著者
伊藤 セツ
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.1-3, 2011
著者
鬼丸 朋子
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.93-105, 2015-12-25 (Released:2018-02-01)

1990年代初めから,日本企業は,成果主義人事・賃金制度を導入し始めた。これらの制度改革は,労働市場改革と年功賃金の見直しを促進しようとするものであった。とはいえ,成果主義へ批判が高まったために,これらの試みは必ずしもうまくいかなかった。例えば,日本型年俸制に典型的にみられたように,成果主義人事・賃金制度は,修正を余儀なくされたのである。試行錯誤の結果,近年,日本企業は役割給・成果給の導入を進めている。本稿では,成果主義人事・賃金制度に関するいくつかの先行研究を紹介し,今後の日本企業の人事・賃金制度のあり方に関する研究の発展への示唆を得ようとするものである。
著者
濱口 桂一郎
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策学会誌 (ISSN:24331384)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.33-47, 2006-03-31 (Released:2018-04-01)

Since the EEC was established in 1958, a European law policy on work time has been developed to reflect a growing awareness of current social issues, such as social dumping, the sharing of work, health and safety in the workplace, and reconciliation between work time and family life. Since the 1990s, business-friendly flexibility in terms of work time has been stressed and the easing of work time regulations pursued. Conversely, family-friendly flexibility regarding work time has become an urgent need. Thus, 'flexibility' has become a keyword with a double meaning. A new perspective on organizing time over work life is now emerging. Traditional labour law policy based on a model of full-time male workers is being compelled to change in order to account for the growing numbers of women joining the workforce and part-time workers.
著者
阿部 彩 上枝 朱美
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.67-82, 2014-09-10 (Released:2018-02-01)
被引用文献数
1

本稿は,「最低限必要な住まい」の広さや設備といった具体的な「質」について,三つの調査((1)「2011年社会的必需品調査」,(2)ミニマム・インカム・スタンダード法(MIS法)による最低生活費の推計.(3)「最低限必要な住まいに関する調査」)により明らかにしようとしたものである。三つに共通するのは,どれも,一般市民に許容範囲の「最低限の住まい」とはどのような広さや間取りであり,どのような設備が備わっているべきか,また,家賃は収入のどれくらいの割合に収まるべきかという質問を投げかけ,社会規範としての最低生活の住まいの姿を明らかにしようとした点である。これを国土交通省による最低居住基準と比較することにより,求められる住まいの具体像に接近することが可能となった。
著者
稗田 健志
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.28-40, 2015-01-25 (Released:2018-02-01)

20世紀末辺りに社会政策の一つの転換点があったことは,多くの研究者に共有された認識であろう。しかしながら,そうした変化の内実をどのように特徴付ければよいかという問いに対しては,いまだ定まった解はない。上述の社会政策の変化を「新自由主義」の発露とみる論者は,社会給付における就労要件の強化や給付条件の厳格化といったワークフェア的側面を取り上げ,そこに資本側の労働者に対する市場を通じた規律の強化をみる。しかし,近年の社会政策の変化はそうした労働規律の強化にとどまらない。ドイツのハルツ改革やフランスのRSAにみられるように,賃労働によらない社会的包摂が進められているという側面も存在する。これをとらえて高田[2012]は「非能力主義的平等主義」と呼ぶ。本報告はこの二つの見方-「新自由主義」と「非能力主義的平等主義」-のどちらが妥当であるか,ルクセンブルグ家計調査(LIS)のマイクロデータの分析から答えることを試みる。具体的には,1980年代から2000年代半ばまでのスウェーデン,オランダ,ドイツ,フランス,イギリス,イタリアという欧州6ヶ国における家計データを分析し,「労働人口にしめる非就業者の割合」や「非就業者が受給する社会保障プログラムの所得代替率」といった指標の時系列での変化をみていく。
著者
丁 智恵
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.79-89, 2016-03-31

戦後半世紀ものあいだ,冷戦構造が保護幕となって,アジア・太平洋戦争の被害者の声が届かないまま日本人の集合的記憶は形成された。戦争の加害の記憶は忘却され,長いあいた「戦後」が続いたが,90年代にはこの意識は大きく変化した。1989年には昭和天皇が死去,またベルリンの壁が崩壊し,冷戦時代は終った。それまで冷戦構造のもと強権体制にあったアジアの国々が民主化し始め,アジア・太平洋戦争の個人被害の本格的な究明が始まった。この時代に,テレビをはじめとするマス・メディアにおいて,アジア・太平洋戦争における日本の加害について追究する番組が活発に作られ,新たな集合的記憶を形作っていった。本論文では,日韓の戦後補償運動のなかでも今回はとくにBC級戦犯の問題に焦点を当て,この問題が活発に議論された90年代を中心に,テレビや記録映画などの映像アーカイブを整備し,目録を作成し,内容を検討することにより,これまで見えなかった戦後補償運動史を再検証する。
著者
猪飼 周平
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.21-38, 2011-03-20 (Released:2018-02-01)

