著者
橋本高志良 井出源基 山田遼平 堀場匠一朗 津邑公暁
雑誌
研究報告計算機アーキテクチャ(ARC)
巻号頁・発行日
vol.2014-ARC-208, no.22, pp.1-8, 2014-01-16

マルチコア環境では,一般的にロックを用いて共有変数へのアクセスを調停する.しかし,ロックには並列性の低下やデッドロックの発生などの問題があるため,これに代わる並行性制御機構としてトランザクショナルメモリが提案されている.この機構のハードウェア実装であるハードウェアトランザクショナルメモリ (HTM) では,アクセス競合が発生しない限りトランザクションが投機的に実行される.しかし,共有変数に対する複合操作が行われるようなトランザクションが並行実行された場合,その際に発生するストールが完全に無駄となる場合がある.本稿では,このような同一の共有変数に対する Read→Write の順序でのアクセスを検出し,それに関与するトランザクションを排他実行することで,HTM の全体性能を向上させる手法を提案する.シミュレーションによる評価の結果,提案手法により 16 スレッド実行時において最大 72.2%,平均 17.5%の性能向上を達成した.
著者
山田遼平 堀場匠一朗 井出源基 橋本高志良 津邑公暁
雑誌
研究報告計算機アーキテクチャ(ARC)
巻号頁・発行日
vol.2014-ARC-208, no.23, pp.1-9, 2014-01-16

マルチコア環境における並列プログラミングでは,一般的にロックを用いて共有リソースへのアクセスを調停する.しかし,ロックには並列性の低下やデッドロックの発生などの問題があるため,これに代わる並行性制御機構としてトランザクショナルメモリ (TM) が提案されている.これをハードウェアで実現する HTM では,一般的にアクセス競合が発生した場合にトランザクションの実行を停止する必要があるため,一時的に並列度が低下してしまう.そこで本稿では,競合が発生したとしてもトランザクションの実行を停止させず,競合相手がコミットまで到達すると仮定して投機的に実行を継続することで並列度を増大させる手法を提案する.評価の結果,既存手法に比べて,最大 9.63%,16 スレッドで平均 1.74% の実行サイクル数の削減を確認した.
著者
中山 真里 檜山 敦 三浦 貴大 矢冨 直美 廣瀬 通孝
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.177-188, 2014-01-15

超高齢社会が到来した日本国内には,就労意欲に満ちた元気高齢者が多く存在する.彼らの能力を活かして就労機会を創出していくために,複数人の労働力を合成して1人のバーチャルな就労者を合成するMosaic型就労が提案されている.本研究では,柔軟な時間就労における安定的な労働力供給を実現するため,時間Mosaic型就労に着目する.特に,不規則な時間就労形態として農業に従事する高齢者グループを対象に,時間Mosaic形成支援システムを開発し有効性について実証実験を通じて評価した.この結果,時間Mosaicの効率良い形成と補填に対してシステムが有用であると分かった.特に,就労者グループにおける個人の就労可否日時,月別労働時間,働きたい/ヘルプ可能/働けないの3項目に対応した◎/○/×の3種の記号による就労意志の表示が有効と分かった.
著者
井垣 宏 福安 直樹 楠本 真二
雑誌
ウィンターワークショップ2014・イン・大洗 論文集
巻号頁・発行日
vol.2014, pp.79-80, 2014-01-16

SDPBL(Software Development Project-based Learning)等の高度なソフトウェア工学教育を実施する際には,多様なサービスを導入したサーバの構築・運用を教員が実施しなければならない.本稿ではそのようなサーバ運用における課題を整理し,新しいサーバ運用手法について検討を行う.
著者
宮部 真衣 灘本 明代 荒牧 英治
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.563-573, 2014-01-15

近年,マイクロブログの普及にともない,マイクロブログを用いた個人での情報発信が増加している.2011年3月11日に発生した東日本大震災においては,Twitterに多くの情報が投稿された.Twitterでは,重要な情報が伝搬された一方で,様々な流言の拡散も多数行われた.特に災害時は,流言が救援活動などに悪影響を及ぼす可能性が高いため,流言の広がりにくい環境を作る必要がある.本研究では,マイクロブログ上の流言に対して,どのような対応がされているかを調査した.また,人間によって発信される訂正情報に着目し,訂正情報に基づいて流言情報を収集・提供することにより流言拡散を防止するサービスを構築した.本提案手法では,流言であることを指摘する表現(流言マーカ)を含む情報を収集し,それらが訂正情報であるかどうかを判定する.平常時のツイート,災害時のツイートを用いて,構築した訂正情報分類器の判定精度を検証した結果,平常時を含めたデータを用いることで,平常時・災害時のどちらでも高精度な判定が期待できることを示した.
著者
井上 武史 イノウエ タケシ Takeshi INOUE

