著者
高畑 庄蔵
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.47-56, 2004-05-30
被引用文献数
1

本研究は、校内作業と校内外現場実習についての2年7か月にわたる作業行動支援の経過を報告するとともに、学校場面から職場へのスムーズな移行のあり方について検討することを目的とした。対象生徒は行動障害を示す自閉症の男子生徒であった。支援開始前は、校内外への飛び出しや飛び回り、大声でのエコラリア等の不適切行動が頻発し、持続的な作業が非常に困難な状況にあった。そこで、機能的アセスメントを行い代替となる適切行動を推定した。加えて、それらの適切行動が自発・維持されるための支援ツールを開発して支援計画を作成し、作業学習において複数の作業種目に継続的に用いながら対象生徒の状況に合わせて支援を段階的に行った。さらにA社での校外実習では、支援ツールが職場で有効に機能するように環境整備を教員が実地に行った。その結果、対象生徒は支援ツールを活用することで比較的安定して校内作業に従事するようになり、不適切行動も徐々に低減していった。A社での校外実習においても、自立的な作業態度が確認された。また、本研究で設定した支援ツール、支援手続き、効果について、保護者、監督者へのアンケート調査でも高い評価を得た。機能的アセスメントを中核にした支援計画、移行における支援ツールが果たした役割、就労に向けた学校から職場への支援のあり方について考察した。
著者
廣澤 満之 田中 真理
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.243-254, 2008-01-31

即時性エコラリアや遅延性エコラリアといった、子どもによって独自の意味が込められ、伝達意図が伝わりにくい発語を非慣用的言語行動という。本研究では、非慣用的言語行動を多用する自閉性障害児に対して、対象児からの応答率が高いかかわり手の発語を明らかにすること、かかわり手の非慣用的言語行動に対する理解の変容過程を明らかにすることを目的とした。1名のかかわり手を対象として、かかわり手の発語と対象児との自由遊び場面に対するプロトコルを分析した。その結果、かかわり手の発語のうち、言葉遊びのように会話ターンの充足自体を目的とした発語・モニタリングへの応答率が高かった。また、かかわり手の非慣用的言語行動への理解は、"意味の付与""有用なコミュニケーション手段としての理解""非慣用的言語行動の積極的利用"という段階があると考えられた。非慣用的言語行動のコミュニケーション手段としての有用性についての議論が行われた。
著者
阿部 秀樹
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.53-57, 1997-03-31

本研究は一自閉症幼児の2年間に渡る療育から、ひらがなが獲得され、概念形成が行われた経過について考察を行った。療育経過はI期、II期の2つの期に分けた。I期では、ひらがなの読みが獲得されたが、その要因として弁別課題や構成課題の大きな進歩があげられた。また、II期では、なぞなぞやルール活動などの概念学習課題の中に、I期で獲得された文字を活用したことが、概念の達成の手がかりとなっていた。さらに、集団療育場面においても、概念が形成されたことが、場面・状況の把握の向上や、集団への積極的な参加につながっていたことが示唆された。
著者
河原 国男
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.41-48, 1985-09-30

本稿では、江戸後期ヨーロッパ系医学書として『解体新書』『病学通論』『察病亀鑑』『扶氏経験遺訓』に着目し、それらの書を通じてどのような運動障害認識が示されているかを検討した。その結果、次のことが明らかになった。人体の生理・解剖学上の観点から「脊髄麻痺」という運動障害が捉えられていた。それは一般化されたかたちで把握され、「局所麻痺」の一種として、さらに上位の概念としては「麻痺病」に疾病分類されていた。このように記述された脊髄麻痺の運動障害は「交感」性の問題としてその原因が理解されていた。そして、この障害に対する処置としては長い時間をかけて自然治癒する可能性をもった「人身」という人間観に支えられ、その精神・身体の両側面を育成、発揮させるような指導法が示されていた。人体について「物に質す」という方法に基づいて、このような指導論を展開させた点に、上記ヨーロッパ系医学書がはたした注目すべき歴史的意義があった。
著者
黒田 未来 東 敦子 津田 望
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.25-32, 2002-03-31

