著者
坂口 浩三
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.68, no.5, pp.339-347, 2017

<p>国際がん研究機関(IARC)はたばこ煙の中に70種類の発癌物質を同定している。発癌性の強い物質の代表にニトロソアミン類,多環芳香族炭化水素(PAHs)がある。日本人での喫煙によるによる肺癌の相対発生危険度は男性で4.4倍,女性で2.8倍といわれている。夫が喫煙者である場合,非喫煙者である妻の受動喫煙による肺腺癌発生リスクは2.03倍と報告されている。</p><p>喫煙が扁平上皮癌,小細胞肺癌発生との関連が強いのは既知のことであるが腺癌や大細胞神経内分泌癌(LCNEC)の発生にも有意に関与していることがわかってきた。肺腺癌におけるK-<i>ras</i>遺伝子変異は喫煙と関連が強い。若年性肺癌ではCYP1A1多型等の代謝遺伝子的因子の関与がたばこ煙の感受性を高めている。</p><p>COPD患者は非COPD患者と比べて3~4倍肺癌発生頻度が高く,肺癌を発症した場合は全生存期間が有意に悪い。IIPs合併肺癌の外科治療では術後のIIPs急性増悪(AE)のリスクがある。近年7項目よりなるリスクスコアにより適切な症例選択がなされるようになった。喫煙者の肺癌は悪性度が高い傾向があり周術期合併症の頻度も増す。同じIA期肺癌でも非喫煙者は全生存期間が長い。喫煙者でも中年以前に禁煙することによりたばこの身体への危険性はかなり回避できるといわれている。</p>
著者
古川 俊治
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.47-53, 2019

<p>公的医療給付費は40兆円を超え,一般会計からの繰り入れも11兆6000億円(2018年度予算ベース)を超えている。世界的にも突出した水準で公的債務が累積を続ける財政状況の中,今後の社会保障費の伸びは,主として医療・介護費の伸びに起因すると予測されている。高額な医療技術はその原因と考えられており,保険適用のある医薬品の薬価に関して「費用対効果」の考え方の導入が始まった。今後は,革新的ではあるが高価な新医療技術の公的医療保険における取り扱いは,財政に及ぼす影響を考慮せざるを得ないと考えられる。</p><p>限られた財の配分の問題は,「配分の正義」として語られてきた医療倫理学上の古典的課題である。基本的視座としては,平等主義的な考え方と功利主義的な考え方が対立する。広く用いられ,中医協でも採用されたQALY(Quality-adjusted life year)は,後者の1例であるが,マクロの議論と現場の臨床との整合性や,「効果」の評価の仕方などに多くの議論がある。</p><p>今後は,医薬品に限らず,医療行為も「費用対効果」の議論を免れないであろう。終末期医療だけではなく,超高齢者に対する高額な手術や,ADLの低下した患者の透析導入など,実施している医師も問題を感じることは少なくない。専門家集団である学会には,率直な議論を期待したい。</p>
著者
鵜飼 幸太郎
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.88-92, 1985

Relationship between the mucociliary transport time and the ciliary beat frequency in the chicken nose was studied under the conditions of the water deprivation, the administration of cocaine and atropine and Newcastle disease virus infection.<br>Internal dehydration produced progressive deceleration of mucociliary flow without the influence on ciliary best frequency.<br>Administration of 5% cocaine to the sinus decelerated the mucociliary transport time in vivo. 20% of cocaine caused the ciliary paralysis 5 minutes after application in vitro.<br>Atropine neither had apparent effect on the mucociliary flow nor on ciliary beat frequency.<br>NDV infection induced the deceleration of the turbinate clearance time but no effect on ciliary beat frequency on day 3. On day 14, ciliary beat frequency was significantly decreased, however, mucociliary flow was not influenced.<br>These results indicated that the mucociliary function might be more important factor than the ciliary beat.
著者
工藤 典代
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.438-444, 2010-10-10 (Released:2010-10-25)
参考文献数
10
被引用文献数
1

