著者
北 明美
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策学会誌 (ISSN:24331384)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.161-175, 2008-03-31 (Released:2018-04-01)

In the 1960s, the Japanese government and bureaucracy sought to introduce a child benefit program funded by both employees' and employers' contributions, while rejecting an alternate plan to fund children's benefits from general revenues. The plan to introduce employees' contributions, which was blocked by strong opposition from labor, has now been redesigned as a plan to introduce "social insurance for dependent children." This development shows that the importance of non-means-tested and noncontributory cash benefits has been often ignored in discussions on social policy in Japan. Bunji KONDO, an influential researcher of social policy, classified such noncontributory cash benefits in a category close to public assistance and argued that a form of social insurance based on employees' contributions as well as those of employers that benefited workers most. Furthermore, he considered that even child benefits were similar to such forms of insurance, before World War II and in the postwar days up to the 1960's. I would like to point that KONDO's discussions are among the backdrops of the recent odd proposal to replace the current child benefit with "social insurance for dependent children" for which there is no precedent elsewhere in the world. On the other hand, the labor movement in the 1960s did not launch strong campaigns for child benefit programs based only on general revenues. It is not only because it seemed impossible then, but also because labor tended to support benefits based on employers' unilateral contributions. At that time, benefits based on such contributions were regarded as more advantageous for workers, as they channeled portions of profits into worker incomes. However, in other countries, it has been recognized that child benefit programs based on employer contributions have an effect only on horizontal income re-distribution, while child benefit programs funded only by general revenues affect both vertical and horizontal income re-distribution. It is also argued that the former tends to function more strongly to lower wages than the latter. I argue that the Japanese labor movement should reconsider its preference for child benefit programs based on employer contributions, recognizing their gender-biased character and vulnerability to cost-cutting pressures from employers and big business.
著者
小笠原 信実
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.120-132, 2019-11-30 (Released:2021-12-02)
参考文献数
18

本論文は韓国における混合診療の実態を明らかにし,これを考察することにより日本における混合診療の是非をめぐる議論に貢献することを目的とする。韓国では1977年に公的医療保険が始まった時より混合診療が容認され,これは保険非給付診療を広げる結果をもたらしてきた。保険非給付診療の拡大は実損型医療保険の市場を拡大させ,2014年には韓国における実損型医療保険の加入率は66.3%に達した。混合診療の容認は韓国に次のような結果をもたらした。第一に,若年型甲状腺癌などの過剰診療をうながすインセンティブを生み,過剰診療が促進された。第二に,民間保険会社や医療機関は収益を増大させたが,逆に国民の医療における社会的厚生は悪化した。第三に,公的医療保険から民間医療保険への代替が所得,慢性疾患の有無,年齢などによる医療アクセスへの不平等を生んだ。第四に,医療が医学的な判断よりも利潤の確保を目的に行われる傾向が生じる医療の営利化を促進した。
著者
坂倉 昇平
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.68-74, 2015-03-30 (Released:2018-02-01)

「ブラックバイト」が社会問題化している。こうした職場では,本人の意思を尊重せずに過重な仕事や責任を課せられている。さらには,命令に従わない学生たちが脅されるような問題も起きている。だが,そこで寄せられる学生たちの声の多くは,「自分は仕事を辞めることができるか」というものだ。NPOや労働組合,弁護士らは,単に彼らを辞めさせるだけでなく,労働問題の解決をもたらす支援が必要とされている。
著者
田中 洋子
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.5-24, 2018-06-30 (Released:2020-08-05)
参考文献数
87

「働き方改革」が進行中にもかかわらず,どういう人がどのくらい長く働いているのかという最も基本的な事実は,これまでの研究で十分に明らかにされてこなかった。正社員・非正社員の労働時間は統計で一括りにされ,事業所が提供する労働時間のデータは現実と異なるなど限界がある。法律で定められた週40時間の上限と,労使の36協定による労働時間,さらに職場でのサービス残業を含む実際の労働時間は大きく異なり,その乖離がどれほどあるか,なぜあるのかについても十分には解明されていない。 ここでは労働時間を議論する前提として,正社員の労働時間の長さ,それが決まる仕組み,実際の労働時間数について,日本が労働時間短縮の目標としてきたドイツと比較しながら確認する。両国は労働時間構造の二重化や,労使自治による協定労働時間,それと異なる実際の労働時間という重要な共通点をもっている。にもかかわらず,労働時間に大きな差がついているのはなぜなのか,比較歴史分析の視点から考察する。
著者
チェ ヨンジュン
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策学会誌
巻号頁・発行日
vol.19, pp.91-117, 2008

