著者
濵邉 昂平
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.40, pp.59-72, 2016

本調査は小笠原諸島父島におけるヨコエビ類相の把握を目的に行った。調査は2015年7月から8月、2016年7月から8月、2016年12月から2017年1月にかけて、父島の各海岸および内陸(陸水域を含む)において行った。調査の結果、父島から4科8種のヨコエビ類の生息が確認された。ハマトビムシ科では4種が確認され、海岸型のPlatorchestia pacifica とP. sp.、内陸型のニホンオカトビムシP. japonica、そして海岸型と内陸型の中間型として、固有種であるオガサワラホソハマトビムシPyatakovestia boninensis が確認された。このうち、オガサワラホソハマトビムシは父島において初めての確認となった。
著者
中野 俊
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
no.33, pp.31-48, 2008-03

南硫黄島は第四紀後半に形成された火山島であるが、噴火記録や噴気活動はない。追跡できる火砕物層準を基準とし、成層火山体である南硫黄島火山を下位から古期火山噴出物-1、古期火山噴出物-2、南部中期火山噴出物、北部中期火山噴出物および新期火山噴出物に区分した。いずれも陸上噴出した溶岩および火砕岩からなり、広域的に認められる有意な浸食間隙は存在しない。海食崖を貫く岩脈は254本を数えた。その大部分は放射状岩脈である。岩質は溶岩・岩脈ともにすべて玄武岩である。斑晶として斜長石、単斜輝石、かんらん石を含む。最大径1cmに達する大型の斑晶が多く、特徴的に単斜輝石を40-50%程度含む玄武岩も見つかった。
著者
LONG Daniel
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
no.38, pp.17-29, 2011

In this paper, I argue for the conceptualization of a South Sea Island variety (dialect) of Japanese. This dialect group includes the Japanese dialects of the Bonin (Ogasawara) Islands, Palau and the Mariana Islands. The linguistic commonalities among these varieties are the results of similar social, historical and geographical circumstances. In this paper, I am particularly interested in the "linguistic exchange" of lexical items among these three dialects which have contributed to their lexical similarities.小笠原諸島およびマリアナ諸島やパラオの日本語方言に見られる言語的共通点を指摘した上で、日本語の方言区画に「南洋諸島方言」を立てることを提案する。その共通点は様々な社会的、歴史的、地理的な要因によるものである。例えば、語彙面において、長期にわたる3つの地域との間に起きた「言語交流」がこの共通性の背景にあることがわかった。また、「コロニアル・ラグ」(植民地遅延)と呼ばれる社会言語学的現象も見られる。すなわち、「本国」から地理的にまたは社会的切り離された(旧)植民地には、「本国」で使われなくなった言語的特徴が取
著者
上條 隆志 廣田 充 川上 和人
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究 = Ogasawara research (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
no.46, pp.69-77, 2020-03

小笠原諸島の西之島は、2013年からの火山活動によって大きく面積が拡大した。2013年以前から存在していた島の大部分は、新たな溶岩流やスコリアに覆われ、ほぼ新島に近い状態となった。本調査は、西之島の植物、植生、土壌の現況を明らかにすることを目的として、2019年9月に現地調査を行った。現地調査の結果、維管束植物として、オヒシバ、イヌビエ、スベリヒユの3 種を確認した。これまでの記録を基に検討すると、これら3種は2013年噴火以前から生育していた個体群由来と考えられた。土壌については、表層土壌を採取し、全炭素量、全窒素含量を測定した。さらに、今後のモニタリングのために、5地点において方形区(10m × 10m)を設置し、方形区内の植生調査を行った。
著者
小枝 圭太 栗岩 薫 千葉 悟
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
no.42, pp.1-8, 2015

