著者
石井延久 渡辺 博幸 入沢 千晶 菊地 悦啓 川村 俊三 鈴木 騏一 千葉 隆一 常盤 峻士 白井 将文
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.77, pp.954-962, 1986
被引用文献数
5

従来より,我々は器質的インポテンスの治療に陰茎プロステーシスの挿入手術を行っていた.しかし,我国では陰茎プロステーシスの挿入手術を希望する患者は実際には余り多くないことから,非観血的な方法が望まれていた.そこで我々は強力な血管平滑筋の弛緩作用を有するProstaglandin E_1(PGE_1)の陰茎海綿体注射が器質的インポテンスの治療に応用できるか否かを検討した.方法は22〜27Gの細い翼状針を用いて,2〜20mlの生理的食塩水に溶解したPGE_1 20μgを注入し,その前後の変化を陰茎温度とErectiometerで観察した.動注は血管カテーテルを用いて生理的食塩水20mlに溶解したPGE_1 20μgを注入した.結果はPGE_1を陰茎海綿体に注射した71例のうち,51例(72%)に完全勃起がみられた.のこる9例(13%)は不完全な勃起,6例(8%)は陰茎の増大のみ,5例(7%)は全く変化がみられなかった.完全勃起はPGE_1注射後2〜3分で陰茎の増大がおこり,約2〜3時間持続した.PGE_1により殆ど勃起のおこらない症例は高齢者や陰茎海綿体の萎縮,血管障害の疑われた症例に多くみられた.しかし,骨盤内手術など末梢神経障害や脳・脊髄など中枢神経に器質的障害のある症例でも,PGE_1の陰茎海綿体注射により,性交可能な勃起がみられたことから,今後はPGE_1の器質的インポテンスヘの治療に応用できることがわかった.一方,PGE_1の陰茎海綿体注射により完全勃起のおこらない骨盤骨折1例と糖尿症の2例の内陰部動脈造影を行ったところ,骨盤骨折症例では内陰部動脈の損傷があり,陰茎動脈は造影されなかった.この症例は血管性のインポテンスの合併があり,PGE_1の内陰部動脈へ注入によっても陰茎の温度は余り上昇せず,勃起も回復しなかった.しかし,糖尿病の2例はいずれも陰茎動脈まで造影され,PGE_1の動注により陰茎の温度の上昇がみられ,一過性ではあるが勃起の回復がみられた.このことから,PGE_1の動注が静注など投与方法を工夫することにより,将来血管性インポテンスの治療に応用できるようになるのではないかと期待される.
著者
山本 雅司 山田 薫 平田 直也 河田 陽一 平山 暁秀 柏井 浩希 百瀬 均 塩見 努 末盛 毅 夏目 修 平尾 佳彦
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.88, no.12, pp.1005-1012, 1997-12-20
参考文献数
22
被引用文献数
1

(背景) 二分脊椎における生命予後を左右する種々の合併症に対する治療法の進歩に伴い, 患者のQOLも向上し, 思春期や成人した女性症例より結婚および妊娠・分娩についての相談を受ける機会が多くなってきた. 本論文では, 妊娠・分娩を経験した二分脊椎症例について報告する.<br>(方法) 当院にて経過観察中に二分脊椎症例のうち妊娠・分娩を経験した5例を対象とした. 初回妊娠時の平均年齢は27.6歳 (26~32歳) であり, 5例においてのべ6回の分娩を経験した. 妊娠前に4例が泌尿器科にて手術を受けており, うち1例は膀胱拡大術が施行されていた. これらの症例につき, 妊娠中の尿路の形態的変化, 尿路感染, 腎機能, 産科的経過および合併症などについて検討した.<br>(結果) 妊娠中に上部尿路の悪化が3回の妊娠において見られたが, 分娩後は妊娠前の状態に回復した. 血清BUN値およびCr値は4例において妊娠経過中安定していたが, 6回の妊娠のうち3回に腎盂腎炎の合併がみられた. 分娩様式は経膣分娩が4回, 帝王切開が2回であった. 産科的合併症は早産, 微弱陣痛, 児頭骨盤不均衡が各2例および羊水過多1例であった. 出生児は平均在胎日数38w2d, 平均出生体重2784gであり, 全例健常児であった.<br>(結語) 二分脊椎症例においても, 予測される合併症を念頭に入れた泌尿器科的および産科的管理を行うことにより, 安全に妊娠・分娩が可能であると考えられた.
著者
加藤 久美子 近藤 厚生 長谷川 総一郎 斉藤 政彦 山田 幸隆 村瀬 達良 三宅 弘治
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雑誌 (ISSN:18847110)
巻号頁・発行日
vol.83, no.4, pp.498-504, 1992
被引用文献数
5 6

