著者
西原 和久
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.17-36, 1981-09-30 (Released:2010-04-23)
参考文献数
52

〈意味〉に着目することは、近年の社会学の一つの思潮となっている。そしてこの思潮は、M・ウェーバーやA・シュッツの流れをその源の一つとしている。だがこうした思潮内にいる諸論者において、〈意味〉の意味 (内容) やその視点はかなり自由に用いられているように思われる。本稿ではこの〈意味〉の多義性に論及する。その際、筆者は〈意味〉に着目する社会学の立場に立って、とりわけウェーバーとシュッツにおける〈意味〉の視角を検討する。そこでまず、〈意味〉の意味についての言語 (哲) 学の例示をみた上で、ウェーバーの〈意味〉概念の検討ないしはその若干の整序を試みる。そして次に、ウェーバーの「理解」を広義に解した場合の〈意味〉理解論における、〈意味〉の意味内容上の問題点を指摘する。筆者は、こうした考察の中から、主として〈意味〉付与の視角および「日常的理解の構造」解明の方向を析出する。そして、こうした点に着目したのがシュッツであり、合せてシュッツの〈意味〉に対する視角・方向も検討する。それは主に、行為者における行為の〈意味〉、「記号」とかかれる〈意味〉理解一般、そして〈意味〉の発生的な側面の問題などである。こうした〈意味〉の社会学の視角・方向は、人間意識へのかかわりを不可欠とするという点で一種の超越論的アプローチを前提とするであろう。
著者
上野 千鶴子
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.2-17, 1975-11-30 (Released:2009-10-19)
参考文献数
35
被引用文献数
1

レヴイ=ストロースの構造主義は、一九五八年『構造人類学』に見る公認の教義から、その客観的な構造を剔抉されなくてはならない。私見では、彼のアプローチは、階梯モデル、同型説、システム論的思考を特徴とする、合理主義的理解の方法の一典型であり、この観点からは「メタ=ストラクチャー」は、当該の事象を、より一般的・整合的な構造のうちに置換する上位モデルと解される。だとすれば、メタ=ストラクチャーを無意識の実在に等置する先験主義からも、これに発達を拒否する無時間モデルからも、私たちは免れることができる。彼自身及び彼の祖述家達の、方法をめぐる様々な錯綜した議論よりも、彼自身の構造分析の実際が、何よりも雄弁にそれを実証しているすなわち、メタ=ストラクチャーは、文字通り「系の系」として上位構造なのであり、理解とは、この構造を構成する手続きそのものなのである。これが、認識の発達モデルを提供するピアジェの構造主義が主張することであり、同時に、構造主義的思潮を、西欧合理主義の伝統の最も多産な果実とする方途である。
著者
嘉目 克彦
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.204-216,280, 1985-09-30 (Released:2009-11-11)
参考文献数
1

マックス・ヴェーバーの「マクロ社会学的研究計画」に対する問題関心の高まりとともに、近代西欧の「合理化」がヴェーバーの社会学と歴史研究の統一テーマであり、ヴェーバーの全作品を貫く「赤い糸」であること、したがってその作品理解の主要課題はいわゆる「合理化問題」の解明にあることが、最近改めて注目されはじめている。しかしその場合、「合理化」は「合理性」概念にかんする一定の解釈を前提にして論じられているのであって、この点では、早くから指摘されている「合理性」の「多義性」にかんする問題が従来と同様ほとんど考慮されていないといわざるを得ない。本稿は、「合理性」の論理的意味にかんして、「ものの属性としての合理性」という観点から従来の諸説を検討し、これまで多様に解釈されてきた「合理性」概念を一義的に理解するための道を模索した試論である。従来の解釈では結局のところ「合理性」が「体系性」、「経験的合法則性」および「首尾一貫性」として個別的に理解されているということ、これらの特殊的かつ要素的な「合理性」はしかし例えば「理解可能性」ないしは「伝達可能性」として一般化しうるということ、また「合理性」は結局「意味」の「理解」にかかわる概念であるということ、こうした点が本稿で指摘される。
著者
渡辺 秀樹
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.36-52, 1975-07-31 (Released:2009-11-11)
被引用文献数
1