気道異物は特に乳幼児にとっては生死にかかわることのある救急疾患である。小児例の70%は2歳未満であり,気道異物の多くはピーナッツなどの豆類である。症状は,突然の咳嗽が最も多く,次いで喘鳴である。丁寧な問診と胸部X線は的確な診断に重要である。気道異物を疑った際には全身麻酔下でラリンジアルマスクを用い,摘出前に軟性内視鏡で異物の確認を行う。気道異物の95%は気管あるいは気管支の異物である。摘出術は全身麻酔下で,硬性気管直達鏡や軟性気管支鏡を用いて行う。乳幼児の気管は細く,軟性気管支鏡を用いると換気が不能になるため,主として硬性気管直達鏡を用いている。摘出後,特にピーナッツの場合には術後の管理が重要である。消化器の異物は食習慣や社会の変化とともに変化している。20年以上前は食道異物にはコインが多かったが,コインは減少傾向にあり,ボタン型の電池やプリクラなどのシール類が増えてきた。食道異物の80%が第一狭窄部に介在し,13%が第二狭窄部に異物が介在したとの報告がある。食道異物摘出術にも直達鏡や軟性内視鏡の2通りの方法がある。最近は軟性内視鏡で摘出することが多い。ただ,鋭利な異物は軟性内視鏡よりも食道直達鏡のほうがよい。異物の誤嚥や誤飲は事故であり,予防が何よりも重要である。特に保護者に対する啓蒙が重要と考える。
著者
守本 倫子 川城 信子 土橋 信明
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.208-213, 2003-06-10
参考文献数
6
被引用文献数
2 2

小児の声門部異物1例および声門下異物2例を経験したので,文献的考察を含め報告する。1例目は9カ月男児,プラスチック片の声門部異物で,発症当日に摘出された。2例目は1歳1カ月の女児で突然の咳嗽のため他院で仮性クループとして治療を施されたが,発症翌日喘鳴が増悪してきたため当科受診した。エビの尻尾が声門下に嵌頓しているのを認めたため摘出した。3例目は2歳8カ月の女児,ピスタチオナッツの殼による声門下異物を認め摘出したが,喘鳴が続くため喘息の診断のもと7カ月間治療を行った。その後の再精査の結果,殼の一部が残存していたことが判明し,摘出したところ喘鳴は消失した。小児では十分な問診が行えず,診察の協力も得られないため,喉頭異物の発見が遅れることがある。したがって小児の喘鳴,嗄声,咳嗽では異物の可能性を念頭に置き,喉頭ファイバーと頸部単純X線写真による異物の検索は必須である。また,異物摘出後も喘鳴が持続する場合は異物残存の可能性を考慮し,再検索する必要がある。
著者
大原 賢三 原渕 保明
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.226-231, 2015-06-10 (Released:2015-06-25)
参考文献数
11

食道異物は近年の内視鏡器具の進歩により,内視鏡下に摘出可能な症例が増加している。渉猟し得た限りで内視鏡下の異物摘出後に遺残が判明し,外切開にて遺残異物を摘出した報告はない。今回われわれは内視鏡下に半分を摘出し得たものの,残存した食道腔外殻付きアマエビ異物に対して頸部外切開を必要とした症例を経験したので報告する。
著者
石井 豊太 中山 貴子 新田 光邦 正来 隆 星野 功
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.351-354, 2001
被引用文献数
3

頸部外切開を要した下咽頭魚骨異物の1例を経験した。異物は,咽頭後間隙に認められ,危険間隙への炎症の波及などを考えると早急な処置が必要と思われた。異物の種類大きさにより咽頭の側面単純レントゲン撮影で確認できるものもあることを痛感した。
著者
山口 泰弘
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.65, no.5, pp.395-402, 2014
被引用文献数
2

