著者
小柳 恭治 小坂 敬子 本間 和子
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.11-26, 1971-06-01

この研究は、わが国の盲学校において70年来使用されている点字板と比較して、点字タイプがいかに効率的なものであるか、さらには盲教育の近代化をはかるうえに点字タイプがいかに重要な役割をはたすかを実験的に明らかにしようとしたものである。そこで、点字板と点字タイプの作業能率をいろいろな角度から徹底的に比較検討するために、被験者を盲学校小学部3年の全盲児1名にしぼり、4ヵ月間にわたって訓練(1日平均1時間)をおこなった。その訓練過程の中で各種のテストをこころみ、点字タイピングの進歩の度合いをしらべるとともに、点字板との比較・分析をおこなった。その結果、点字タイプはつぎのような点で点字板よりもすぐれていることが実証された。1)書速度がはやい。-点字板と比べて約3倍の能率があがる-2)正確度が高い。3)確認や修正がしやすい。4)作業の継続が容易である。5)疲労度がより少ない。-したがって、比較的長い時間、作業をさせても、点がきれいにでる-また、この実験で使用した点字タイプの中では、Parkins Braillerが最も性能がよいことも明らかにされた。盲学校では、毎日の授業の中で、点字用具を使用しない日はまずないといってもよい。したがって、いつまでも非効率的な点字板のみでノートなどを書かせていてはとても盲児の学習指導の近代化はのぞめない。そのうえこういった教材教具の不備が、盲児たちの学力のみならず、性格・行動面にも、マイナスの影響をあたえることも考えねばならない。もちろん、点字板がまったく不要だというのではない。ときと場所に応じて、点字タイプと点字板(卓上用および携帯用)を使いわけることがのぞましい。
著者
高橋 智 平田 勝政 茂木 俊彦
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.33-46, 1990-03-10

近年、国内外で障害の概念構造についての理論的研究が深化しつつあるが、個々の障害に即した概念整理は不十分であり、「精神薄弱」概念についてはそれが特に著しい。そこで本研究ではその一環として、戦前の精神医学分野の「精神薄弱」概念の形成・展開過程及び到達点の歴史的解明を行った。検討素材に、主要な精神医学雑誌である『精神神経学雑誌』と『精神衛生』を用いた。得られた結果は次の様である。(1)「精神薄弱」を病理・臨床の面からは疾病・欠陥と規定し、精神衛生では断種等の社会問題対策的視点から規定しており、精神医学でも「精神薄弱」概念の定義に大きな相違がみられる。(2)クレペリンの「白痴・痴愚・魯鈍」の3分類を基本としつつも、「精神薄弱」概念論争にみられる様に、知能指数等の心理学的概念の採用が現実的要請から承認された。(3)戦前の「精神薄弱」概念の到達点と「特殊児童判別基準」等の戦後の概念には連続性が確認された。
著者
横山 泰行
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.27-36, 1983-07-01
被引用文献数
1

本研究は、養護学校12校に在籍する9歳から16歳までの精神薄弱児男子443名と女子250名の肥満度を、Rohrer指数方式、文部省の肥満傾向児方式、長嶺の皮脂厚方式といった3種類の代表的な肥満判定法によって定量的に解析し、その結果を健常児の肥満度の数値と比較考察したものである。1)Rohrer指数によって準肥満・肥満と判定された精神薄弱児は男子では10%、女子では20%に達している。2)年齢を一括して、精神薄弱児と健常児との男子の肥満傾向児の出現頻度を比較すると、両群問のX^2の値は有意差のない結果である。女子の肥満傾向児数は対照群や全国の数値を圧倒的に凌駕している。精神薄弱児女子の肥満傾向児は9歳から12歳にかけて漸増し、12歳から15歳にかけて漸減している。3)皮脂厚からの判定法によれば、男子の精神薄弱児は約4名に1名、女子では約3名に1名が肥満と判定されている。
著者
園山 繁樹 秋元 久美江 伊藤 ミサイ
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.107-115, 1989-12-28
被引用文献数
1