In this paper, we attempt to construct a hypothetical model about the socialization process in the family applying the structural-functional theory. The socialization as a interaction process is considered to be the mutual and longitudinal process. And this process is conceptualized by role-developmental terms.In the hypothetical model, family socialization process is divided into two analytical process ; role-negotiation process and role-realization process. The three key elements in this model are role-expectation, role-conception and role-behavior.On the one hand, the family as a whole expects socializee to perform hi: family member's roles deriving from the tasks of satisfying the functiona requisites of the family as a social system. The contents of this task shift from stage to stage throughout the entire family life cycle. This tasks a any given stage in the family life cycle are considered to be the family developmental tasks.On the other hand, the individual as a socializee expects himself t actualize his own roles such as congruent to his role-conception which derive from the tasks of gratifying the personal needs as a personality system. Th contents of this tasks shift from stage to stage throughout the individual life cycle. We call these changing tasks the individual developmental task.After the contents of role-s are negotiated between role-expectation an role-conception, role-behaviour is realized.These assumption enable us to construct the ihterrelational model of the family socialization process consisting of the three key concepts (Figure 2). And theoretically, relative congruency or discrepancy among the three key concepts divide this model into five typological forms (Figure 3). And then, we assume that these five family socialization types become the phases of longitudinal process through the family life cycle stages. The possible phasemovement as typelinkages are theoretically four patterns (Figure 4). These four family socialization patterns are divided into two adaptive socialization patterns and two selfinitiated socialization patterns.After attempting the model building, we consider the relation between the family life cycle and the family socialization patterns, and also consider the typelinkage variation of the adaptive socialization pattern (Figure 5).
著者
安田 三郎
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.78-85,114, 1970-07-30 (Released:2009-11-11)
参考文献数
2
被引用文献数
1
著者
渡辺 雅子
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.333-347, 2001-09-30 (Released:2009-10-19)
参考文献数
27

本研究は, 日本と米国の小学生の説明のスタイルが具体的にどう異なるかを4コマの絵を使った実験により明らかにする.説明のスタイルを調査する方法として, 一連のできごとを説明するのに, どのような順番でものごとを叙述するかに注目した.4コマの絵を使った実験では, 同じ絵を見てそこに表されたできごとを説明するのに, 日本の生徒は生起順にできごとを並べて時系列で説明をする傾向が強いのに対し, 米国の生徒は時系列とともに結果を先に述べた後, 時間をさかのぼって原因をさぐる因果律特有の説明の順番に従う傾向があることが明らかになった.また理由付けをする場合には, 米国の生徒は結果にもっとも影響を与えたと思われるできごとのみを述べて他を省略する傾向が見られたのに対して, 日本の生徒は説明の場合と同様に時系列でできごとを述べる傾向が見られた.さらに日本の生徒は, 一連のできごとを述べた後, 社会・道徳的な評価で締めくくるのに対し, 米国の生徒は因果律の観点から, 与えられた情報をもとに説明を補足する特徴が見られた.時系列と因果律という叙述の順序の違いは, 個々のできごとの軽重の判断や一連のできごと全体の意味付けに重大な影響を及ぼしている.説明のスタイルの違いが理解や能力の問題として把握される可能性は大きく, 教育の現場においては複数の説明スタイルの違いの存在を意識することが必要である.
著者
帯谷 博明
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.52-68, 2002-09-30 (Released:2010-04-23)
参考文献数
30
被引用文献数
1 1

本稿は, ダム建設計画を例に, 地域社会の対立の構図とその変容過程を明らかにし, 計画段階における〈開発問題〉を捉える新たな関係図式の提示を行う.高度経済成長期を中心に各地に計画された大規模開発の中には, 近年, 長期間の地域コンフリクトを経て計画の見直しや中止に至る事業が見られるようになっている.数十年間にわたって事業計画に直面してきた地域社会では, その過程でさまざまなアクター間の利害対立とその変容を経験している.本稿は, これを計画段階における〈開発問題〉として把握する.ではこの〈開発問題〉における利害関係のダイナミズムは, どのように捉えられるだろうか.具体的には, 機能主義を背後仮説とする受益圏・受苦圏論を再検討した上で, まず, 開発計画をめぐる受益と受苦が住民にどのように認識されていたのかを分析する.さらに, 主要なアクター間のネットワークに注目する.「よそ者的視点」をもつキーパーソンを結節点とするネットワークが, 運動の拡大のみならず, 住民の受益・受苦認識の変容を迫り, その結果, 利害対立の構図自体が変容していくことを見出す.結論部では, 本稿の分析から得られた関係図式として, 受益・受苦と運動・ネットワークとの「相互連関モデル」を示す.
著者
花野 裕康
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.69-85, 2001-06-30 (Released:2010-04-23)
参考文献数
41

