著者
伊藤 隆 喜多 敏明 嶋田 豊 柴原 直利 寺澤 捷年
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.433-441, 1996-11-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
16
被引用文献数
3 3

八味地黄丸が奏功した慢性喘息患者4症例を報告した。症例は63歳女, 57歳女, 41歳女, 42歳男。いずれも成人発症, 通年型である。重症度では第1例は軽症, 第2例は中等症, 第3, 4例は重症に相当した。漢方医学的には4例ともに八味地黄丸証を認めた。第1例はウチダ八味丸Mが奏功したが, 第2~4例は反応せず熟地黄を用いた自家製丸剤により始めて喘息病態の改善を認めた。4例ともに喘息病態の改善に伴い発作点数の低下, 治療点数の低下, 早朝時ピークフロー値の上昇を認めた。経口ステロイド剤は第3例と第4例に使用していたが, 第3例で離脱, 第4例で減量できた。本報告により八味地黄丸が慢性喘息患者の呼吸機能改善に対して有用であること, 丸薬として投与する場合には乾地黄よりも熟地黄を用いた方が治療効果においてより優れている可能性が示唆された。
著者
矢数 道明
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋醫學會誌 (ISSN:1884202X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.165-185, 1975-06-30 (Released:2010-10-21)
参考文献数
21

In Oriental medicine diseases have been explained as the products of Oketsu, Suidoku or Shokudoku. Oketsu means the stagnation of disordered blood, which should appear in various febrile diseases, women in childbed, contusions and individuals of hereditarily idiosyncratic constitution. Suidoku means intoxication caused by disturbances of water metabolism, while Shokudoku means intestinal autointoxication caused by unbalanced diet. Each of these three factors causes in its turn various specific diseases respectively.In “Shang han lun” and “Chin kuei yao lüeh” (217 A. D.) of Chang Chung-ching are given many formulas for combatting Oketsu, Suidoku and Shokudoku, and they have been used successfully.There are some different principles of healing Oketsu, namely; to bring disordered blood circulation into normal condition, to restore disordered blood and remove the stagnation, and to dissolve blood clots to normalize blood circulation.In the last case of the above three various drugs of animal origine are used in combination with those of vegetable origin. They are, for instance, leeches, gadflies, opisthoplatia orientalis, larvae of coprides species and others. It is interesting that worn-out dish rags and dirty straw mats were used as remedies for contusions. The animals providing such drugs live mainly in dirty mud or decomposed matter, that is; they are resistant to dirty or decomposed environment. The others such as leeches or gadflies contain anticoagulant substances.Throughout the history of Oriental medicine so called “sympathetic drugs” have been used, which share the thought of “Similia similibus curantur” with Homöopathy.A series of studies by Dr. Knisely and others in the last 40 years or so on “Sludged blood”, coagulation of red blood cells in blood vessels, seems to provide some available explanations of Oketsu. A new way of healing diseases with blood coagulation could be found out through clinical studies of Oketsu on the basis of the traditional context of Oriental medicine.
著者
日笠 久美
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.393-399, 1994-10-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
8

肝性脳症を示した肝硬変に対して, 大黄を中心とした漢方治療で, 症状の改善が見られた2症例を経験した。症例1は54歳, 女性。肝硬変, 及び慢性腎炎により腹水を発現して来院した。分消湯血鼓加減を投与して, 腹水は消失したが, その後に便秘と共に意識レベルが低下し, 高アンモニア血症を認めた。分消湯血鼓加減に大黄を徐々に10gまで投与したところ, 便秘が改善し, 意識レベルの正常化を認めた。症例2は68歳, 女性。肝硬変に高血圧を合併したが, 強いふらつき感とともに高アンモニア血症を認めた。七物降下湯15gとともに大黄末を5gまで徐々に増量するに比例してアンモニア値が低下した。上記2例とも大黄の増量で血中アンモニアは低下したが, アミノ酸組成には影響を与えなかった。大黄には潟下作用や腸内細菌への抗菌作用により, 間接的にアンモニアを低下させるとともに, 直接的にもアンモニア低下作用があると考えられる。また大黄の鎮静作用も脳症状の改善に作用していると考えられる。
著者
寺沢 捷年 松田 治己 今田屋 章 土佐 寛順 三潴 忠道 鳥居塚 和生 本間 精一
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.131-136, 1984-10-20 (Released:2010-09-28)
参考文献数
5
被引用文献数
4 4