幼稚園において2年6ヵ月にわたりメインストリーミングの保育を受けた1名の自閉性障害男児について、特に発話の出現過程と社会的相互作用の変化を検討した。入園当初はほとんど無発話であったが徐々に模倣的な発話が増え、卒園時には3〜4語連語の発話が可能となった。社会的相互作用においても、当初は身体的な接触を拒否していたが徐々にかかわりが増え、卒園時にはことばによる自発的なかかわりが可能となった。これらの変化をもたらした要因として、教師や健常児との人間関係の形成と拡大を図ることが考えられた。発話は社会的なものであり、その出現と発展のためにはまず第一に幼稚園における様々な場面と活動を通して教師との人間関係を確立し、その後に発話を引き出すための手法を適用すべきであることを指摘した。
著者
渡部 匡隆 上松 武 小林 重雄
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.27-35, 1993-11-30
被引用文献数
4

養護学校高等部と中学校特殊学級に在籍する2名の自閉症生徒に、バス乗車スキルの指導を行った。まず、現実場面のバス乗車スキルの課題分析を行った。そして、現実場面をシミュレートした場面を訓練室に構成し、バス乗車に必要な基本的な行動連鎖の形成を行った。現実場面では、訓練室場面での指導の効果を評価するとともに、バス乗車に必要な訓練を行った。2名の生徒はいずれも、(1)訓練室での基本的な行動連鎖の形成、(2)現実場面での直後プロンプト手続きによる訓練、(3)訓練室で目的の停留所をボタンを押して知らせるための自己記録手続きの訓練、並びに現実場面での自己記録の継続的使用によって、単独のバス乗車が可能になった。これらの結果から、訓練室場面と現実場面での指導を組み合わせて訓練することが効果的であるとともに、標的行動が適切な場面で生起するために自己記録法を用いることの有効性が示唆された。
著者
安部 博志
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.117-123, 1997-03-31
被引用文献数
1

本研究は、小学校心身障害学級に在籍する2名の自閉症児に対して、路線バスを利用して一人通学するための訓練プログラムについて検討した。訓練プログラムの計画と実施にあたっては、応用行動分析の手法を用いた。対象児Aは、訓練開始から9ヵ月後に、またBは2年後に、それぞれ単独での登下校が可能となった。しかし、現実場面の訓練の進行に伴って、予期せぬ様々な問題行動が出現したために特別な訓練を実施する必要があった。さらに、安全な登下校を可能にするためには、対象児への訓練ばかりでなく、横断歩道への足型の設置など、社会環境への介入を実施する必要があった。2年半に及ぶ訓練の結果から、シミュレーション場面と現実場面とを組み合わせて訓練することが、移動スキルの形成と般化にとって有効なことが示された。対象児の変容に合わせて、訓練プログラムを柔軟に修正することの重要性が示唆された。
著者
柳澤 亜希子
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.13-23, 2007-05-30
被引用文献数
2

本研究は、障害児・者と暮らす兄弟姉妹(以後、「きょうだい」と記す)が直面する諸問題とそれに対する支援の動向について概観し、今後のきょうだいに対する支援のあり方について提言することを目的とした。従来、障害児・者のきょうだいへの支援は、同じ立場にあるきょうだいが交流する場を設け、彼らの不安や悩みを緩和することを目的とした心理社会的な支援がおもに実施されてきた。一方、障害児・者の障害特性や対応方法について学ぶことを目的とした教育的な支援は、実施の際の指針となる知見が不十分であるために、国内外ともに体系的な活動までには至っていないことが明らかとなった。今後、障害児・者のきょうだいに対する支援においては、どの時期に、どのような情報を提示していくべきか、教育的支援の内容を体系的に構築していく必要性が示唆された。
著者
高良 秀昭 今塩屋 隼男
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.25-35, 2003-05-30

