著者
奥野 充
出版者
福岡大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

過去の火山噴火は,噴火堆積物と火山地形に記録されている。この研究において,(1)地形図や空中写真による地形観察,(2)地形・地質学的調査および試料採取,(3)放射性炭素年代測定などから,高分解能な噴火史を編年することを試みた。調査対象としては,大雪山旭岳,北八甲田,焼岳,由布岳,霧島,姶良カルデラなど,北海道から九州までの諸火山である。まず,テフラ直下の腐植土の放射性炭素年代がテフラの噴出年代を示すことを利用してこれらの火山の高分解能な噴火史を構築した。最近約1万年間の完新世では,放射性炭素年代から較正された暦年代を用いて議論する必要があり,ウイグルマッチング法による年代推定が有効であると考えられる。そこで,テフラを挟在する泥炭層を測定試料として,この方法が適用可能であるかも検討した。霧島火山についての予察的結果では,腐植土から推定された年代とも良く一致しており,その適用の可能性が示唆された。また,大雪山旭岳では,泥炭層中に4枚のガラス質火山灰層を識別し,EPMAによる火山ガラスの化学組成からB-Tmなどの広域テフラに対比した。テフラと同時に泥炭層も採取しており,この火山でも泥炭層の放射性炭素年代を用いたウイグルマッチング法を検討する予定である。この研究で確立された噴火史の高分解能な編年は,火山噴火の中・長期予測の基礎資料としてだけでなく,考古遺跡の編年や古環境復元など,隣接した分野の研究にも活用されることが期待される。
著者
林 政彦 白石 浩一
出版者
福岡大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

対流圏エアロゾルの観測に適した気球搭載型粒子計数装置を開発した。この装置を用いて福岡上空の大気エアロゾルの成層圏までの鉛直分布観測,偏光解消度観測を含む3波長ライダーによる光学特性の観測を実施し,その比較解析を行ってきた.福岡上空の境界層から成層圏までのエアロゾルの粒径分布・濃度その変動についての情報を得ている.これまでのところ,ライダーによって観測される自由対流圏の偏光解消度の高い層が粒径数マイクロメータ程度の巨大粒子をふくむエアロゾル群として存在していること,自由対流圏の非球形粒子を含むエアロゾル層が,相対湿度が70%を超えるような比較的湿った状態になっていることが多いことなどが明らかになった.無人航空機を用いて,中央九州高原部のエアロゾル鉛直分布観測を久住高原で,中国大陸から輸送されてくる混合層および自由対流圏最下層のエアロゾルの粒径分布観測およびサンプル回収を北部九州雷山および唐津湾上空で行った.北部九州で春季に採取したエアロゾル粒子のSEM-EDXの組成分析により個別粒子の存在状態の解析を行った.これらの知見と,衛星からのリモートセンシング情報の解析結果との比較検討を行っている.その結果,これまでに,日本上空に輸送されてくるまでの間に鉱物粒子と海塩成分と内部混合した変質粒子が,雲過程を経ないで形成されるのは,混合層が発達するとともに,混合層温度が海面温度より低い状態にあることが明らかになった.この結果から,海面による加熱と水蒸気,海塩粒子にともなう海上霧の形成が鉱物-海塩混合粒子形成を促進する重要な条件になっていることが示唆された.
著者
上枝 美典
出版者
福岡大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