小笠原諸島兄島周辺海域において、ヒレナガハギ属魚類の2個体が採集された。これらの標本は、体側後半部に繊毛域があること、背鰭が5棘24軟条であること、体側後半部の体色が暗色とならないこと、光彩が黄色いことなどキイロハギZebrasoma flavescens (Bennett 1828)の識別的特徴を多くもっていた。しかし、両標本は、体色が一様に黄色であるというキイロハギにおける通常の特徴と著しく異なり、左右の体側および鰭に広い白色域が、背鰭起部付近に黒色域が、それぞれみられた。ただし、2個体の白色域のパターンが同一でないこと、2個体とも左側と右側の体色パターンに変異がみられること、およびその他の識別的特徴が先行研究で示された本種の特徴と一致したことから、両標本はキイロハギの色彩変異個体であると判断した。
著者
山内 繁 笠井 あすか
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.40, pp.73-87, 2017-05-31

2015年より小笠原父島二見港において、港湾衛生管理ガイドラインに基づく港湾衛生調査をめざした現地調査を実施している。本年も、ねずみ族及び蚊族の生息調査を行った。ねずみ族調査では、計12匹のクマネズミが捕獲された。クマネズミはペスト菌及び腎症候性出血熱ウイルスの媒介種であり、その病原体及び抗体の保有はなかったが、捕獲率は非常に高かった。蚊族調査は、成虫調査での捕集はなく、幼虫調査でヒトスジシマカ、アカイエカ群、ネッタイイエカの捕集があった。現行の港湾衛生管理ガイドラインでは、蚊族成虫調査にドライアイスを用いた炭酸ガス・ライトトラップ法を推奨しているが、父島ではドライアイスの入手が困難であるため① イースト菌発酵を用いた炭酸ガス・ライトトラップ法、② BG センチネル2を用いたトラップ法について、従来の方法との比較検討を行った。その結果、BGセンチネル2についてはドライアイスを用いた現行の方法と遜色のない結果を得た。今後、二見港では定期的な港湾衛生調査の継続が必要であり、ドライアイスを使用しない成虫調査の方法を選択していきたい。
著者
加賀 芳恵 木村 正明 枝 恵太郎 大林 隆司
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.41, pp.125-135, 2018-07-31

ホラズミクチバは成虫が洞窟に生息するという特色的な生態を持つ蛾の一種で、小笠原諸島の固有種である。これまで幼生期や食餌植物はもとより、その発生消長・動態に至るまで謎に包まれていたが、本調査により、食餌植物としてハツバキを利用していること、洞内で繁殖が行われていることなど生態の一端が明らかになった。
著者
森 英章 岸本 年郎 寺田 剛 永野 裕 苅部 治紀 川上 和人
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究 = Ogasawara research (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
no.46, pp.95-108, 2020-03

2019年9月、西之島において、初めて専門家による陸上節足動物の上陸調査が行われた。2013年より度重なる火山活動によってほぼすべての地域が溶岩に覆われた一方、一部草地が残された。定量調査と定性調査を並行して実施し、旧島部に残存する節足動物を確認するとともに、新たに形成された大地への進出状況を明らかにすることとした。4綱15目28科33種の陸上節足動物を確認した。うち21種は同島から初めて確認された。既存の記録を加えるとこれまでに西之島から確認された陸上節足動物は少なくとも44種となる。特に2013年噴火後に新たに形成された植生のない溶岩台地において海鳥の死体下よりトビムシ、ササラダニ等の土壌分解者が発見されたことは一次遷移の過程に関する新たな視座を提示するものである。一方、外来種であるワモンゴキブリが残存していることが確認され、対策の実施が望まれる。トラップを用いた定量調査も行われたことにより今後の継続的なモニタリングの基礎情報となる。
著者
石井 良則
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.37, pp.31-58, 2014-05-31

父島扇村出身の島民が昭和15年(1940年)に書いた1 冊の日記帳の具体的な記述を通して、昭和10年代の島内の出来事について振り返り、戦災に遭う前の大村、主として東西両町の生活風景について推考した。また、当時の大村における水事情についても日記の記述から推察した。
著者
上條 明弘
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.33, pp.51-85, 2009

