著者
筒井 美紀
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.55-67, 2020-06-30 (Released:2022-06-30)
参考文献数
20
被引用文献数
1

学校の機能というと,人は教育機能(人的資本の蓄積)をまず思い浮かべがちだが,学校は地域社会・労働市場との「つながり」(社会関係資本)を創る機能も担ってきた。教育機会を平等にしても「マシュー効果」は消えないし,ハイテク社会でも低賃金・低スキルに留め置かれる人々が依然必要とされることを考えれば,労働供給サイド偏重の社会投資戦略(ヨーロッパがそうである)の限界は明らかである。したがって,「つながり」を創る機能を重視する「地域内蔵アプローチ」が,とりわけ「課題集中高校」では必要ではないか。すなわち,在学中・卒業後の移行パスを「なだらか」にする,言い換えれば,地域労働市場を参入しやすく留まりやすくしようとするアプローチである。これに関する本稿の,大阪府立西成高校とAダッシュワーク創造館の協働の事例からは,しかし,学校の資源的限界が明らかだ。ゆえに,各スケールでの制度的再調整が不可欠である。
著者
阿部 彩
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策学会誌 (ISSN:24331384)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.21-40, 2008-03-31 (Released:2018-04-01)

This article describes child poverty and deprivation in Japan. While it has been reported elsewhere that the economic well-being of children in Japan has declined since the 1980s, this article is one of the first to go into the details of child poverty using concepts of both traditional income-based poverty measures as well as relative deprivation measures that are constructed from 15 items deemed necessary in a child's life. The analysis confirms that the children in single-mother households, households with more than four children, and households with a young parent or young parents have a higher probability of being low-income. Contrary to popular belief, the ages of children did not yield significant differences in terms of poverty rates. The use of relative deprivation to conduct analysis has several advantages compared to the income-based poverty approach. First of all, by measuring the living standards of children directly, it bypasses the problem of difference in "needs" between different households. The equivalization of income takes into account the size of households, but it (usually) does not take into account, say, the difference in consumption needs for a 2-year-old versus an 18-year-old. Second, the income measure assumes that all members of a household have the same level of living standard, but the deprivation measure does not. By setting different items to be counted into the deprivation scale for children and adults, it can measure living standards of children and adults separately. In cases of resource shortage, it is probable that parents maintain the living standards of children while lowering their own living standards. Using deprivation measurements, we can observe such behavior. Third, by using deprivation measurements, we can set up separate poverty thresholds for adults and children. The results of the deprivation analysis of children show trends similar to those of income-based poverty analyses. The children in single-mother households and/or with young parent(s) have, on the average, higher deprivation scores than other children. The "threshold" income below which the deprivation score rises quickly can also be observed at 4 to 5 million yen (household annual income). Lastly, the deprivation of single mothers is even worse than the deprivation of children in single-mother households, indicating that mothers do away with their own necessities while maintaining the living standards of children.
著者
石黒 暢
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.137-148, 2014-03-31 (Released:2018-02-01)

市民にアウトリーチする施策の1つであるデンマークの予防的家庭訪問制度を情報という視点から捉え,特質を明らかにするのが本稿の目的である。本制度の全国的な実施状況や事例検討から明らかになったのは,第一に,本制度が公的責任による広範囲なアウトリーチという点である。基礎自治体に実施義務が課せられた制度で原則的にデンマークの75歳以上の国民すべてに提供され,高齢者の自立生活継続を支援している。第二に,本制度では個人情報の保護をしながらも一定ルールのもとで共通処遇の促進機能を発揮して惰報共有し,かつ利用者個人との情報共有を実施している点である。第三に,多くの自治体が予防的家庭訪問にかかわる情報を体系的に収集し活用している点である。第四に,ICTを活用できない高齢者や社会的ネットワークが脆弱な高齢者に対して自治体がアウトリーチして必要な情報を提供し,情報アクセシビリティを保障している点である。
著者
Sung-Chul NOH
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.34-46, 2021-11-10 (Released:2023-11-10)
参考文献数
14

