著者
伊藤 聡
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は、真福寺・西福寺・高幡不動を中心とする仏教寺院における〈神道灌頂〉の資料調査を行い、その儀礼世界の復元を目的としている。真福寺調査においては、『麗気記』及びその注釈と御流神道の灌頂関係聖教及び印信類の調査を、連携研究者大東敬明と協力して行った。ただ、資料によっては修補が必要なものがあり、修理の完成を待ってから調査を進めることになったため、進捗が遅れている。真福寺との関連で、真福寺旧蔵書などがも伝来する覚城院(香川県三豊市)の調査も行い、室町時代初期の神道灌頂関係の印信や聖教を見出した。その成果の一部は、覚城院資料の調査報告会にて発表した。西福寺については、連携協力者中山一麿と協力して、神道灌頂の資料と関連する密教聖教の調査を行った。高幡不動については、調査の前提として、目録のデータ入力を業者に依頼したが、完成が年度末になったため、本格的調査は来年度以降となった。上記のほか、高野山大学図書館(和歌山県高野町)、木山寺(岡山県真庭市)に、富士市博物館においても調査を行った。高野山大学図書館調査では、複数の室町時代の御流神道系灌頂資料を見出し、書誌調査を行った。木山寺では、江戸時代の高野山における御流神道の中心寺院だった日光院旧蔵資料が多く見出され、それの整理と書誌調査を行った。富士市博物館では、同博物館所蔵東泉院資料の中から『大祝詞事』という、神道灌頂や中世神話に関する聖教の調査を行った。研究成果としては、8月にリスボンで行われたEAJS(ヨーロッパ日本学会)において父母代灌頂という神道灌頂に関する口頭発表(「神道灌頂における宗教的心身論」)を行ったほか、3月末に刊行された中世禅籍叢刊『稀覯禅籍集 続』の中で「安養寺流と真福寺の神道聖教」という論考を発表した。
著者
神子 直之
出版者
茨城大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

水環境中の微生物が太陽光の紫外線によりどの程度影響を受けるかを、生残数とその変化速度によって定量的に評価することを目的として検討を行った。微生物の代表として大腸菌群を用い、また、光源として低圧紫外線ランプ、蛍光灯、そして太陽光を用いて様々な照射を行った。結果から数式モデルを導き、様々な照射条件における大腸菌群数の濃度変化の予測式を構築した。まず、低圧紫外線ランプによって発せられる紫外線によって不活化された大腸菌群の、蛍光灯の可視光による光回復の速度を調べ、その反応速度が従来言われていた1ヒット性1標的のモデルよりも、損傷の蓄積を前提とした多ヒット性1標的のモデルによってよりよく説明できることを示した。また、太陽光に大腸菌群を直接照射したときに不活化が進行することを実験的に確かめ、その不活化が紫外線による不活化と比べてゆるやかであり、核酸への直接的な作用以外の水中ラジカル等によるものであることを示した。また、下水処理水に対して紫外線消毒を行った場合に水環境中でどの程度光回復をするのか、大腸菌群に太陽光を照射する実験を行い、その濃度変化の速度が光回復と太陽光による不活化の積になることを示した。その結果を数式化して計算した結果、放流先の水環境の水深が大きくなるほど有害紫外線よりも光回復光が卓越し、濃度の増大が大きくなることを示した。オゾン層破壊による近紫外光の増大の影響は、現在の太陽光成分の有害性が不明確であるためはっきりとした結論を得るには至らなかったが、紫外線消毒後の放流水における光回復は照射強度に応じて増大し、現在よりも光回復量が多くなることが示唆され、衛生状態が悪化する可能性が高くなると考えられる。
著者
真柳 誠
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

漢字文化圏4国の古医籍約28000種の書誌データを調査し、定量分析した。その結果、日韓越は明代の中国南方で著された医書をモデルとし、自国化した体系を形成していたことが知られた。これは今日まで未知だった歴史現象である。当歴史観は各国で共有が可能であり、今後の相互理解と交流を進展させるだろう。
著者
真柳 誠
出版者
茨城大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