骨盤底筋訓練は, 腹圧性尿失禁の非手術的治療の中心となるものであるが, これを効果的に行うためには, 骨盤底筋群の正しい収縮法を習得しなければならない. 今回私達は膣内コーンを使用して, 軽度の腹圧性尿失禁を有する30名の成人女性を対象に, 5週間の骨盤底筋訓練を行った. 1日2回15分ずつコーンを膣内に挿入し, 重みで落ちるのを骨盤底筋群の収縮で阻止するよう指導した.<br>30名中27名 (90%) は, 5週間継続して訓練を施行できた. 訓練前後で, 尿失禁の頻度, 重症度は有意に減少した. 訓練後の尿失禁の自覚的改善度は, 消失および改善 (50%以下に軽減) したものが70%あった. 1分間保持できるコーンの重さ, ペリネオメーター (膣圧計) 測定値は有意に増加し, 骨盤底筋群の筋力の増強を示した.<br>膣内コーンはタンポン状の形態をしており, 日本女性でも心理的抵抗感なく受け入れられ得る. この器具は骨盤底筋群の収縮法の習得に役立ち, 毎日の訓練の動機付けになるため, 腹圧性尿失禁の治療に有用と考えられた.
著者
斉藤 雅人
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雑誌 (ISSN:18847110)
巻号頁・発行日
vol.82, no.4, pp.637-644, 1991

第1報で膀胱壁のシミュレーションモデルとして, 2個のバネと1個のダッシュポットで構成される Glantz の粘弾性模型 (メカニカルモデル) が優れていることを明らかにし, そのメカニカルモデルの応力―歪み曲線を導く構成方程式を求めた. 第2報ではその構成方程式から, 物理学的計算式により膀胱内圧曲線を求める構成方程式を導き出した.<br>実際にイヌの実験によって得られた, 正常膀胱, 摘出膀胱, 骨盤神経切断膀胱の内圧曲線に, この構成方程式より得られる内圧曲線を fitting させて物性を検討したところ, 第1報で応力―歪み曲線より求めたそれによく一致していた. したがって, 膀胱内圧曲線から膀胱壁の材料強度学的性質を正しく求められることがわかった.<br>つぎに, 新たに開発した経尿管的膀胱内圧測定により得られたヒトの排尿時膀胱内圧曲線に, 構成方程式より得られる内圧曲線の除荷曲線を fitting させて, 排尿時膀胱の物性を求めた. すると蓄尿時に比べて粘弾性のうちの弾性が数値にして10倍ほど強くなっていた.<br>このようにして膀胱の蓄尿と排尿のメカニズムを膀胱壁のメカニカルモデルから説明できた.
著者
森口 英男
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.77, no.9, pp.1485-1492, 1986-09-20

