著者
山本 久文 宇都宮 潔 長谷 章 玉木 一弘 村川 章一郎 青柳 利雄
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.63-67, 1983

Mycoplasma pneumoniae (M. pn.)による髄膜脳炎の1例を報告した。症例は16歳, 男子学生。昭和54年12月3日より高熱と激しい頭痛が出現し, 12月5日当科に救急入院した。入院時は軽度の不穏を伴なう傾眠状態で, 項部硬直著明, Kernig徴候陽性, 病的反射はなく, 胸腹部にも異常所見はなかった。胸部X線写真異常なし。白血球数14, 900, 髄液は細胞数1864/3, リンパ球93%, 蛋白113mg/dl, 糖73mg/dlであった。入院時血清および髄液のマイコプラズマCF抗体価は, それぞれ512倍, 32倍と高値であることが判明し, 血清寒冷凝集反応も1024倍と上昇しており, M. pn.による髄膜脳炎と診断した。エリスロマイシンとプレドニゾロンの併用にて, 臨床症状の著明な改善をみた。M. pn.による髄膜脳炎の頻度は多くないが, 原因不明の髄膜脳炎を診た時は, M. pn.も原因の一つとして考慮する必要がある。
著者
吉丸 博志 古庄 敏行
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.219-229, 1986

遺伝的危険率の推定は, 遺伝相談における一つの重要なポイントである。前回の著者らの報告では, 単純な常染色体優性および劣性を仮定して危険率を推定する方法が考案された。今回は, 前回と同じ遺伝的パラメータ(遺伝子頻度, 突然変異率, 浸透度, 出生前淘汰)を考慮して, 単純な性染色体劣性遺伝を仮定した危険率の推定方法が考案された。さらに, 危険率の推定におよぼす遺伝的パラメータ(特に後二者)の影響を検討し, 以下の如き結果が得られた。浸透度が低くなるにつれて, 新しく生まれる男子の危険率は減少することが多い。さらに女子の危険率については, その父が異常遺伝子を確実に持っている場合は, 同様の傾向がみられる。しかしながら, 他の場合は, 浸透度が低くなるにつれて, 女子の危険率はずっと増加することが多い。出生前淘汰の存在は, 男子も女子も危険率をわずかに減少させる。
著者
福島 淳一 鍋谷 欣市 花岡 建夫 小野澤 君夫 中田 芳孝 木村 治 藤井 道孝 藤田 周一
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.455-460, 1988
被引用文献数
13

症例は69歳男性。昭和62年5月14日,起床時に水を飲んだところ,突然,右前胸部より背部にかけての激痛が出現した。痙痛はしだいに軽快した。翌日の食道透視にて中部食道右側よりバリウムの漏出が認められ,特発性食道破裂の診断を受けた。入院後,胸腔ドレーンが挿入され,胸腔内洗浄が施行された。その後の食道透視にて,破裂口の閉鎖を認めた。特発性食道破裂は,早期診断・早期手術が原則であるが,最近では保存的治療による治癒例の報告も増加している。保存的治療も,その適応を誤らなければ,有効な治療法の1つとなり得る。今回,われわれは,保存的治療で治癒することのできた1例を経験したので報告する。
著者
阿部田 聡 豊泉 茂 金田 史香 神山 政恵 小池 秀海 吉野 佳一
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.89-95, 1999

症例は47歳男性。1996年5月16日,ボリビア(標高4,200m)へ出張した翌日より頭痛,悪心,呼吸困難,意識障害を呈し,急性高山病と診断され,現地の病院で治療を受けたが,意欲低下,意識不鮮明,運動緩慢が残存した。6月3日帰国し,翌日当科に入院した。知能障害と錐体外路症候を認め,発症20日目のMRIで両側淡蒼球に病変がみられた。SPECTでは両側前頭葉,側頭葉,基底核の血流低下を認めた。発症29日目より高圧酸素療法を行い,自覚症状,神経心理学的検査成績およびSPECTの改善がみられた。急性高山病で淡蒼球病変を呈した報告は本例を含め4例と稀である。ごく早期を逸しても高圧酸素療法は試みるべき治療法と思われる。
著者
近藤 ふさえ
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.91-101, 2006-12
被引用文献数
1