本稿の課題は,猪飼[2010]において提示された「病院の世紀の理論」から,次代のヘルスケアと目される地域包括ケアシステムに関する社会理論を展望することである。本稿では,現在生じている健康概念の転換が,「医学モデル」から「生活モデル」への転換として生じていることを踏まえ,次の点を指摘した。第1に,健康概念の転換に適合的なヘルスケアは,より包括的かつ地域的であるという意味において地域包括ケアシステムを指向すること,第2に,健康概念の転換が,過去30年間にわたり社会福祉に広範に生じている生活支援の作法の転換を背景としていると考えられること,第3に,地域包括ケアシステムの構築に際しては,従来のヘルスケアとは質的に異なる,専門職の分業,社会関係資本の構築,コスト増大への対応等に関する課題の解決が必要になることである。
著者
池上 重弘
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.57-68, 2016

<p> 浜松市では輸送機器関連の製造業現場を中心に外国人労働者,特にブラジル人が数多く就労している。本稿ではまず,2006年と2010年の浜松市の外国人調査に基づき,労働市場への組み込みの実態と問題点を指摘した。次に浜松市における多文化共生施策の展開を,3人の市長の時代に応じて「黎明」「本格展開」「発展的継承」と性格づけてまとめた。浜松においては,行政,市教委,国際交流協会,NPO,大学等,多様なアクターのゆるやかな連携とNPO活動の層の厚さが強みである。一方,生活レベルで外国人と接している地縁団体(自治会)や外国人を雇用したり外国人が従業している企業の関与が不足している点と,外国人当事者団体間の連携不足が弱みである。一般市民の間に認められるゼノフォビア(外国人嫌い)と外国人の不安定就労は多文化共生に向けた脅威と言える。しかし,移住者の第二世代が受け入れ社会と外国人をつなぐ存在となりはじめている点は大きな機会である。</p>
著者
堅田 香緒里
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.85-96, 2010-12-20 (Released:2018-02-01)
被引用文献数
2

ベーシックインカム(以下,BI)をめぐる議論は近年盛んになりつつあるが,その多くは未だにジェンダーに無自覚だと指摘される。他方でフェミニズムの側も,BIを「家事労働への支払い」と綾小化して捉え,さほど検討しないまま批判的に捉えている向きが多い。こうした事情を反映してか,BIとフェミニズムの交差はこれまであまり論じられてこなかった。その一つの理由に,「口止め料か,解放料か」と言われるような,BIの女にとっての両義性を挙げることができる。それは,性別分業,自律的な所得保障へのアクセス権,女の劣等なシティズンシップ等,多岐にわたって論じられてきた。本稿では,これら多岐にわたる論点を整理し,BIとフェミニズムという二つの主張が生産的に交差していくための予備的考察を提出している。とりわけ,性別分業に対するBIの含意を,BIの類似政策であるケア提供者手当および参加所得との対比において明らかにした。
著者
岩田 克彦
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.63-76, 2015

デンマークでは,2013年1月から障害年金(障害者に18歳から老齢年金支給開始年齢[現在65歳]まで支給)とフレックスジョブ(65歳未満の永続的に重度な障害者に対し,使用者,障害者本人,自治体の三者合意に基づき,公的負担による所得補填を提供しながら,その個人状況に合わせた柔軟な就労条件での仕事を提供する制度)の大改正が行われた。障害年金,フレックスジョブの賃金補填とも,フレクシキュリティ政策の一環として他国に比べかなり手厚い内容であったが,改正後,(1)40歳未満の者には,原則障害年金は支給せず,1回あたり最長5年間の個人別の多様な支援措置により就業の道を最大限に探る,(2)フレックスジョブは,労働時間が週10時間以内の者も対象にし,公的助成を雇用主でなく直接個人に支給し,労働収入が低い者ほど多額の助成をすることになった。本稿では,今回の改正のインプリケーションを論ずる。
著者
井口 泰
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.8-28, 2016