無発話の重度知的発達障害児に対し、表出手段として、サイン言語に加えて写真や絵、図形シンボルなど複数のAAC手段を指導した事例の経過を述べた。本症例は、対人関係が比較的よく、手指模倣が可能で、自発的なサイン表出がみられたことから、指導初期にサイン言語によるコミュニケーション指導を行った。その結果、サイン言語を表出手段として用いるようになったが、その後表出サインの増加に伴い、手指の巧緻性や記銘力の低さなどからコミュニケーションが取りにくくなったため、写真、パッケージ(「P&P」)などを用いたコミュニケーション指導を行った。最終的にサイン言語だけでなく、「P&P」や図形シンボルなど複数の手段を表出手段として併用することが可能となり、コミュニケーションの伝達性や、視覚的弁別力が高まるなどの変化がみられた。本事例を通して、重度の知的障害児にサイン言語を指導することの効果、手指の巧緻性や視覚的弁別力が比較的低い場合に、サイン言語や「P&P」など複数のAAC手段を併用することの効果、また、他者との円滑な「やりとり」を促すために、家庭や学校など諸機関と連携することの重要性について考察した。
著者
渡邉 雅俊
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.48, no.6, pp.581-591, 2011-03-31

The purpose of the present study was to investigate cognitive processes underlying formative activity that contains symbolic use, in students with intellectual disabilities. Participants were 21 students with intellectual disabilities (average MA=8:6; CA=14:9), and 56 children without intellectual disabilities (27 six-year-olds and 29 nine-year-olds). The research task was to draw an original "interesting picture", using a pencil and stickers. The results indicated that the students with intellectual disabilities tended to produce few formative activity containing symbolic use compositions, and that their composition mainly showed typical representations. This may be attributed in large part to the difficulty that students with intellectual disabilities when searching for prior knowledge regarding components, and to their cognitive processes, which tend to be characterized by a limited ability to synthesize mentally or transform individual components.
著者
佐藤 正恵 中谷 恭子
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.47-56, 1992-06-30

生後1〜6ヵ月の健常児計12名(各月齢7名)とこれとほぼ同月齢のダウン症児1名およびハイリスク児5名の、大人(母親)と事物(ガラガラ)に対する「おはしゃぎ反応」の発現、発達を検討した。その結果、以下のことが判明した。1)「おはしゃぎ反応」は、まず大人のコミュニケーション作用への応答として生後1ヵ月頃初出し、それより約半月遅れてコミュニケーション作用を行わない大人にも生起するようになる。他方、事物では、3ヵ月頃生起するようになる。2)「おはしゃぎ反応」の現われは、人と事物で明確に異なる。3)活気に満ちた活動状態としてのより強い能動性が向けられる対象は、6ヵ月頃に人から事物へと変化する。4)「おはしゃぎ反応」に問題があったハイリスク児では、1、2歳代で発達の遅れが確認され、「おはしゃぎ反応」は障害の有無を診断する時の指標となりうることが示唆される。
著者
中邑 賢龍
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.33-41, 1997-09-30
被引用文献数
2 2

コミュニケーションの拡大にVOCA(音声出力コミュニケーションエイド)が有効であるとする研究がある。本研究では、VOCAを利用可能な児童・生徒が2つの養護学校にどの程度存在するかを検討した。2つの養護学校に在籍する知的障害及び自閉的傾向を持つ児童・生徒163名(男子98名,女子65名)に対して、言語表出能力、言語理解能力を測定すると同時に、VOCAを用いたコミュニケーション遊びを実施した。その結果、言語表出能力に問題があるが言語理解能力は高く、VOCAを用いることによってコミュニケーションが改善されるであろうと考えられる児童・生徒が21名(12.9%)存在した。また、実用的に利用することは困難であるが、VOCAを用いてコミニュケーション遊びが可能であろうと思われる児童・生徒が4名(2.5%)存在した。さらに、絵画語彙検査で高い得点を示すだけの視覚言語理解が無ければ実用的VOCA利用は困難であることが明らかになった。
著者
大谷 博俊
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.321-331, 2005-11-30