自己教示が知的障害者のメタ認知に対してどのように影響するかを検討する目的で、実験研究を行った。その結果、メタ認知の実行機能については、実験群(自己教示群)の実行機能が、統制群に比較して有意に高まった。さらに、実験群の実行機能の得点は、コバート・リハーサル段階で有意に高まった。この効果は、実行機能の得点が低いグループで、特に顕著にみられた。一方、メタ認知的知識に関しては、実験群のみに特有な変化は認められなかった。このような点から、自己教示は、知的障害者のメタ認知の実行機能を活性化するが、メタ認知的知識には大きな影響を及ぼさないことが示唆された。さらに、自己教示により活性化された知的障害者のメタ認知、特に実行機能は、1年後においても活性化が維持されることが明らかになった。
著者
関戸 英紀
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.95-102, 1994-03-31

質問に対してエコラリアで応じる14歳の自閉症男児に対して、明確な順序性をもち、動機づけの高い共同行為ルーティンを設定し、その文脈を用いて対象児の認知的発達水準を考慮しながら、適切な応答的発話の習得を目的とした指導を約3か月間行った。その結果、4セッションめでエコラリアが消失し、18セッションめで指導目標とした4つの質問すべてに正答できた。また、日常場面においても応答的発話に変化がみられた。以上のことから、場面文脈を対象児の認知的発達水準に近接させていくことによって文脈の理解がされ、このことがエコラリアの消失を促進したと考えられること、また場面文脈および質問の意味の理解を促進するためには最小限必要な要素から構成される、単純化された場面を設定し、しかもスクリプトの主要な要素から指導を開始することの重要性が検討された。
著者
門田 光司
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.15-20, 1992-11-30
被引用文献数
1

9歳6ヵ月の自閉症男児にビデオ教材を用いて質問訓練を実施し、言語レパートリーの拡大と共に、その効果を調べた。ビデオ教材を用いた理由としては、写真よりも社会的事象の文脈が理解されやすいと考えたこと、見慣れた活動や人物を訓練刺激として用いるため、獲得された返答技能が訓練以外の自由な遊び場面でも使用される可能性が高いと考えたことによる。訓練効果の分析としては、獲得された返答技能が自由な遊び場面でも使用されるかどうか、未訓練刺激への般化状況や自由遊び場面における言語相互交渉への本訓練の効果などを調べた。結果は、言語レパートリーの拡大と新奇なビデオ教材への般化が見られたが、自由遊び場面への般化は見られなかった。しかし、これは本児が質問を無視する態度と関係しているように思われた。
著者
服巻 繁 野口 幸弘
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.131-138, 2005-07-31
被引用文献数
2

本研究では、施設内にある作業所で作業中に逸脱行動を繰り返す1名の自閉症青年に対して衝動的行動を改善するために、先行刺激操作による介入と結果操作による介入について検討を行った。先行刺激操作による介入として、作業や余暇など活動ごとに場所を設定し、注意散漫を予防する物理的環境整理、作業の後に好きな活動ができることを示したスケジュール表を用意した。作業中に逸脱した場合は、スケジュール表や文字カードを見せて「仕事に戻ってください」と活動に戻るよう教示する視覚的な手がかりによるルールの呈示を行った。しかし、それだけでは逸脱行動の減少にあまり効果がなかった。続いて、視覚的な手がかりによるルールにトークンシステムとレスポンスコストによる介入を加えた。逸脱なしに仕事を遂行した場合は100円を与え、逸脱した場合には半額の50円に減らした。貯金したお金で、本人の好きな洗剤や雑誌を購入することができ、作業中の逸脱行動が減少し作業の集中度が高まった。結果は、先行刺激操作と結果操作に関して、応用行動分析的考察を行った。
著者
大木 文子 池田 由紀江
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.26-35, 1985-06-30
被引用文献数
1