慢性関節リウマチと全身性進行性硬化症の合併症例に対し, 自家製の桂枝茯苓丸を投与したところ, レイノー現象と手指屈曲制限が著しく改善した。この効果が桂枝茯苓丸によるものであることを急性投与実験により明らかにした。この効果は同一生薬を用いた水煎剤では得られず, 丸と丸料との相違を示唆する所見である。今後は剤型の相違による適応病態の差異について慎重に検討すべきものと考える。
著者
水村 和枝
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋醫學雜誌 = Japanese journal of oriental medicine (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.196-205, 2011-03-20

鍼灸ではその入力系として筋無髄神経(C線維)が働いていると言われている。筋無髄神経受容器の中でも,中等度以上の機械刺激,熱刺激,発痛物質のいずれにも反応するポリモーダル受容器が鍼灸効果には重要であると考えられている。本講演では,筋ポリモーダル受容器の反応特性,特に機械刺激に対する感作について紹介する。<BR>ポリモーダル受容器は,筋C線維中の機械感受性受容器の中でラットでは約5割を占め,非ポリモーダル受容器(熱刺激に反応しない)と比べて機械刺激に対する反応の閾値に差は無いが,その放電数は少ない。熱に対する反応閾値は41°C近辺である。この受容器の機械反応は,ブラジキニン,プロスタグランジン,ヒスタミン,酸等によって増強される。最近話題となっている炎症メディエーターの1つに神経成長因子(NGF)がある。NGFは,個体の発達途上ではその名前の通り神経の生存・分化に必須であるが,成長した後は炎症部位で炎症細胞(マクロファージ,肥満細胞など)や線維芽細胞によって産生され,痛みの受容器の熱に対する反応や機械刺激に対する反応を感作し,痛覚過敏に大きな役割を担う。ヒトでNGFを筋注すると数日間続く筋機械痛覚過敏が出現することが知られている。筆者らのグループは最近,このNGFが炎症細胞の出現なしに筋で増加することを見出した。不慣れな運動をすると,運動後に遅れて筋痛が出現することを遅発性筋痛と言うが,NGFは運動後12時間程度遅れて筋において増大し,2日後まで増大している。運動後2日目の,遅発性筋痛が最も強い時期に,抗NGF抗体を筋注すると遅発性筋痛は減弱するので,筋C線維受容器の機械感受性をNGFが増大させた結果が遅発性筋痛である,と考えられる。遅発性筋痛のラットの筋に炎症細胞は出現していないので,NGFを産生しているのは炎症細胞ではなく,筋細胞そのものか,血管または結合組織であろうと推測される。また,遅発性筋痛状態で感作されている受容器は,熱感受性,つまりポリモーダル受容器が多い傾向があった。多くの筋性疼痛は非炎症性であるので,筋でNGFが非炎症性に産生されると言うことは,他の筋性疼痛状態でもNGFが産生され,筋C線維受容器を感作して痛覚過敏状態を引き起こしている可能性がある。今後明らかにすべき課題である。
著者
釜付 弘志 金倉 洋一 野村 裕久 永田 文隆 石川 順子 新里 康尚 山口 陽子 丹羽 邦明 森川 重敏 高橋 正明 米谷 国男 徳永 泰基 石川 洋 伊藤 誠
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.849-858, 1995-04-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
7
被引用文献数
1

