- 著者
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坂井 美日
- 出版者
- 日本語学会
- 雑誌
- 日本語の研究 (ISSN:13495119)
- 巻号頁・発行日
- vol.11, no.3, pp.32-50, 2015-07-01
本稿では項の位置を対象に,上方語におけるゼロ準体からノ準体への変化を次のように明らかにする。a. 連体形節+「の」は中世末から散見するが,約200年間,「の」の付加率は上昇しない。その間,形状タイプと事柄タイプの様相に有意差はない。b. 形状タイプは,明和-安永期から寛政-文化期の間に,ゼロ準体からノ準体への移行を進展させ,事柄タイプはそれに続いて,文政-天保期から大正期にかけて移行を進展させた。これらの結果から,当初「の」がモノ・ヒト代名詞であったとする説は取り難く,「の」は当初から特定の指示対象を持たない文法要素であったと考えられ,属格句+「の」における「の」を起源とすると考えるべきである。更に,項位置におけるゼロ準体から準体助詞準体への変化の直接要因は,連体形と終止形の同形化であるとは考え難く,他方言の様相も視野に入れると,形状タイプの構造変化を契機とするという仮説が立てられる。