知的障害養護学校高等部に在籍する、音声表出が認められず、強い他傷行動がみられる自閉性障害の一事例に対し、写真・PCS (picture communication symbols)カード(以下、絵カードとする)・VOCA (Voice Output Communication Aids)などのAAC (Augmentative and Alternative Communication)手段を使用し、個別の指導計画に沿って自立活動の指導を行った。その結果、コミュニケーションが拡大し、問題行動は減少した。本研究の結果は、木工製品作り、数や言葉の学習などの授業の流れを大切にしつつ、写真・絵カード・VOCAなどのAAC手段を使用した自立活動の指導は、有効であることを示唆している。
著者
裴 虹 園山 繁樹
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.37-47, 2009-05-30

本研究では、日本と中国における知的障害児童生徒の選択行動形成の指導・支援の現状、および両国の異同点や共通した課題等を明らかにするため、両国の知的障害養護学校の教師(日本2,000名、中国411名)を対象に質問紙調査を実施した。その結果、両国とも選択行動形成の指導・支援が積極的に実施されており、選択行動形成の重要性に関する教師の認識も高いことが明らかになった。また、選択行動形成の指導はさまざまな形で知的障害養護学校に取り入れられており、その内容が個別指導計画に取り入れられている割合も高いことが示された。さらに、選択行動形成の指導・支援は、さまざまな方法によって実施されていることも明らかになった。両国を比較すると、選択行動形成の指導・支援に関する認識や実施の程度は日本のほうが高く、選択行動形成の指導・支援に関する学校・家庭・地域の連携に関する意識や実施状況は中国のほうが比較的高かった。このことから、知的障害児童生徒の特性にそった有効な支援方法、および学校・家庭・地域の連携のあり方について、両国で研究・実践の交流がなされることが望ましいと考えられた。
著者
岩井 健次
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.35-42, 1986-09-30

児童に不快、不安を与えずしかも対人的相互作用が成立するところの児童と教師との距離(最適空間)を明らかにするため、5名の精神遅滞児がすわる座席の位置について観察を行った。その結果、児童はそれぞれ一定の座席を占める傾向がみられた。その理由について、学校生活の様子及びハンカチ落としゲームの観察結果を通して考察を行った。そして、言語の発達に遅れを示す児童ほど教師に近い位置をとると考えられ、それは表情、動作といった非言語的なものから教師の指示内容や反応をとらえようとするためであると考えられた。言語の発達に遅れを示す精神遅滞児にとって教師から遠い位置は教師の表情をみることができず気づかれや不安を与える。それ故、これらの児童とかかわる際の最適空間を設定する上で、言語の発達の遅れという視点からみていく必要があると考えられた。
著者
若杉 亜紀 藤野 博
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.119-128, 2009-07-30

自閉症児に効果的な補助代替コミュニケーション(AAC)システムとして、PECSが近年注目されている。PECSは自発的で機能的なコミュニケーションを獲得するために有効とされ、その成果が報告されてきた。そして先行研究においては、PECS指導により要求伝達行動が獲得されるとともに、音声言語の促進とコミュニケーション行動の拡大もみられたことがよく報告されている。本研究では、生活年齢7歳の自閉症児1名を対象としPECS指導を行い、標的行動の獲得とそれに伴って音声言語面および非言語的コミュニケーション行動面にどのような変化がみられるかについて検討した。その結果、PECS指導の経過においてフェイズIIIで音声言語表出の増加がみられた。また、要求時に相手に顔と目を向ける行動と笑顔を向ける行動がフェイズIIIで現れフェイズIVで増加した。また、PECS指導場面以外の日常場面においても、学校と家庭の両方で表出語彙の増加と要求時に目が合うことや指差しが増えたことがアンケートの結果から明らかとなった。以上より、PECS指導はカードによる要求伝達行動の獲得とともに、音声言語の促進と非言語的コミュニケーション行動の拡大にも有効である可能性が示唆された。
著者
藤野 博 盧 熹貞
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.181-190, 2010-09-30
被引用文献数
1