<p> 地球規模の気候変動などグローバルリスクの高まり,地域の経済統合の進展や各国における所得・富の格差の拡大などを背景に,国際的な人の移動は増加傾向をたどる可能性がある。本稿は,これらの情勢を踏まえて,わが国の外国人労働者問題の現状を,社会政策との関連において整理し,将来を展望することを目的とする。 わが国の外国人労働者問題の経緯と制度・政策の改革の現段階を詳細に考察すると,1990年に発足した現在の国の制度的枠組みは,依然として出入国管理政策に偏り,外国人を受入国・社会に統合する政策の多くは,自治体の取り組みに依存する。こうしたなかで,1)アジアでは,急速な少子高齢化と若年人口の移動により,高度人材のみならず,ミドル・スキル職種を中心に低技能職種に至る多様な労働需給ミスマッチが発生している。日本でも,就労する外国人労働者のうち,就労目的で入国した者は3割に達せず,在留する外国人の言語習得や資格取得の支援の必要性が大きい。2)アジアの新興国経済が台頭するなか,次第に先進国から新興国への人材移動が高まってきた。日本でも,今世紀になって外国人人材の流出傾向が強まったが,アジアからの留学生増加が人材流出を補ってきた。3)アジアでは,若年者の地方から大都市への移動が進んでいる。日本では,若年人口の減少する地方都市で,外国人人口比率が高まり,永住権を有する外国人が在留外国人全体のが半数に達し,外国人二世・三世を受入国社会に統合する施策の重要性が高まっている。4)アジアでも,ASEAN共同体の発足に伴い,外国人の人権確保が重要課題として取り上げられた。ところが,日本では外国人差別の禁止などに関する法制度整備の進展は遅い。 難民の増加などで国際移動が高まるなか,わが国の現行政策の枠組みをこのまま維持していては,外国人が安定した就業・生活を享受できず,労働需給ミスマッチを緩和することも難しい。在留する外国人と子どもたちが社会の底辺層を形成するリスクを高めないよう,入管政策と統合政策を二本柱とする包括的な外国人政策への転換が急務である。</p>
著者
梅崎 修
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.102-112, 2016

本稿の目的は,大阪産業労働資料館・エル・ライブラリーと共同で行っている労働史オーラルヒストリー・アーカイブ・プロジェクトについて報告することである。今回,我々が最も力を入れたことはオーラルヒストリーの映像化である。日本におけるオーラルヒストリーは,音声を文字に転写したトランスクリプションの保存・整理が中心であったが,近年,映像化にも関心が集まっている。本稿では,オーラルヒストリー・アーカイブに関するいくつかの論点を指摘した後に,Web上に公開した労働史オーラルヒストリー・アーカイブのホームページを紹介し,その成果と課題を検討した。
著者
菅沼 隆
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.48-64, 2015

デンマークの労働規制の枠組みとして,高い労使自治,職業別・教育訓練歴別労働市場,コーポラティズム的政策決定がある。本稿では拡大EUからの市場統合に伴う労使関係慣行の変更を求める圧力に対して,労働組合が抵抗・交渉・妥協・順応・適応する事例として,大量解雇規定と労使対話の法令化,クローズドショップ協定のEU裁判,団体交渉の分権化を挙げて特徴を描いている。また,市場統合の最大の問題の1つである外国人労働者の流入に伴う労働条件の悪化(ソーシャル・ダンピング)に対する,労働組合,経営者団体,政府の対応について,具体的な取り組みを紹介している。そして,派遣労働者の組織化と権利拡大の取り組みを1990年代半ばから近年まで描いている。さらに,実際の非正規労働者の労働実態について調査データをもとに確認し,社会的格差は拡大しつつも,国際比較すると最も格差が小さい国にとどまっていることを明らかにしている。最後に,日本への示唆を提示した。
著者
遠藤 公嗣
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.11-24, 2014-03-31

「日本的雇用慣行」と「男性稼ぎ主型家族」は1960年代の日本で強固に結びついた。この結びつきを「1960年代型日本システム」と呼ぼう。この社会システムは,日本経済を発展させる望ましいシステムとして是認され,存続してきた。しかし,このシステムは,ジェンダー間と正規非正規間の経済格差を特徴とし,その結果,女性と非正規労働者を差別していた。しかし最近では,「1960年代型日本システム」が存在する条件はなくなってきている。けれども,上記した経済格差と差別はなお存在している。このことは,日本社会の大きな社会問題になってきている。強固な1960年代型日本システムへの復帰は現在の社会問題への正しい解決策でなく,新しい社会システム,すなわち職務基準雇用慣行と多様化した家族構成を前提とする社会システム,を形成する努力が真の解決策であることを,私は主張する。そして,真の解決策の重要な一部は,同一価値労働同一賃金をめざす職務評価システムである。その研究開発の現地点を述べる。
著者
稗田 健志
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.28-40, 2015-01-25