高齢者に特徴的な肺組織像である老人肺では,炎症性変化や不規則な肺胞壁の断裂を伴うことなく,気腔が拡大し,肺の弾性収縮力は低下する。また,加齢とともに胸郭は硬くなり,呼吸筋力も低下する。そのため,呼吸機能検査では,一秒率が低下,肺活量が低下,残気量が増加,肺拡散能が低下する。そのほか,特に運動時には,加齢とともに肺動脈圧は上昇しやすくなる。睡眠呼吸障害の頻度も高齢者で増加する。また,高齢者では気道過敏性の亢進を示す症例が増えることや,線毛活動による気道異物の排出が遅延していることも報告されている。運動時には呼気流速の低下から一回換気量が十分に増加せず,加齢による運動耐容能低下の一因となっている。さらに,高齢者では,脊柱の強い後弯や著しいるい痩など,多様な病態が気道・肺機能の低下を増強する。加齢による劇的な呼吸機能の低下に比べて,安静時の動脈血酸素分圧の低下は軽く,動脈血二酸化炭素分圧は変化しない。すなわち,高齢者では,肺の障害に対する予備能が低下しているといえる。このような機能低下は,肺結核後遺症による呼吸不全の進行や慢性閉塞性肺疾患患者の経年的な呼吸機能低下の要因であり,また,高齢者に肺炎が頻発し,重症化,長期化しやすい一因でもある。
著者
金城 秀俊 安慶名 信也 金城 賢弥 喜瀬 乗基 上里 迅 喜友名 朝則 平川 仁 真栄田 裕行 鈴木 幹男
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.331-337, 2020

<p>耳鼻咽喉・頭頸部外科医にとって前頸部腫瘤の症例にはよく遭遇するが,同腫瘤が上縦隔を超えて開胸に至る例は稀である。われわれは頸部から縦隔に連なる巨大成熟奇形腫の1例を経験したため報告する。症例は15歳,男性。当院受診2カ月前に左頸部痛を自覚した。受診1カ月前の学校検診で前頸部腫脹を指摘され前医を受診し,CT検査で頸部から縦隔に連なる腫瘤を認めたため当院紹介となった。腫瘤は可動性不良であり,気管は右に偏位していた。喉頭内視鏡検査では上気道狭窄や声帯麻痺は認めなかった。CT,MRI検査で腫瘤内部に脂肪組織を疑う部分や石灰化を認める嚢胞性病変を認めた。血液検査所見ではSCC抗原が6.8 ng/mlと上昇していた。上記所見より成熟奇形腫と判断したが精査中にも増大傾向にあり,窒息や悪性転化の可能性も否定はできず準緊急的に手術をした。頸部襟状切開とtransmanubrial approachにて腫瘤を摘出した。手術中はECMOをスタンバイしていたがECMOを使用せずに手術は終了した。術後病理は成熟奇形腫で悪性所見は認めなかった。術後一過性に左反回神経麻痺を認めたが,4カ月後には改善した。</p>
著者
谷 亜希子 川瀬 友貴 仲江川 雄太 多田 靖宏
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.7-12, 2018-02-10 (Released:2018-02-25)
参考文献数
8

気管孔レティナは気管切開後の気管孔保持のために使用される。気管カニューレに比較し気管内腔への刺激が少ないこと,交換頻度が少なくて済むこと,ベルトでの固定が不要であることが利点である。今回,当科において気管孔レティナを使用している42例を対象に,レティナ管理の経過,合併症について評価した。男性23名,女性19名,レティナ使用開始時の年齢は11~83歳 (平均55.6歳) 。気管切開が必要となった原因は両声帯麻痺,気管狭窄症,喉頭腫瘍による気道狭窄,誤嚥防止手術後であり,レティナの使用期間は1~400カ月 (中央値18.5カ月) に及んだ。経過の中でレティナ使用を継続している症例は45.2%,気管孔閉鎖が得られた症例は33.3%,カニューレによる気管孔管理に変更された症例は19.0%,喉頭摘出のため永久気管孔を行った症例は2.4%であった。合併症は気管切開孔周囲の肉芽が16.7%,繰り返す脱落が14.3%,気管内腔側壁の瘢痕形成が9.5%であった。なかでも気管内腔側壁の瘢痕形成はレティナ使用による特異的な合併症と思われた。レティナには先に述べた利点があるが,合併症,特にレティナ脱落に対する理解と対応が必要である。定期的な観察と適切な対応を行えば多くの患者に安全な気道管理法と考える。
著者
坂口 浩三
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.68, no.5, pp.339-347, 2017-10-10 (Released:2017-10-25)
参考文献数
36