本研究は、現代認識論(分析系知識理論)において現在脚光を浴びている「徳認識論」(virtue epistemology)の理論的整備の一助として、「徳」という概念の明確化を計るものである。方法論は以下の通りである。まず、「徳」概念を、そのルーツである西洋古典思想の文脈の中で分析し、その主要な要素を抽出する。次に、現代認識論における「徳」概念を、同様に、現代認識論の文脈の中で分析し、主要素を抽出する。次に、双方の主要素を比較することによって、二つの文脈における「徳」概念の共通性と相違点を明らかにする。最後に、それらの相違が持つ哲学的、哲学史的意味を考察する。西洋古典思想における「徳」概念の分析として注目すべきは、13世紀のキリスト教神学者トマス・アクィナスの主著『神学大全』第2部第55問題「徳の本質について」の論述である。その論述を総合すると、「徳」(特に、人間的な徳)とは、人間に固有な理性的能力をして、善い結果を生み出すように働かせるような、一種の習慣である。一方、現代認識論における「徳」についてであるが、「徳」概念の理解に関して、大きく二つのグループが存在する。この二つのグループの関係については、本研究の計画段階では、未だ明らかでなかったが、研究を進める中で、それぞれ異なる二つの徳認識論と見なすべきではないかということが、次第に明らかになった。一つのグループは、Ernest Sosaに代表されるグループであり、Alvin Plantinga,Alvin Goldman,John Grecoらが、主要なメンバーである。彼らは、様々に変化する状況において、安定して真なる信念を生み出すような能力のことを「徳」と呼ぶ。もう一つのグループの代表はLinda Zagzebskiであり、アリストテレス的な行為者の動機を重視した「徳」理論を、そのまま認識論に持ち込もうとする。これら双方は、古典的徳理論の二つの解釈可能性を示すものとして興味深い。
著者
三宅 吉博 田中 景子 清原 千香子 佐々木 敏
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

九州沖縄母子保健研究のデータを活用し、アレルギー疾患のリスク要因及び予防要因を解明した。特に、遺伝的要因と環境要因との交互作用について検討した。9編の英文原著論文が国際学術誌により受理された。
著者
鍛治 静雄
出版者
福岡大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

空間を滑らかに変形してゆくときに見られる対称性は,その空間に対するリー群の作用によって記述される.その様子は,リー群そのものやリー群が作用する空間の不変量を通して調べることができる.本研究では特に,その幾何学的な不変量と代数的な構造が綺麗に対応している,旗多様体と呼ばれる種類の空間について,代数的位相幾何学の手法を用いた具体的な計算を通してその詳細を考察した.
著者
田中 宏暁 清永 明 熊原 秀晃
出版者
福岡大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

初年度に無線式の心音測定装置(マイクロフォン並びに記録装置)を開発し、明瞭な心音のサンプリングが可能な装置を開発した。当初、研究計画に予定されていた「音源分離法を用いたノイズ除去装置の開発」は、研究期間を通して基礎研究を実施してきたが、前年度に引き続き開発に困難を極め装置作成にまで到達できなかった。そこで、運動中のノイズ除去に関しては、心音サンプリングのレンジ(周波数域)を絞り、記録する周波数域を限定的にした事により、自転車運動中の体動によるノイズの混入が阻止できる装置が開発できた。さらに心音検出機能を向上させる為に、心電図のR波をトリガーとした検出プログラムに改良を加えたことにより、これ迄以上に明瞭かつ確実な心音サンプリングが可能になった装置が開発された。また、ワイヤレス式の心音自動解析装置の試作器を開発し、実際の健康づくりの現場にて本装置による運動処方としての有用性を検証したところ、有酸素能が向上することが確認された。研究計画に予定されていた音源分離法を用いたノイズ除去装置を用いる事無く自転車運動中に明瞭な心音測定が可能となった。本研究にて開発したプログラムと手法の一部に関して特許を申請した。
著者
北坂 尚洋
出版者
福岡大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

これまでの国内での議論や外国の立法の研究をもとに、離婚事件およびその他の家事事件の国際裁判管轄権の日本の基準について、立法提言をまとめることが本研究の目的である。研究初年度となる2009年度には、離婚事件、親子関係事件、相続事件等の家事事件の国際裁判管轄権に関するわが国の現状をまとめた。そして、研究最終年度となる2010年度には、前年度の研究をもとに、特に、アメリカ抵触法に関する概説書を翻訳して、アメリカ法の状況を明らかにしたほか、子の監護者等の変更の国際裁判管轄権や婚約破棄に基づく損害賠償請求事件の国際裁判管轄権に関する研究を進めた。
著者
田中 守 進藤 宗洋 田中 宏暁 檜垣 靖樹 明石 光史
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