精神疾患の具体的認知過程は様々だが, 精神疾患認知の初期判断項目として行為者の社会的表徴が評価されるという点は, 具体的状況によらず共通である.精神医学は, この表徴から遡行して精神疾患の病因を特定しようとするが, そのような逆向きの実在論にはある種の逆理が不可避である.また行為の社会的表徴それ自体に精神疾患の根拠を求める物語論や構成主義的方法も同様に実在論としての逆理を孕んでいる.本稿では, 郡司ペギオ幸夫らが提唱する内部観測論を援用しつつ, 非実在論としての精神疾患論を展開する.内部観測論は, 観測者と観測対象との未分離性を前提としつつ, 局所の行為としての観測 (特定の言語ゲーム) を契機に普遍的な観測 (普遍的言語ゲーム) を感得させるための, 観測の存在論である.内部観測論的に言えば, ある社会的表徴を精神疾患のメルクマールとして評価しうるのは, 特定の言語ゲーム内における実行性に関してのみである.しかし精神疾患の実在論は, この特定の言語ゲームを普遍的言語ゲームと混同することで, 認知過程の「根拠化」を図ろうとする.かかる説明図式を脱構築しつつ, 精神疾患の内部観測論的モデルを提示することが本稿の目的である.
著者
成家 克徳
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.392-405, 1991-03-31 (Released:2009-10-19)
参考文献数
25

本論文の課題は、現代の国際労働力移動を理解するための基礎的な概念枠組みを設定することにある。第二次世界大戦後、アジア、ラテンアメリカ等の第三世界から多数のヒトが先進国、産油国へ移民労働者として出国している。従来の枠組み (プッシュ=プル理論) では、第三世界と先進国との間にある格差 (賃金、就業機会等) が過大評価されてきた。この理論を批判し、(1)世界経済の無国境化 (borderless economy) という “構造” 転換モデル、 (2) トランスナショナル・アクターとしての民族集団 (ethnic groups) という “主体” モデルを提示する。前者において、先進国の直接投資は、第三世界の輸出向け工業化 (あるいは農業化) を促進したが、同時に潜在的な移民候補者をも生み出したと述べる。また国際労働力移動は世界的規模での労働市場の一体化であると指摘する。後者においては、前者のモデルの問題点 (i・eシステム決定論) を指摘し、相互補完的観点を導入する。とりわけ第三世界側のダイナミズムを強調する。それに加えて (1) と (2) の観点を総合し、国境横断的な民族の発展という視点をうちだす。
著者
山本 英弘 渡辺 勉
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.147-162, 2001-06-30 (Released:2009-10-19)
参考文献数
20
被引用文献数
2 1

政治的機会構造論は, 現在の社会運動論において主流をなす理論の 1 つだといえるが, いくつかの問題点がみられる.本稿では, 政治的機会構造論の修正を試みたうえで, 1986~1997年の宮城県における社会運動イベントのデータを用いて計量的に検証する.分析から, 以下の2点を示唆することができる. (1) 社会運動に対する政治的機会構造の影響は, 運動の類型によって異なる.したがって, 政治的機会構造がそれぞれの社会運動の類型に対してどのように影響するのかを考慮しなければならない.従来の研究ではこの点が看過されていた. (2) 社会運動の類型によっては, 運動に対する政治的機会構造が機会として影響するのではなく, 政治体による政策が運動を誘発するという影響を及ぼす.そのため, 政治体と社会運動体の相互作用をより重視する必要がある.
著者
牛島 千尋
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.266-282, 2001-09-30 (Released:2009-10-19)
参考文献数
28
被引用文献数
1 1

