著者
高橋 智子 山田 剛史 小笠原 恵
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.49-60, 2009-05-30
被引用文献数
1

本研究では、過去40年にわたって「特殊教育学研究」に掲載された一事例実験の研究を対象に、各研究で用いられた処遇の効果についての総括的なレビューを行うことを目的とした。第1巻から第43巻より51の論文を抽出し、3種類の効果量(PND,Busk and Serlin(1992)の効果量、Center,Skiba,and Casey(1985-86)の効果量)を用いて、年齢、障碍種、標的行動ごとに研究結果の統合を行った。その結果、年齢、障碍種、標的行動によって効果の大きさが異なる可能性が示された。年齢においては13〜18歳で、障碍種では自閉症カテゴリで、標的行動では対人スキル・机上学習で処遇の効果が全体的に大きいことが示唆された。
著者
田中 耕司 斎藤 佐和
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.137-148, 2007-09-30
被引用文献数
1

聴覚障害児の書記表現力の指導の実態に関して現状を把握するため、全国の聾学校小学部・中学部を担当する教員127名を対象にアンケート調査を行った。アンケートは93名から回答があり、そのうち92名を有効回答として分析の対象とした。その結果、以下の5点が明らかになった。1)書記表現力の指導は、教科指導の一環として行われる「国語科」の時間内だけでなく、「自立活動」や「放課後・昼休み」など教科外でも指導の機会が頻繁に設けられていた。2)取り扱う教材に関しても、「日記」や「感想文」など児童生徒の書記表現力の基礎を形成するために効果的と考えられる教材が選択されていた。3)指導内容に関しては、評語による指導が中心となっており、対象者全体として児童生徒が書記表現力について抱える困難に即した指導が行われていた。4)指導に際しても、単に意欲の喚起にかかわる動機づけの側面だけでなく、語彙・文レベルの指導から文章レベルでの指導まで幅広く行われていた。5)評価方法としては、指導と合わせるかたちで評語による評価がおもに行われていた。以上の点から、聾学校においては、児童生徒の書記表現力の向上に向けた実質的な指導が展開されていることが示唆された。
著者
川崎 億子 草薙 進郎
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.11-19, 1998-09-30

トータル・コミュニケーションの理念に則り、手話を導入し「聴覚手話法」で指導を行なっているA聾学校幼稚部のコミュニケーション方法を取り上げ、幼児の発話を分析することで、幼児たちの活用しているコミュニケーション手段の実際を明らかにしようとした。分析の結果、(1)幼児たちは、自分の活用できるあらゆる手段を組み合わせてコミュニケーションを行なっていた。(2)1発話の構成要素が年齢に伴って増加するとともに、そこで用いられるコミュニケーション手段も動作を中心とした前言語的手段から、音声語・指文字・手話を中心とした言語的手段へと変わり、コミュニケーションの発達の順序性が明らかになった。(3)発話の機能の面では、年齢に伴って他者とのやり取りに関わると思われる機能が増えることが分かった。(4)音声語と指文字・手話が同時に使用されるなど、手段が複合化して用いられることが分かった。
著者
松下 浩之 園山 繁樹
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.495-508, 2010-03-31

In the present case study, ball-throwing skills were taught to a boy with Asperger's disorder, and secondary benefits for him from that experience were examined. The teaching program was based on applied behavior analysis. After a task analysis that divided overhand ball-throwing behavior into 10 behavior units, training utilized visual stimulus prompts and a chaining procedure, in a changing criterion design. The results showed that, although it took some time to achieve, all the behavior items were learned, so that the boy acquired skills necessary for ball throwing. The present study confirms the effectiveness of prompts using picture cards and behavioral coaching. It was difficult to maintain the boy's motivation for the prolonged training, although verbal interaction may be effective to increase motivation. Secondary effects observed included increased social interaction and a more proactive attitude towards exercise, behaviors that were not goals of the teaching program. Such effects may indicate potential benefits of the acquisition of sports skills as one component of leisure activities of children with developmental disorders.
著者
笹川 えり子 小田 浩伸 藤田 継道
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.13-22, 2000-06-30

5泊6日の心理リハビリテーション(動作法)キャンプにおいて、母親との相互交渉が成立しにくいダウン症児2名と自閉症児2名に、動作法と母子遊びを行い、動作法場面における指導者との相互交渉の変化と、母子遊びにおける相互交渉の変化との関連を検討した。その結果、援助を能動的に受け入れてやりとりが継続できてきたり、主体的・意図的な動作のコントロールができるようになる等の動作法の進展と並行して、母子遊びにおいてもひとり遊びから連合・協調遊びへと変わってきたり、母親始発型の遊びから子ども始発型の遊びへと変化してきた。こうした動作法におけるやりとりの継続やからだへの積極的な働きかけの活動様式が、母子遊びにおけるやりとりの継続や子どもから他者への積極的な働きかけに反映されてきたものと推察される。動作法における相互交渉が母子相互交渉を促進させる有効な援助法になり得ることが示唆された。
著者
加藤 康昭
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.50-60, 1986-12-29

