著者
林 政彦 東野 伸一郎
出版者
福岡大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

成層圏エアロゾル層の観測を飛躍的に発展させるために,安価で,観測装置および大気試料の回収が可能な観測プラットホームを開発した。観測装置を搭載した翼幅約3mのモータグライダーに,エアロゾル計数装置,エアロゾルサンプラーを搭載し,ゴム気球で飛揚,目的最高高度で気球を分離し,地上基地に自動で最適航路を選択しながら帰還させる。システム開発を国内における実験で行い,実地観測を南極昭和基地において,2013年1月に実施した。小型ゴム気球により,観測を行いながら飛揚したのち,気球を分離し,観測拠点まで自律帰還させることに複数回成功した。観測最高高度は成層圏下部に達する高度10kmであった。
著者
星乃 治彦
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

近代ドイツを事例に、軍隊宮廷内における「男性」性の歴史的構築過程および「同性愛の歴史的機能」の分析を進めた結果、ヘテロ・セクシュアルによって解釈されてきたと考えられる歴史を別の観点から考察することの重要性が明らかとなった。また、who's Who in Gay and Lesbian History,London,2001の翻訳作業を進めるなかで、古代、中世、近世、近代、現代といった時代による特質を抽出した。さらに、クィア学会や性同一性障害学会等との交流を通じて、歴史学のみならず社会学や臨床心理学、精神医学などセクシュアリティに関する隣接学問からの知見を得ることで、そもそも「同性愛」「同性愛者」が問題なのではなく、それを作り上げていく社会や政治を解明することの必要性も浮き彫りになった。こうした作業をもとに、歴史の中で「性」=関係性(あるいは差別の体系)がいかにして作り上げられたのかを、西洋史全体の中に位置づけることが可能となった。
著者
石井 敦士
出版者
福岡大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

小児交互性片麻痺(AHC)は生後早期の異常な眼球運動で発症することが多く、1歳半までに発作性の片麻痺を呈す。また、てんかんや多彩な不随意運動を随伴症状とする。特異的検査所見はなく、治療法も確立されたものはない。我々はAHC責任遺伝子を同定することを目的に、次世代シークエンサーでの全エクソーム解析をAHC患者8名に対して施行した。その結果、8名全員でATP1A3遺伝子にミスセンス変異をヘテロ接合で認めた。両親に変異は存在せず、ATP1A3遺伝子のヘテロ接合での新生ミスセンス変異がAHCを引き起こすことが解明できた。また、遺伝子型と表現型解析によりE815K変異患者では有意な相関を認めた。
著者
重松 幹二 大賀 祥治 正本 博士 三島 健一 亀井 一郎
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

菌糸体から水可溶性のβ-グルカンを抽出するために、マキネッタ抽出器の適用を検討した。その結果、漢方薬として用いられるブクリョウや各種食用キノコから効率良くβ-グルカンを抽出することができた。また、カンゾウからグリチルリチン酸、オウレンやオウバクからベルベリン、樹木樹皮からタンニンを抽出することもできた。これら抽出液の活性は高く、特にブナシメジからのβ-グルカンは高い抗腫瘍活性を有していた。
著者
山田 英二
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

英語の語の強勢配置を説明するために提案された位置関数理論(Yamada (2010))では「副次」強勢配置の説明のために16個の位置関数を措定してる。その後、「主」強勢を説明するためには3個の「位置関数」が必要であることが明らかにされた。本研究ではその妥当性を確かめた。その結果、3個の位置関数で十分に説明できることが明らかとなった。さらに、「位置関数理論」の妥当性を、「電子データ」を用いて検証した。まず基礎データとなる電子データを確定した。次に、それを基に位置関数の一つであるACS(Alveolar Consonant Sequence)の検証を行ったところ、その観察的妥当性が明らかとなった。
著者
重松 峻夫 金 勇一 金 丁竜 安 允玉 神代 正道 日山 與彦 AHN Yoon-Ok KIM Chung Yong MASAMICHI Kojiro KIM Yong Il
出版者
福岡大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1988

