著者
橋本 理
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 = Bulletin of the Faculty of Sociology, Kansai University (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.25-60, 2016-11

This study focuses on the nature of mutual assistance activities conducted by citizen-led welfare organizations and analyzes the revision of the Long-Term Care Insurance (LTCI) Act. First, it clarifies the features of the concept of a community-based integrated care system through an analysis of a discussion on the social security reforms in Japan. It explains the history of LTCI and provides an overview of the 2015 revision of the LTCI Act. Second, this study presents the state of citizen-led welfare organizations under the revised LTCI. Third, through case studies, it presents the meaning of and problems associated with the mutual assistance activities conducted by citizen-led welfare organizations.本稿は、改正介護保険制度の検討を通じて、市民による助け合い活動の意義を再考する。第1に、介護保険制度において重視されている地域包括ケアシステムという概念の特徴について、近年の社会保障制度に関する論議を検討しながら明らかにする。また、介護保険制度の沿革を概観したうえで、2015年の改正介護保険制度の要点を整理する。第2に、揺れ動く介護保険制度のなかで市民福祉団体がどのような状況におかれているかを述べる。第3に、 2つの事例を紹介することにより、市民福祉団体による助け合い活動の意義や課題を提示する。
著者
斉藤 了文 SAITO Norifumi
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.1-28, 2013-03

We construct a new technology study on artifacts. In this paper, artifacts as physical existence, designed objects, and products ordered by clients will be discussed in terms of living with objects produced by human craft. 技術論を、人工物を中心にまとめることがこの論文の目的である。理学と工学の相違から始めて、人工物を個物として取り上げる。そして、人工物は、科学技術を体現したものであるというだけでなく、発注者の意図を体現したものでもある。この観点から、責任を考えていく。そして、設計というポイントを取り出す。これらの自明の論点を展開することによって、新しい技術論を、人工物と共に暮らすという観点の下に立ち上げる。
著者
斉藤 了文 SAITO Norifumi
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.29-52, 2013-03

本研究は独立行政法人学術振興協会の科研基盤研究(C)課題番号22500972の助成を得た。This article describes ethical issues in technology caused by the Fukushima nuclear accident based on reports of the Accident Investigation Committee and remarks by the party concerned. Multifaceted technological and social problems which are critical for professional engineers will be explored. The focus will be on a number of points: technological design, engineers' decision, social and legal regulation, scientific communication, and so on. 三つの事故調査委員会の報告書及び当事者の発言を基にして、福島原発事故においてどのような工学倫理の問題が存在しているかを記述してみる。もちろん、大きな事故があれば、当然多様で多面的な問題領域が出現する。その中で、技術者という専門家にとって重要となる、技術と社会の問題の発見を試みる。第1節では、設計に関して割り切りや技術の継承を扱う。第2節では、吉田所長という技術者の行動を中心に、海水注入と東電撤退の問題を扱う。第3節では、社会の要請としての規制が現場の技術から乖離する問題を取り上げた。第4節では、技術者が社会に発信する場合の問題を取り上げた。第5節では、セキュリティや専門家としての活動に関わる安全問題を取り上げた。
著者
山本 雄二
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.61-90, 2016-11-15

本稿は2013年度・関西大学研修員制度による研究成果の一部である。
著者
村田 麻里子 山中 千恵 伊藤 遊 YAMANAKA Chie 伊藤 遊 ITO Yu 谷川 竜一 TANIGAWA Ryuichi
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.95-113, 2012-03

本稿は、宝塚市立手塚治虫記念館を取り上げ、館がいかなるコンセプトのもとに設計・運営されているのか、訪れる来館者がその空間をいかに受容しているのかに注目して行った調査結果を考察するものである。地域活性化・地域振興を掲げたマンガ関連文化施設の一例として、その現状を来館者の行動から詳細に繙き、地域振興という言葉が抱える矛盾や、そもそもマンガを博物館などで扱うことの意義や課題が見過ごされてきた点について分析・考察する。This paper questions the purpose of manga museums intended to promote regional development. This has been at rend for more than 20 years in Japan,an d Tezuka Osamu Manga Museum is one of the earliest museums established for such purpose. Through conducting a visitor survey and analyzing the visitor's movements and attitudes,w e aim to understand what it means to adopt manga in a museum for regional development.
著者
常木 暎生
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876819)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.29-43, 2011-03

How is the food looked at by the media today given that the concern about food is increasing these days? The purpose of this study is to clearly categorize and show food magazine photographs using the content analysis. It was found that the photographs of dishes were the most numerous in food magazines. The next most common photographs were those of the chefs who made these dishes. The photographs of cooking ingredients were also quite numerous. From the analysis of the photographs, it can be said that food magazines reflect the food culture in the modern society for example, eating out at restaurants by not only showcasing prepared dishes but also their creators and the cooking ingredients used. 食に対する関心が高まっている今日、メディアの中で食はどのように取り上げられているのであろうか。本研究では、食雑誌における写真ではどのようなカテゴリーが取り上げられているかを、内容分析によって明らかにすることが目的である。その結果、料理がもっとも多く登場しているのは、食雑誌という性格から当然であろう。次に多いのは作り手であるシェフの写真である。さらに食材もかなり多く登場している。写真からの分析であるが、食雑誌は単にお店、料理だけではなく、作り手、食材など、現代社会における食文化への関心の広まりが反映されている。
著者
水野 由多加
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.87-111, 2017-10-31