知的障害特別支援学校における補助代替コミュニケーション(AAC)の利用実態について調査した。東京都内の知的障害特別支援学校全81学部に質問紙を送付し、55名の教員から回答を得た。絵カードと写真カードは95%以上の教員が使用していると回答していたが、コミュニケーションボード、コミュニケーションブック、学校/教室のオリジナル身振りサイン、パソコンなどの使用比率は50%に達せず、VOCAの使用は30%を下回った。一方、いずれのコミュニケーション手段も50%以上の教員が必要と考えていた。パソコン、コミュニケーションブック、マカトンサインは、50%以上の教員が児童生徒に教えることが難しいと回答していた。また、マカトンサインは小学部に比べ高等部で有意に使用頻度が減少し、パソコンはこれと対照的に増加する傾向が明らかになった。調査の結果に基づき、知的障害特別支援学校でのAAC利用の現状と課題について分析し考察した。
著者
平澤 一 大橋 佳子 萩原 佐地子
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.39-46, 1982-02-27

吃音が聞き手にどのように受け取られどのような扱いを受けるかを知ることは、吃音問題への洞察を深めることにもなり、臨床的意義は大きい。われわれはまず「吃」という言葉が古くは何を意味したかを知るために、インド、中国、および明治以前の日本の古文献を渉猟し、吃音に関する記述を検索した。盲や聾唖にくらべるとその資料は極めて乏しく、いずれも吃音の外面的特徴だけに目が向けられていて、吃音に対する深い理解や洞察に欠けている。ついで、金鶴泳の作品集から吃音の体験記を引用し、吃音に対する聞き手の反応や態度について考察した。この文献例をとおして確実に言えることは、聞き手の吃音に対する無知、無理解、否定的態度が吃音者の社会への適応を一層困難にし、生き方に決定的な影響を与えているということである。
著者
遠藤 信一
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.21-25, 1992-03-30

本研究は、重症心身障害児施設に入所している一人の重度・重複障害幼児との具体的な取り組みを通して、子どもの意思の表出を促す際に、関わり手側に求められる視点を明らかにすることを目的とした。子どもに対して一方的な関わりにならないようにあらゆる場面で子どもの意向を問いかける工夫を続けていくと、指導開始当初は一人遊びをしていることが多かった対象児が、ものに働きかける動きがより明確になり、さらに人に近付いて要求を伝えようとするなどの動きがみられるようになった。重度・重複障害児の意思の表出を促すためには、あらゆる場面でコミュニケーションを図っていくことが大切であり、その際子どもにみられた何らかの動きをある意思の現れと"仮に"受け止めていくことや子どもが意思を発現しやすくするために活動の開始や終了を明確にすることなどが大切であるといえる。
著者
国分 充 葉石 光一 奥住 秀之
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.27-35, 1994-01-31
被引用文献数
7

バランス運動に関し、片足立ちの成績に比して平均台歩きの成績が低いという群(S群)の障害様相が、行動調整能力の問題と関連しているかどうかを確かめるため、重度から軽度までの知能障害者6歳から51歳129名を対象に、平均台歩きと片足立ち、行動調整能力についてはGarfieldのmotor impersistence testのうちの行動の持続に関する3課題の測定を行った。その結果、片足立ちは行動調整能力との関連がきわめて明瞭であるのに対し、平均台歩きは行動調整能力と無関係ではないにしても関連は弱いことがわかり、S群の障害様相が行動調整能力の問題と結びついていることが明らかとなった。また、知能障害者7歳から51歳92名を対象として行った台上片足立ちの測定から、行動調整能力の低い者の場合には、直観的に行動を方向づけ、調整する物が存在する状況の中でバランス能力を改善していくという指導法が示唆された。