在日韓国人の肝がん死亡率は日本人に比べ男で約3倍、女で約2倍ほど高率である。在日韓国人における肝がん死亡率の高まりの原因を明らかにすることは肝がん発生要因の解明につながるものであり、日本人、在日韓国人及び韓国の韓国人の肝がんについて、疫学的ならびに病理学的見地より3集団間の比較研究を実施し次のような成果を得た。1.記述疫学的比較研究。1)韓国の肝がんり患率の推定。韓国の死亡診断書の約65%は医師以外の者が交付しており、死亡統計にもとづくがん死亡の解析は韓国では不可能である。韓国の肝がん発生状況を明らかにするため、政府職員・教員を対象とした医療保険制度の資料を活用した。この保険の加入者は全人口の10%におよび、性別年齢別人口も全国人口のそれと大差ない。肝がんの診断確認のために、全国各地の医療施設での検査デ-タの収集も実施した。1986年7月ー1987年6月の期間の35ー64歳に限った年齢訂正肝がんり患率(年10万人対)は男で74.8、女で15.6と推定された。1984年の日本の肝がん推定り患率に比べて男で1.6倍、女1.7倍高率であった。2)在日韓国人の肝がん死亡率とB型肝炎ウイルスに関する研究。文献調査の結果、在日韓国人の血清HBsーAg陽性率は男で約10%、女で約5%と推定され、韓国における陽性率と大差ないと考えられた。大阪府在日韓国人の肝がん死亡率をHBsーAg陽性肝がんと陰性の肝がんに分けて、日本人との比較を行ったところ、在日韓国人の肝がん死亡率はHBsーAg陽性及び陰性肝がんの両者で同様に高まっていると推論された。3)記述疫学研究のまとめ。在日韓国人の肝がんリスクの高まりは、一部本国における高いり患率を反映しているものと考えられる。しかし、在日韓国人男性では、本国よりさらに高い肝がんのリスクを有していると考えられる。さらにこの高まりは本集団におけるB型肝炎ウイルスの高い感染率では十分に説明されるものでない。福岡県の在日韓国人を対象として、飲酒、喫煙、輸血歴など肝がんの危険因子と考えられる生活習慣要因の状況を現在調査中である。2.肝がんの症例対照研究。日本人、在日韓国人及び韓国韓国人の3集団で、肝細胞がんの発生要因の関与度合いを比較検討するため病院内症例対照研究を実施した。B型肝炎ウイルス及び飲酒は、3つの研究で一致して、肝細胞がんの発生と関連していることが認められたが、関与の度合い(人口寄与危険)は3集団間で著しく違っていた。日本人及び在日韓国人の肝細胞がんの20%前後はB型肝炎ウイルス感染によるものと推定されたが、韓国の肝細胞がんでは約70%と推定された。一方、過度の飲酒は日本人、在日韓国人の肝細胞がんのそれぞれ約30%と40%を説明すると考えられたが、韓国の場合、10%程度であった。日本人の研究では喫煙との関連を示唆する結果が得られたが、量・反応関係は認められず今後の検討課題として残される。日本人、韓国内韓国人の研究では他の要因についても調査したが、両研究で輸血歴との強い関連を認め、また韓国人の研究で肝疫患の既往歴との関連が観察された。現在問題になっているC型肝炎ウイルスが3集団の肝細胞がんにどの程度関与しているかは非常に興味あるところであり、今後検討する予定である。3.肝がんの病理学的比較検討。日本人、在日韓国人及び在韓韓国人の肝細胞がんの病理組織標本にもとづく比較検討を行ったが、3集団間で肉眼的ならびに組織学的に特異な差を認めなかった。3者とも結節型肝がんが主体を占め、肝硬変合併率も50〜60%と大差なかった。また合併肝硬変も乙型が大多数であった。しかしHBs-Ag陽性率は日韓で大きな違いが認められた。日本人、在日韓国人では20%前後の陽性率であったが、韓国の症例では75%がHBs-Ag陽性例であった。
著者
内尾 英一
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