コンタクトスポーツとりわけボールゲームにおける筋損傷とゲーム中の活動量や活動特性および無気的パワー・筋力の間欠的発揮能力との関係を検討した。ラグビー競技、ハンドボール競技、サッカー競技のいずれにおいても、試合後の筋損傷は試合中の活動量が多くまた貢献度の大きい選手ほど大きくなる結果を得た。また、間欠的スプリント走での速度低下が少ない選手は試合での活動量と貢献度ともに高く、筋損傷も大きい結果となった。さらに、ボディコンタクトを入れた間欠走では、有酸素性持久力に加え筋力の重要性が示唆された。
著者
宮本 新吾 目加田 英輔 園田 顕三
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

卵巣癌は婦人科悪性腫瘍の一つで、タキサン系・プラチナ系抗癌剤によりQOLの改善を認めるものの、その予後は未だ不良である。新たな抗癌剤開発が困難な現状では、卵巣癌に対する標的治療薬の開発が切望されている。しかしながら、現在まで、EGFRを中心にして分子標的治療の開発が行われているが、有効な卵巣癌治療薬は開発されていない。そこで、我々は、卵巣癌への新たな分子標的治療の開発を目的に、本研究において標的分子の同定およびその特異的抑制剤を用いた治療開発を行った。卵巣癌腹水中にはLPA(Lysophosphatidic acid)が高値に存在し、癌増殖活性化因子として作用していることが報告されている。LPAはEGFRリガンドを分泌型に変換し卵巣癌細胞増殖の中心的役割を担うEGFRを活性化する。したがって、EGFRリガンドの標的分子の可能性について明かにする目的で、腹水中および卵巣癌組織中ではEGFRリガンドの発現を検討した。その結果、HB-EGFが他のEGFRリガンドに比較し著明に発現が亢進していることを明らかにした。また、1)HB-EGFの発現を抑制すること2)HB-EGF分泌型にすることを抑制することで卵巣癌細胞のヌードマウス上での腫瘍形成が著明に抑制されることを明らかにした。これらの結果から、HB-EGFは卵巣癌における標的分子であるあることを同定した。さらに、HB-EGFの特異的抑制剤であるCRM197投与がヌードマウス上での腫瘍形成を抑制することを証明した。このことから、無毒でありヒトへの投与可能であるCRM197は、卵巣癌分子標的治療薬として臨床応用可能であることを明らかにした。
著者
杉山 哲男 長井 孝一 久田 健一郎 上野 勝美
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

平成11年度,12年度で合計2回,延べ約50日間,雲南省西部で野外調査を実施し,多くの地質学的新知見を得るとともに,多数の化石,岩石試料を採集した。これまでに明らかになったことを要約すると,1)Baoshan地塊の上部古生界は,温暖な下部石炭系,氷河起源の異常礫(ダイアミタタイト)を含む寒冷な砕屑岩相と浅海-陸上噴出の玄武岩からなる下部ペルム系,温暖だが単純な動物相からなる中部ペルム系から構成されている。2)Baoshan地塊のゴンドワナからの分離は,Woniusi玄武岩の噴出時期に相当し,前期ペルム紀であることを化石によって確認した。3)Baoshan地塊の下部石炭系化石群は,中国南部や西欧の動物群と共通要素を持ち,下部ペルム系には小型単体サンゴなどからなる寒冷な環境に適応しうる動物群が産出する。また,中部ペルム系には温暖なTethys海要素と共通な化石群を含むが,東南アジアのSibumas地塊や東アジアのCimmerian陸塊と共通の化石も多く含まれている。4)これらを総合すると,石炭紀前期には温暖な陸棚浅海に位置していた同地塊は,石炭紀後期にゴンドワナ大陸とともに寒冷化,旋回南下し,ペルム紀前期に寒冷域でリフティングによってゴンドワナから分離北上を開始し,ペルム紀中期には中緯度付近まで北上していたというシナリオが,化石,堆積相からも強く示唆されることが明らかになった。5)西側に隣接するTengchong地塊の上部古生界についても,Baoshan地塊と共通要素を持っていることが明確になった。6)東隣のChangning-Menglian縫合帯には,海山型の炭酸塩buildupsが多数分布しており,今後詳細な検討が不可欠であることが明らかになった。
著者
福島 哲仁 永幡 幸司 嘉悦 明彦 守山 正樹
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