父島洲崎は自然豊かな海岸であったが、日本海軍により埋め立てられ、洲崎飛行場が建設された。小さな飛行場であり、陸上機があまり配備されていなかったので、最初アメリカ軍は重視していなかった。しかし、硫黄島攻防戦では、特別攻撃などの支援作戦の中継基地となり、重要な役割を演じた。そのため、アメリカ軍は、洲崎飛行場に対し、艦上機、陸軍機により集中的な攻撃を与えた。
著者
佐々木 政治 石井 良則
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.39, pp.1-20, 2016-05-31

母島沖村出身の佐々木政治(図1)は、昭和19 年(1944 年)の全島民強制疎開の際に志願して母島に残留し、義勇隊防空監視哨員として他の島民軍属とともに船木山に詰め陸軍の作戦に参加した。敗戦までの約1 年間にわたる時期に起きた様々な出来事について、佐々木が回想し口述した談話記録を公開する。
著者
西郷 南海子
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.41, pp.47-64, 2018-07-31

本稿は、小笠原諸島の施政権返還(1968年6月26日)にともなう初等教育の転換を考察し、米国施政権下で生まれ育った子どもたちが「日本人」に「なる」ことを余儀なくされたプロセスを明らかにすることを目的とする。1956年に米海軍は父島にラドフォード学校を設立し、米国のカリキュラムに基づいて、英語で子どもたちへの教育を行っていた。本稿では、返還の2年前からラドフォード学校で日本語の授業を担当した小笠原愛作(アイサック・ゴンザレス)と、返還と同時に東京都教員として赴任した赤間泰子へインタビューを行い、父島での初等教育が「アメリカ人」としての教育から「日本人」としての教育へ転換していったプロセスを追う。
著者
吉田 圭一郎 飯島 慈裕 岡 秀一
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.29, pp.1-6, 2005

植生や生態系に関する研究に比べ、小笠原諸島における気象観測研究は少ない。本稿では小笠原諸島を対象とした気象観測やデータ解析の研究成果をレビューし、今後の課題について述べた。小笠原諸島は水文気候学的に乾燥域と湿潤域の境界に位置していた。近年は気候の乾燥化が顕著であり、その植生に対する影響が危惧されている。島嶼スケールを対象とした気象観測研究では、水平分布と比べて、気候の鉛直分布に関するものはほとんど行われていない。今後は雲霧帯のような植生分布に影響する気候の鉛直分布を詳細に観測していく必要がある。
著者
竹内 真人 笠井 あすか 横塚 由美
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.41, pp.111-124, 2018-07-31

東京検疫所では、2015年より小笠原父島二見港において、港湾衛生現地調査として、ねずみ族及び蚊族の生息状況調査と検疫感染症の病原体検査を実施している。2017年はベクターサーベイランスの一環として、父島の山林部を含む広域及び母島沖港においても蚊族調査を実施した。ねずみ族については、本土よりも高いクマネズミの捕獲率が示されており、自治体による駆除活動が行われているにも関わらず、捕獲率の低下の傾向は2015年からの3年間においてはみられなかった。捕獲されたクマネズミの病原体検査は陰性であったが、うち1頭で寄生虫の猫条虫が検出された。捕集蚊における病原体検査でも、検疫感染症の病原体は全て陰性であった。父島の港湾区域では、アカイエカ群とヒトスジシマカの幼虫が多くの調査区で確認され、父島山林部においても多くのヒトスジシマカの成虫が捕集された。母島で捕獲された蚊族では、ヒトスジシマカの成虫と幼虫が高い割合を占めていた。これらのことから、ヒトスジシマカが父島と母島で優先種として生息していることが明らかになった。また、母島の蚊族の複数種でヒトへの吸血が確認されたことは、蚊が媒介する感染症の拡散の可能性を示唆する。
著者
石井 良則
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.33, pp.27-49, 2010-05-20

