著者
下司 晶
出版者
教育思想史学会
雑誌
近代教育フォーラム (ISSN:09196560)
巻号頁・発行日
no.12, pp.181-197, 2003-09-27

PTSD論が喚起した外傷記憶の<現実性/幻想性>をめぐる問題は、1950年代の<誘惑理論の放棄>解釈図式の再燃といえる。クリスらの精神分析家たちは、『フリース宛書簡』から<誘惑理論の放棄>というフロイトの理論修正-<現実>から<幻想>への外傷報告の性質の移行-を発見し、それを精神分析の起源ととらえた。それに対し、マッソンらの心的外傷(PTSD)論者たちは、1980年代にこの図式を逆転させ、フロイトが外傷報告の<現実性>を棄却したことを、自らの批判的立脚点とした。これらの<誘惑理論の放棄>解釈は、ともに<現実/幻想>としての個体経験の重視という心理学的観点、自説の論拠としてのフロイトの生涯という枠組みを共有している。20世紀中葉、精神分析は、フロイトの多様なテクストを個体経験に収敏可能な範囲内に切りつめ、心理学理論として自らを整備し、その誕生を創始者の心理生活史に基礎づけることによって、自存的な言説として自律した。その契機こそ<誘惑理論の放棄>の発見だった。今日に至る、フロイトを心理学者たらしめるこの循環回路を超えて、彼を異化する必要があるのではないか。
著者
市原 正智
出版者
中部大学生命健康科学研究所
雑誌
中部大学生命健康科学研究所紀要 (ISSN:18803040)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.65-70, 2008-03

地球環境への影響の少ないクリーンエネルギーとして、水素社会の実現を目指した技術開発が行われている。これまで水素は生体に対して、害も益もない不活性のガスとして考えられていた。しかし水素と生体は密接な関係がある。人の体の中では腸内細菌から多量の水素ガスが産生され、一部は肺から排出されているという事実はあまり知られていない。昨年日本医大・太田成男氏らの研究により、水素を抗酸化剤として用いる新規治療法が示された。水素を低濃度で吸入することで、活性酸素のうちヒドロキシラジカルが選択的に消去され、その結果循環遮断にともなう組織障害が抑えられると報告された。また水素を飽和させた水素水も、糖代謝改善など、活性酸素の発生に伴う組織障害を抑制することが示された。著者も中部大学において、水素ガス、水素水を用いて生活習慣病に対する予防という観点から研究を進めている。
著者
伊藤 由紀 篠田 邦彦
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.99-108, 2015 (Released:2015-06-05)
参考文献数
18

目的:肥満傾向児と痩身傾向児の生活習慣を発達段階別に比較し,両者の共通点と相違点を特定することを目的とした.方法:平成25年度の新潟県内の小学校3年生から高校3年生男女を対象として実施した「生活実態調査」の結果を研究利用の許可を得たのち分析した.研究デザインは質問紙を用いた横断的研究である.有効回答者は7,395名であった.児童生徒の肥満度より「痩身傾向児」「標準児」「肥満傾向児」の3群に分類し,食事習慣,運動習慣,睡眠習慣,その他の習慣について比較検討を行った.結果:運動習慣について,男子の「週3日以上運動する」者の割合は,小学生では痩身傾向児(n=50, 58.8%)が肥満傾向児(n=147, 42.6%)よりも高かった(p=0.01).一方,高校生では肥満傾向児(n=89, 37.1%)が痩身傾向児(n=12, 25.0%)よりも高い傾向がみられた(p=0.001).他にも望ましい習慣と思われる「朝食を毎日食べる」「食事の際よく噛んで食べる」「家族(大人)と食べる」「TV視聴時間が2時間未満」の者の割合は,小中学生では男女ともに痩身傾向児に高い傾向であった.一方,高校生女子では標準児に高い傾向であった.結論:食習慣はすべての学校段階で痩身傾向児に望ましい習慣が形成されている傾向が示された.運動習慣,睡眠習慣については,肥満傾向児と痩身傾向児に望ましくない類似した傾向が認められた.また肥満度により同じ体型に判定されていても発達段階によってその実態は異なっていた.
著者
松田 時彦
出版者
東京大学地震研究所
雑誌
東京大学地震研究所彙報 (ISSN:00408972)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.1179-1212, 1967-01-30