中国周縁国は過去から現在まで中国医学を受容・消化し、自国固有の伝統医学を形成してきた。これまで実施した現存古医籍の調査分析により、およその形成過程と特徴が明らかになってきた。日本・韓国とも初期は唐宋代医学全書の影響で、中国書から自国に適した部分を引用した臨床医学全書を編纂している。日本の『医心方』(984)、朝鮮の『医方類聚』(1477)などである。同時に固有の医薬も集成し、日本の『大同類聚方』(808)、朝鮮の『郷薬集成方』(1433)などが編纂された。中期は主に明代の臨床医書を引用しつつ、日本の『啓迪集』(1574)、朝鮮の『東医宝鑑』(1611)、ベトナムの『医宗心領』(1770)など自国化した医学全書が編纂される。かつ各国とも明代の各種医学全書を19世紀後半まで復刻し続けたが、そうした流行は中国にない。また漢字交じり自国語訳本も周縁国に共通する現象だった。一方、日本だけに特異的な現象が見出された。すなわち中国医学古典と、それらの中国における研究書が日本では100回以上復刻されたが、朝鮮では1点、ベトナム・モンゴルにはひとつもなかった。また中国医学古典の日本における研究書が江戸時代だけで760種ほど現存するが、朝鮮におけるそうした研究書は1点のみ、ベトナム・モンゴルにはひとつもなかった。なぜ日本だけかくも中国医学古典を研究したのだろうか。これは日本のみ島国という因子に由来しよう。つまり日本は中国との往来が極めて困難につき中国人から直接学べず、書物のみを師とし、難解な古典まで自ら研究した。かつ日本だけ中国との戦争や被支配の経験がなく、その強い影響を意識的に排して自国文化を強調する必要がなかった。それゆえ中国文化の深くまで親近感を持ち、古典を研究した。他方、朝鮮・ベトナムでは中国臨床医書は利用するが、臨床にあまり関係もない別国の古典研究などありえなかっただろう。他分野の漢籍でも類似現象が見出される可能性は高い。
著者
安江 健
出版者
茨城大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

前年度の研究では、羊に山羊を新たに加えた場合、1放牧期間程度の期間では、両者は1つの群を形成するには至らず、明確なLeader-Follower関係も成立しなかった。そこで本研究では、混群期間の違いが羊・山羊群の放牧行動に及ぼす影響を明確にするため、混群として管理された期間が1年以上の羊・山羊群(長期群)と、混群として管理された期間が3ヶ月以下の羊・山羊群(短期群)を同一の野草地で観察し、両群における羊-山羊間の社会行動や移動順序を比較検討した。得られた結果は次の通りである。(1)羊間、山羊間の個体間距離の平均値はそれぞれ4〜8m、8〜10m、13〜17mと、両群とも全観察を通してほぼ一定で推移し、いずれの群および観察日においても種間の個体間距離は種内のそれより有意(P<0.01)に大きかった。(2)羊-山羊間の敵対行動は、長期群ではいずれの観察日も60回程度で一定し、威嚇、回避などの非物理的敵対行動が常に50%以上を占めていたのに対して、短期群では観察の進行に伴って頭突きや押し退けなどの物理的敵対行動が増加し、敵対行動の総数は35回から119回に急増した。(3)羊-山羊間の敵対行動以外の社会行動では、子供が仕掛ける遊戯行動および親和行動と考えられる行動が両群において観察されたが、いずれも長期群が短期群に比べて多い傾向にあった。長期群では探査行動、乗駕および角かじりも観察された。(4)強制的移動時における移動順序は、長期群では試験期間を通して山羊が先頭であり、群全体での反復性も高かったのに対して、短期群では山羊の移動順序が安定せず、群全体での反復性も低かった。(5)以上の様な結果から、1年以上混群として管理されている羊・山羊群では、混群期間の短い群に比べ、より社会的に安定した群が形成されているものと考えられた。また、この様に社会的に安定した群では、山羊のLeader-羊のFollower関係が確立され得る可能性が示唆された。
著者
鈴木 智也
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

自然現象を生み出す背景ダイナミクスをできるだけ破壊しないように時系列データを観測し,このデータよりダイナミクス(法則性)を学習することで予測力の高い時系列予測モデルの構築を目指した.しかし予測誤差を完全には排除できないため,これを予測リスクとみなし,事前の推定方法や緩和方法を検討した.このように将来予測およびリスク管理を両輪とするアプローチは金融工学に応用できるため,決定論的予測モデルに基づく新しい非線形金融工学を提案した.
著者
Kai Noriyuki
出版者
茨城大学
雑誌
五浦論叢 : 茨城大学五浦美術文化研究所紀要
巻号頁・発行日
vol.12, pp.A23-A28, 2005-11-30