創造産業の労働市場は,プロジェクト基盤の短期契約が主で,制度的規制が適用されない非公式な労働市場の特性がある。先行研究では,労働者が自律性と自己実現の価値に合致するという理由から,安定的な雇用と労働権に対する保護より非公式な労働市場体制を好むことを示している。そこで本研究は,フリーランスから正規職労働者に変わった創意労働者がその雇用形態の変化をどのように理解し,行動するのかについて考察した。このため,非正規労働の不安定さを解消するために正規職化政策を推進した韓国の公共放送局で働くフリーランスの放送作家を対象に,2018年から2020年にかけてアンケート調査と面接調査を実施した。2年にわたる正規職転換期間中に放送作家たちがどのように不安定性と働き方,そして作業場での社会的関係間のバランスをとり,それによって雇用形態に対する好みがどのように変化したのかを分析した。
著者
田中 洋子
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.58-72, 2021-03-30 (Released:2023-03-30)
参考文献数
21

ドイツでは大学の研究職の有期雇用割合が突出して高く,最も不安定雇用が多い職種となっている。本稿では大学教職員の国際比較に向けてドイツの大学の雇用構造を解明するとともに,ベルリン・フンボルト大学を事例として研究職の仕事と生活の関係を検討する。サービス労働組合,ベルリン・フンボルト大学人事部および研究者へのインタビュー調査,また同大学人事資料の分析を通じて明らかになったのは次の点である。第一にドイツでは日本よりも学術研究職の雇用が構造的に不安定であり,終身公務員である少数の教授を除いてほぼ全員が任期付の有期雇用となっている点,第二にこれと反対に,研究支援に携わるスタッフ職に関しては近年の法改正で雇用の安定化が大きくはかられている点である。学術研究職の有期雇用は歴史的な制度であるが,現在は高給与の専門職として雇用期間以外の労働条件は悪くはなく,時短勤務により研究と生活の調整が可能であることがわかった。
著者
金井 郁
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.8-22, 2018-10-30 (Released:2020-10-30)
参考文献数
12
被引用文献数
3

本稿では,同居する親が本人の親か配偶者の親か,核家族世帯なのかといった世帯類型に着目しながら,福井県において未就学児を育てる男女の労働と生活の実態を考察することで「福井モデル」をジェンダー視角から検討し直すことを目的とする。 分析の結果,以下の点が明らかになった。福井県では三世代同居が一様に女性の就業確率を高めるのではなく,女性本人の親と同居することが就業確率を高め,家事の頻度は男女ともに三世代同居することで軽減されるが,男性はもともと女性よりも頻度が少ない家事をさらに軽減させる。一方,男性が自分の親と同居することは,毎日子どもの世話をすることにむしろマイナスの効果がある。三世代同居で親が子育てや家事を支援し女性の正社員就業を促す,という単純な構図ではなく,世帯内のジェンダー平等を阻害する可能性があることも示唆される。
著者
山本 麻由美
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.8-19, 2016-10-30 (Released:2018-11-01)
参考文献数
34

スウェーデンでは,1990年代以降に経済政策を転換したため,スウェーデンモデルが変化したと指摘されている。その結果,失業の状況をみると,1990年代以降,若者の有期雇用の増加による多数の短期的な失業と,それ以外の障害者,移民,低学歴者,中高年に集中している長期的な失業に二極化していた。同時期に社会保障制度では貧困リスクや受給者増の変化を受け止めつつ,それぞれの給付で受給者を労働市場に押し出す方向の変更がなされた。結果として,公的扶助制度が最後の砦として失業者の生活を支えている。スウェーデンの社会保障制度は,その創設期には公的扶助の対象に失業者を含まず雇用政策で対応する方針をとっていたが,公的扶助制度における82年の法改正と実際の運用状況から判断して,社会保障制度の体系においてもスウェーデンモデルが変化したということができる。
著者
宮崎 理枝
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策学会誌 (ISSN:24331384)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.231-250, 2006-03-31 (Released:2018-04-01)

