著者
金谷 京子
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.31-37, 1994-03-31

本研究は対人行動に問題を持つ、軽度の発達障害幼児にパートナーとの2人学習の場面で1年9ヵ月の間、社会的スキルの獲得のための指導を行った経過を通して、そのプログラムと指導法について検討したものである。指導法には、行動修正技法を用い、初期の段階では、個別的課題を2人で同じ机上で移行し、お互いを観察すること、模倣することを強化した。第2段階では、パートナーとの共同作業やゲームを増やし、適切な言語伝達法を学習させるとともに、ルールの理解や競争意識の喚起を促した。そして最終段階では、ごっこ遊びやゲームを通して相手への援助行動や協力行動を強化し、子ども同士の相互作用を促して、教師の介入は漸次撤去していった。以上の結果、対象児の注目行動の定着、適切なコミュニケーション手段の獲得、相手との協力・援助行動の増加をもたらした。
著者
高橋 智
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.33-43, 1997-06-30

「精神薄弱」概念の理論史研究の一環として、戦前を代表する呉秀三・三宅鑛一・杉田直樹らの精神病学書を素材に、19世紀末から昭和戦前期までの精神病学における「精神薄弱」概念の形成過程とその特質を検討した。その結果、(1)クレペリン精神病学体系はわが国の「精神薄弱」の成立に影響を与え、「白痴・痴愚・魯鈍」の三分類法の確立や「精神薄弱」の疾病から障害への転換の重要な契機になった。(2)「精神薄弱」の精神病学的診断や定義における知能測定法の適用の問題として、三宅鑛一の提起により、クレペリン精神病学体系による医学的診断を基礎に知能測定法はその補助手段として活用され、1930年代末にはクレペリン精神病学体系と知能測定法の併用方法が採用された。(3)「精神薄弱」児の生活年齢・経験のもつ発達的意味に光を当てた杉田直樹の知能と社会生活適応性の二次元による「精神薄弱」の概念規定は、戦前の到達点であり、戦後の「精神薄弱」概念にも影響を与えた。
著者
大久保 賢一 井上 雅彦 渡辺 郁博
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.29-38, 2008-05-31
被引用文献数
1

本研究では自閉症児・者の保護者を対象に子どもの性教育に関するニーズ調査を実施した。調査では、性教育の必要性、性教育が必要であると考えられる時期、必要とされる性教育の内容、そして保護者の学習の場の必要性とその形態に関して質問を行った。その結果、大部分の保護者が子どもに対する性教育の必要性を認識しており、小学校(小学部)高学年から性教育が必要であると回答した保護者が最も多かった。必要とされる性教育の内容については、子どもの生活年齢、知的障害合併の有無、性別に関連して保護者の回答に違いがみられた。また、大部分の保護者が、子どもの性教育に関する保護者自身の学習の場を望んでいることが明らかとなった。保護者の性教育に対するニーズの実態、そして今後の課題について考察を行った。
著者
福田 友美子 田中 美郷
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.17-26, 1986-12-29
被引用文献数
2

6〜11歳の聴覚障害児40名(平均聴力レベル50〜130dB)を対象にして、文のイントネーションと単語のアクセントを検査材料に用いて、発話の音声サンプルを録音した。それらの基本周波数を観測し、疑問文と平叙文の分末の音程の変化の差や単語のアクセント型による前後の音節の音程の変化の差を分析した。一方、各検査項目についての発話の品質を、聴覚的に判定して、正しい発話と誤った発話とそれらの中間の発話に分類した。そして、これらの音響的分析の結果に基づいて、標準的な発話の場合の音声の性質を参照して、正しい発話の領域を設定すると、聴覚的判定の結果と良く対応した。従って、このような音響的分析の結果から、文のイントネーションや単語のアクセントの品質を客観的に評価できることが示されたことになる。さらに、このような評価方法より得られた結果と対象児の聴力レベルの特性との関係を調べたところ、発話の声の高さの調節は低い周波数域の聴力レベルと密接に関連しており、250Hzと500Hzでの聴力レベルで境界を設定することによって、高さの調節能力を予測できることが示された。
著者
関戸 英紀
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.35-45, 2004-05-30
被引用文献数
1

通常学級に在籍する自閉的傾向と知的障害のある小学校5年生の男児に対して、(1)対象児に対する個別的な支援、(2)学級担任に対するコンサルテーション、(3)全校の教師の対象児に対する理解の促進、(4)学級の他の児童の対象児に対する理解の促進、という4つの観点から約9か月間(24セッション)支援を行った。その結果、対象児と支援者との間で、交渉的なやりとりや役割交代が成立するようになり、学習態度の形成も可能となった。学級担任も、対象児の実態に基づいた、一貫性のある対応が可能になった。また、対象児の所属学年にかかわりのある教師の問でも、対象児への対応が統一されていった。さらに、学級の他の児童の対象児に対する対応も、肯定的になってきた。以上のことから、共感的関係を基盤にしながらやりとり行動を形成していったことの妥当性、巡回指導および小・中学校と関係機関とが連携・協力することの有効性、校内支援体制を構築することの必要性などが検討された。
著者
田実 潔
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.109-118, 2001-03-31
被引用文献数
1

