著者
米倉 達広 住谷 秀保 米倉 達広
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

1. 筆者らは、最近その応用が盛んとなっている仮想空間構築の方法論を、視覚、聴覚、触覚の融合方法に関する理論的基盤を確立することにより達成しようとする。本報告ではそのための主たる予備実験として、個々の感覚モードを互いに分離し、それぞれが視覚機能をどのように代行するかを調査した。このための第1段階として人間の聴覚機能に着目し、視覚機能を主体とする空間認知の感覚機能をこれに代行させることを試みた。すなわち、音響媒体を用いた3次元位置情報の提示と3次元動作情報入力を用いた3次元空間インタフェースを提案し、視覚媒体を失った場合においても整合感のあるインタフェースを用いることにより、簡単な訓練のみで十分な空間認知が可能となることを実験的に証明した。これにより、視覚メディアの空間認知機能の補助として聴覚メディアの重要性を確認したのみでなく、聴覚メディアのみによる仮想空間走査性を示唆した。2. 次に触覚提示装置を用いた空間認知方式を考案し、これによる周囲障害物までの距離感覚提示を試作した。具体的には、人間の蝕覚特性を独自の方式で計測し、そのうえで視覚情報を遮断した状態で同装置を用いて周囲障害物回避を伴う歩行実験を行った。その結果、適切なインタフェース方式を用いた場合、触覚メディアが視覚メディアの適切な代行機能となり得ることを示唆した。これらにより視覚的な障害を有する操作者や視覚機能低下者のための情報機器操作、生活環境把握の一助として、聴覚メディアならびに蝕力覚メディアが十分利用できることを主にタスクパフォーマンスを用いる方法論により確認した。3. 更に、各種の利用目的に応じた仮想空間の構築に際して、感覚統合を有効に用いた幾つかの事例を述べ、仮想空間における感覚統合の重要性とそのための方式についてまとめる。有効な仮想空間を構築する際、人間のもつ環境適応能力による感覚代行機能は極めて重要なヒューマンファクタであり、今後はネットワークインフラまでをも含めた分散仮想環境(Distributed Virtual Environment)構築に関するヒューマンファクタを調査していきたい。
著者
羽渕 裕真
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、路側に設置した配信基地局から "ブロードキャスト型光無線多値変調法" により情報配信し、取得失敗した配信情報を "車々間通信を用いたスペクトル拡散変調型ランダムアクセス法" により補間する光/電波融合通信システムを構築している。特に、ユーザ間で損失パケットを補間する誤り制御法、データの価値にしたがって配信可能距離を設定する階層型情報配信法とオンオフ信号に対応できる光無線変調法を検討している。
著者
小野寺 淳 杉本 史子 西谷地 晴美 宇野 日出生 宇野 日出男
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

比叡山西麓に位置する京都府左京区八瀬は八瀬童子会という組織をもつ。八瀬童子は天皇から特権を与えられ,明治・大正・昭和の三天皇の大喪にかかわった。皇室と比叡山との関係の中で八瀬童子の人々は独特な空間認識と歴史意識を育んだ。本研究は絵図,古文書,聞き取りから八瀬童子の空間認識と歴史意識を明らかにした。八瀬童子の空間認識は18世紀初頭に起こった比叡山延暦寺との境界争いで顕在化する。裁許の結果,比叡山と八瀬の境界が「老中連署山門結界絵図」に描かれた。地形図,空中写真などにより絵図に描かれた境界線や事物の位置を推定,現地で確認調査を行った。また絵図のデジタル画像を作成,5点の絵図の違いを明確にした。この結果,八瀬と比叡山の境界は現在の琵琶湖国定公園の西端,すなわち元禄国絵図における山城国と近江国の国境と一致した。この争論が発生した原因は八瀬や大原の集落で行われていた柴の採取にある。八瀬の人々は比叡山の聖域を越えて柴の採取を行い,京の市中で柴を売り歩いた。この日常的な経済行為が比叡山との境界争いを生んだ。しかしこの争論は天皇から特権を与えられた八瀬童子に有利な裁決が下された。これに感謝して始まったとされる「赦免地踊り」は実は11世紀中期まで遡ることができる。すなわち中世的な祭礼組織にみられる歴史意識は18世紀初頭に変質したと考えられる。
著者
猪俣 紀子
出版者
茨城大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