蓚酸カルシウムと燐酸カルシウムから構成される上部尿路結石80個に対して,2種類の赤外分光光度計(620MX,IRA-2)を用いてwhewellite,weddellite,apatiteの定量を試みた.1)Bellanatoらが報告した吸光度比D780cm^<-1>/D520cm^<-1> (IRA-2)と,TGによって求めた蓚酸カルシウム1水化物含有比whewellite/weddellite+whewelliteには,r=-0.54の相関を認めた.2)高崎が報告した吸光度比D1,100-1,000cm^<-1>/D1,320cm^<-1>(以下Dp/Do)は,TGによって求めたapatite含有率とr=0.96(620MX),r=0.95(IRA-2)の相関を示した.3)吸光度D920cm^<-1>は,TGにより求めたweddellite含有率とr=0.87(620MX),r=0.81(IRA-2)の相関を示した.4)吸光度D780cm^<-1>は,TGにより求めたwhewellite含有率とr=0.89(620MX),r=0.88(IRA-2)の相関を示し,吸光度D520cm^<-1>(IRA-2)は,whewellite含有率とr=0.92の相関を示した.5)各吸収帯の深さ(Fig.1,Fig.2のio,ip)は,TGで求めたwhewellite,apatite含有率とよく相関した.6)3,600-3,000cm^<-1>,920cm^<-1>,780cm^<-1>,670cm^<-1>の各吸収帯について,吸収帯の形状と深さから,3段階に分類した.whewelliteに特徴的な形状を0点,weddelliteに特徴的な形状を2点とし,それらの中間を1点とした.その合計点と,TGにより求めた蓚酸カルシウム2水化物含有比weddellite/weddellite+whewelliteとは,r=0.93(620MX),r=0.95(IRA-2)の相関を示した.以上から,蓚酸カルシウムと燐酸カルシウムから構成される結石では,赤外分光光度計の機種にかかわらず,赤外分光分析によるweddellite(D920cm^<-1>),whewellite(D780cm^<-1>,D520cm^<-1>),apatite(Dp)の定量が可能であることがわかった.また,吸光度の代わりに,吸収帯の深さを用いることも可能であると思われる.さらに,3,600-3,000cm^<-1>,920cm^<-1>,780cm^<-1>,670cm^<-1>の各吸収帯を,点数化(weddellite score)すれば,蓚酸カルシウム2水化物含有比が求められること,高崎が報告したDp/Doとapatite含有率には,直線的な相関関係があることから,結石試料を秤量しなくても,whewellite,weddellite,apatiteの半定量が可能であると考えられる.
著者
新美 三由紀 赤座 英之 武島 仁 樋之津 淳子 高橋 秀人 加納 克巳 大谷 幹伸 石川 悟 野口 良輔 小田 英世 大橋 靖雄
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.88, no.8, pp.752-761, 1997-08-20
参考文献数
11
被引用文献数
2

(背景と目的) 癌告知の是非について様々な論議がなされているが, 現在でも, その原則は確立されてはいない. そこで今回は, 前立腺癌患者のQOLに対する癌告知の影響について検討した.<br>(対象と方法) 前立腺癌の外来通院患者を対象に, GHQとI-PSSを用いて, QOLの構成因子である身体・精神・社会的側面を測定し, GLMにより, [うつ状態] [不安と不眠] [社会的活動障害] のそれぞれに対する寄与要因を探索し, 告知の効果の影響を検討した.<br>(結果) 告知の有無で比較したとき, 全変数とも有意差は認められなかったが,「うつ状態」「I-PSS」「身体的症状」の3変数間の相関構造が, 告知あり群と告知なし群で大きく異なった. さらにGLMの結果,「うつ状態」に対して「身体的症状」「I-PSS」「臨床病期」が主効果として寄与し,「告知の効果」と「身体的症状」の交互作用が認められた.<br>(結論) 前立腺癌患者は, 身体状態が良いときは, 病名告知に関わらず精神的に安定しているが, 身体的な自覚症状が強くなると, 告知されていない群の方が抑うつ傾向を示す可能性が高い. 一方, 病名を告知された前立腺癌患者群では, この傾向は比較的弱いことが示唆された. これは病名を告知されている群は, 患者自身が自覚的な身体症状の変化を理解でき, そのために精神的安定が保たれているのではないかと推察される.
著者
南方 茂樹
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.81, no.12, pp.1896-1903, 1990-12-20