国際がん研究機関(IARC)はたばこ煙の中に70種類の発癌物質を同定している。発癌性の強い物質の代表にニトロソアミン類,多環芳香族炭化水素(PAHs)がある。日本人での喫煙によるによる肺癌の相対発生危険度は男性で4.4倍,女性で2.8倍といわれている。夫が喫煙者である場合,非喫煙者である妻の受動喫煙による肺腺癌発生リスクは2.03倍と報告されている。喫煙が扁平上皮癌,小細胞肺癌発生との関連が強いのは既知のことであるが腺癌や大細胞神経内分泌癌(LCNEC)の発生にも有意に関与していることがわかってきた。肺腺癌におけるK-ras遺伝子変異は喫煙と関連が強い。若年性肺癌ではCYP1A1多型等の代謝遺伝子的因子の関与がたばこ煙の感受性を高めている。COPD患者は非COPD患者と比べて3~4倍肺癌発生頻度が高く,肺癌を発症した場合は全生存期間が有意に悪い。IIPs合併肺癌の外科治療では術後のIIPs急性増悪(AE)のリスクがある。近年7項目よりなるリスクスコアにより適切な症例選択がなされるようになった。喫煙者の肺癌は悪性度が高い傾向があり周術期合併症の頻度も増す。同じIA期肺癌でも非喫煙者は全生存期間が長い。喫煙者でも中年以前に禁煙することによりたばこの身体への危険性はかなり回避できるといわれている。
著者
真栄田 裕行 鈴木 幹男 上里 迅 島袋 拓也 仲吉 博紀 嘉陽 祐紀 照喜名 玲奈 金城 秀俊 安慶名 信也 又吉 宣
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.278-283, 2019

<p>食道穿孔は日常診療において時に経験する病態であるが,多くの場合生じた穿孔は頸部や縦隔内と交通するため,頸部感染症や縦隔炎を誘発し,時に重篤となることがある。また開胸を伴う胸部外科手術と頸部手術の併施は,術直後の縦隔炎発生の可能性が高まるため,一般には敬遠されている。</p><p>今回われわれは胸骨正中切開を伴う大動脈弁置換術直後に,歯科用補綴物による頸部食道穿孔をきたした1例を経験した。症例は66歳の女性で主訴は頸部異物である。開胸手術直後に頸部に迷入した異物が確認され,直ちに頸部外切開による異物摘出術および瘻孔閉鎖術が施行された。異物は歯科用補綴物(クラウン)であり,金属製の突起を歯根に埋め込むタイプのものであった。本症例は開胸手術直後であったにもかかわらず頸部外切開手術を全身麻酔下に施行できたこと,異物を速やかに発見・除去できたこと,頸部創と胸部創が連続しないようにしたこと,気管切開を施行せずに術後も気管内挿管のまま気道管理をしたことが重篤な合併症を誘発しなかった理由としてあげられた。</p>

1 0 0 0 梅核気

著者
松塚 崇
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.268-269, 2018-08-10 (Released:2018-08-25)
参考文献数
9
著者
村上 直子 原 浩貴 山下 裕司
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.43-47, 2004

喉頭肉芽腫は声帯突起部に好発する炎症性の腫瘤であるが,しばしば再発し治療に難渋することのある疾患である。今回我々は喉頭肉芽腫の9症例に対しレバミピドとセラペプターゼの2剤併用の内服加療をおこなった。その結果,9例中5例(56%)で肉芽腫が消失した。肉芽腫消失までの期間は最短で21日,最長で91日であった。5例中3例は術後再発の症例であった。また1例はPPIの無効例であった。また5例全例とも投与後に最短10日,最長28日で肉芽腫の縮小効果が確認された。消失した5例で,内服終了後に再発したものはなかった。<br>今回の結果から,喉頭肉芽腫が消失した原因は主として血中レバミピドの炎症抑制作用が喉頭粘膜に影響を及ぼしたためではないかと推察した。また無効であった4例では,血中濃度が充分でなかった可能性と,レバミピドでは胃酸逆流の防止が困難なほど重度なGERDが潜んでいた可能性を推察した。
著者
真栄田 裕行 嘉陽 祐紀 金城 秀俊 上里 迅 安慶名 信也 又吉 宣 鈴木 幹男
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.30-37, 2019