知的障害養護学校中学部に在籍している3名の自閉症児を対象に、他の知的障害養護学校の生徒と、テレビ会議システムを利用して1週間に2回、約2か月の間、計16セッションの交流を行った。交流相手は軽度の発達遅滞児であり、「テレビ会議」ルーティンにおいては、弁別刺激となる言葉の使用に問題のない生徒たちであった。対象となった自閉症児は、日常の生活の中で反響言語的な応答発話やパターン化した非応答的発話が目立つ生徒であり、質問に対して適切な応答的発話の獲得が望まれている生徒たちである。標的行動は5種類であり、応答的言語行動はReturn型、許可型、What型に分類され、1、2セッションをベースライン期、Return型応答的言語行動と、What型応答的言語行動のうちの自分の名前を聞かれる弁別刺激に対する標的行動がほぼ100%獲得された6セッションまでを第I期、すべての標的行動の正反応率が100%となった14セッションまでを第II期、15、16セッションを第III期(プローブ)とした。約2か月後に、標的行動について教師が「テレビ会議」ルーティンでの相手役になり般化を調べたが、標的行動(1)と(2)および(4)では100%の正反応率となり、標的行動(3)と(5)ではそれぞれ3名中2名が正の応答的発話を維持していた。自閉症児の応答的発話については、指導者との1対1の指導体制から応用行動分析の手法で指導がなされることが多かった。今回、知的障害養護学校の生徒同士の交流(テレビ会議ルーティン)から複数での応用行動分析手法による指導を行ったが、1対1の構造化された指導場面でなくても、標的行動を明確に分析し、強化していくことで自発的な応答的発話が形成されることが示された。特に、What型応答的言語行動では、標的行動を自閉症児がわかりやすい具体物に設定することで、応答的発話が獲得されやすいことが示された。また、テレビ会議では、社会的相互作用に困難を示す自閉症児の場合でも、通常のやりとり行動では視覚的に確認できない自分の姿を、交流相手の姿とともにリアルタイムで、しかも動画で視覚情報として提供されることになり、自閉症児の興味関心を持続して保つことができ、応答的発話獲得に有効な手段であることが示された。
著者
大塚 玲 宮坂 由喜子 神園 幸郎
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.13-22, 1991-06-30

優れた暦計算能力をもつ自閉症者4症例に対して、その暦計算の処理機構について検討した。その結果、次のような知見を得た。1.本研究で対象とした4症例すべてにおいて、優れた記憶機能が介在していた。したがって、暦計算能力の出現の背景には優れた記憶能力の存在が想定された。2.暦計算能力の差異性を規定しているのは、暦の記憶範囲における違いもさることながら、暦の規則に関する知識量および暦の規則を利用した演算アルゴリズムの洗練度合に負うところが大きい。3.上記の観点から暦計算者の方略は、全面的な記憶依存による記憶依存型、簡単な暦の規則の適用によって記憶範囲外の年代を補う規則利用型、暦の構造から独自の演算方略を編み出し、利用するアルゴリズム主導型の3タイプに類型化された。
著者
田辺 恵子
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.29-35, 2001-01-31
著者
夏堀 摂
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.11-22, 2001-11-30
被引用文献数
7

本研究の目的は、障害種別による母親の障害受容過程の差異を検討することである。対象者は、自閉症児の母親55名とダウン症児の母親17名。調査は質問紙法を用い、選択方式および自由記述方式で回想法により回答を求めた。その結果、以下の点が明らかになった。(1)種別によって、障害の疑い、診断、療育開始の時期、心理的混乱がもたらされる時期に有意差が認められた。(2)受容までに要する時間は、ダウン症群に比べ自閉症群の方が有意に長かった。(3)障害種別間で有意な関連が認められた7つの変数は、診断の困難さに関係している変数であった。(4)自閉症児の母親の心理的反応には、障害の疑いから診断までの第一次反応と診断後に生じる第二次反応があった。診断が確定され障害認識に至っていても新たな問題の生起によって、母親の障害受容は阻害されていた。
著者
村本 浄司 園山 繁樹
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.111-122, 2010-07-31