わが国最初の精神薄弱児施設滝乃川学園の創設期については史料的制約のためこれまでに充分な解明がなされていなかった。本研究は学園が「白痴」教育施設として発足する時期を確定し、その初期の性格と歴史的役割を追究した。滝乃川学園は1891年石井亮一によって孤女教育施設として設立され、1897〜1901年の準備期を経て1902〜1905年に「白痴」教育施設へと転換した。初期には学校教育から疎外された「白痴児」を対象とする教育・治療施設がめざされ、保護収容的な性格は有していなかった。財政基盤を内外人の寄付金と父兄からの学費収入に置き、とくに後者を中心にしたために入園者は学費を支払いうる富裕階級の子弟が主体となった。経営的には比較的安定し完備した教育施設として草創期のわが国精神薄弱教育に先駆的な役割を果たした。
著者
安川 直史 小林 重雄
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.123-132, 2004-07-30
被引用文献数
1

本研究では、情緒障害通級指導学級において、小学校6年生の自閉性障害児に個別教育計画による余暇指導を行った。そのなかで、小学校段階における余暇指導のあり方について検討した。5年生までの段階で獲得した移動スキル(片道10分程度の目的地までの移動)、自己管理スキル(3時間程度のタイムマネージメント)、電話スキル(公衆電話を用いた定時連絡)を一人で余暇をすごすための基礎条件とした。これらのスキルが今回獲得した公共プール利用スキル、バス乗車スキルと連鎖することで「一人で水泳に行く」ことが可能となった。小学校段階での余暇指導としては、応用行動分析による学習方法の定着、生活に機能するための基礎条件の確立、中学校進学後や将来のライフスタイルを想定した目標設定が必要であることが示された。さらに余暇スキルの獲得を優先課題として位置づけ、基礎条件スキルとの関連性を明確にし、日常生活への般化までを見通した個別教育計画の必要性について論じた。
著者
松原 達哉 山岡 春美
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.32-43, 1968-03-31

目的:肢体不自由児の親の養育態度と普通児の親の態度とを比較研究することおよび、親と子の「親の養育態度」についのズレを研究することを目的とした。方法:被験者は、東京都内の肢体不自由児の養護学校2校の小学1年生から中学3年生までの児童・生徒の父親102人、母親124人と普通校2校の同学年の児童・生徒の父親154人、母親162人である。なお、親子のズレの研究には、肢体不自由児の中学1〜2年生15人、普通児の中学1年生30人が対象である。肢体不自由児のうち約87%が脳性まひ児、13%がポリオ児である。両親の養育態度は、(1)消極的拒否(2)積極的拒否(3)厳格(4)期待(5)干渉(6)不安(7)溺愛(8)盲従(9)矛盾(10)不一致の10の型に各10問ずつ合計100問から成る質問紙法である「親子関係診断検査」によって調べた。これらの10の養育態度の型は、パーセンタイルで結果が評価されるようになっている。結果:本研究結果は、つぎのように総括することができる。(1)肢体不自由児の母親の養育態度は、普通児の母親に比較して、「不安」や「溺愛」的傾向がある。(2)肢体不自由児の父親の養育態度は、普通児の父親に比較して、「不安」「溺愛」「盲愛」「干渉」「矛盾」「不一致」的傾向がある。(3)肢体不自由児の母親よりも、父親の養育態度により多くの問題傾向がある。(4)100の質問項目中、肢体不自由児の母親が普通児の母親より望ましい態度を示している項目は、小学生で8項目、中学生で10項目であった。反対に、普通児の母親の方がよい態度を示している項目は、小学生で48項目、中学生で23項目であった。前述と同様中学生になると母親の態度に改善がみられる。(5)発達的にみると、肢体不自由児の年令が上昇するにつれて、問題となる態度が減少している。この傾向は父親よりも母親に顕著である。この原因としては子どもを養護学校に通学させることによって、学校の先生や親同志の感化をうけて、肢体不自由児の正しい知識や将来に対する見透しがでぎてきたためと推察される。(6)親の養育態度とそれについての子どもの見方のズレは、普通児よりも肢体不自由児の方が少ない。しかし、普通児の方が肢体不自由児よりも親の態度をより好意的にみているものが多い。
著者
三宅 康二 三宅 孝子
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.p41-49, 1980-03