フィレンツェ近郊スカンディッチのサン・ジュスト・ア・シニャーノ聖堂身廊右壁に現存する板絵≪磔刑のキリストとマグダラのマリア≫(図1)は、サンティ・ディ・ティート(1536-1603年)作聖トマス・アクイナス礼拝堂祭壇画(図2)に登場する磔刑像を原型とし、その後の画家のさまざまな磔刑図(図3,4)とも類似している。但し両肩や両腕に比して小さなキリストの頭部などには、助手の不十分な技量が見てとれる。ここでは本作を画家の工房作とみなし、図版を初公表する。作品の来歴は不明だが、マグダラのマリアがそうであったように、回心した「罪の女」たちの収容施設等の出自を推測することができる。
著者
池谷 文夫
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

(1) 期皇帝権時代(おおよそ950-1150年), (2) 後期皇帝権時代(おおよそ1150-1350年), (3) 晩期皇帝権時代(おおよそ1350-1550年)の皇帝及び皇后の機能・権力を, 皇帝夫婦の巡幸や両者による文書発給事例に即し具体的に検証した。特に, 「皇帝」と行動をともにした「皇后」について, 国王・皇帝証書等の発給文書への関与や, 自己の固有財産(寡婦資産)の寄進等に関して, そして「皇后戴冠」後の「后」の帝国における位置・立場に関して, (1), (2), (3)期における具体例を史資料の読解・分析を通じて解明した。これらの研究成果をまとめて約18万字に及ぶ「研究成果報告書」である『神聖ローマ帝国史の研究神聖ローマ帝国皇后列伝-共治者, 皇后・王后から妃へ-」』を完成させた。
著者
鈴木 敦 菅谷 克行 鈴木 俊哉
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本課題では、同定が困難な甲骨文字を含む拓本資料の画像データベースを構築した。現在、甲骨文字研究においては『甲骨文合集』が一般に利用されるが、同書の印刷品質は再版以降低下しており、文字同定の典拠とする資料として難点がある。そこで、同書の素材となった旧著録のデジタル化を行った。また、ネットワークを通じた参照利用を円滑とするため、近年人文情報学の分野で画像データベースの公開手段の標準となりつつあるIIIF方式を採用し、課題代表者が旧著録原本を所蔵しているものについては一般公開を開始した。『甲骨文合集』と旧著録の対応関係については確認ができたものから順次公開していく予定である。
著者
中村 彰宏
出版者
茨城大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2017-08-25

本研究は、従来の化学的、物理化学的手法では煩雑な操作と時間を要した多糖類の分子構造を原子間力顕微鏡(AFM: Atomic Force Microscope)を用いて短時間且つ高精度に解析し、同時に多糖類の食品における物性機能を解析することで、分子構造と機能の相関図を作成するものである。本年度の研究では、世界で広く栽培される豆類を入手し、エンドウ豆、インゲン豆、並びにレンズ豆から豆類多糖類を抽出する条件の検討を行った。まず、豆を水浸漬して膨潤し、内皮を除去した後、ホモミキサーで高速撹拌して豆乳を得た。豆乳を遠心分離して多糖類を含む繊維質(細胞壁成分)を回収した。この食物繊維を原料にpH3-9の条件下で多糖類の抽出を行った。多糖類の抽出は、繊維に混在する蛋白質の性質の影響を受けるが、pH4-5, 110-120℃の高温加圧条件下で、繊維あたり30-45%の高収率で抽出できることを見出した。また、AFMを用いて抽出した豆類多糖類の分子構造の解析を行った。本年度は、エンドウ豆多糖類とインゲン豆多糖類のAFMによる構造解析の条件を確立し、分子構造に関する新しい知見を得た。エンドウ豆、インゲン豆ともに大豆と同じく多分岐構造を持つ。エンドウ多糖類は大豆多糖類と同程度の分子サイズであり、直径50nm、推定分子量30万であった。一方、インゲン豆多糖類は直径110nm、推定分子量120万の巨大分子であると推定された。更に、インゲン豆多糖類は巨大な多分岐多糖類に加え、直鎖構造を持つ多糖類も混在し、極めてヘテロな構成を持つことが明らかになった。現在、レンズ豆多糖類のAFMによる構造解析を進める同時に、これら豆類多糖類の物性の解析、並びに、食品での物性機能として乳酸菌飲料の乳蛋白質の凝集抑制と分散機能について解析を進めている。
著者
一政 祐輔 岡田 重文 東郷 正美 上野 陽里 松原 純子 石田 政弘
出版者
茨城大学
雑誌
核融合特別研究
巻号頁・発行日
1987