島根県仁多郡横田村(現奥出雲町)出身の岡崎喜一郎は、小笠原諸島の姉島という無人島に渡航して、小笠原姉島家庭塾という名称の感化教育施設を設立し、1937(昭和12)年1月より1939(昭和14)年8月まで、非行少年の更生のため生活を共にしながら教護したが、事情で施設の閉鎖を余儀なくされ、戦後間もなく郷里で死去した。2年8ヶ月という期間であったが、感化教育という困難に満ちた事業に献身した岡崎の大凡の活動を、彼の3男である岡崎洋三の書簡を通して推考する。
著者
成瀬 貫 藤田 喜久 佐々木 哲朗 山田 鉄也
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.38, pp.87-90, 2014

小笠原諸島父島の二見湾湾口部に位置する口之瀬沖水深46mより、エクレアナマコ1個体が発見されたので報告する。これは本種の小笠原諸島初記録であり、また北半球においては沖縄島に次ぐ記録である。
著者
Kumekawa Yoshimasa Fujimoto Haruka Miura Osamu Yokoyama Jun Ito Katsura Tebayashi Shin-Ichi Arakawa Ryo Fukuda Tatsuya
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究 = Ogasawara research (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
no.43, pp.1-17, 2017-06

To clarify the morphological and phylogenetic differentiation of Bandona boninensis Suzuki 1974 in Chichi-jima Island of the Bonin (Ogasawara) group of Islands, we studied the external morphological characters and performed sequencing of the cytochrome c oxidase subunit I (COI) gene of mitochondrial DNA (mtDNA) and 28S rRNA of nuclear DNA (nrDNA). The sequences of COI and 28S rRNA were identical among the individuals of B. boninensis. These results suggest that B. boninensis experienced a rapid expansion of its distribution in Chichi-jima Island without undergoing any morphological and molecular differentiation.著者らは小笠原諸島の父島に生息するムニンカケザトウムシBandona boninensis の形態的および系統的分化を明らかにするために、父島の4 地点から採集を行い、体長、触肢腿節の長さ、背甲長および背甲幅、鋏角長、第1~4 脚の腿節長といった形態計測を実施し、ミトコンドリアDNA のCOI 領域および核DNA の28SrRNA 領域に基づく系統樹を作成した。その結果, ムニンカケザトウムシのCOI および28S において塩基置換は見られなかった。この結果は、ムニンカケザトウムシが父島内で系統的分化をほぼ起こしていないことを示す。また、採集を行った個体がすべて雌個体であったことから、これまでの報告の通り、父島においては単為生殖種として生息している可能性が高い。
著者
小久保 祐樹
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.37, pp.1-30, 2014-05-31

小笠原における所有者不明土地問題について、行政が行うべき法政策的対応について政策提言を行った。はじめに、小笠原における所有者不明土地問題についての現状の調査を行った。次に、所有者不明土地に対する法政策的手法の事例紹介を行い、小笠原における所有者不明土地問題に対する法政策的対応策の提案を行った。この提案では、条例の制定が適切であると結論付けた。最後に、条例制定の際に問題となる財産権規制に対する学説分析を行い、具体的な条例の内容に関して考察した。
著者
佐々木 哲朗 立川 浩之 向 哲嗣 栗原 達郎
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
no.41, pp.41-73, 2014

小笠原諸島海域の保全管理に資するため、兄島と父島の浅海域、海岸域および河川下流域において軟体動物相の現況調査を実施した。調査では5綱22目78科153属247種の軟体動物が記録された。記録種のうち40種は小笠原諸島からの初記録であった。To contribute to the conservation management, we investigated molluscan fauna of marine and freshwater habitats in Anijima and Chichijima Island. A total of 247 species of molluscs (153 genera of 78 families of 22 orders) were recorded on the basis of photographs. 40 species were considered to be new records from Ogasawara Islands.