従来, 切迫早産の治療は安静療法が主で, その補助療法として薬物療法がある。しかしその副作用や投与限界量等により, 有効な治療効果が達成できないことがある。今回我々はこのような症例に対して灸療法と, その原理から電気的に考案されたマイクロ波発振装置による刺激療法を行い, 良好な結果を得たのでここに報告する。妊娠24週以降の切迫早産患者に対して至陰, 湧泉, 三陰交の穴に灸療法を行った。その結果, 灸療法により作用時間は短かったが子宮緊張が緩和され, 胎動が増加し, 臍帯動脈, 子宮動脈の血管抵抗が低下することがわかった。また, マイクロ波刺激を頻回に行うことにより同様の効果を長時間持続でき, しかも副作用は認められなかった。その結果, 薬物療法に灸療法を併用すると薬物の使用量を減らすことができ, それによって副作用の発現頻度を抑えることができた。灸療法は切迫早産の新しい治療法として有効かつ安全であると考えられた。
著者
澤井 孝之 木村 泰治郎
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.633-635, 1998-03-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
8

乾癬性関節炎の患者4例にヨクイニン湯を内服させ, 関節痛に対する効果を調べた。4例とも治療による関節痛の改善をみた。副作用は全く認められなかった。4例中3例において, ヨクイニン湯の内服によりコルチコステロイド, エトレチナート, 非ステロイド系消炎鎮痛剤 (NSAIDs) を中止できた。残りの1例はヨクイニン湯のみで, 関節痛のコントロールが可能であった。4例ともヨクイニン湯の内服中に乾癬皮疹に変化は認められなかった。ヨクイニン湯は乾癬性関節炎の関節痛に対して第一選択の薬剤になり得ると思われた。
著者
唐 方 野田 裕司 吉村 昌雄 久保 道徳 阿部 博子
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.833-839, 1995-04-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
12
被引用文献数
1

亜鉛欠乏マウスに大量の硫酸亜鉛を投与すると, 投与1時間後の血清亜鉛濃度は正常対照マウスに比べて著しく増加し, 小腸粘膜病変も増悪するが, 漢方薬 (〓香, 紫蘇, 木香, 陳皮, 知母, 鶏内金) 投与した亜鉛欠乏マウスでは血清亜鉛濃度の上昇が抑制されると共に小腸粘膜の障害も軽減されることが見出された。
著者
伊藤 隆 仙田 晶子 井上 博喜 斉藤 康栄 鏡味 勝 松原 史典 青柳 晴彦
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.933-939, 2005-11-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
9
被引用文献数
6 6

外来を受診した肥満患者127例に―律に防風通聖散 (Bo) を投与し, 6ヵ月以上服薬できた33例についてエキス剤の体重減量効果を検討した。対象例の腹力は5段階で (4) 以上の強が多かったが, これは腹痛下痢などの副作用で長期投与ができなかった9例で中間 (3) が多かったのに比較して, 腹力の強さの点で有意に高かった。服薬後の食欲低下は16例に認められた。食欲低下例と食欲不変例の投与前の体重はそれぞれ67.1±2.5kg, 75.9±2.4kgであり, 推計学的有意差を認めた。食欲低下例の体重の変化は-4.8±1.0kgで, 食欲不変例の-1.4±0.7kgに比較して明らかな差がみられた。血中中性脂肪値はBo投与後有意に低下した。作用機序として麻黄, 荊芥, 大黄, 連翹, 甘草による Adrenalin β3 receptor の活性化だけでなく, 大黄と山梔子による向精神作用が推測された。近年本薬に関する重篤な副作用報告がなされている。本剤の投与対象は腹力が強 (4) 以上が望ましく, 長期投与は食欲低下が認められる例によいと思われた。
著者
関矢 信康 引網 宏彰 古田 一史 小尾 龍右 後藤 博三 柴原 直利 嶋田 豊 寺澤 捷年
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.811-815, 2004-11-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

難治性の気管支喘息の3症例に対して咽喉不快感, 動悸, 自汗を目標として清暑益気湯を投与した。目標とした症状および所見は速やかに改善した。さらに発作の回数が著明に減少あるいは消失した。そのほか3症例に共通していた事柄は中年期であること, 発作が通年性であること, 心窩部不快感, 心下痞〓, 臍上悸を認めることであった。これまで清暑益気湯は夏やせ, 夏まけに対して用いられることが多かったが中年期の気管支喘息の長期管理薬 (コントローラー) としても認識されるべき処方であると考えられた。
著者
雨宮 修二
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.179-184, 1993-10-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
3
被引用文献数
2 2