2語発話初期の精神発達遅滞児の統辞的2語発話を統辞意味論的に分析することによりその初期文法の解明を試みた。2語発話初期の精神発達遅滞児8名,及び同様の表出言語年齢の普通児3名について、4ヶ月間その発話を分析した。収集された発話のうち2語発話動詞述語文のみについて、統辞意味論的構造分析を施した。その結果、普通児は、"だれだれがどうする"の意味関係を示す2語発話を早期から獲得し、その使用も集中していたのに対し、精神発達遅滞児は、このような傾向があらわれず、"-がある"や"-をどうする"などの発話が比較的一定して使用されていることが示された。これより、普通児は、人の行為を早期から集中して表現するのに対し、精神発達遅滞児は、人以外のものについての表現が多く、行為や、人そのものに対する抽象化に困難を示すことが推察された。これより、普通児の言語発達との質的な差異が示唆された。
著者
武居 渡 鳥越 隆士 四日市 章
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.33-41, 1997-11-30
被引用文献数
1

本研究では、離島に住む就学経験のない聾者が自発的に発展させた身振りについて記述し、その特徴を検討した。調査者と対象の聾者との自由会話をビデオに収録し、すべての身振りを単語を単位として書き起こした。その結果、全体の約3割が指さしによって構成されており、指さしが聾者の身振りの中で重要な機能を担っていた。具体物に対する指さしだけでなく、その場にないものまで指さしを使って表し、指さしが語彙として定着した例も見られた。また、指さし以外の身振りでは、現実世界のものの扱い方や対象物をパントマイム的に再現しているわけではなく、手型自体があるカテゴリーを持ち、聾者は現実世界にあわせて手型を選択的に使用していた。このような特徴は、日本手話やアメリカ手話などの体系的な手話言語にも見られ、体系的な手話言語が、身振りの特徴を基にして発展していることが示唆された。
著者
リー グレッグ
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.427-441, 2010-03-31

Recent developments in fields such as newborn hearing screening and cochlear implantation have served to ensure that special educational programmes required to meet the needs of children who are deaf or hard of hearing are increasingly diverse and complex. Consequently, a broader range of professional knowledge and skills is required of these children's teachers than at any point in the history of this field. The present article reviews the current situation in education for children who are deaf, and argues that preparation of teachers so that they are able to work across the full range of potential professional roles is neither logical nor possible in this context. A model for initial and continuing teacher education based on a combination of core and specific elective studies is proposed as an alternative to attempting comprehensive education for teachers of children who are deaf or hard of hearing.
著者
徳永 英明 田中 道治
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.1-11, 2004-05-30

本研究の目的は、知的障害児および健常児の自己意識について、自己の変容に対するイメージと理想の自己イメージに着目しながら、その様相を明らかにし、両イメージの関係を発達的に検討することにあった。語彙年齢をもとに区分された3段階の発達レベルの知的障害児および健常児にインタビューし、変容の自己イメージについては、内容領域、程度、重要度の観点から検討した。また、理想の自己イメージについては、内容領域、願望度の点から検討を加えた。その結果、知的障害児が『社会性』の面で、健常児が『能力・身体』の面で自己の変容および理想を認めやすいという特徴がみられた。また、健常児において、変容の程度-変容の重要度-理想の願望度が密接に関連し合っているのに対し、知的障害児においては、特に、変容の程度-理想の願望度で正の相関の傾向が示された。さらに、発達が進むにつれ、知的障害児の場合、『社会性』のもつ意味がより重要になってくることが示唆された。
著者
中司 利一
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.29-42, 1988-02-20

SD法を使用して、日本と韓国の大学生が肢体不自由児に対してどのようなイメージを持っているか研究した。対象とされた言葉は「肢体不自由児」と比較のための「健常児」、「老人」、「孤児」、「精神薄弱児」、「盲児」の6概念であった。調査対象は日本は2か所の大学生317名と韓国は3か所の大学生105名である。その結果、日本では肢体不自由児はやや遅いが強く陽気な存在であるというイメージが持たれていた。しかし、昔からの誤ったイメージが他の障害児に対してまだ一部残されていることも明らかにされた。また、韓国の大学生との比較では韓国の大学生が主としてマイナスの方向の形容詞でイメージをつくっているのに対し、日本の大学生はプラスマイナス両方向の形容詞でイメージをつくっている点に違いがあった。さらに、イメージの変化を調べるために前研究と比較したところ、肢体不自由児は幾分変化しているが盲児のイメージは変化していないことがわかった。