1. 地形的にその存在が推定されていた跡津川断層は,少なくとも庄川-神通川の分水嶺から北東へ常願寺川上流までたしかに存在する.長さ60km以上,部分的にゆるくを彎曲するがほぼ直線状で,その平均走向N60°E,断層面の傾斜はほぼ垂直,断層面上の断層条線はほぼ水平である. 2. この断層線に沿って,古生代の飛騨変成岩類から第四紀の河床堆積物までの地層および隆起小起伏面や段丘面などの地形面が変位している.この断層の変位の向きは多少の垂直成分を伴った右ずれである.この断層が示す変位の水平成分は断層の主部で約3km,垂直成分は,概して北側の相対的隆起でその量は1km以下である.すなわち,この断層は右横ずれ活断層である. 3. 第四紀の地層・地形面は古い時代のものほど大きく変位しているが,それ以前に生じた岩石では,時代が古くなっても変位量はそれ以上増加しない.したがって,現在この断層が示す変位量3kmは第三紀後期以後に生じはじめたと考えられる.数万年前に生成した河岸段丘が20m以上変位しているから,最近の数万年間における平均の変位速度は1~数m/1000年位と考えられる. 4. 段丘の変位や谷の喰違い現象は,この断層が最近地質時代に数十m以下を単位とする小刻みのほゞ同方向の変位を繰返してきたことを示している。また,この断層沿いにみられる断層崖などの断層地形は大地震時に生じる地形によく似ている.これらのことから,この断層の約3000mの変位量は地震時の変位の集積と考えられる.安政5年(1857)の飛騨地震はこの断層の最近の活動の1つと思われる. 5. 断層線上での谷の屈曲・転移のむきは概して右であるが,その量はその断層線から谷頭までの距離の大きな谷ほど大きい.このことは,この断層が活発な右ずれ変位を繰返していること,谷の喰違い地形は変位のむき・量を大略反映していること,谷の古さは断層線よりも上流の部分の長さにほゞ対応していること,を示唆している.このような谷の累進的転位現象の有無・程度は,未知の断層の活動性を知る1つの目安になると思われる.
著者
松田 時彦
出版者
東京大学地震研究所
雑誌
東京大学地震研究所彙報 (ISSN:00408972)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.289-319, 1990-06-30

日本列島陸域の既知の活断層を,それぞれ独立して地震を起こす「起震断層」に再編成した.その際,次の場合を,それぞれ一つの起震断層とした: 1) 5km以内に他の活断層のない孤立した長さ10km以上の活断層, 2)走向方向に5km以内の分布間隙をもって,ほぼ一線にならぶほぼ同じ走向の複数の断層, 3) 5km以内の相互間隔をもって並走する幅5km以内の断層群, 4)その断層線の中点の位置が主断層から5km以上はなれている走向を異にする付随断層あるいは分岐断層.こうして得られた日本列島陸域(南西諸島を除く)のすべての起案断層をTable 3とFig. 3に示した.そして,その起震断層の長さLを用いて,その断層から発生し得る最大の地震のマグニチュードMLを,断層ごとにLog L(km)=0.6M-2.9の関係を用いて,算出した.一方,日本列島の陸域と周辺海域を,島孤系における位置,活断層や歴史地震の規模などに基づいて, 16の地帯に区分した(Fig. 4).陸域の各地帯において,その地帯内での最大のMLとその地帯内で生じた歴史地震の最大のマグニチュードMhとを比較し,そのいずれをも包含するマグニチュード(1/4刻み)をもって,その地帯で期待される最大地震のマグニチュードMmaxとみなした.ただし,地域内に例外的に大きなMLをもつ断層がある場合には,それを特定断層とよび,それが地震エネルギーを一括放出するか分割放出するかを,別途考慮することとして,各地帯のMmaxを考慮する際にはそれらのMLを無視した.海域については,活断層資料の精度が陸域と異なること,歴史時代に大地震を比較的頻繁に起こしていること,などから歴史時代の最大地震のマグニチュードをもって,その海域のMmaxとみなした.日本列島各地帯の最大期待地震規模Mmaxは次のようである(Fig. 5, Table 2). Mmax=8 1/2:東日本太平洋側沖合帯,西日本太平洋側沖合帯 Mmax=8:中部・近畿帯(西南日本内帯東部) Mmax=7 3/4:日本海東縁帯(東北日本内帯西部) Mmax=7 1/2:東北日本内帯主部,南部フォッサマグナ衝突帯,伊豆地塊,北陸帯,中国・北九州帯(西南日本内帯西部) Mmax=7 1/4:北海道中部衝突帯,九州中南部帯 Mmax=7:知床・阿寒帯,東北日本外帯,西南日本外帯 Mmax=6 1/2:千島弧外帯,北見帯 MLの最大値とMhの最大値は地帯によって大きく異なっていたが,同じ地帯では両者はほぼ同じ値を示している(Fig. 6).このことから,既存の活断層資料も歴史地震資料も,したがって上記のMmaxも,このように地帯区分した場合にはほぼその地帯の地学的特性を反映していると考えられる.
著者
西郷隆盛
巻号頁・発行日
1868-02-01
著者
日野 竜夫
出版者
學燈社
雑誌
國文學 (ISSN:04523016)
巻号頁・発行日
vol.41, no.12, pp.106-113, 1996-10