著者
小原 格
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.161-166, 2019-01-15

高等学校情報科における問題解決学習と,その具体的な授業内容の一部について簡単に報告する.情報科では,2003年の設置当初より問題解決学習が重視されており,特に,現行学習指導要領「情報の科学」においては,問題解決そのものや進め方についても学習対象としている.高等学校における具体的な問題の捉え方,問題の発見方法,発想を広げたり,思考を掘り下げたりする具体的な学習活動,また,それを可視化させるシンキングツール「IE図」について紹介する.さらに,総合的な問題解決学習の進め方や指導のポイント,また,プログラミングによる問題解決学習についての実践報告も簡単に行いながら,次期学習指導要領「情報I」を見据える.
著者
川添 裕子
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.169, pp.29-54, 2011-11-30

近代以降の身体観の変化と併行して,美容整形は拡大し続けてきた。美容整形に関する人文社会科学研究では,身体の管理・監視に焦点を当てた分析と,整形経験者の能動性に焦点を当てた分析が対立的な議論を構成してきた。しかしいずれも近代社会とその対極の個人という図式に依拠している点では共通している。近代的身体観と近代的個人の概念に基づいた分析においては,美容整形経験者の身体と自己は,社会に従属するか,あるいは他者と無縁に刷新されるものと描かれる。本稿は,術前から術後に亘る聞き取り調査をもとに,従来の研究では背景に退いていた状況性と関係性および手術後の馴じむ過程に着目して,日本の患者の身体と自己のありようについて検討するものである。手術前,患者たちの身体と自己の感覚は画像情報的で,普通でないというようなスティグマ化された身体形態に固定化している。この日常生活全体に暗い影を落とすほどリアリティを持つ身体は,手術後は意外に早く忘れさられていく。固定化していた身体と自己の感覚は,手術を契機に流動的に変化しうる。しかし単に手術が技術的に成功すればいいだけではない。日本では,美容整形の周縁性・境界性がとりわけ顕著である。相対的に普通が強調される中で,ほとんどの患者はタブー視される美容整形を秘密にする。患者たちは痛みや違和感の残る身体に馴染むと同時に,その身体で他の身体の前に出てともにいることに馴染んでゆく過程で,手術前とは微妙に異なる身体と自己の感覚や他者の反応や新たな関わり方を少しずつ自分の身体に染み込ませてゆく。この一連の経験の中でそれまでの価値観や他者との関係を捉え直す患者もいるし,しばらくしてまた画像情報的な身体形態の追求に向う患者もいる。本稿の分析結果からは,身体と自己の感覚と認識は,そのつどの状況性と関係性の中で立ち現れる流動的で相互作用的なものであることが示唆される。
著者
安島 雄一郎
雑誌
研究報告システム・アーキテクチャ(ARC) (ISSN:21888574)
巻号頁・発行日
vol.2021-ARC-243, no.5, pp.1-6, 2021-01-18

スーパーコンピュータ「京」および「富岳」のシステムアーキテクチャとインターコネクトが,当時の技術動向やプロジェクトの要求性能を踏まえてどのように検討され,開発されたか,その経緯を含めて紹介する.また,現在の技術動向を踏まえて,将来のスーパーコンピュータ開発について議論する.
著者
正田備也 高須 淳宏 安達 淳
雑誌
情報処理学会論文誌データベース(TOD) (ISSN:18827799)
巻号頁・発行日
vol.48, no.SIG11(TOD34), pp.14-26, 2007-06-15

文書分類のための代表的な確率論的手法にナイーヴ・ベイズ分類器がある.しかし,ナイーヴ・ベイズ分類器は,スムージングと併用して初めて満足な分類精度を与える.さらに,スムージング・パラメータは,文書集合の性質に応じて適切に決めなければならない.本論文では,パラメータ・チューニングの必要がなく,また,多様な文書集合に対して十分な分類精度を与える効果的な確率論的枠組みとして,混合ディリクレ分布に注目する.混合ディリクレ分布の応用については,言語処理や画像処理の分野で多く研究がある.特に,言語処理分野の研究では,現実の文書データを用いた実験も行われている.だが,評価は,パープレキシティという純粋に理論的な尺度によることが多い.その一方,テキスト・マイニングや情報検索の分野では,文書分類の評価に,正解ラベルとの照合によって計算される精度を用いることが多い.本論文では,多言語テキスト・マイニングへの応用を視野に入れて,英語の20 newsgroupsデータ・セット,および,韓国語のWebニュース文書を用いて文書分類の評価実験を行い,混合ディリクレ分布に基づく分類器とナイーヴ・ベイズ分類器の,定性的・定量的な違いを明らかにする.
著者
加藤 恵美子
出版者
武庫川女子大学
巻号頁・発行日
pp.1-173, 2019-11-27