現在日本の女性メディアにおいてみられる「パリジェンヌ幻想」について、それがどのように形成されたのかを、歴史社会学的に分析した。明治、大正期において男性作家によって描写さていたパリジェンヌイメージ形成の担い手が女性へ受け渡されたのは戦後であった。それには、近年ファッション史において位置づけられるようになった洋裁文化の存在が大きな役割を果たしていたことがわかった。パリモードを頂点とする洋裁学校に通う女性たちは、高価で買うことのできないパリモードを、自分たちの体型に沿うよう翻案しながら衣服を制作した。女性たちはミシンを踏みながらパリジェンヌへの憧れを身体化させていったことが明らかになった。
著者
一政 祐輔 岡田 重文 東郷 正美 上野 陽里 松原 純子 石田 政弘
出版者
茨城大学
雑誌
エネルギー特別研究(核融合)
巻号頁・発行日
1986

本年度の研究成果を以下に述べる。1.トリチウムガス・トリチウム水の生体内代謝・排泄促進の解明研究では、(1)トリチウムガスのラットへの取り込みは、雰囲気の水蒸気濃度や軽水素濃度には殆んど影響されない。(2)トリチウムガスの酸化はラット腸内の嫌気性菌によるところが多いので、サルおよびヒトの糞便でも調べたところ、サルおよびヒトの糞便もトリチウムガスをラットと同程度に酸化することを見出した。(3)トリチウムガスをラットに投与する前に、嫌気性菌に作用スペクトラムを持つ抗菌剤や抗生物質を前もってラットに投与しておくと、トリチウムガスの体内酸化が顕著に抑制されることを見出した。(4)体内に取り込まれたトリチウムを排出促進するには、リンゲル液,グルコース液,KN補液の静脈内投与、およびリンゲル液と利尿剤の同時投与が効果的であり、組織結合型トリチウム濃度を著しく低下させることを明らかにした(以上、一政・秋田)。2.食物連鎖によるトリチウムの体内取り込み研究では、(1)トリチウムで標識したアミノ酸をラットに投与して組織の細胞核内および核外の蛋白質当りのトリチウムの比放射能を測定すると、両者とも略1に近い値である。(2)経口投与実験で確認する必要があるが、食品中のトリチウムで標識されたアミノ酸成分に関する限り、体内に取り込まれたトリチウムによる細胞内の線量は組織の平均トリチウム濃度に略比例することを明らかにした(以上、石田・斉藤)。3.ヒトのトリチウム代謝研究では、(1)人体および動物の組織を200〜300g焼却し組織中のトリチウム濃度を測定し得る前処理装置が完成した。(2)40献体の脳,肺,肝,腎,脾臓がサンプリングされ、その内の20献体の臓器の平均トリチウム濃度は76.6±78.9pC/l,2.83±2.92Bq/lであることを明らかにした(以上、上野)。飲料水のトリチウム濃度の測定用に約300サンプルが準備された(東郷)。
著者
中井 英一 倉坪 茂彦 藤間 昌一
出版者
茨城大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