This paper suggests that the important factors in considering the feminization of domestic care services in Italy due to the cultural, political, and economic aspects of certain East European and Balkan countries. In Italy, the growing numbers of irregular migrants and the labor market for such people have posed serious problems, especially since the late 1980s. After the mid-1990s, however, only a few researchers have pointed out the significant increase in irregular migrant workers performing domestic and care work since the true state of affairs regarding irregular or illegal migrant workers had not been visible from formal statistics. In 2002, the Bossi-Fini Law that was mainly intended to restrict illegal migration by approved by the government (no. 189 enacted on 30 July 2002). This law specifically establishes the fifth regularization program for illegal migrants. About 700,000 applications were received under this regularization program, although only 150,000 illegal migrants were identified that same year. Of these applications, 341,100 were from domestic and care workers, and 361,000 from other wage earners. This program has regularized more than 630,000 illegal migrants, with 43.5% coming from three East European and Balkan countries (Rumania, Ukraine, and Albania). After this regularization program was implemented, there has been a trend toward "Feminization" and "Ethnicization" in the Italian labor market. Regarding domestic and care migrant workers in Italy, it can be said that the ethnicization caused by the enormous influx of illegal female migrant workers from East European and Balkan countries has also had a significant impact on the feminization of domestic care services.
著者
上林 陽治
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.73-84, 2021-03-30 (Released:2023-03-30)
参考文献数
18

大学の非常勤講師のみで生計を立てるいわゆる専業非常勤講師は,1995年を境に大学教員における割合を高め,1998年には4万5370人(延べ数)だったものが2016年には9万3145人(延べ数)へと倍増し大学教員の3分の1を占めるに至った。これら専業非常勤講師は,週8コマ程度を受け持たない限り,年収300万円にも届かない高学歴ワーキングプアである。 増大の原因は,1991年から始まった大学院重点化計画による博士課程修了者の増加に見合う正規教員等の職が用意されなかったことにあるが,この問題が放置されたのは,正規「専務教員」が大学院重点化政策の過程で大学院へと移行し,少なくなった学士課程の「専務教員」の隙間を埋めるべく高学歴ワーキングプア層の専業非常勤講師が活用されていったことである。 すなわち大学経営は1990年代以降に政策的に生み出された高学歴ワーキングプアの専業非常勤講師を活用することで成り立っているのである。
著者
池上 岳彦
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.63-76, 2017-06-05 (Released:2019-08-30)
参考文献数
30

租税・社会保険料とも法令に基づいて納付されるが,租税は特定のサービスに直結しないのに対して,社会保険料はサービスとの対価性があるとされる。本稿は両者を体系的に比較検討する。 ①個人所得税は総合課税により水平的公平を実現する。正規雇用者の社会保険料は主たる勤務先の収入のみに賦課される。②個人所得税は超過累進税率の適用により垂直的公平を実現するが,社会保険料の負担は逆進性をもつ。③社会保険だから権利性が生まれるとの議論もあるが,租税によるサービスを受けるのも国民の権利である。④租税の民主性は憲法・法律により担保される。社会保険に関する被保険者の参加度合いは多様である。⑤社会保険には租税が給付財源の半分を超える制度もある。他の社会保険への拠出金にも租税と同質のものがある。 普遍主義的給付の財源は,社会保険料から租税へシフトするのが自然である。その際,消費課税のみならず所得課税・資産課税も重要である。
著者
早川 佐知子
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.97-108, 2019-11-30 (Released:2021-12-02)
参考文献数
23

本論文では,アメリカの人材派遣業の通史をもとに,専門職派遣業,とりわけ,看護師の人材派遣業の特殊性と,それらが成長した背景を分析する。このことで,たとえ非正規雇用であっても生計を維持することができ,かつ,自らのキャリア形成においてもプラスにしてゆけるような働き方の可能性を検討したい。現在,日本の派遣労働者の平均時給はわずか1363円であり,正規雇用労働者との格差が著しい。同一価値労働同一賃金原則に基づき,雇用形態による格差を縮める方向へ動きつつある今,派遣労働の意義も見直すべき時に来ていると考える。 職務の内容ではなく,雇用形態で大きな処遇の格差が生まれる日本の制度の中にあっては,生計のために正規雇用を選択し,結果として長時間労働や遠方への転勤を甘受せざるを得ない労働者も多いであろう。だが,本来であれば,本人が「どのような雇用形態で働くことができるか」ということよりも,「どのような職務を行うのか」ということが優先されるべきである。自らが望む職務を積極的に自己決定できる社会を創るためには,雇用形態がハンディにならないようなシステムが必要になるであろう。
著者
伊藤 善典
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.117-129, 2021-03-30 (Released:2023-03-30)
参考文献数
21