生活習慣病の中でも糖尿病患者は入眠困難,中途覚醒,早朝覚醒などの睡眠障害をきたしやすい状態にあるといわれている。本研究は,糖尿病患者の睡眠状態の特徴を明らかにするために,2型糖尿病患者18名(男性11名,女性7名)で35歳から65歳,年齢50.2±10.2歳を対象に携帯型身体活動測定器(Actigraph)を用いて非活動朗(睡眠期)の行動量を分析した。また,行動量と主観的睡眠感の関連を明らかにするためにOSA睡眠調査票MA版を用いた。さらにHbA_<lc>との関連は,1ヶ月間の主観的睡眠感を反映するPittsburgh睡眠質問票(PSQI)を用いて調査し分析を行った。その結果,2型糖尿病患者と健康成人,介護福祉施設入所高齢者との非活動期(睡眠期)における活動量(mG=0)の比率の比較では,有意な差が認められた(ANOVA, p=0.017 df=25 F=4.912)。2型糖尿病患者の非活動期(睡眠期)の特徴を分類すると,i)睡眠覚醒良好群,ii)非活動期(睡眠期)に行動量多いが主観的睡眠感良好群,iii)非活動期(睡眠期)に活動量が多く主観的睡眠感不良群に分類できた。また,PSQI-Global scoreの得点が高くなるほどHbA_<lc>が高くなる傾向がみられた。2型糖尿病患者の主観的な良い睡眠を阻害する要因は,入眠時と中途における活動量の増加に伴う入眠困難と中途覚醒よる睡眠障害であった。2型糖尿病患者は「眠れない」と自覚する以前から睡眠障害が潜在している可能性が示唆された。
著者
牛川 憲司 板垣 英二 曽野 聖浩 関 博之 小澤 幸彦 山口 真哉 丸山 雅弘 滝澤 誠 片平 宏 吉元 勝彦 住石 歩 海野 みちる 石田 均
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.24-30, 2003-03-30

症例は40歳女性。平成12年12月30日より38℃台の発熱を認め,数日後には右前頚部に有痛性の腫瘤が出現した。近医で投薬を受けたが症状の改善がないため平成13年1月7日当科に入院。体温38.9℃,右前頚部に3×3cmの圧痛を伴う腫瘤を触知した。白血球増多,CRP高値,軽度の甲状腺機能亢進と,血中サイログロプリンの著増を認め,頚部CTでは甲状腺右葉に境界明瞭な低吸収域の腫瘤を認めた。腫瘤の穿刺では膿性の液体が採取され,細菌培養は陰性であったが好中球を多数認めたことから急性化膿性甲状腺炎と診断した。抗生物質の投与で症状は消失し,頚部腫瘤も縮小した。咽頭喉頭ファイバー,咽頭食道造影のいずれでも下咽頭梨状窩瘻は確認されなかった。本症のほとんどは小児期に初発し,しかも罹患側は発生学的理由から圧倒的に左側に多いことが特徴であるが,我々は中年期に初発し,かつ右側に発症した稀な一例を経験したので報告する。
著者
吉野 佳一
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.13-17, 1975

飲酒の翌朝から発現し, 約1カ月で完全に消失した両側性MLF症候群の1例を報告した。経過中, 右顔面神経麻痺, 左外転神経麻痺および右上下肢のしびれ感など橋被蓋の障害を示す神経症状の一過性出現も認められた。本例ではアルコールの習慣的飲用はなく, 1回の比較的多量の飲酒が発病になんらかの影響を及ぼしたことは考えられるが, 病因としては多発性硬化症の可能性が最も多いと推定した。
著者
原田 貴子
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.69-80, 2009 (Released:2010-06-09)
参考文献数
31