本研究では、施設に入所する、多飲行動、自傷や便踏みなどの激しい行動問題を示す自閉症者1名に対して、PECSを用いて代替行動を形成し、形成された代替行動を日常生活に応用することによって行動問題が軽減するかどうかを検討した。機能的アセスメントによって対象者の行動問題の機能が要求や注目の機能を有しているという仮説が導かれた。支援Iにおいて、対象者の代替行動を形成する目的でPECSにおけるフェイズIIIまで実施した。その結果、必要な写真カードによる要求言語行動を獲得することができた。支援IIでは、日常場面において多飲行動への代替行動として写真カードを導入することで相対的に多飲行動が減少するかどうかを検討した。その結果、対象者の多飲行動は減少し、このアプローチの有効性が示唆された。支援を行ううえで職員の注意は常に対象者に向けられる必要があったため、職員の注目が確立操作として作用し、注目の機能を果たす行動問題の強化効力を低減した可能性がある。
著者
山岡 祥子 中村 真理
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.93-101, 2008-07-31
被引用文献数
1

本研究では、HFPDD児・者をもつ父母の障害の気づきと障害認識の相違を明らかにすることを目的とし、父母80組を対象に質問紙調査を行った。その結果、診断前後とも父母の障害の気づきと障害認識に有意な違いがあった。診断前、母親は父親よりも子どもの問題に幼児期早期から気づき深刻に悩んでおり、受診に対しても能動的であった。しかし、成長に伴い問題は解消すると考える傾向は父母で相違がなかった。診断時において、告知は父母どちらにも精神的ショックを与えていたが、障害認識は父母で違いが認められた。母親の多くは肯定・否定の両面的感情をもち、障害であると認めたのに対し、父親の多くは否定的な感情のみをもち、障害を認めにくかった。診断後は父母とも1年以内に障害を認めたが、母親は父親よりも積極的に障害を理解しようとしていた。
著者
中山 奈央 田中 真理
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.103-113, 2008-07-31

本研究は、小学校高学年におけるAD/HD児の自己評価と自尊感情を定型発達児との比較から明らかにすることを目的とした。調査では、子どもの自己認知尺度(Harter,1985)をもとに作成された日本語版自己認織尺度(Tanaka,Wada,&Kojima,2005)を使用した。自己評価とは特定領域(学業、運動、容貌、社会性、振る舞い)に関する自身の能力や適性に対する評価をいい、自尊感情とは人間としての全体的な自己の価値をいう。調査の結果、AD/HD児は、振る舞いと社会性において、定型発達児よりも低い自己評価を行っていた。加えて、AD/HD児および定型発達児において、各領域の自己評価が自尊感情に与える影響について検討した。その結果、定型発達児では運動を除く全領域の自己評価が自尊感情に影響していたのに対し、AD/HD児では自尊感情に影響を与える領域が学業と容貌のみであり、定型発達児よりも少なかった。
著者
関戸 英紀
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.29-37, 1998-06-30

質問に対してエコラリア(誤答)で応じるCA12歳5カ月の自閉症男児に対して、「買い物・トーストづくり」ルーティンを用いて、五つの型(Who型,Yes-No型,AorB型,Whose型,How型)の質問に対する適切な応答的発話の習得を目的とした指導を約8カ月間(23セッション)行った。その際に、スクリプトの獲得を評価するために、適切な応答的発話のバリエーションと獲得した応答行動の日常場面での般化を指標として新たに設定した。その結果、Who型、Yes-No型、Whose型の質問に対して適切な応答的発話が習得された。またAorB型、Which型、What型においてバリエーションが、Yes-No型において般化がみられた。以上のことから、次のことが検討された。(1)視覚的な手がかりが弁別刺激となり、対象児に対して適切な応答的発話の表出を促進した。(2)ルーティンを繰り返すことにより、それに含まれる言語・非言語を問わず行為の系列を再現できるようになったが、その意味や伝達意図の理解が可能になるまでには至らなかった。
著者
菊池 哲平 古賀 精治
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.21-29, 2001-09-30
被引用文献数
3

自閉症児・者における情動理解の特徴を明らかにするため、顔写真を用いた表情認知能力と表情表出能力の実験的検討を行った。自閉症児・者とその母親および彼らと接触経験のない大学生が3人一組になり、それぞれの「嬉しい」「悲しい」「怒っている」時の情動を表した顔写真をお互いに判定してもらった。統制群である健常幼児と比較したところ、主に次のような結果が認められた。1)他者である大学生や母親の顔写真に対する自閉症児・者の正答率は健常幼児と比較して低かった。2)自閉症児・者が表出した表情を他者である大学生や母親が判定した場合、健常幼児の表情に対する場合と比べ正答率が低かった。3)自閉症児・者が表出した表情を自閉症児・者自身が判定した場合、健常幼児と比べて正答率に差がみられなかった。4)自閉症児・者の表情認知には健常幼児とは異なり「嬉しい」表情の優位性が認められなかった。
著者
海津 亜希子 田沼 実畝 平木 こゆみ
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.1-12, 2009-05-30