本研究は核融合実用炉が運転される際にヒトがトリチウムの放料線によって受ける被曝線量を最小限に低減させる方法を確立することを目的とした. 成果の概要を以下に述べる.1.トリチウムガス(HT),トリチウム水(HTD)からのトリチウム(T)の体内取り込み及びその阻止法の解明に関する研究では, (1)ラットがHTに暴露された時, 血中T濃度は暴露後2時間で最高値に達し, その後2.9日の生物学的半減期で減少するが, クリンダマイシンを投与することによってこの半減期は1.7日になることを明らかにした. (2)ラット, ヒトの糞便から分離した微生物の中からHT酸化活性を持つ菌について抗生物質に対する抗菌性を調べたところ, クリンダマイシンが強く, 他にリンコマイシン, エリスロマイシン等であることをみいだした. (3)HTOを投与したラットに断続的にリンゲル液, グルコース液を点滴してラットのT濃度の変化を調べた. リンゲル液やグルコース液の点滴は尿中のTの減少を促進し, 25日目では対照区の濃度の10%までに低下させることが出来た. 75日目の組織中T濃度及び組織結合型のT濃度も減少がみられた(一政・秋田).2.農水畜産物の食品のTの許容濃度を試算する為の研究では(1)マウスの実験データに基づきモデル計算式を作った. これによりTによる線量の推定が可能になった. このモデルの正当性を検証するにはさらに種々のR値をもつ食品を長期間投与する研究が必要であるとの結論に達した(石田・斉藤). また尿中T濃度をTのリスク評価に於ける指標とするのは適当であることを追証し(松原), 組織結合型T濃度の指標には体毛中T濃度で推定し得ることを示した(武田). 日本人のTのリスクを評価する際には日本人のバックグラウンド値が必要になるが組織結合型Tは肝で750pCi/l,筋では600pCi/lであること(上野), 東京の飲水T濃度はほぼ0.47〜80.3pCi/lの範囲であった(東郷). 以上のように本年度の研究計画は一応達成された.
著者
安藤 寿男 七山 太 近藤 康生 嵯峨山 積 内田 康人 秋元 和実 岡田 誠 伊藤 孝 大越 健嗣
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

日本各地の白亜系~現世カキ化石密集層や現生カキ礁において,産状や堆積構造の観察,カキ類の形態・生態調査から,個々の密集層や礁の形成過程を復元し,形成要因を考察した.道東の厚岸湖では現世カキ礁を含む完新世バリアーシステムの堆積史や海水準変動を復元し,パシクル沼では縄文海進初期の津波遡上による自生・他生カキ化石密集互層を認定した.また,九州八代海南部潮下帯のカキツバタ礁マウンドの地形や生態を調査した.
著者
塚原 伸治
出版者
茨城大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

(商店街の展開期に関する研究) おもに、昭和戦前期までの時期について、千葉県香取市と福岡県柳川市の中心市街地における商業がどのような事情にあったのかについて分析をおこなった。『柳川新報』(明治36(1903)年発刊)、『さはらタイムス』(明治41(1908)年発刊)という2つの地元紙を中心に、適宜各商家の所有する史料を参照しながら、商店街の「展開」期における具体的な経緯や、背景などを理解した。国が戦争へと向かう時期における商店街の対応や反応について理解が進んだが、反面、戦時中という事情から、公刊された資料のみで状況を理解することの困難さが浮き彫りとなった。また、戦中戦後期においては、旧藩主家が大きな変化を被り、市内の実業家として定着していった時期でもあるため、立花家の動向についてもより注視して理解していく必要があることが明らかになった。(商店街の現在に関する研究) 予定通りに長期調査を実施することができなかったが、インフォーマントが関東に来訪するタイミング等を利用して調査を進めた。フィールドの外部でおこなわれる商人たちの活動に予定外に立ち会うことになったことで、「シャッター商店街」言説の裏で必ずしもローカルな文脈にとらわれない商売が展開されていることが明らかになった。(成果公開) 前年度の研究成果である論文が、「商店街前夜―買い物空間の創出と商店主たちの連帯―」として、『江戸-明治連続する歴史(別冊環23)』(藤原書店、2018)に掲載された。