末期胃癌に伴い大量の腹水が貯留した患者に対し五苓散を用い, 大量利尿を通じて腹水が減少し退院させることができた。経過中西洋医学的利尿剤は一切使用せず, 電解質の乱れはまったくみられなかった。
著者
堀口 勇 大竹 哲也 岡田 貴禎 富田 行成 志賀 達哉
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.383-386, 2003-03-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
10
被引用文献数
4 3

三叉神経痛に対しては carbamazepine が特効薬として使用され, 根治的には Jannetta の手術が行われる。しかし手術を望まず carbamazepine も無効となって, 激痛に悩まされる例もある。今回, 漢方薬が有効であった症例について検討した。漢方薬により carbamazepine が不要となったものを著効例, 半減できたものを有効例としてまとめると, 著効例7例, 有効例7例であった。処方は呉茱萸湯が2例, 五苓散を含む処方が9例, 柴胡桂枝湯・当帰四逆加呉茱萸湯生姜湯・麻黄附子細辛湯が各1例となった。三叉神経痛は上小脳動脈やその周辺血管の三叉神経への癒着・圧迫があり, 三叉神経の浮腫が生じていると考えられている。限局した領域における浮腫であっても五苓散や呉茱萸湯などはその利水効果によって効果を発現できるのではないかと思われた。14例の検討から三叉神経痛は水毒・表寒証が多いと考えられた。
著者
松井 龍吉 小林 祥泰
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.339-344, 2006-05-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
15
被引用文献数
2 2

再発した胸水貯留に対し, 五苓散を投与したところ胸水の著明な減少と再発が見られなくなった症例を経験した。症例は61歳男性。うっ血生心不全, 大動脈弁閉鎖不全症, アルコール性肝障害などにて外来治療中であった。●●●●●●うっ血性心不全の急性増悪にて胸水が貯留。胸腔ドレーン留置などにより胸水は消失するが, 再度貯留し当院入院。入院後よりそれまでの内服薬を変更することなく, 五苓散を追加投与したところ胸水が消失し全身の浮腫性変化も見られなくなった。さらにその後も胸水の再貯留も見られていない。五苓散はいわゆる「水滞」を基盤にした種々の疾患に対し, 口渇, 尿不利を目標に投与される方剤である。急性疾患において血管内脱水と消化管の余分の水分のアンバランスを是正する処方であり,本例においても単なる利尿のみでなく, 利水として何らかの水分調節作用を示したと考えられた。
著者
松崎 茂
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.67-72, 1999-07-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
14

採取直後のトリカブトの根をかじったため重篤なトリカブト中毒に陥った症例を経験した。治療においては, 心室性不整脈の治療に難渋した。「激しい嘔吐」と「煩躁」から,「尿自利」ではあるが五苓散エキスを投与した。すると, 尿流出状況が改善し, これに伴い不整脈が軽快した。五苓散が治療に有効であった可能性があった。また, 五苓散の投与目標として,「尿自利」も考えられると思われた。
著者
名取 通夫 土佐 寛順 田中 伸明 川俣 博嗣
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.419-424, 1996-11-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
7

「朮」は大きく白朮と蒼朮に分類され, 白朮は利水・補剤として, 蒼朮は発汗・除湿剤として用いられてきた。しかし, 実際に白朮と蒼朮を入れ換えることにより, 自覚症状がいかに変化するかは検討されていない。今回我々は, 漢方方剤中の白朮と蒼朮を4週間ごとに入れ換えて処方検討することにより, 以下のことを明らかにした。1) 関節痛がある症例では蒼朮を用いた方が有効率が高い。2) 有効例では「飲みやすい」と答えた人が60%で,「飲みにくい」と答えた人はわずかに9%であり, 味覚が効果判定の一つの指標になり得る。