<p>今回われわれは気管内壁に再発した頸部気管支嚢胞腺癌の1例を経験した。症例は71歳の女性。甲状腺全摘術および頸部郭清術後ほどなく気管内壁に再発した。腫瘍切除後の気管再建には肋軟骨と歯科用印象材を用いた。構造体としての強度を得るため肋軟骨片により気管外枠を作成した。また歯科用印象材を充填した手術用ゴムグローブを気管内にステントとして留置した。術後3年目腫瘍の再発は認められず,十分な強度と呼吸道としての内腔が保持された気管が再建できた。歯科用印象材は気管内腔を形成するためのステントとして有用な材料である。</p>
著者
真栄田 裕行 安慶名 信也 金城 秀俊 上里 迅 平川 仁 鈴木 幹男
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報
巻号頁・発行日
vol.68, no.6, pp.396-402, 2017

<p>甲状腺未分化癌は極めて予後不良な疾患として知られており,治療の有無にかかわらず確定診断後1年以上の生存を見ることはまれである。近年新たな治療法としてレンバチニブやソラフィニブ等の分子標的薬が登場したが,現状では手術が根治治癒の期待できる第一選択であることに変わりはない。2012年甲状腺未分化癌コンソーシアムにおいて,未分化癌に関する予後規定因子およびそれに基づいた個別化治療指針が提唱された。今回当科で経験した未分化癌症例の治療と,コンソーシアムにおける治療指針がどの程度合致するか検証した。その結果,個別化治療指針の内容はかなりの程度で許容できるものであり,未分化癌治療方針決定の一助となり得ると思われた。ただし現状の予後不良因子該当数のみですべての治療方針を決定するのは困難であり,実際には患者ごとの検討が必要であることは言うまでもない。</p>
著者
加治 正行
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.417-423, 2005 (Released:2006-02-17)
参考文献数
22
被引用文献数
1 1

小児にとって, 妊娠中の母親の喫煙および家庭内での受動喫煙による健康被害は深刻な問題である。妊娠中の母親の喫煙・受動喫煙, 出生後の乳幼児の受動喫煙は, いずれも乳幼児突然死症候群の危険因子である。日常的に受動喫煙にさらされている小児は, 気管や気管支粘膜の繊毛運動が障害されて気道の炎症を生じやすく, 気道過敏性も亢進するため, 気管支喘息, 上下気道炎などの呼吸器疾患に罹患する危険性が高くなる。受動喫煙によって小児の呼吸機能が低下するとの報告が多数あり, 全身麻酔時のトラブル発生率も高くなる。受動喫煙は小児の耳管粘膜の腫脹や繊毛運動の低下を起こし, 中耳炎の罹患率を増大させる。小児期の受動喫煙は, 後年肺癌発症の原因となる。近年わが国では未成年者の喫煙率が上昇している。喫煙の害は, 呼吸器疾患も含め成人でも小児でも基本的に同質であるが, 喫煙によって身体が受けるダメージは, 成人に比べて小児では著しく大きい。常習的に喫煙している小児に対しては禁煙治療が必要である。

1 0 0 0 新興感染症

著者
大曲 貴夫
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.67, no.5, pp.331-338, 2016

<p>2012年以降中東では中東呼吸器症候群 (MERS) が発生し,第2のSARSとなる可能性が懸念されている。2015年には韓国でもアウトブレイクが発生し,WHOも介入する世界的な問題となった。本疾患が拡散した一つの要因として,特にサウジアラビアを中心に医療関連感染として患者および医療従事者間で流行したことがあげられている。そればかりでなく,中東で曝露した者が飛行機を用いて欧州,北米などに移動し,同地で発症する等の事態も起こっている。加えてラクダがMERSコロナウイルスを保有していることが明らかになってきており,ラクダの国境を越えた売買による本ウイルスを有するラクダの移動なども感染の伝播の観点から注目されている。</p><p>H5N1鳥インフルエンザAは1998年に最初の感染例が香港で報告されたが,2003年から再び東南アジアを中心に発生している。H5N1インフルエンザの出現は,感染症に対する世界的な危機意識を高めた。なぜならば本疾患の流行は,将来くるであろうインフルエンザのパンデミックへの懸念を呼んだからである。また現在では中華人民共和国を中心にH7N9鳥インフルエンザがみられている。本疾患は2013年2月に発生し,同年夏に収まったかに思えたが,同年秋以降再度患者が発生し発生国も中国以外に広がっている。</p>