著者
川合 研兒 鄭 星珠
出版者
高知大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

これまでの一連の研究で、Aeromonas hydrophila A-3500株を液体培地で培養したのち塩類溶液で飢餓させた菌は、コイなどに対する病原性が培養菌よりも高いことを明らかにしてきた。本研究では、まずこれらの菌の病原性の違いをフナでも確認したのち、病原性に関与すると考えられる菌の生物学的性状を両菌で調べた。その結果、フナの皮膚に対する付着性、体表粘液・血清の殺菌性に対する抵抗性、および頭腎マクロファージの貪食に対する抵抗性がいずれも飢餓菌のほうが高く、このような生物活性の高さが飢餓菌の高い病原性を裏付けるものと推定した。培養菌、飢餓菌および感染魚から回収した菌から外膜タンパク(OMP)を抽出し、SDS-PAGEで比較したところ、36および43kDaのOMPが共通に認められた。そこで、これらの抽出したOMPをそれぞれキンギョに注射して免疫したのち感染試験を行ったところ、いずれの免疫魚も非免疫魚より高い生存率を示し、共通のOMPには感染防御抗原性があると推定された。つぎに、各地で異なった魚種から分離されたA.hydrophila7株およびA.hydrophilaと近縁種のAeromonas veronii biotyoe sobria T30株、Aeromonas jandaei B2株およびAeromonas sp.T8株を用い、抗A-3500株血清を用いたSDS-PAGE/ウェスタンブロットおよび菌体凝集反応を行って、抗原の比較を行った。その結果、凝集反応ではA.hydrophila株間および近縁種との間で、凝集価が大きく異なり血清型が異なることが示された。しかし、ウェスタンブロットではA.hydrophilaの菌株間ではほとんど差異がないが、近縁種との間ではパターンに大きな差異が認められた。これらのことから、本菌の飢餓菌と培養菌との間に認められる36および43kDaのOMPは、病原性にはあまり関与しないが、本種における共通の感染防御抗原である可能性が強いと考えられる。
著者
山本 裕二 星 博幸 佐藤 雅彦 中田 亮一
出版者
高知大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
巻号頁・発行日
2019-10-07

100万年を超える長期間をカバーできる準連続時系列の古地磁気強度絶対値(API)データ源は、世界でもアイスランドの溶岩層序群をおいて他はない。本研究では、異なる地磁気逆転頻度を示す2つの期間を中心としたAPI準連続変動の解明を目指す。さらに海底堆積物から明らかにされつつある同期間の古地磁気強度相対値の時系列データと統合することで、試料依存性のない古地磁気強度連続変動記録を確立する。
著者
高橋 弘 由利 和也
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

うつ病は、様々な症状が複雑に絡み合っている病気であり、病態を正確に捉えることが困難である。また、うつ病は、慢性ストレスにより神経の可塑的変化(シナプス減少など)を引き起こし、通常の神経回路と異なる可能性がある。そこで、本研究は、慢性的に敗北させたうつ病モデルマウスを用い、各うつ症状がどの様な神経活動により起こるかを明らかにする。また、ストレスによる神経可塑的変化が、グリア型グルタミン酸トランスポーター減少を介して、グルタミン酸過剰により引き起こされるかを明らかにする。これらの成果は、新しいうつ病の発症機序を実証し、うつ病の病態解明・診断・治療に貢献する。
著者
西田 拓洋
出版者
高知大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

認知症疾患診療は、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)の段階で診断し、治療開始することが望まれている。しかし近年MCIの中に児童青年期までに診断されなかった発達障害者に、加齢性の認知低下が加わった状態の人が混在している可能性が指摘されている。本研究では、神経画像検査やCSF中のADバイオマーカー検査、発達障害評価を実施し、AD、DLB、ASD、ADHD等の原因疾患同定のための鑑別診断を行い、発達障害MCIと認知症MCIの割合を計算する。また認知機能や巧緻運動評価を実施し、その結果を2群間で比較した上で有意差が認められた検査項目に対し判別分析を行い、判別式を作成することで臨床に役立てる。
著者
桝田 隆宏
出版者
高知大学
雑誌
高知大学学術研究報告 人文科学編 (ISSN:03890457)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.71-82, 1996-12-25
著者
谷川 恵一
出版者
高知大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