バリアフリーの視点で環境を整えることによって、痴呆を患っても、ユーモアのセンスと豊かな人間性が養われる事がわかった。デイケアにより、初期の不十分な状況の下で生じた不安または混乱から起こったトラブルが消え、彼ら自身と環境への自信が生まれていた。家族へのインタビューから、痴呆を患うことで、痴呆高齢者の隠された人間性が表に現れてくることが明らかになった。痴呆高齢者とその家族双方の「記憶障害」に対する受容は、家族間に生じるトラブルを防ぎ、痴呆高齢者の豊かな人間性を発展させる上で重要なプロセスと考えられた。ケアスタッフの視点、役割は、痴呆高齢者と家族の間のこのダイナミックなプロセスの進行にとって非常に重要である。幸福に今を生きることは、痴呆高齢者にとって重要であるが、将来への希望や豊かで人間的な生活への期待がさらに重要であることがわかった。痴呆高齢者の生活環境の改善について考える時、音の効果を無視することはできない。痴呆高齢者の生活環境に対する音の効果を明らかにするために、どのような種類の音が回想されるかを調べた。デイケアのリーダーが、擬声語を書いた大きなカードを示し、その擬声語を声を出して数回読み、その間に何を想像しているかを自由に話してもらった。この結果わかったことは、(1)一般的に、鳥の鳴く声や雨の音など自然にある音は、性を問わず擬声語から容易に回想される。(2)台所仕事の音は、女性によりよく回想される。(3)昔の生活習慣に関する音は、はっきりと回想される。(4)それぞれの生活史に関わる音は、深い感情を呼び起こし、鮮明に回想される。これらの結果は、痴呆症を患う高齢者が、痴呆を患う前に身近にあった音を容易に回想することができることを示している。
著者
池添 昌幸
出版者
福岡大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

用途転用した公共建築物は運用後に利用要求が高度化し、空間改変が行われていることを実証するとともに最適化の条件を示した。さらに、公共建築物の民間利用によるストック活用事例を検証し、3つの活用パターンを明らかにした。最後に、公共建築物の新たなストック活用手法として、時間別の併用利用型施設の可能性を提示した。
著者
能田 均
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

生命科学の進展に果たす蛍光分析の役割は大きいが、その色素には旧来より大きな進歩はない。本研究では、生体と相互作用しにくく、丈夫で、水溶性に富み、高蛍光性の色素の開発を目的とした。開発した新規色素・糖化ローダミンは、従来にはない"生体分子と相互作用しにくい"という特性を持っている。この色素はアミノ基のラベル試薬として用いることが可能で、アミノ酸、ペプチド、タンパク質等の蛍光ラベル化が可能であった。今後の色素設計のモデルとなりうる。
著者
守山 正樹 我妻 則明 齊場 三十四 福島 哲仁
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