「女中不足」は性別分業によって特徴づけられる「近代家族」誕生の背景の一つと見なされる.女中不足は, 戦間期の東京における新中間層の増加とどのように関連していたのであろうか.女中の雇用は新中間層の郊外化とどのように結びつき, そして, 東京郊外にどのような意味をもたらしたのであろうか.本稿は, これらのテーマを国勢調査と女中に関する調査データによって検討することを目的とする.第二次世界大戦以前, 女工とならんで女中は多くの若い女性が従事した典型的な仕事であった.女中不足は, 「女中奉公」の目的が行儀見習いから収入の獲得に変わった明治末からすでにあった.地域的に分断されていた労働市場が戦間期に統一されると, 東京は地方から大量の労働力を吸収した.女中は, 農村からの出稼ぎ労働者によるこの流れの一端を担った.戦間期には女中の実数は増加したが, それを上回る新中間層の増加は, 求人側と求職側の間の思惑の不一致を引き起こし, 女中不足をいっそう深刻化させた.新中間層の多くは一人の女中しか雇うことができなかったので, 妻も家事に従事しなければならなかった.結果として, 世帯内の夫と妻の間に明確な性別分業を引き起こした.このようにして, 戦間期に新中間層が増加した東京の西・西南部の郊外は, 産業化の過渡期に生まれた「女中」と近代家族の誕生とともに生まれた「主婦」からなる「二重構造」を呈する都市空間になった.
著者
長松 奈美江
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.476-492, 2006-12-31 (Released:2009-10-19)
参考文献数
21
被引用文献数
1

近年, 雇用調整や労働強化などにみられるように, 被雇用者の管理のあり方が変化している.被雇用者がもつ仕事の自律性の「水準」と, 被雇用者間での仕事の自律性の「規定構造」の変化に注目することで, 近年の雇用関係の変化を検証した.被雇用者がもつ仕事の自律性の「水準」は, 業務遂行において, 被雇用者と雇用主のどちらの意思がより貫徹されやすいかを表す.仕事の自律性の「規定構造」は, どのような特性をもつ被雇用者が, 雇用主との関係においてより有利な立場にあるかを表す.1979年の「職業と人間」調査, 2001~02年の「情報化社会に関する全国調査」を用いて, 仕事の自律性の「水準」と「規定構造」が変化したのかどうかを, 仕事の自律性の多母集団同時解析による検証的因子分析と, パス解析によって確認した.その結果, 男性被雇用者の仕事の自律性の「水準」は低下し, 「規定構造」に関しては, 学歴の効果の低下, 職業威信と年齢の効果の増大がみいだされた.職業威信の仕事の自律性への効果は, 職業威信による技能 (仕事の非単調性) の違いと, 解雇されやすい立場を表すパート・アルバイト率の違いによって媒介されていた.被雇用者の管理のあり方が変化し, 被雇用者の仕事の自律性の水準が低下するなかで, より解雇されにくく, 専門性の高い仕事をする被雇用者が, 仕事の自律性を奪われない有利性をもつようになったといえる.
著者
藤田 哲司
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.364-377, 1994-12-30 (Released:2009-10-13)
参考文献数
28

社会現象としての権威持続の中核は, 権威的指示の受容原理にあるものとして理解可能である。 そして, 本論文の目的は, 権威的指示の受容に関して敬意という要因を組み込んだメカニズムを想定し, 権威の安定を説明することである。権威の長期的安定 (権威的指示受容の長期的安定性) は, 1) 権威源泉の正統性にもとついて受容者個々人が自発的に受け入れるという側面と, 2) 受容者集団や社会圏内部で生ずる相互規制 (役割転換) によって受け入れを継続させられるという側面に分析できるが, いずれにおいても担い手に対する受容者の敬意が大きく関わっている。 つまり, 1) では, 二重の依存状態 (権威源泉-受容者, 担い手-受容者) の下で担い手が受容に関して何の期待もしないときに生じる敬意が, 源泉に対する正統性信念を喚起することによって, 受容を促進する要因となる。 2) では, 役割転換が受容継続を生み出すが, そこにも受容者個々人がいだく敬意がはたらいている。 受容者たちが自発的に逸脱者と敵対して受容圧力をかけるとともに, 通常時にも逸脱そのものを押さえることによって, 権威安定が結果する。 この権威の安定には, 自発性が深く関与するのに対し, 変化には源泉の優越的価値への合理的依存が関与している。 状況変化に伴う受容者期待分岐による役割転換の遅滞が, 権威現象変化の契機となる。
著者
小林 久高
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.392-405,478, 1989-03-31 (Released:2010-05-07)
参考文献数
29
被引用文献数
1 1