1.河津が死去した直後の新聞記事を調査し、その官暦についての詳細な記録を得た。また、国立公文書館に所蔵されている文部省関係の書類の中から、河津のフランス留学に関する文書を検索し、そのいきさつをほぼ明らかにしえた。2.河津が関係した日本立憲政党新聞の全紙面を調査し、河津の執筆した記事、および河津に関する記事を検索し、この時期における河津の言論活動を俯瞰するための基礎的な資料を得た。現在そのデータベースの作成にとりかっている。3.河津が翻訳した最初期の歴史書である『西洋易知録』(明治2年刊行)とその原典であるW.F.CollierのThe Great Events of History(1867)とを対照させ、河津の翻訳作法をうかがうための基礎的なデータを得た。これによって原文にきわめて忠実でありながら、平易な平仮名文の歴史叙述を達成していることを明らかにしえたが、ひき続いて、その平仮名文の文体的な位相を明らかにするために、同時代の物語的な歴史叙述の文体との比較・分析を行なっている。4.文明開化期を中心とした明治初期に出版された主要な歴史書をほぼ網羅的に収集し、それらを扱っている地域によって万国史・西洋史・中国史・日本史に分けた上で、さらに文体面から漢文・片仮名文・平仮名文に区分して、おのおのの歴史叙述にあらわれる特徴についてのデータを蓄積し、あわせて、同時期に文部省から刊行された片仮名文の歴史書の文体についての分析を行なった。これらの作業を通じて、文部省の歴史叙述によって物語的な歴史叙述が駆逐され、文体において歴史と文学とに言説が分割されたことをほぼ明らかにしえた。
著者
伊谷 行
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

海洋底における多様な生物の生息場所利用という観点、また、巣穴利用の進化という観点から、巣穴共生性のベントスは魅力的な研究対象である。しかし、砂泥底の巣穴の中という生息場所の特殊性から研究が難しく、生態研究はほとんど行われていない。本研究の結果、テッポウエビ科の2種とモクズガニ科の3種において、無脊椎動物宿主の巣穴利用に関する共生生態について新しい知見を得た。さらに、巣穴共生性ハゼ類や宿主となる甲殻類、その巣穴構造についても、新知見が得られた。
著者
佐々木 宏 中村 亨
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本計画は、「10Hzから10kHzまでの帯域で高感度を持つ電極タイプの深海底用電波アンテナシステムの開発と深海底のELF帯電波環境の情報を得ること。」を研究目的として平成10年度より3年計画で実施した。今回開発した電極タイプのアンテナは、その帯域を10Hz以上10kHz(ELF帯)までに置き、DC帯域では問題となった海水と極板との化学反応によるドリフト(最小でも3μV/day)を回避するシステムを考案し、実用化し、最小検出感度0.1μV/mを達成した。研究期間内での観測において、「1000m級の海底でのCOSEISMICな電磁信号の検出を目指す」としたが、浮上装置の電池の液漏れに起因する超音波送受信回路の故障により、50m水深(ロープによる海底装置の引き上げ限界)までのデータ取得とその解析になってしまった。しかし、沿岸部から約6kmでの測定から、千m以深での測定の可能性について推定できる結果を得た。以下に、得られた結果をまとめる。1.ステンレス板を用いた深海底用極板アンテナの開発に成功した。(極板と海底ケーブルとの繋ぎ、利得10万倍増幅器系(帯域10〜10kHz))。しかし、長期間観測用の記録系の開発は予算の関係もあり今回は見送った。2.海洋科学技術センター委託研究(研究課題「室戸沖南海トラフ域における海底変動と生物物質循環システムに関する基礎調査」)の観測航海にあわせてより深海での予備観測を実施した。900m水深で開発した電極アンテナシステムが故障なく稼動する事を確かめた。3.20m水深での結果から、海水を含まない岩石層内部で、対象とする信号の振幅が100mV以上であれば、今回開発したシステムで観測が可能な事を示した。50m水深のデータからは、大気中の信号振幅が1V以上なかったので、同様の可能性を示せなかった。しかし、FWT法による信号処理の見通しを付ける事が出来た。
著者
足立 亨介 池島 耕
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-07-18

本研究ではマングローブ物質循環の鍵を握る落葉とこれを摂食するカニの関係について考察した。フィールドおよび飼育実験などからカニは落葉の34%を摂食していると算出された。カニ腸内細菌、および生息土壌細菌のメタゲノム解析においては両者ともにcellulose degradationに属する菌が見出された。また両者において還元糖量の換算で数10-約100mg/kg soil/24hのセルロース分解酵素活性が見られた。我々のこれまでの成果を考慮すると、調査フィールド内では落葉中のセルロースの1/3程度はカニの消化液→腸内細菌→土壌細菌の3要素によって分解を受け手入ることが示された。