不全片麻痺による巧緻運動障害が書字運動に与える影響を検討した。対象は脳血管障害による利き手の右不全片麻痺者(以下,麻痺群)20名(関節運動覚障害なし14名,あり6名)および年齢を一致させた右利き健常者13名である。1.2cm,6cm,15cm画のサイズの升に平仮名「ふ」を左右の手で書かせ,ペン先,第2中手骨骨頭,橈骨遠位端の3つの評点の運動を解析した。書字時間,各評点の速度変化パターンの均一性を示す相関係数,ペン先が手の近位部と独立あるいは従属して動いているかを表すペン先と他の評点の運動半径比を計算し,各サイズの左右の書字を比較した。結果:健常群の書字時間は右<左であるものの有意差はなかった。麻痺群の書字時間は右>左で有意差を認めた(p=0.002~0.0002)。評点の速度変化パターンの均一性は健常群のペン先と第2中手骨骨頭および麻痺群の運動覚障害なしの麻痺群のペン先では右>左の有意差を認めた(p=0.003~4×10-6)。運動覚障害のある麻痺群はすべての評点で逆に右<左の有意差を認めた(p=2×10-4~1×10-5)。第2中手骨骨頭/ペン先と橈骨遠位端/ペン先の運動半径比は健常群と運動覚障害なしの麻痺群で右<左の有意差を認めた(p=8×10-13~1×10-18)。結論:不全片麻痺による巧緻運動障害があっても運動覚が正常であれば書字の等時間性,運動分離性ならびに均一性といった利き手の書字運動の特徴は維持された。運動覚の書字運動における重要性が示された。
著者
北島 勉 野山 修 加藤 誠久 CHADBUNCHACHAI Witaya CHAIPAH Weerasak CHUAYNA Nonglak
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.377-386, 2001

発展途上国では,交通事故等による外傷が増加しており,救急搬送システムを構築することへの必要性が高まっている。本研究では,タイ王国の一地方都市であるKhon Kaen市(コンケン市)での救急搬送システム構築に関する先駆的な取り組みを分析し,タイ及び発展途上国における救急搬送システムのあり方を検討した。コンケン市では,コンケン病院が中心となり,コンケン大学病院,ボランティア団体,警察署,教育機関が連携をとりながら人材育成,通報手段の整備,搬送サービスの提供を行っていた。しかし,コンケン病院の救急隊とボランティア団体の救急隊との間には患者へのケアにおいて格差が認められた。様々な部門と協力しながら救急搬送システムを構築していくことは,多くの発展途上国にとって現実的な方法であるが,システムを更に発展させていくためには,研修や情報システムの整備等により,サービス提供者間のサービスの質の格差を是正する必要があると考える。
著者
百村 麻衣
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.371-378, 2003-12-30

1993年1月より2003年4月までの10年間に杏林大学病院に入院し,分娩管理した妊娠22週以降の三胎妊娠27症例81児を対象として,三胎妊娠における胎児発育不均衡の発生頻度を調べ,三胎における胎児発育不均衡が胎児発育に与える影響を検討した。三胎妊娠では児が均等に発育せず,体重第一位児と体重第三位児の間に15%以上の体重差を認める割合が81%,25%以上の体重差を認める割合が30%を占め,胎児発育不均衡は高い発生率であった。この胎児発育不均衡は体重第三位の児のみが小さくなることで発現していた。三胎妊娠では体重第一位児と体重第三位児の間の体重差が15%以上に達すると,第三位児に極めて高頻度に子宮内胎児発育遅延を認めることから,本基準を胎児発育不均衡と診断することが妥当であると考えられた。三胎妊娠における発育不均衡児の体型を,頭囲/胸囲比とカウプ指数から分析すると,身長,頭囲に比べ胸囲が小さく,痩せ型の胎児発育を示すことが明らかになった。
著者
高峰 文成
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.3-10, 2001