This article argues that pension developments and reforms in Japan, South Korea, and Taiwan have been largely influenced by different national business structures and business influences. While labour power in these states has been particularly weak compared to western countries, the interaction between business and state/political sphere offers the key explanation for developments in pension systems. Before the 1990s, the development of occupational retirement benefits and the preference for funded social insurance pensions in Japan and South Korea, in contrast to Taiwan, are well explained by the export-oriented and conglomerate-oriented business structures. Since around 1990, increased business influence has been found in the consecutive retrenchment pension reforms and reforms of corporate pension schemes in Japan and South Korea. Also, different business structures and power provide the explanation for the different trajectories in Korean and Taiwanese pension development in recent years despite their similar political institutions and experiences. Finally, this paper suggests that further research on East Asian welfare regimes should pay more attention to business influences.
著者
武川 正吾
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.7-19, 2008-10-25 (Released:2018-02-01)

The Society for the Study of Social Policy was established in 1897. It is one of the oldest academic societies for the social sciences in Japan. However, its activities were terminated in 1924 because of political conflict in the Society. In 1950 it was re-established and recommenced academic activities. By the 1990s the Society had become inactive, and so reform was begun in 1994. Consequently the Society's research fields were enlarged and the number of members has been increasing. Many scholars other than economists joined the Society, making it increasingly interdisciplinary. The crisis of the Society occurred because of its mal-adaptation to changes in actual social policy. Though social policies can function to promote decommodification at the stage of welfare state, the dominant theory of the Society does not recognize this. As a result, there are no social policy scholars working in the existing social policy areas in Japan. Reforms since the mid-1990s have enabled the Society to make progress in policy studies, but this improvement has not brought results in advancing the existing social policies. It is necessary to continue the reform and make efforts to apply research results to actual social policies.
著者
松村 文人
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.80-90, 2015-01-25 (Released:2018-02-01)

戦後日本では,企業経営者と企業内労働組合が行う企業内交渉の他に,統一交渉,集団交渉,連合交渉,対角線交渉と呼ばれる交渉形態が存在した。これらの交渉では,産業別労使団体が企業の枠を超えた労使交渉の主体として交渉や妥結に関与した。産業別労使団体が関与して企業横断的に展開され,賃上げに関する何らかの統一的な合意が形成された交渉を産業レベル交渉と呼ぶこととする。論文では,6産業(私鉄,石炭,ビール,繊維,金属機械,海運)の産業レベル交渉を対象に,交渉成立の条件,展開の諸相,後退・終了の経緯に関して総括的な考察を行う。また,産業レベル交渉の展開を背景に,企業別組合から産業別組合への移行を構想した私鉄,ビール両組合の事例を取り上げ,産別化挫折の原因をさぐる。日本との比較対象国として,産別交渉の伝統をもつ欧州大陸諸国と,1990年代から産別化に着手し,2000年代より産別交渉を展開する韓国を念頭に置く。
著者
小野塚 知二
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.28-40, 2011-06-01 (Released:2018-02-01)

政策の背後にいかなる思想が作用し,また,政策にいかなる価値観が表現されているのかはときに不明瞭にされるが,思想の作用がなければ問題は発見できないし,解決の方向性も政策目標も決定できない。この2世紀の間の社会政策は,概括するなら古典的自由主義の社会設計から介入的自由主義のそれへの転換と描くことができるが,この転換を必然化したのは「強くたくましい」人間観から「弱く劣った」人間観への変化であった。この介入的自由主義のお節介な性格への忌避感が20世紀末以降のネオ・リベラリズムの伸張を支えたが,それ自体は目的合理性を喪失しており,社会を設計できる思想ではない。では,古典的自由主義の社会設計が不可能であり,介入的自由主義が拒否されたのだとすると,社会政策にはいかなる方向性がありうるのだろうか。本稿は人間観の逆転の可能性と,介入的自由主義の介入的な性格を修正する可能性がどこにあるかについて素描を試みる。
著者
重川 純子 山田 篤裕
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.71-84, 2012

本稿では,一般市民によりフォーカス・グループを形成し,最低生活(誰にでも最低必要な基礎的生活)の定義,そこに含まれる財・サービス,購入場所・頻度まで,話し合いで決める手法を東京三鷹市で実践し,得られた最低生活費を政府統計と比較した。三鷹市における最低生活費の月額(含住居・食料費)は単身男性19万3810円,同女性18万3235円であった。また子どもの住居・食料費以外の月額は,5歳児4万1897円,小5男子3万3969円,同女子3万4201円,中3男子5万7464円,同女子5万7681円となった。これらを政府統計と比較した結果,裁量幅の大きい選択的な支出が抑えられているとはいえ,支出構成について一定の妥当性があることを確認した。また,いくつかの課題はあったとはいえ重要な結論の一つは,日本でも段階を踏めば一般市民が参加することで最低生活費を算出することは十分可能だということである。
著者
福田 直人
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.123-134, 2012-06-10 (Released:2018-02-01)