通常の学級において、特殊音節に関する多層指導モデル、Multilayer Instruction Model(MIM;海津・田沼・平木・伊藤・Vaughn,2008)を実施した。多層指導モデル(MIM)は、まずは通常の学級においてすべての子どもに対し、効果的な指導が実施される1stステージ、1stステージ指導のみでは伸びが十分でない子どもに対する通常の学級内での補足的な指導である2ndステージ、それでも依然、伸びが乏しい子どもに対し、より柔軟な形態で集中的な指導として実施される3rdステージで構成される。本稿では、3rdステージ指導に進んだ9名の子ども(平均年齢7.2歳、標準偏差0.24)への指導効果を評価した。3rdステージ指導は、1月以降に週1度、給食の準備時間や放課後に1回20分から40分、小集団(5名以下)にてMIM特殊音節指導パッケージを用いて行った。このパッケージでは、(a)視覚化や動作化を通じた特殊音節の音節構造の理解、(b)日ごろよく用いる語を逐字でなく、視覚的なかたまりとしてとらえることによる読みの速度の向上、(c)日常語彙の拡大と使用を焦点においた。指導前後の効果測定には、特殊音節の読みのアセスメント、MIM-Progress Monitoring(MIM-PM;海津・平木・田沼・伊藤・Vaughn,2008)を用いた。結果、指導後に得点の上昇が有意にみられ、さらに読みに対する子どものとらえ方も肯定的なものへ変化した。
著者
近藤 隆司 光真坊 浩史
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.47-53, 2006-05-31

本研究では、軽度発達障害をもつ青年Aが、一般事業所雇用に至るまでの経過を紹介し、これをもとに軽度発達障害をもつ人が、就労をめぐり直面する課題、それを切り抜けていくための支援について考察した。就労支援開始当初、Aおよび保護者は、療育手帳取得や地域障害者職業センターの利用に対し否定的であったが、Aの障害特性や就労に対する見通し等を話し合う過程でこれを受け入れ、職業リハビリテーションの利用に至った。Aは高校卒業後、障害者職業能力開発校を経て一般事業所に就職したが、対人関係や就労への不安等を抱くようになり、精神的サポートが必要となった。この事例から、軽度発達障害の就労支援として、(1)障害受容への支援、(2)職業リハビリテーションの活用、(3)精神的サポート、(4)職業体験の重要性が示唆され、今後の課題として、職業体験の場の確保、就労後のフォロー、高校・大学等における軽度発達障害の理解と支援体制づくりがあげられた。
著者
関戸 英紀
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.41-47, 1996-03-30

電話の使用をスクリプトに組み込んで指導することによって、その応答の獲得が促進されるのではないかと考えた。また、獲得したスクリプトを累積的に発展させることによって、より高次の行動や新たな行動の獲得が可能になるであろうと考えた。そこで、16歳の自閉症男児に対して、「おかわり」、「報告」、「応答」の三つのルーティンのスクリプトを用いて約5ヵ月間指導した結果、校内電話をかける、自宅の電話をかける・受ける技能の獲得が可能になった。以上のことからスクリプトを利用したことによって、文脈の理解に対する認知的な負荷が軽減され、またスクリプトにおいて電話の使用が手順の一部になっていたために対象児は言語に注意を集中することができ、その結果応答の獲得が促進されたこと、スクリプトの行動手順を遂行していくなかで対象児なりにその意味の生成がなされ、その過程は語用論上の誠実性原則に反するものではなかったことが検討された。
著者
新美 明夫 植村 勝彦
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.1-12, 1984-09-30

先に構成した学齢期心身障害児をもつ父母のストレス尺度(植村・新美、1983)について、その因子構造と、障害児の加齢に伴う変化を明らかにすることを目的として、調査・分析を行った。父母各31下位尺度について、主因子解/バリマックス回転の結果、母親は、問題行動と日常生活、将来不安、人間関係、学校教育、夫婦関係、社会資源、療育方針の7因子、父親は、人間関係全般、現状と将来、社会資源と地域社会、学校教育、問題行動、健康状態の6因子を抽出した。次に、障害児の加齢に伴う因子構造の変化を探るべく、障害児の学年によってサンプルを父母各3群に分け、おのおのの因子構造を比較した。その結果、母親は7因子中5因子、父親は6因子中4因子が、3群すべてに共通する因子と判断された。他の因子については、障害児の加齢に伴って因子構造に変化がみられ、その多くが小学校低学年と高学年の間に起こることが指摘された。