権威主義の基本概念は、弱者に対する攻撃を意味する権威主義的攻撃と強者に対する服従を意味する権威主義的服従の結合にある。アドルノ、ロキーチ、アイゼンクの研究を検討すると、この権威主義の基本的な意味と保守主義とが密接に関係していることがわかる。この事実を説明するために、一つの図式が提出される。この図式は、概念的な観点から、権威主義と保守主義の密接な結合を明らかにしたものである。次に、シルズのいう左翼権威主義の問題が検討される。そこでは、左翼の位置する体制の違いを考慮する必要性、体制に対する態度と党派に対する態度の違いを考慮する必要性、態度とパーソナリティのレベルの違いを考慮する必要性が述べられ、自由主義・資本主義体制内の左翼は、過激主義的ではあるが、右翼に比べて権威主義的ではないという指摘がなされる。
著者
藤竹 暁
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.446-460, 1990-03-31 (Released:2010-02-19)
参考文献数
62

清水幾太郎は、「経験」を基礎にして考え、行動した思想家であり、社会学者であった。清水幾太郎の人生とその業績を明らかにするためには、清水にとって経験とは何であったのかを、探らなければならない。本稿では、清水が社会学を志望するにいたり、そして三〇歳代前半に、環境と人間に関する清水独自の理論の骨子を形成するまでの、清水の初期の経験を考察する。まず、清水が成長過程で遭遇した個人的、社会的事件を整理し、これらの事件が、清水の思想形成において、どのような経験となったかを考える。次いでマルクス主義が支配する時代状況の下で、ドイツ形式社会学に没頭し、その非現実性に飽き足らず、オーギュスト・コントの研究へたどりつき、さらにアメリカの社会学、心理学、哲学を知るにいたって、コントの人類に関する観念を、清水独自の社会学的な人間の理論へと発展させた過程をたどりながら、清水が経験の概念を確立してゆく経緯を論ずる。それはまた、思想家そして社会学者としての清水幾太郎が、人生と社会に対して示した姿勢を明らかにすることでもある。
著者
河村 望
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.431-445, 1990-03-31 (Released:2009-11-11)

日本では、社会科学は西欧からの輸入科学として、主として帝国大学のなかで成立、発展してきた。社会学も、官学アカデミズムのなかで、国家学の亜種として形成されていった。したがって、市民社会の自己認識の学としての社会学の批判性は、当初から希薄であった。そのなかで、清水幾太郎氏は、マルクス主義の立場から日本で最初にブルジョア社会学を批判した人であり、マルクス主義者から転向したのちも、アメリカ社会学、社会心理学の方法を取り入れ、戦後の日本を代表する社会学者になった。本稿はその清水氏の追悼論文であるが、ここでは主として、清水氏がマルクスおよびミードの学説を、経験的世界における生命活動、実践の見地からとらえていないこと、したがって、きわめて客観主義的にかれらの理論をとらえていることを問題にしていった。清水氏がマルクスおよびマルクス主義を理解しえなかったことは、すでに繰り返し指摘されているが、清水氏のマルクスにたいする誤解が、そのままミードにたいする氏の誤解につながっていることは、本稿において初めて明らかにされることであろう。このような事実は、清水社会学の社会学という問題だけでなく、広く日本における知識社会学の問題をも提示している。日本にあっては、人間解放の理論も、プラグマティズムも、抽象的一般理論として受けとめられ、論じられてきたのである。
著者
武笠 俊一
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.53-67, 1982-03-31 (Released:2009-10-19)
参考文献数
20

目本農村の村落構造をさぐる場合、「同族団」と「親方子方関係」は、いまなお軽視できない基本的な概念であろう。それは、ふるい形態がそのまま残っているわけではないにしても、依然村落生活に強い規定力をもっているからである。本稿では、いわゆる「有賀・喜多野論争」をとりあげて、「系譜関係」概念の理論的再検討を行い、あわせて同族団と親方子方関係の異同.重複の問題を再考したい。
著者
西山 美瑳子
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.2-23,140, 1956-02-29 (Released:2009-11-11)