表出手段として音声言語を発達させえず、身振りを使用している一例の重度精薄者(C.A.25才、M.A.2才)の身振りの観察・分析を実施した。語彙:本症例の身振り言語の最小単位は語であり、語彙総数は226語。名詞(209語)は全て具象語でありまた所記に階層関係が認められなかった。述部語彙は17語にすぎずその種類も限定されており獲得の困難性を示した。76.5%の語彙は能記と所記が有契性を持ち、特に所記を視覚的に把え能記を形成している語彙がその41.2%を占めた。文:文の長さは一語文から三語文。S→N(Pred.)、S→N+N(Pred.)。文中の名詞の意味関係は一語文では7種類の格が認められたが、多語文ではそのうち動作主、経験者、対象、日標のみが出現し、この格が基本の格と考えられる。名詞二語を含む文では、反復を除くと、二つの名詞が意味的に非可逆である非可逆文のみが出現した。
著者
小田 浩伸 北川 忠彦 糸永 和文
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.1-12, 1991-06-30

精神薄弱養護学校小学部児童48名を対象に、坐位及び立位における姿勢の実態分析を行った結果、全児童の97.9%になんらかの歪みや不適切なパターンを持つことが明らかになった。そして歪みや不適切なパターンは年長になっていくほど顕著になっていく傾向があり、また行動に問題がある児童の姿勢は、特に歪みや不適切なパターンが顕著であった。そこで、17名の児童に姿勢指導として動作訓練を週3回、1回あたり5〜10分間のマンツーマン指導で適用した結果、顕著な姿勢改善及び改善された姿勢の定着がみられた。これは姿勢指導としての動作訓練の取り組みが、自己の統制から離れたものになっていた姿勢緊張を随意制御下におくことができるようになり、身体各部相互の関係の自己制御獲得に役立ったものと考えられる。また姿勢の改善に伴い行動の変化もみられたが、姿勢の制御過程における自分の身体への能動的働きかけが、主体的態度(構え)を形成し、行動の制御をもたらしたのではないかと考えられる。
著者
今田 里佳 小松 伸一
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.91-101, 2009-07-30
被引用文献数
1

ADHDと診断を受けた子ども48名およびPDDと診断を受けた子ども13名の認知的特徴について、今田・小松・高橋(2003)により開発された集団式注意機能検査と日本版WISC-IIIを用い検討した。ADHD群では、WISC-IIIの比較において、標準得点や、PDD群と比較しても、数唱において顕著に低い成績をおさめ、注意機能検査では標準得点、対照群、PDD群とのいずれの比較においても持続的注意の反映と考えられる音数えにおいて特徴的な低下がみられた。PDD群では、WISC-IIIの比較において、標準得点との間に有意な差が認められず、ADHD群との比較においては、語彙に関する知識や即時的な暗記再生、空間の走査に関しての強さが確認できたものの、標準得点との関連から考えてPDD群における固有に強い能力とは言い切れなかった。また、注意機能は比較的保たれていることがわかった。これらの比較から、ADHD群とPDD群の鑑別で決め手となるのは聴覚的な短期記憶と持続的注意機能が保たれているかどうかに注目することであると示唆された。
著者
北 洋輔 田中 真理 菊池 武剋
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.163-174, 2008-09

発達障害に対する正しい認識と適切な支援を導くために、広汎性発達障害児と注意欠陥多動性障害児を中心にして、発達障害児の非行行動発生にかかわる要因について研究動向を整理し、問題点と今後の改善点を指摘した。先行研究からは、個体の障害特性に密接にかかわる非行行動の危険因子と障害を取り巻く環境の危険因子が指摘された。だが、危険因子に着目した取り組みは、非行行動にかかわって発達障害児本人と親・関係者に対する支援を進める際の社会的意義を十分に達成できない問題点がある。その改善点として、非行行動の保護因子の導入と発達障害児の内面世界への着目が挙げられた。
著者
村上 由則
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.57-65, 1989-09-30
被引用文献数
2

ダウン症児の構音障害の原因に関しては様々な仮説が提出されているが、未だ一致した見解はなく、臨床的対応もまちまちである。ここでは、1名のダウン症児の復唱の改善経過を報告する。このダウン症児は、単音節の構音は良好であるが、音節の増加にともない構音障害が著しくなる。ことに語頭音の崩壊が顕著である。これは、音声の認識障害や構音すべき音を保持できないといった記憶障害が原因ではなく、構音企画過程の異常によると推測された。この事例に対して、(1)楽器音や絵カード・色カードを用いての視覚および動作を補助手段とした継時出力の訓練、(2)使用頻度の高い文を記したカードやメモリードラムを用いての動作-構音の対応による構音機能の改善訓練、(3)日常会話における正しい構音モデルの提示による構音訓練を4ヵ月間ほぼ毎日実施した。この結果、復唱の改善がみられたほか、自由発話も非常に聞き取りやすくなった。