In the latter half of 20th Century, Environmental Rights were studied in general terms. Until recently, there was little specific discussion about the Right to Informational Environment. The author approaches this topic from a variety of sociological and psychological viewpoints, including advertising web technology, environmental studies, and noise pollution studies.
著者
雨宮 俊彦
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2-3, pp.297-338, 2000-03-25

名づけの問題は,言語学,文化人類学,哲学,心理学など,おおくの分野の研究対象となってきたが,名づけをあつかう統合的や枠組みがないために,研究は断片的なものにとどまっている。本論文のシリーズでは,名づけの現象に認知科学的なみとうしを提供することをこころみる。今回は,言葉の意味について,ワードネットに具体化されているような古典的な見方と認知言語学的な見方を比較した。言葉の意味には, さまざまな側面がある。古典的な見方は,言葉の意味における,言葉と言葉の基本的な関係にかかわる静的で階層的な側面に焦点をあてるのにたいし,認知言語学の見方は,言葉と世界のインターフェースのよりダイナミックな側面に焦点をあてる。名づけは,おもに言葉の意味の,後者の側面と関連した現象であり,固定的で階層的な言葉の意味の体系のあちこちをつねに変化させていくちからである。
著者
水野 由多加
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.47-72, 2022-09-30

近年、コミュニケーションのデジタル化、その一般化にともなって、20世紀に、主としてマスメディアに依拠していた広告というコミュニケーションが混乱に陥っている。混乱とは、個人情報の広告利用についての常識の未生成であり、スマホの中のデジタル広告の横溢であり、好きな動画がいつでも見られる情報環境であり、何より人々の広告一般に対する態度の悪化である。筆者は日本社会において、哲学者が広告についていかなる言及を行ったのかというオリジナル資料を収集し、もって、今世紀にも移ろわない広告原理、つまり外形的ではない「広告の社会的役割の原型」についての考察の端緒を探ろうとする。
著者
橋本 敬造
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.29-46, 2008-03-30

フランスから生野銀山に招かれた鉱山技術者コワニエFrancois Coignetが来日した翌年に横浜に上陸した、いわゆる「お雇い外国人」、ザ・ヤトイ、がブラントンである。技術者として幕府に招かれ、次いで維新政府に雇われて、横浜におかれた「燈明台機械方頭」として多数の燈台を設計・建造したことで知られている。ブラントンはまた、鉄道敷設の必要性を建言し、まず京浜間の鉄道、次に両京・大坂間にも鉄道を敷設すべきこと等を建議し、さらに横浜はいうまでもなく、大阪や新潟の築港計画、あるいは橋梁設計なども手がけたことで知られる。こうした技術の導入が日本に近代化にとって極めて重要な意味をもったことを、ここに改めて強調しておきたい。
著者
井上 宏 多喜 弘次
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.45-72, 1981-11-30

神先秀雄・薄田桂・友松芳郎三教授古稀記念特輯
著者
妹尾 剛光
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.185-211, 2007-03-30

『記憶と和解』は、カトリック教会が教会構成員の過去及び現在の行ないのあるもの(代表的な例は、「キリスト者の分裂」、「真理に仕える時の強制力の使用」、「ユダヤ人に対する敵意や不信」)の過ちを認めて、それに対する神の赦しを求め、傷つけられた人々の赦し、その人々との和解を求める文書である。その根底には、聖書に啓示された、心から認めた罪に対する神の赦しと神の掟「兄弟愛、アガペを生きよ」がある。基本的な問題は、観念としては誰彼を問わずどの人間に対しても与えられるべき愛であったアガペが、特に中世や近代の実践においては、信仰を同じくする人々の間での愛であり、異教、異端の人々に対しては、教会分裂、十字軍、異端審問、不正な権力との協同などが真の信仰に基づく業として行なわれてきたということにある。この文書は従って、カトリック以外のさまざまな信仰、信念を、それが当然の社会秩序、即ち、人間の権利、万人に共通の善を傷つけない限り、それぞれに独自な価値を持つものとして尊重し、寛容すること(第二ヴァティカン公会議教令)を基にしている。
著者
吉岡 至
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.65-92, 2021-03-31