Sociometry, being a scientific branch of relatively recent development, employs an experimental method quite original in itself and which has never been seen in the field of social sciences. And I am confident that the method will give in the future a benificient influence and suggestion to other methodological maneuvor of social sciences in general. In sociometry, an experiment is understood as a method par excellence and not as a mere technique. It should be noticed that sociometry aims at modelling a novel type of experimental method, considering it as a modus vivendi of methodology in social sciences rather than as a simple remodelling from experimental operations of natural science, and thus at opening a new experimental possibility for amelioration of human group. There remains, however, a problem on sociometric results. Although sociometry, by its practicability and productivity, is confident and optimistic enough to be able to create a better community, the group therapy and the adjustment of human relations actually operated by sociometry are, after all considerations, frankly to de criticized as superficial and ineffective. Such deplorable circumstance comes from the fact that sociometry arbitrarily treats its sociometric interpersonal and intergroup relations derived through individual observation as the basis of all social phenomena, so that it can not deal with the relation of global society versus individual, and also from the fact that operations of sociometry is restricted by its own narrowness of purpose. From this point of view, there are inevitably some limits in utilizing the results of sociometry. Thus the sphere where the sociometry's therapy can most effectively be practised are only those groups with homogenized social background. Nevertheless, such limitation of the product of sociometry does not obscure to the importance and value of the essential experimental method of sociometry. Its positive intention and practicability to operate and adjust human relations as well as its scientific attitude in the capacity of a science concerning human action to establish a method of experiment in substatial and unified conbination between the subject and the object will surely furnish a new problem and hope to the methodology of social sciences in general. And the science that strives to operate and control social human relations based upon such methodological consciousness can not fail to accumulate a lasting merit in its method and technique inspite of its historical restriction of the age.
著者
今井 信雄
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.412-429, 2001-03-31 (Released:2009-10-19)
参考文献数
19
被引用文献数
1

阪神・淡路大震災以後, 被災地には「震災を記念するモニュメント」が数多く建てられている.記念行為が「ひとつの世界」との結びつきを再確認したいという要求をあらわすものであるならば, それぞれのモニュメントも何らかの「ひとつの世界」を想定していると考えられる。それぞれのモニュメントの指向を分析してみると, 実際は設立主体の組織としての性格に大きく影響されるものであった.設立主体の違いが, モニュメントの性格を決定づけていたのだ.震災のモニュメントは, 設立主体が組織として担っている「職務」の範囲内にあるかにみえた.けれども, 組織を越えて, ふたつのリアリティがモニュメントとしてあらわれていた.まず, 身近な人の死を追悼するモニュメントの型式があった.言葉は少なく, ただ死を死としてのみ受け取る心性のあらわれであった.次に, 「わたしたち」という言葉が数多くみられたモニュメントがあった.「わたしたち」という言葉は, 均質な空間を前提にしたリアリティのあらわれとして考えられるであろう.どちらも, 組織を越えてモニュメントを特徴づける型式として存在していたのだが, ふたつのリアリティが重なるモニュメントはみられなかった.ふたつのリアリティはまったく異なる機制によって成り立っていることが明らかになったのである.
著者
橋本 健二
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.175-190,267, 1986-09-30 (Released:2009-11-11)

社会諸階級の概念はマクロな社会構造と諸過程の研究において基底的な位置を占めるものであるが、にもかかわらずこれまで少数の例外を除いては計量的な実証研究には適用されてこなかった。本稿ではまず社会諸階級の概念を計量的な実証研究に適用するための理論的な準備作業を行ない、その上で現代日本社会を対象に、諸個人の階級所属の決定要因、所得格差、社会意識についての分析を行なう。明らかになったのは次のような諸点である。(1) 諸個人の階級所属を決定する主要な要因は出身階級と学歴であるが、両者の相対的な重要性はそれぞれの階級によって異なる。(2) 諸個人の階級的位置の違いは学歴や職業などの違いには還元できない実質的な所得格差を生み出しており、階級構造は所得の不平等の重要な基礎になっている。(3) 社会諸階級は共通の社会意識を形成する重要な基盤になっている。