研究の最終年度として、触知実験の手順をまとめ、実習書を試作した。同時に、触知などの保有感覚を生かして社会復帰をする過程を総合的に把握するため、中途失明を克服し、サラリーマンとして働いているS氏の事例研究を試みた。特に注目したのは、社会復帰後に失明前の仕事だけでなく、ボランティア活動までも行っているS氏のコミュニケーションである。2001年11月にA大学医学部の医学概論カリキュラムにおいてS氏が行った授業を分析し、S氏が周囲と人間関係を築く過程の解明を試みた。「S氏の授業の進め方は、他の講師の授業に比較して、どのような特徴を持つか」を、S氏の授業が終了した直後に、自記式の評価表により、学生に評価してもらった。評価表の作成に関しては、S氏が1998、99年度にも同様の授業をした際に、学生が述べた感想や、医学概論の全授業に臨席したスタッフの印象を参考に作成した。11個の評価項目のうち最初の三評価項目については、S氏の授業は他の授業に比較して有意な低値をとった。特に、「1、黒板を活用する」、および「2、スライドやOHPを活用する」の2項目はゼロであった。S氏の授業に際しては、S氏が職場復帰した様子を報じた新聞記事を資料として印刷し、学生に配布していたが、「3、プリントを活用する」においても、S氏の授業は4.2%と他の授業の82.1%に比較して、有意な低値とった。資料のプリントは講義後に読む参考資料と位置づけられ、プリント自体の解説をS氏が授業中には行わなかったことが、低値の原因と考えられた。4番目以降の項目については、その全てでS氏の授業は他の授業に比較して高値をとり、特に「5、全体の学生に語りかける」、「8、ひとり一人の学生に語りかける」、「9、ひとり一人の学生に問いかける」、「10、ひとり一人の学生の応答から話を発展させる」の4項目に関しては、差が有意であった。これらのことより、S氏の授業は、全体の学生に対しても、個別の学生に対しても語りかけ、問いかけることを、特徴とすることが明らかになった。
著者
中西 裕二 白川 琢磨 末成 道男 島村 泰則 仲川 裕里 謝 茘 吉田 光宏 李 鎮栄 聶 莉莉
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、日本の文化人類学会において検討される機会が少なかった、自社会研究としての文化人類学(Home Anthropology)の可能性を探るものである。研究は1)理論研究、2)東アジアにおけるHome Anthropologyの位置づけに関する比較研究、3)日本における現地調査研究を軸に進められた。これらの研究成果は以下の通りである。1)文化人類学を異文化理解の学と規定しても、それを他者性の理解という枠組みで把握する限り、Home Anthropologyは一般人類学に大きく貢献可能な学と言える。とくに自社会をフィールドとした文化人類学的研究は、従来の、海外をフィールドとした文化人類学的研究と比べ、他者との関係性がつねに問われる研究領域である。従って、他者性と他者理解を試みる文化人類学において、自社会研究の文化人類学は有益な理論的示唆を与えるものである。2)東アジア地域のHome Anthropologyは、それぞれの国家の近代史との関係の中で生成されている。従って東アジアにおけるHome Anthropologyは、各国により相対的な学問領域とも言え、それを一概に「東アジアのHome Anthropology」と範疇化することには無理がある。3)日本におけるHome Anthrologyは、日本文化研究という近代の枠組み、そして学のイデオロギー性を明らかにするために、非常に有効な手段と言える。
著者
山内 辰郎 阿部 フミ子
出版者
福岡大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

キョウチクトウ(Nerium indicum Mill.)葉には強心配糖体が高濃度に含有されており、葉を食草とするキョウチクトウスズメガ(Daphnis nerii L,以下D.nerii)の幼虫は強心配糖体を摂取し蓄積する可能性があるにもかかわらず、体色は明らかに保護色を呈している。幼虫が強心配糖体をいかに処理しているかを知るために、葉、幼虫、および幼虫の糞(以下frass)について強心配糖体の比較検討を行った。葉、幼虫、frassの抽出エキスのHPLCによる比較を行い、さらに各々のエキスについて通常のカラムクロマトを行って含有強心配糖体の単離、同定を試みた。葉においては主配糖体であるoleandrin gentiobiosideをはじめ、odoroside A,adynerin,D^<16>-adynerinなどがgentiobiose基を結合したtriosideとして得られたが、monosideとしても比較的少量のoleandrin,adynerin,odoroside A,D^<16>-adynerinなどが得られた。葉におけるoleandrinとadynerinの比は明らかにoleandrinが主配糖体であることが確認された。これに対し、幼虫およびfrassでは配糖体はすべてgentiobiose基が加水分解を受けてmonosideに移行している。またoleandrinは16位アセチル基も鹸化されてdeacetyloleandrinに変化していることが、oleandrinの減少、deacetyloleandrinの増加から明らかになった。この結果、幼虫およびfrassエキスでは、主配糖体は非活性のadynerin,次いでdeacetyloleandrinでありoleandrinは少なく、とくに幼虫のエキスではHPLCにおいても非常に低いピークが観察されるのみであった。したがって、虫体内の強心配糖体は質的にも毒性の弱い構成と考えられ、幼虫にとって保護色は必要と推定された。Frassから得られたadynerinの収量は異常に高い値を示し、幼虫におけるadynerinは、キョウチクトウ葉の成分中もっとも高い濃度で虫体から検出されたursolic acidとともに、その虫体における意義についてさらに検討する必要がある。