2019年2月24日、沖縄で実施された県民投票は辺野古沿岸への普天間飛行場移設・新基地建設のための「埋め立て」の賛否を問うもので、沖縄の民意をあらためて示す一つの重要な機会であった。本稿は沖縄の地方新聞である『沖縄タイムス』と『琉球新報』が県民投票をめぐる争点や沖縄の民意をどのように伝えたのか、その報道の特徴を明らかにすることを目的としている。報道内容の分析を通じて、2つの側面― 県民投票に関する「全県実施」の可能性と「反対」の民意を強調していることを、その特徴として指摘した。
著者
大倉 韻 守 如子 羽渕 一代
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.11-32, 2019-03-31

本稿は、2011年に行われた第7回青少年の性行動全国調査(JASE)のデータに基づき、日本の若者の性行動の現状を明らかにすることを目的としている。この調査は、7640人から回答を得ており、若者が性的関心をもたなくなってきたのはなぜかといった問題に焦点をあててきた。本稿は、この調査の項目のうちから、「あなたがいま、性について知りたいことは何ですか」という質問に着目して分析を行った。分析から得られた第一の結果は、性情報のニーズは、性別と学校段階によって、いくつかのタイプに分けることができるという点である。第二の結果は、性情報のニーズは、「性行為と妊娠」「性的な悩み」「性病」「恋愛」という4つのカテゴリーに収斂していくプロセスとみることができるという点である。特に、日本の若者にとって、「セックス(性交)」は、恋愛としてよりもむしろ妊娠に関わるものとして意識されているということ、その一方で性交によって生じる別種のリスクである「性感染症」や「エイズ」のリスクは性交とは独立したものとして意識されていることが明らかになった。また、第三に、性的関心が性情報ニーズと正の相関がみられたことから、性的関心が性情報ニーズに強い影響を与えていることが明らかになった。
著者
池田 進
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.25-58, 2001-10-31

1.いわゆる鼻曲りの仮面と呼ばれる特徴的な形状を持つ数例の土製仮面を実見した。2.鼻曲りの仮面についての考古学的研究の文献を展望した。(1)現存の鼻曲りの仮面は縄文時代の後期から晩期の早い時期に属すると考えられている。(2)土製仮面は2類に分類されている。(3)なぜ鼻曲りの造形が現れたのかについてのいくつかの討論がある。3.先史時代における仮面の社会的心理的意義が考察された。(1)呪術との関連(2)悪霊よけ(3)変身(4)精霊の監視を避ける(5)仮面のマツリの社会的機能(6)鼻曲りの仮面の造形的意味4. さまざまな歪みの仮面の実例を供覧した。
著者
雨宮 俊彦 生田 好重
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.123-165, 2008-03-30

リバーサル理論は、25年ほど前に研究が開始された動機づけ状態、あるいは、動機づけスタイルの理論である。従来の動機づけ理論は、親和か達成か、外在的か内在的かといった個々の動機づけやその特徴を個別に問題にしてきた。これに対し、リバーサル理論では、動機づけを個別、固定的ではなく、状況により変わるダイナミックなものとして、その全体像をシステマティックにとらえようとしている。具体的には、現在のリバーサル理論では、人間経験の四つの側面(手段-目的、ルール、処理、関係)について、テリック-パラテリック、順法-反抗、支配-共感、オーティック-アロイックの四対の動機づけ状態を設定し、状況により動機づけ状態の反転が生ずるとし、スポーツや芸術、教育、産業活動、娯楽、笑いなど幅広い人間活動を動機づけ状態とその反転の観点から研究している。本論文では、リバーサル理論の概要について、簡明な解説を行う。
著者
田中 優 高木 修
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.75-92, 2011-02

The present study examined the effects of self-evaluation, self-acceptance, self-esteem on satisfaction of interpersonal relationship through consciousness of reciprocal interpersonal relationship. Students of a women's university (N=94) answered a questionnaire. Path analysis indicated 1) self-disgust of self-evaluation influences consciousness of compensation through self-acceptance and self-esteem, 2) evaluation apprehension from other of self-evaluation had a direct positive effect on satisfaction level of interpersonal relationship, 3) consciousness of reciprocity of reciprocal interpersonal relationship had a direct negative effect on satisfaction level of interpersonal relationship and 4) self-disgust of self-evaluation had a direct negative effect on satisfaction level of interpersonal relationship. 本研究の目的は、自己評価、自己受容、および自尊心が互恵的対人関係意識を介して対人関係満足に及ぼす影響を明らかにすることである。女子大学の94名の学生を対象に質問紙調査を行い、パス解析の結果、1)自己評価の自己嫌悪が自己受容と自尊心を媒介して返礼意識を規定する間接効果と、2)自己評価の他者評価懸念が返礼意識を規定する正の直接効果が認められた。また、3)互恵的対人関係の互恵意識が対人関係満足度を規定する正の直接効果と、4)自己評価の自己嫌悪が対人関係満足度を規定する負の直接効果が認められた。自己評価は互恵的対人関係意識の返礼意識を規定し、互恵的対人関係の互恵意識は対人関係満足度を規定することが明らかとなった。