24時間尿中のイオン化Caの実測を試み,その測定方法の検討,正常健康人およびCa結石患者群での比較,Ca結石患者のうち過Ca尿症および正Ca尿症患者における比較検討,並びに再発防止治療の前後での尿中イオン化Caなどについて検討を行い,以下の結果を得た.イオン化Ca濃度の測定は,検体尿のイオン強度の近似値を測定後,各検体毎のCaイオン標準液を作製し,Ca選択電極を用いて行ったが,その再現性および正当性はほぼ満足のいくものであった.尿中イオン化Ca濃度は総Ca濃度と強い相関がみられ,Caイオン化率はクエン酸および燐酸とは弱いながらも負の相関がみられた.イオン化Ca排泄量はCa結石患者群では健康対照群に比較して著明な高値を示し,更に,過Ca尿症の結石患者群はイオン化Ca排泄濃度ならびに排泄量共に,正Ca尿症群より有意の高値を示した.クエン酸療法では,そのイオン化率は投与後有意の低下が認められ,米糠療法では,尿中イオン化Ca排泄量は投与後に有意な低下がみられ,Caイオン化率にも低下傾向が観察された.以上より,尿中イオン化Caの測定は,他の結石関連物質の測定と同様に,再発注Ca結石症患者の促進因子の重篤度の検討,あるいは,Ca結石症患者の再発防止療法の効果を検討するための重要な指標になり得るものと考えられた.
著者
平井 正孝 中野 優 牛山 知己 増田 宏昭 太田 信隆 田島 惇 河邊 香月 阿曽 佳郎
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.79, no.11, pp.1761-1764, 1988-11-20

7例の再燃前立腺癌症例に対し,13.56MHzのRadio Frequency波(RF波)による温熱療法と,VP-16,peplomycinによる化学療法を行った.その結果,4例で前立腺腫瘍内温度が42℃以上に到達したことを確認できた.腫瘍の縮小は,7例中6例で認められた.副作用は,火傷が1例,食欲不振が1例,下痢が3例に出現した.以上より,本療法は,ホルモン低抗性となった前立腺癌に対して有効であると考えられた.
著者
野村 一雄 藤岡 知昭
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.84, no.5, pp.822-830, 1993-05-20

進行胃癌に対するLAK細胞の臨床応用のための基礎的研究として,健康成人および胃癌患者の末梢血リソパ球よりIL-2添加完全培地(非動化10%ヒトAB型血清添加RPMI)および無血清培地 (AIM-V)によりLAK細胞を誘導し,その性状について検討した.完全培地を使用した場合,健康成人より分離した末梢血リンパ球は,4日目には培養前の60%に回復し,そのNK活性およびLAK活性は4日目以降に著明に増強した.また,培養4日目で無血清培地を使用した場合も完全培地の場合と同様のリンパ球の増殖,細胞傷害性が認められ,その増殖細胞は,いずれの培地を使用した場合も,CD25,HLA-DR,CD3およびCD16細胞が高率で,ともに活性化T細胞,NK細胞の集団と考えられた.また,LAK細胞は単独でIFN-γおよびIL-βを産生し,その産生能は経時的であり,腫瘍細胞の刺激で増強した.TNF-αはLAK細胞をCaki-1またはK-562で刺激した場合に比較的早期に産生された.よってLAK細胞の直接的細胞傷害性に加え産生されたサイトカインを介する抗腫瘍効果も示唆された.さらに,胃癌患者の末梢血リソパ球においても,無血清培地を使用した培養4日目の細胞回復率は,健康成人の場合と同様で,その培養リンパ球は自己腫瘍および培養胃癌細胞を含む広い抗癌スペクトルを有していた.以上の結果は,IL-2添加無血清培地により誘導されたLAK細胞が臨床上有効であることを支持するものと考える.