- 著者
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倉田 賢一
- 出版者
- 中央大学人文科学研究所
- 雑誌
- 人文研紀要 (ISSN:02873877)
- 巻号頁・発行日
- vol.76, pp.231-243, 2013-10-10
シェイクスピアの『ハムレット』は『十二夜』に次いで書かれたとするのが通説的であるところ,両者の構造的対比から得られるところは大きい。ジャック・ラカンは『ハムレット』を,ガートルードの欲望の対象の位置がクローディアスによって過剰に占められており,そのことがハムレットを精神的に動揺させる劇として解した。これを『十二夜』に適用すれば,オリヴィアの欲望の対象の位置が,過剰な喪によって逆に空位のまま保たれていることで劇が展開している,という構造が明らかになる。さらにマルヴォーリオいじめのサブプロットをトービーのハムレット的状況として解すれば,この二つの劇はちょうど裏返しの関係にあることになる。このように,中心となる女性の欲望をめぐって,一方では対象の位置を占めるものが破壊される悲劇が描かれ,他方では対象の位置を占めようとする人々が奔走する喜劇が描かれ,後者の喜劇のただなかに,前者の悲劇を予告する主題が含まれているのである。