Elcatoninによる骨量増加作用は臨床的ならびに実験的に報告されているが,投与量が報告によって一定せず,しかもいずれも一時点での測定のみであって,経時的なものはない。したがってその至適用量と至適投与期間は今日も不明である。本研究はelcatonin投与前後にdual energy X-ray absorptiometryを用いて骨量を測定すると共に骨代謝マーカー, osteocalcinとdeoxypyridinoline (DPD)を測定し,その値の変動について検討した。12か月令のWistar系雌ラット119匹を用いて実験的骨粗鬆症モデルラット(高代謝回転型)を作成した後, elcatonin非投与(非投与群), elcatonin 1 unit (U)/kg (1U群), 5U/kg (5U群),と25U/kg (25U群)を3か月間投与して,毎月経時的に大腿骨骨量と骨代謝マーカーを測定した。結果は37か月間の投与では25U群が骨量増加には最も優れていたが,投与1か月後に摂食減退と運動低下を来たし,骨量が減少した。1U群は2か月間で骨量が漸増し, 3か月目に減少した。5U群は3か月間を通して減少は軽微であった。OsteocalcinとDPDは各群ともelcatonin投与直前に比べて低値であった。Osteocalcinは5U群では1U群に比べて2か月まで高い減少率を示し, 3か月ではDPDの減少率が高く, osteocalcinが低かったため1U群は2か月間骨量が増加, 3か月目で減少し, 5U群は3か月間骨量減少を抑制した結果を反映した。25U群では1か月で両者が増加, 3か月でDPDが著しく減少し, osteocalcinが増加したため骨量が最も増加した。3か月間を通して25U群が最も骨量の増加を期待出来たが,1か月目の摂食減退と運動性低下などの副作用による骨量減少が問題であり,副作用がなく骨量増加を期待し得るのは1U群であった。したがって本研究ではelcatonin 1U/kgを2か月間投与すると安全な状態で骨量増加を期待し得ると結論した。
著者
長嶋 長節 竹宮 隆 樋口 雄三 宜保 美恵子 岡井 治
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.173-182, 1974

毛細血管血流に関する新しい理論と指プレチスモグルフィによる実験とから組織に流入する動脈血量と毛細血管に把握される血液量との間に相反性関聯をみとめた。また理論的にPlasma skiming (A. Krogh)および毛細血管ヘマトクリット減少性(Fahraeus-Linquist)更にヘマトクリット恒常性を解明した。実験的に血圧動揺性高血圧では相反性関連はみとめられず, 固定型にはみとめられた。また最小血圧は変らないで最大血圧の動揺する血圧動揺型高血圧で血圧上昇時に皮膚および骨格筋の異常な血流減少と下降時に異常な血流増大をみとめた。後者はI.H. Pageの所見と一致する。この循環機序として細動脈より半径の大きい中ないし小動脈に発生するいわゆるbeads like vasomotionを想定した。皮膚の反応性充血による血流増大の一部はアトロピンによって抑制されるのであるが, 上記の血流増大の一部はアトロピンによって抑制される(Page)。これらを総合して上記の血流減少はvasomotionによる血管収縮, また血流増大はその虚血に起因する反応性充血の血流増大であると理解した。
著者
原田 勝二 三沢 章吾
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.161-164, 1974

本邦における赤血球酵素Esterase Dの多型性変異の表現型頻度および遺伝子頻度を調べることを目的に, 東京在住の献血者524名の赤血球につき, 澱粉ゲル電気泳動法を用いて検査した。その結果, 表現型頻度はEsD1(45.42%), EsD2-1(43.89%), EsD2(10.69%)となり, 遺伝子頻度はEsD^1=0.6737, EsD^2=0.3263となった。無作為に選んだ2人の表現型が一致する確率をこの値より計算してみると, 他の赤血球酵素に比べかなり低く, 法医学上の個人識別に有効なことがわかった。双生児およびその両親の家族試料を検査し, Esterase Dは常染色体上少くとも2種類の対立遺伝子によって支配されていることも併せ確かめられた。
著者
陰原 聞天 荘司 輝昭 高木 徹也 岡田 健夫 拍手 宏允 渡邉 貞一 須藤 孝子 梶原 正弘 佐藤 喜宣
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.245-249, 1994

1987年7月から1991年12月までの間に当法医学教室で取り扱った248件の解剖例のうち,自動車を運転中に交通事故を起こして死亡したとみられたが,解剖の結果,内因性の急死であると判明した4例について報告する。4例の平均年齢は49.5歳で,男性3例,女性1例であった。死因は心臓疾患2例,脳血管障害1例,慢性アルコール性疾患1例であった。これまでの報告では,運転中の内因性急死例は,基礎疾患を持つ高齢の男性に多い傾向があると指摘されていたが,自験例においても,3例が中高年男性であった。基礎疾患が明かであった者は1例のみで,4例中3例は生前に医療をほとんど受けていなかった。運転中の急死の予防は困難であるが,中高年者が自動車を運転する場合には定期検診の義務づけを徹底するなど,疾患の早期発見を行い,疾患があれば,適切な医療を受け死亡事故を予防をする事が重要と考えられた。
著者
松田 進勇
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.175-178, 1972