20世紀末辺りに社会政策の一つの転換点があったことは,多くの研究者に共有された認識であろう。しかしながら,そうした変化の内実をどのように特徴付ければよいかという問いに対しては,いまだ定まった解はない。上述の社会政策の変化を「新自由主義」の発露とみる論者は,社会給付における就労要件の強化や給付条件の厳格化といったワークフェア的側面を取り上げ,そこに資本側の労働者に対する市場を通じた規律の強化をみる。しかし,近年の社会政策の変化はそうした労働規律の強化にとどまらない。ドイツのハルツ改革やフランスのRSAにみられるように,賃労働によらない社会的包摂が進められているという側面も存在する。これをとらえて高田[2012]は「非能力主義的平等主義」と呼ぶ。本報告はこの二つの見方-「新自由主義」と「非能力主義的平等主義」-のどちらが妥当であるか,ルクセンブルグ家計調査(LIS)のマイクロデータの分析から答えることを試みる。具体的には,1980年代から2000年代半ばまでのスウェーデン,オランダ,ドイツ,フランス,イギリス,イタリアという欧州6ヶ国における家計データを分析し,「労働人口にしめる非就業者の割合」や「非就業者が受給する社会保障プログラムの所得代替率」といった指標の時系列での変化をみていく。
著者
山崎 憲
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.129-140, 2016-03-31

アメリカの労使関係システムは,Dunlop [1958], Kochan, Katz and Mckersie [1986]により,階層的構造をもつ企業,労働者,政府をアクターとした団体交渉を基軸に整理されてきた。1990年代以降,労働組合組織率の著しい低下などにより,こうした仕組みが機能不全となるなか,団体交渉を経ずに関係者間の利害を調整する仕組みが広がりつつある。そこで扱われることは,職業訓練・斡旋や雇用創出,教育,生活に関連したことを含む。企業,労働者,政府以外の新たなアクターが加わるともに,円卓会議という利害調整のプラットフォームが現れ,中間支援組織が交渉力の再編成を行っている。団体交渉を規定する全国労働関係法も同じ流れのなかで解釈変更の動きがある。こうした状況をアメリカの労使関係システムの構造的な変化とみて,枠組みの再定義を試みるともに,日本からアメリカの労使関係システムをどうみるか,そして日本の研究の視座をどこにおけば良いかという若干の示唆を提示することが本稿の目的である。
著者
福田 直人
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.123-134, 2012-06-10

本稿では失業者に対する生活保障制度に関して,所得保障の観点から日独比較を行う。ドイツを対象とするのは,失業保障制度の構造において日本との共通点が多いためである。失業保障の国際比較研究は既に多く存在するが,その大部分が失業手当の給付金額と期間の比較に限定されていた。だが,失業時所得保障において重要な点は,失業保険の給付金額や期間だけではなく,就業時に支払ってきた税金や,社会保険料の免除,減免措置の有無である。本稿ではOECDの離職前賃金代替率の問題点を検討し,失業保険適用内,適用外それぞれの失業者に対する所得保障を分析した。その結果,日本の場合,失業保険が適用されたとしても40歳の失業者は税,社会保険料の負担によって受給額がマイナス,つまり貯蓄の取り崩しを迫られる可能性があることを示した。国際的には低水準と評価されるドイツの失業保障と比較しても,日本は更に低い水準であることが明らかになった。
著者
八木橋 慶一
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.115-121, 2009-04-25

現在,イギリス労働党政府がイングランド地域において実施している地域再生政策の特徴は,公共セクターや民間セクター,ボランタリーセクターが参画する「パートナーシップ」組織が中心となり,地域の公共サービスの供給や実施に関する意思決定を行っている点である。本論は,このパートナーシップ組織による制度的ガバナンスに焦点を当てて論じたものである。とくに,「地域戦略パートナーシップ(LSP)」を中心に取り上げている。また,社会的排除対策の点からもこの形態のガバナンスの重要性を論じている。しかし,このガバナンスの形態では,代表制民主主義と抵触しかねないとの批判がある。とりわけ,議会を迂回して利害関係者によって政策を決定するプロセスから,コーポラティズムとの類似が指摘されている。本論は,こういった課題に政府がいかに対応しているのか,また従来のコーポラティズムとは何が異なっているのかを明らかにしたものである。