本研究は、思春期における詩の創作とその読み合いのもつ意味を、思春期の子どもの「自己」の形成の視点から、教師の援助のあり様も問う形で述べていくものである。 本研究では自分自身の内面を見つめ、情動・感情を対象化しながら紡ぎ出された詩的な言葉を「詩的表現」と呼び、第一に思春期の子どもの綴る「詩的表現」の特質を考察した。第二に思春期の「自己」の形成に関わる実践的視点から、詩の創作と詩の読み合いがもつ意味を論考し、第三に詩の創作活動に関わる教師の役割を検討・考察した。 第1章では、1970~80年代における東京の中学校教師・桐山京子の詩の創作実践をもとに、思春期の「自己」の形成の上で、詩の創作活動の持つ意味と教師の援助のあり方について検討し、第2章では、2006~2017年に奈良少年刑務所で社会性涵養プログラムとして取り組まれた、詩人・寮美千子による詩の創作実践をもとに、思春期の子どもの「自己」の形成に、詩の読み合いの場がどのような影響を与えたのか、共同批評の重要性とその条件の考察を行った。第3章では、筆者の詩の創作活動の実践を対象とし、4名の生徒に聴きとり調査を行い、個々の生徒の「自己」の形成における詩の創作と読み合いがもつ意味、特に「自己」の認識と受容への影響を中心に考察した。終章では、各実践の検討と考察に基づき、本研究の成果として、①思春期における詩的表現の特質、②思春期における詩の創作と詩の読み合いの意味、③現代の中学生にとっての詩の創作活動の今日的意味、④思春期の詩の創作活動を支える教師の役割について考察を行った。 本研究で明らかになったことは、思春期の特質である情動・感情の不安定さは、その不安定さの事実を「詩的表現」を通して対象化することで自己認識でき、安定した自己存在の自覚へと繋がっていくということである。特に中学校での学習場面では、情動・感情を表現する「詩的表現」を探り、その情動・感情が他者に受けとめられ、その意味を一緒に考えてくれる他者と出会うことが重要な意味をもつ。詩を読み合う場は、子どもたちにとって他者に見せている自分とは異なる「本当の自分」を拓き、他者とつながれる場ともなっていた。それは同調することによって友人でいる表面的な関係とは異なる次元での結びつき(本研究では「心理的接触」という語を用いて論じた)であると解することができた。 生徒の生活世界を探り、彼らの葛藤の場を共有してくれる「共存的他者」としての教師の存在、表現に込められた情動・感情を受けとめ意味のある応答を返していく「共同批評者」としての教師の存在と、それを踏まえた授業実践が、思春期の「自己」の形成を支えていく中学校教育の核に位置づけられる必要がある。
著者
田中 あずさ 米津 光浩 中西 正和
雑誌
全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.第51回, no.人工知能と認知科学, pp.43-44, 1995-09-20

Gerald M.Edelmanが神経グループ選択理論(NGS理論)を実証するために構築したシミュレーションシステムDarwinIIIのサブシステムOculomotor-systemを実装し,NGS理論を用いたニューラルネットワークの学習について考察する.
著者
吉田 暁史 Satoshi YOSHIDA
出版者
大手前大学
雑誌
大手前大学人文科学部論集 = Otemae journal of humanities (ISSN:13462105)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.A113-A134, 2006-03-31

ネットワーク環境における主題検索研究に関しては、あまり顕著な進展はない。その中で、FASTという主題検索システムが登場した。LC件名標目表の豊富な語彙をほぼそのまま借用し、統語論的結合については簡略化したシステムである。LC件名標目表は、意味論的側面、統語論的側面の両方で、大きな問題を抱えている。本論ではLC件名標目表において、名辞の形、意味論的関係性、統語論的結号の各側面について検討する。次にFASTがどのような目的で、どのような経緯で出現したかを論じる。さらに上記それぞれの側面で、LC件名標目表をどのように継承し、LC件名標目表とどのように異なるかを調べる。最後にネットワーク情報資源の検索にとってあるべき姿を論じる。結論としては、(1)もはや事前結合索引にこだわるべきではなく、事後結合索引の方向に向かうべきである、(2)件名典拠ファイルは、語彙管理の部分と統語論的結合部分とに分離し、FASTはそのうちの語彙管理部分をLC件名標目表と共有すべきである、と指摘する。
著者
古川 一明
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.179, pp.269-294, 2013-11-15

東北地方の宮城県地域は,古墳時代後期の前方後円墳や,横穴式石室を内部主体とする群集墳,横穴墓群が造営された日本列島北限の地域として知られている。そしてまた,同地域には7世紀後半代に設置された城柵官衙遺跡が複数発見されている。宮城県仙台市郡山遺跡,同県大崎市名生館官衙遺跡,同県東松島市赤井遺跡などがそれである。本論では,7世紀後半代に成立したこれら城柵官衙遺跡の基盤となった地方行政単位の形成過程を,これまでの律令国家形成期という視点ではなく,中央と地方の関係,とくに古墳時代以来の在地勢力側の視点に立ち返って小地域ごとに観察した。当時の地方支配方式は評里制にもとづく領域的支配とは本質的に異なり,とくに城柵官衙が設置された境界領域においては古墳時代以来の国造制・部民制・屯倉制等の人身支配方式の集団関係が色濃く残されていると考えられた。それが具体的な形として現われたものが7世紀後半代を中心に宮城県地域に爆発的に造営された群集墳・横穴墓群であったと考えられる。宮城県地域での前方後円墳や,群集墳,横穴墓群の分布状況を検討すると,城柵官衙の成立段階では,中央政権側が在地勢力の希薄な地域を選定し,屯倉設置地域から移民を送り込むことで,部民制・屯倉制的な集団関係を辺境地域に導入した状況が読み取れる。そしてこうした,城柵官衙を核とし,周辺地域の在地勢力を巻き込む形で地方行政単位の評里制が整備されていったと考えた。