フーリエ級数の収束問題について、1変数の関数の場合には1960年代までの研究によりほぼ解決しているが、多変数関数の場合にはまだ分からないことが多い。近年では、Gibbs現象に加え、Pinsky現象、倉坪現象が発見され、多変数フーリエ級数の複雑さがより明らかになった。一方、ガウスの円問題は、円の面積とその円内の格子点の個数との誤差を評価する問題である。Gaussは、誤差のオーダーは円の面積の1/2乗以下であることを証明した。1915年、Hardyは、1/4乗に限りなく近いと予想した。しかし、現在でも未解決である。本研究では、この一見無関係と思われる2つの未解決問題の同値性を証明した。
著者
松本 光太郎 岡田 美智男 麻生 武 小嶋 秀樹 浜田 寿美男 塩瀬 隆之 塚田 彌生
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

当研究プロジェクトでは、ロボットが人間の実生活に入り込んできたときに生まれる行為を中心に、ロボット研究者および心理学者を中心とした学際研究を行った。成果として、(1)当メンバーが編集・執筆を担当した書籍1冊『ロボットの悲しみ:人とロボットの生態学にむけて』(新曜社、印刷中)、(2)学会シンポジウム主催2件(日本発達心理学会、日本質的心理学会)、(3)学会個人発表2件(EDRA、日本発達心理学会)が確定している。また、これまでの成果をまとめた論文を査読付雑誌に投稿することを計画している。
著者
城塚 達也 多田 昌平
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

CO2の再資源化を目的として、ジルコニア系触媒を用いたCO2水素化によるメタノール合成が注目を集めている。本研究では、ジルコニア系触媒による触媒反応における分子科学を電子状態計算により明らかにし触媒活性との相関を解明する。そして、ジルコニア系触媒を用いたCO2水素化反応を題材とし、constrained density functional theory (CDFT)法などの触媒反応の理論的解析手法の更なる開発と応用の開拓を目指す。
著者
市川 千恵子
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

「堕ちた女」の感傷的な表象や、慈善活動の救いの対象としての受動的な存在としてではなく、自律した生を模索する下層階級女性の姿を、マーガレット・ハークネス(1854-1923)の著作を中心に考察した。ハークネスの語りには、下層階級女性を物語の声の主体としながらも、中流階級的なまなざしが介在する。その一方で、労働者階級女性の経済的脆弱さ、政治的声の獲得の困難さを提示する際には中流階級的価値観に対する批判と抵抗を潜ませる。自らの権利の模索としてのストライキへの参加に、慈善活動における階級差を基盤とした女性の関係とは異なり、労働者階級女性の連帯の萌芽と、彼女たちの政治的覚醒のあり様を見出すことができた。
著者
小野寺 淳 渡辺 英夫 吉田 敏弘 岩鼻 通明
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