本稿では,EU28か国における社会支出の変動とその要因を分析し,それを踏まえ,今後の社会支出と福祉国家の方向性を考察した。福祉国家グループの個々の社会支出は,経済社会の変動に対応する必要がある一方,価値,規範意識や制度といった各国固有の構造の下に置かれるとともに,政府債務危機後,EUにより厳しい財政規律が課されたため,それらの制約の下で,社会支出の収斂への動きは弱まり,各グループの特徴を維持又は強化する方向に進んでいる。社会支出の側面から見たEUの福祉国家の形は,当面,①新しい社会的リスクに対応して現物給付を重視する社会民主主義型,②伝統的な社会的リスクに対応する現金給付中心の保守主義型(南欧),自由主義型及び新規加盟国,③徐々に新しい社会的リスクへの対応を進めている保守主義型という3つのクラブにまとまっていくのではないかと予想される。
著者
大友 芳恵
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.68-73, 2019-06-30 (Released:2021-07-01)
参考文献数
7

1999年の第87回ILO総会において,ディーセント・ワークがILOの主目標と位置づけられてから20年をむかえる。日本においてはこの間,その実現に向けて取り組むことが十分になされてきただろうか。20年間の政策動向からは,多様な働き方を肯定するとしつつも,現実に取り組まれている働き方改革等は経済成長を加速させることが主目標となっており,本来的な人の尊厳を保つ政策には至っていないといえよう。 ディーセント・ワークの真の推進をはかることが,多様な人々の社会参加と生活保障となることを,今一度再考すべきであろう。
著者
苅谷 剛彦
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策学会誌 (ISSN:24331384)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.32-48, 2007-03-31 (Released:2018-04-01)

A number of advanced countries, including Japan, are conducting neo-liberal education reforms such as the decentralization and devolution of control over education, privatization, school choice, and national testing. In addition, economic globalization and the rise of the "knowledge-based" economy may make education an important arena of socio-economic policy as governments seek to enhance human capital and individuals' employability, and to provide equal opportunity in life chances. In this paper, I argue that those changes promote a shift of human capital formation toward the rise of "learning capitalism". In Japan, especially, this shift coincides with the transformation from the "Japanese Mode of Credential Society" to the "Learning Capitalist Society", where learning skills and competences become core mechanisms to form, accumulate, and arrange human capital. Previously, under the Japanese mode of credential society, career paths were seen as simple and straightforward. Success in entrance examinations was thought to be the main route to enter good schools and universities, then to get into good workplaces and lead happy lives. Being good at memorizing school knowledge was seen a key factor for this success story. Upon getting into good jobs, which usually meant working for large companies, employees from prestigious universities were given more opportunities to pursue advancement. Their learning skills, sometimes called "trainability", might have played an important role behind the scenes, but their importance was not clearly recognized. The Japanese mode of credential society changed and declined during the 1990s. This transformation was caused by changes in labor markets and in education. Acquiring learning skills and competences took the place of memorizing knowledge. Now both in the workplace and in school, people are expected to master advanced learning skills and competences to keep up with rapid changes in technology and society. People are also required to pursue lifelong learning. In addition, they are expected to become 'clever' investors in choosing what, how, and when they should learn in order to maximize their human capital. In other words, learning skills and competences have become "capital" in this society. However, the distribution of learning skills and competences among students is not equal. In the paper, using survey results, I show that they are unequally distributed among children from different family backgrounds. I then argue that the recent decentralization of education funding and neo-liberal education reforms such as the introduction of voucher systems will increase inequality in learning capital accumulation.
著者
鈴木 知花
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.93-104, 2021-03-30 (Released:2023-03-30)
参考文献数
35