結膜炎をヒトに生じる型に対して,ガンシクロビルの有効性を検討した。A549細胞の培養系とアデノウイルス3, 4, 8, 19aおよび37型を用いた。さまざまな濃度に希釈したガンシクロビルをアデノウイルスに24時間作用させた。7日間培養後に定量PCR法でアデノウイルスDNAを測定した。細胞毒性はCC50,抗ウイルス作用はEC50によって評価した。ガンシクロビルのCC50は平均で212 microg/mlであり,EC50は2.64~5.10 microg/mlであった。有意な抑制作用はすべての型にみられた。今後ガンシクロビルがアデノウイルス眼感染症の治療薬として使用する可能性が示された。
出版者
福岡大学
巻号頁・発行日
2018

2017
著者
上野 勝美 黒田 潤一郎 宇野 康司 鎌田 祥仁 久田 健一郎 原 英俊 荒井 章司 チャロエンティティラット タスィニ チャルシリ パンヤ カンパヴォン ケオ ヴィライカム カムセン チャンタヴォンサ ホントン 宮東 照
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

東南アジア主要部(タイ,ラオス)において,後期古生代-前期中生代のパレオテチス海洋プレートの沈み込みに伴う島弧-縁海系の発達・崩壊過程を,野外調査および層序学,地質年代学,岩石学,古地磁気学,等の手法を用いて検討した.パレオテチス海洋底の沈み込みで形成された火山弧と背弧海盆閉鎖域は,タイ南東部-北部(クレン,ランパン,チェンライ,ナン地域)からラオス北部(ウドムサイ,ルアンナムタ地域)へと連続することが初めて示された.その結果,当該時期の東南アジア主要部には,現在の日本列島と同様の,巨大海洋のプレート沈み込みとそれにより形成された島弧火山帯,その背後に発達した背弧盆という古地理が復元できた.
著者
黒木 政秀 白須 直人
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

光線力学療法とは、生体に無害な特定波長の光を光感受性物質に照射し、惹起した光化学反応で細胞を傷害する方法で、低侵襲性で安全性が高い。近年報告されたフタロシアニン系化合物IRDye700DXは、生体透過性が高い690 nmの近赤外光線(NIR)で励起される極めて有望な光感受性物質であるが、正常細胞にも光毒性が及ぶという問題は残されている。我々は、腫瘍関連抗原CEAに特異的なヒトモノクローナル抗体C2-45をIRDye700DXで標識した複合体(45IR)を作製し、胃癌や大腸がんなどのCEA産生癌細胞を殺傷する光免疫療法(PIT)の開発を試みた。これまでCEA産生癌細胞に対するインビトロでの増殖抑制効果は確認できているため、今回はインビボでの抗腫瘍効果を検討した。ルシフェラーゼ遺伝子を恒常発現するCEA産生癌細胞を背側両体側に皮下移植したヌードマウスに対して45IRを腹腔内投与し、その24時間後、インビボ・イメージング装置IVISによる蛍光観察によって45IRの腫瘍への集積を調べた。次いで、右体側の腫瘍に対してNIRを照射することでPITを実施した。その結果、45IR投与群では、光照射終了直後においても、非照射の左側腫瘍と比較して顕著な細胞死が認められた。また、腫瘍径の計測からも、45IR投与マウスの被光照射腫瘍にのみ有意な効果が認められた。以上より、45IRを用いたPITはCEA産生癌細胞に対して極めて選択的かつ強力な抗腫瘍効果を示すことが判明した。この方法が実用化できれば、腕バンドやコタツ型のNIR照射装置を開発し、手術や化学療法あるいは放射線療法で根治できなかった患者さんの癌細胞、とくに血中やリンパ管に流出して転移の原因となる癌細胞に対して、仕事中や就寝中の治療で根治できることが期待される。