本稿では失業者に対する生活保障制度に関して,所得保障の観点から日独比較を行う。ドイツを対象とするのは,失業保障制度の構造において日本との共通点が多いためである。失業保障の国際比較研究は既に多く存在するが,その大部分が失業手当の給付金額と期間の比較に限定されていた。だが,失業時所得保障において重要な点は,失業保険の給付金額や期間だけではなく,就業時に支払ってきた税金や,社会保険料の免除,減免措置の有無である。本稿ではOECDの離職前賃金代替率の問題点を検討し,失業保険適用内,適用外それぞれの失業者に対する所得保障を分析した。その結果,日本の場合,失業保険が適用されたとしても40歳の失業者は税,社会保険料の負担によって受給額がマイナス,つまり貯蓄の取り崩しを迫られる可能性があることを示した。国際的には低水準と評価されるドイツの失業保障と比較しても,日本は更に低い水準であることが明らかになった。
著者
大塩 まゆみ 平岡 公一
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.5-15, 2018

<p> 本号の特集「福祉の市場化を問う」は,本学会第134回(2017年度春季)大会の共通論題での報告をもとにして執筆された4本の論文を中心に構成される。本稿は,この共通論題の企画の趣旨・背景と報告の概要を紹介するとともに,そこで提起された政策展開および研究に関わる課題と展望について座長の立場からの考察を行ったものである。政策上の課題については,市場化に伴う公的責任の後退のなかで,サービス利用機会の格差,消費者被害等の利用者側に生じた問題,および,福祉・介護分野の雇用の不安定化や低賃金,人手不足等の事業所・労働者側に生じた問題を指摘し,賃金引き上げ・労働条件の改善,介護職等の専門性の向上等の課題を提起した。研究上の課題と展望については,市場化改革の多様性と文脈の理解,サードセクター・非営利セクターの多様性と変化の検討,新たな福祉文化への着目,福祉の市場化のなかでの労働の変化の検討等の論点について検討した。</p>
著者
北 明美
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.38-61, 2014

「子ども手当」は日本で初めての所得制限をもたない普遍主義的な児童手当制度であった。そこでは旧「児童手当」がもっていた多くの矛盾が解消される方向にむかっていたが,そのことの意義が理解されないまま「子ども手当」は終焉をむかえた。だが,所得制限が復活し,次の段階として年少扶養控除まで復活することは,日本社会におけるジェンダー・バイアスの強化と低所得者に不利な国民の分断につながる。また,児童手当と育児サービスの二者択一の対立関係を前提し,それらの給付を相殺させる政策は,子育て支援の費用の単なる圧縮につながりかねない。真の対立は税に基づく公的保育と普遍主義的な児童手当の組み合わせか,準市場化される保育サービスを育児保険に基づくクーポンで購入するシステムかという選択にある。日本の社会政策とフェミニズムは後者の方向にむかいつつあるかにみえるが,税に基づく普遍主義的な給付という社会手当の意義を無視すべきではない。
著者
小尾 晴美
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.1, no.4, pp.75-86, 2010-02-25 (Released:2018-02-01)

非正規形態の労働者が公務の担い手の中にも拡大しはじめている。本稿では,1993年度のA区の保育事業の事例を検討することによって,地方自治体の非正規職員の勤務実態および労働条件を明らかにし,その問題点を指摘することである。本稿で明らかになったのは以下の点である。第一に,A区区立保育園の非正規職員の中には,短時間で補助的な職務を担う勤務形態と,経験と高い専門性を必要とする職務を担い,比較的長時間勤務する勤務形態の二種類の労働者が存在したということである。第二に,非正規職員は,質的には常勤職員と同じ仕事をすることが必要であるにもかかわらず,賃金は,常勤職員と比較して低水準であるということである。第三に,非正規職員は,制度の不備から,非常に不安定な雇用の下におかれていることが明らかになった。
著者
大沢 真理
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.74-85, 2014-03-31 (Released:2018-02-01)

リーマン・ショックと東日本大震災は,日本の社会・経済の脆弱性を露わにした。とはいえ日本ではリーマン・ショックの10年前から,年間3万人以上が自殺する事態が続いていた。出生率も世界最低レベルに低迷し,相対的貧困率もOECD諸国でワーストクラスにあった。本稿は生活保障システム論にガバナンスという概念を導入し,また脆弱性のなかでも所得貧困に注目したい。所得貧困という指標の意義を考察したうえで,福祉国家の機能的等価策の効果とともに,所得移転が貧困を削減する度合いについて,国際比較する。また地域間所得格差にかんする研究成果に目を配る。結論的に,日本の税・社会保障制度はたんに機能不全というより逆機能していると主張する。しかもそこには,「男性稼ぎ主」世帯にたいしてその他の世帯が冷遇されるというジェンダー・バイアスがある。それは,多就業世帯が多数を占める農山漁村のような地域を冷遇するバイアスでもある。
著者
小野塚 知二
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.1-3, 2018-06-30 (Released:2020-08-05)