒集団も含み、生活場面において適応行動を支援することで、行動問題の解決や予防をねらう研究が多く取り組まれ、その効果評価は適応行動が中心であった。一方、こうした支援はおもに行動問題の行動随伴性に基づいており、生活場面の文脈に基づく支援の開発や支援がもたらす生活の向上および環境の改善に関する評価は少なかった。結果から、支援対象となる新たな適応行動の行動随伴性への焦点が不足していることを指摘した。今後の研究として、新たな適応行動の行動随伴性が生じるための環境条件や環境構築の分析に基づいた支援の開発、生活場面を構成する人々に関する行動随伴性の開発、循環的な環境の拡大に関する検討を挙げた。
著者
高畑 庄蔵 武蔵 博文
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.13-23, 2000-01-30
被引用文献数
2

本研究は、なわとび運動を新たに習得した重度の知的障害を伴う自閉症児・ダウン症児各々1名と、既に習得している重度知的障害児1名の3名について、(1)なわとび運動の家庭・学校での長期的な経過を報告すること、(2)その自発・維持について検討を試み、家庭への支援のあり方を探ること、(3)地域での運動・スポーツとして適切であるか等の社会的妥当性の検討を行うことを目的とした。なわとび運動の習得と自発・維持を促進するために、生活技能支援ツール(武蔵・高畑,1997)として「フープとびなわ」「がんばりファイル」を家庭へ提供した。その結果、自閉症児・ダウン症児はなわとび運動を習得し、3名とも家庭・学校場面で2年から6年間にわたっての継続が確認された。また、家庭場面で自発的なお手伝い行動等が報告された。さらに社会的妥当性の評定では、なわとび運動や生活技能支援ツールに対して肯定的な評価が得られた。
著者
藤野 博
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.173-182, 2009-09-30

PECS(絵カード交換式コミュニケーション・システム)に焦点を当て、AACとしての有効性と音声言語表出の促進に与える効果について諸研究の知見を概観し考察した。PECSの指導が絵カードによる自発的なコミュニケーション行動の獲得に有効であることに関しては、これまでの研究から十分なエビデンスが蓄積されていると考えられた。PECSの音声言語表出促進効果については肯定的な結果が報告されている一方、否定的な結果もあり、一様に効果があるとはいえなかった。そして、PECSで音声言語表出が増加したケースでは指導前からエコラリアや音声模倣などがみられる傾向があり、その観点からの検討の必要性が示唆された。また、使用に伴って音声言語表出の促進が報告されている身振りサインやVOCAなどの他のAACシステムに比較してのPECSの効果については、十分な検討がなされておらず、今後の課題になると考えられた。
著者
加藤 哲文
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.17-28, 1988-08-27
被引用文献数
2

3名の無発語自閉症児に音声による要求行動を形成した。訓練プログラムは、非音声的反応型(指さし)を形成した後に音声的反応型(分化発声)に移行する、場面般化、訓練効果の維持のチェックという内容からなっている。また、反応型の移行には「修正版時間遅延法」を用いた。訓練設定は、被験児の手の届かない位置に4種類の菓子を並べ、側にいる実験者が被験児の要求行動の自発に対して要求物を充足するというものであった。訓練の結果、非音声的反応型による要求行動自発の機会を十分に保証する手続き(即時対応)によって、後の時間遅延法による要求充足の留保手続きが嫌悪事態にならず、分化発声による要求行動を形成することができた。さらに、般化及び維持も2名は良好であったが、他の1名は不十分であった。このような3名の被験児の反応パタンは、各々の被験児の現在及び過去の要求行動に対する強化史の観点から考察された。
著者
菅井 邦明
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.p10-19, 1986-09
被引用文献数
1 1

本研究では音声言語行動、特に話しことばの形成過程とその形成条件を究明した。その目的のため身体運動の発達過程における構音動作の発現と話しことばに必要な視覚・聴覚の弁別機能の形成過程を特定音声言語行動「げんこつ山のたぬきさん」の形成過程から分析した。観察方法は、「げんこつ山」を(1)歌と動作で受信した時、(2)歌のみの時の反応を8mmカメラで収録した。対象児は聴覚障害児13名であった。その結果、音声言語行動の形成過程は、視覚・聴覚で受信し上肢で発信する段階から、ゆっくりした歌に上肢で発信できるようになり、次第に速い歌に上肢で発信できると同時に構音動作で発信し(復唱の発現)、最後に自分で歌って動作で発信するようになった。この過程で運動調整機能や視覚・聴覚の弁別機能、仲継ぎ過程系の形成も観察され、音声言語行動形成の条件が考察された。その知見をもとに障害児の音声言語行動形成に必要な視点が提言された。