1.出羽国絵図・陸奥国絵図の所在調査と写真撮影東北地方の所蔵機関のみならず,現存の可能性がある機関でも調査を行い,出羽国絵図160点,陸奥国絵図164点の所在を確認した。このうち今年度は弘前市立図書館所蔵の津軽領国絵図の撮影を実施したほか,東北歴史博物館,宮城県図書館,国立公文書館所蔵の国絵図の写真版なども収集した。2.現存国絵図の年代推定とデータベースの作成国絵図の原本調査を行い,環境・景観復原を行うために不可欠な絵図の作成年代を推定し,出羽・陸奥国絵図の所在データベースを作成した。さらに,本研究の目的には含めていなかったが,撮影した国絵図の画像データベースの作成も進め,一部完成している。3.環境・景観変化の復原作業画像処理によって正保・元禄国絵図の図形の歪みを修正し,さらに現況の図形に変形した上で,東北地方の平野部について,明治後期測量の旧5万分の1地形図をベースにした正保または元禄期の環境・景観の復原作業を実施した。その一部を報告書に掲載したが,いずれ何らかの方法で公開していきたい。
著者
野口 康彦 青木 聡 小田切 紀子
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は、面会交流のあり方と養育費の授受が子どもの発達に及ぼす影響を解明し、離婚後の子どもの利益の実現に向けた問題提起を行うものである。平成30年度の研究実績は、学術論文1本と寄稿論文2本、口頭発表1本であった。その内訳は、「離婚後に別れて暮らす母親と娘との面会交流に関する探索的研究-3人の女子学生のPAC分析を通して-」(茨城大学人文社会科学部紀要)、「親の離婚・再婚を経験した子どもと家族の支援」(『家族心理学年報 36巻』金子書房)、「離婚・再婚家族における子どもの発達と養育支援」(『子育て支援と心理臨床16巻』福村出版)である。いずれも、これまでの調査・研究の一端を踏まえつつ、親の離婚・再婚を経験した子どもの養育問題を概観し、主として子どもの心理的体験に焦点を当てながら、親の離婚・再婚を経験した子どもと家族の支援について述べている。また、2018年11月3日~4日に開催された「第1回日本離婚・再婚家族と子ども研究学会」において、「親の離婚・再婚を経験した子どもの結婚観」の題目で口頭発表を行った。離婚・再婚後の面会交流及び養育費の授受と子どもの心理発達との関連について検証するため、質問紙による調査を行い、関東、関西、中国地方の5つの大学の大学生739名から協力を得た。主として親の離婚を経験した子どもの結婚観について、離婚時の年齢と面会交流の有無の視点から分析を行ったものを報告した。再婚後の親子の面会交流の課題など、参加者との意見交換を通して、今後の調査研究においても有用な示唆を得た。さらに、2018年5月18日に水戸少年鑑別所にて「離婚・再婚家庭における子どもの発達と養育支援」、2018年9月21日に横浜家庭裁判所にて「親の離婚等が子に与える影響と面会交流」の題目で研修担当講師を務めた。その際、科研費による調査によって得られたデータを活用しながら研修を行った。
著者
国枝 タカ子 桐生 敬子
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

比較舞踊研究の手法により,イタリア古典舞踊の「バッサダンツァ」と日本の京都大阪で生まれた「上方舞」の身体表象を,愛知県立大学所蔵のUSA製最新の「モーションキャプチャー」装置により3次元動作解析した結果,両者の共通な特性「みやびな」「上品な」「美しい」という「優雅さ」が,コンピュータによる定量化で実現した。2つの舞踊の動作の感性的表現は定量化されたのである。これにより,世界各地において多様に分布している民族的特性をもつダンスは,その質的表現を「身体づかい」の分析を経由して,定量化できる見通しが開けた。今回明らかにされた定性的特性の身体づかいは,上方舞の「らせん動作」(著者の命名による)と「連綿つなぎ動作」であり,バッサダンツァでは「ゴンドラ波動作」である。いずれも著者が命名した。このほかの成果は次の通り。(1)イタリア,ベネチアとフィレンツェ郊外のフィールドワークにより,クラシックバレエの基礎技法誕生のルーツである「バッサダンツァ」の再構築が確認された。シェア城中世祭で上演されているバッサダンツァと日本の研究グループで再現しているバッサダンツァの同一性と差異について証明できた。(2)バッサダンツァと上方舞の比較による動作辞書が試作された。(3)上方舞「らせん動作」の研究結果は,日本学術会議シンポジウム「アートの力〜文化変容の可能性」において,平成17年6月25日に京都大学で,一部報告される予定である。(4)日本の鹿鳴館ダンスに影響したプロイセンの宮廷舞踊に対するバッサダンツァの関係解明が進んだ。
著者
外岡 秀行
出版者
茨城大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

湖沼に生息する生物にとって水温は重要な環境因子であるが、大規模な湖沼を除けば定常測定されていない。そこで、NASAの地球観測衛星Tera搭載のセンサASTER(開発:経産省)の時系列熱赤外画像を使って衛星湖沼水温データベース日本版(SatLARTD-J)を構築した。本データベースには2000~2008年における934湖沼のASTER推定水温(平均で約3回/年、精度約1℃)、ならびにASTER推定水温とAMeDAS地上気温との回帰に基づく推定水温(5日間隔、精度約2℃)が含まれている。