本論文は,公私二元論によってその社会性・政治性を否定され私的領域にのみ適用可能だとされてきたケアの倫理を,公的領域における社会福祉ひいては社会福祉政策の理念を基礎づけるものとして位置づける。代表的ケア論者たちの視点から,ケアの倫理を基盤とした社会福祉政策のあり様を理念的に探究することによって,近年の日本の障害者政策がいかにリベラリズム(正義の倫理)によって特徴づけられてきたのかを明らかにする。特に障害者自立支援法とその改正法である障害者総合支援法の根底にあるのは,リベラリズムが前提とする「強い」個人像である。 本論文はリベラリズムに代わるオルタナティヴとしてケアの倫理の視座から社会福祉のあり様を見つめることによって,人間一般が種として脆弱性を内包し,相互依存的なケアの関係性の中で生きるものであることを基調とする社会福祉政策が要請されることを提起する。
著者
遠藤 知子
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.126-138, 2020-03-20 (Released:2022-04-04)
参考文献数
55

政策事業の効果を機能主義的に検討する先行研究に対し,本稿では社会福祉政策を支配的な社会規範の「象徴」として捉える視点から,これまで就労支援の対象として考えられてこなかった高齢者の位置付けの変化に着目し,生活困窮者自立支援制度の導入と展開が象徴する労働と福祉に対する規範を浮かび上がらせることを目的とする。社会的なつながりを通じて自立への意欲を育成することを目指す生活困窮者支援は,「雇用を通じた福祉」と「家族を通じた福祉」が縮小した中,社会一般の新しい規範として,社会関係の中で主体性を身につけ,生涯を通じて職場や地域で活躍し続ける個人を支持していることを明らかにする。本稿では,社会福祉政策が表向きの目標を達成することを目指すだけでなく,その背後にある価値が社会を方向付けることを示し,現在の生活困窮者自立支援制度が反映する価値選択の帰結として二つの方向性を提示する。
著者
長澤 紀美子
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.87-100, 2017-11-10 (Released:2019-11-11)
参考文献数
48

イギリスは,1990年代のコミュニティケア改革により,欧州の主要国の中で最初に社会的ケアを市場化した国であり,当初は民間委託,その後労働党政権の第2期以降はパーソナライゼイション政策を通して市場化,すなわち準市場の導入が進められた。 本稿では,平岡による準市場の類型論を踏まえ,イギリスの社会的ケア領域における市場化の展開を準市場の構造に着目して分析し,市場化がもたらした影響と課題について考察することを目的とする。分析を通して,社会的ケアの準市場は,現物給付中心の「サービス購入型」から,消費者主導型現金給付のパーソナライゼーション政策の導入により「利用者補助型」に移行していると言える。前者において,自治体は強い購入権限を持ち,厳しい予算制約の下での市場の失敗がみられた。後者において,インフォーマルケアの現金給付化に伴い,市場における消費者選択の保障と,管理主義的な利用者保護との間でバランスを取る公的介入の範囲や水準が問われている。
著者
卯月 由佳
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.149-160, 2015-07-25 (Released:2018-02-01)

子どもの時期に貧困を経験すると将来も貧困に陥るリスクが高まるという,貧困の世代間連鎖の問題が懸念されている。本稿は,貧困の世代間連鎖のメカニズムについて説明する経済的モデルと社会的モデルの違いに着目し,低収入世帯の中学生の学校外学習時間を増加させるには,経済的モデルに依拠した収入面での学校外学習支援が有効か検討する。内閣府が2011年に実施した「親と子の生活意識に関する調査」のデータを用いて中学3年生の学校外学習時間に対する世帯収入の効果を分析した結果,その効果は親の学歴と学習習慣を統制した後も残り,部分的には学校外教育サービス利用の有無により説明されることが明らかとなった。そこから,収入面での学校外学習支援が有効である可能性が示唆される。ただし,その方法を用いた低収入世帯の子どもの不利の緩和には利点と同時に限界があることについても指摘する。