高緯度北極に生育する地衣類の水利用と光合成活動の解明Morphological and symbiotic effects on water availability andphotosynthesis of lichens during snow-free seasons in the High Arcticglacier foreland高緯度北極に生育する地衣類の光合成活動は、雪に覆われない生育可能期間において、水制限下にあると指摘されている。しかし、野外環境下での地衣類の水利用や光合成活動は研究例が少なく、その動態はわずかな知見に基づいて推察されたものであった。本研究ではノルウェー王国スピッツベルゲン島ニーオルスンにある東ブレッガー氷河後退域(78°55′N 11°50′E)において、優占する地衣種を調査し、それらの着生基物や地衣体の内部・外部の形態で生じる水環境特性と、各地衣種の光合成活動の実態解明を目指した。植生調査により、調査域には136 種の地衣類の分布が確認され、このうち樹枝状地衣種Cetrariella delisei と固着地衣種Ochlolechia frigida は複数の地表面構成要素を着生基物として高頻度・被度で出現する優占地衣種となっていた。また、樹枝状地衣種Flavocetraria nivalis、Cladonia arbuscula ssp. mitis、Cladoniapleurota は、それぞれ維管束植物/リター、コケ/リター、クラスト上で高い出現率を示し、これらは各地表面構成要素上での標徴種とみなされた。複数の地表面構成要素上に高頻度で出現した2 種の優占地衣種では、C. delisei はリター類と礫、O. frigida はクラスト上で特に高出現率となっており、また、各地表面構成要素上で異なる地衣種が高頻度に出現したことは、着生基物のもたらす水環境の違いや、各地衣種の水獲得や光合成をはじめとする生理特性の違いによって生じたと思われたため、これら5 種を調査対象と定め研究を進めた。調査域の無雪期間には、微量の降雨が1 週間程度の間隔で生じ、大気中の湿度は降雨停止後から徐々に低下し、また、着生基物も自由可動水が数日でほとんどの失われるほどに乾燥化が進行した。地衣体の表面積/乾重が相対的に大きな4 種の樹枝状地衣(C. delisei, F. nivalis, C. arbuscula ssp. mitis, C. pleurota)については、降雨後の夜間から早朝に湿度が飽和状態となっている大気中から水蒸気を獲得することが実験的に確認され、野外においても夜間から早朝に地衣体の含水比を高め、相対的に弱い光環境で光合成を行なっていることが確認された。また、これら樹枝状地衣4 種は大気中湿度の低下に伴って地衣体から早急に水が蒸発し、日中には含水比の低下により光合成が停止していた。これに対し、調査域の地表面構成要素の中で最も湿潤環境であったクラストに広い表面積で着生していた固着地衣O. frigida は、着生基物と地衣体間に生じた水ポテンシャル差に沿って水が供給されることで、含水比が光合成可能な程度に降雨後から数日間は保たれ、日中にも光合成を行っていることが明らかとなった。本研究では次に5 種の地衣体から共生藻を分離し、光・水-光合成応答性を調べることで、共生関係による乾燥環境への適応について追求した。吸水状態での地衣体の光-光合成曲線は、樹枝状地衣4 種は弱光適応型、固着地衣O. frigidaは強光適応型の曲線がみられ、それぞれの曲線はそれらの共生藻が示すものと一致したことより、吸水状態の地衣体で実現される光-光合成応答性には共生藻の生理特性が強く表れていることが判明した。共生藻の水-光合成応答性を調べた結果、全ての共生藻は35%以下の含水比でも光合成活性を低下させない性質を示した。樹枝状地衣Cladonia 属2 種では、分子系統解析により同一種とみなされる共生藻が地衣体表面に配置され、光合成停止含水比は5%前後であった。これに対し、他2 種の樹枝状地衣では、明瞭な上・下皮層構造に囲まれた髄層中に共生藻が配置され、それら共生藻の光合成停止含水比はCladonia 属の共生藻に比べ2-5 倍程度大きな値となっていた。固着地衣O. frigida では共生藻は上皮構造によって大気側が遮断され、着生基物から水が供給される共生体下部に配置されていること、また、その共生藻の光合成停止含水比は調査した共生藻の中では最低値を記録し、乾燥に極めて強いものであった。以上の結果より、調査対象とした優占地衣種5 種はそれぞれの共生菌がつくる形態的特徴と着生基物によって、無雪期間の乾燥化進行時における利用可能な水環境に差を生じさせ、この水環境の差に応じて地衣体が獲得した水によって共生藻の光合成が活性化されうること、また、それぞれの共生藻は低含水比でも光合成を行なう能力を持つが、光合成停止含水比には種間差が認められ、地衣体が水を獲得できる時の光環境で阻害を受けずに光合成を行う生理特性を持っていることが本研究から明らかとなった。これらは共生体を構築して調査域で優占する地衣種の菌類と藻類との間に、乾燥化が進行する環境下で効率よく光合成を行うための調和的な関係が成立していることを示唆していた。
著者
青野 明子 アオノ アキコ Akiko Aono
雑誌
国際研究論叢 : 大阪国際大学紀要 = OIU journal of international studies
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.163-179, 2010-03-31

Stress care education in clinical psychology aims to develop students who are sensitive to interpersonal relationships, and promotes development of methods for the students raise their sensitivity. In this study, the sensitivity of one student attending the course on counseling techniques was evaluated by examining his reports. The reports that he wrote for each class showed that his ability to empathize with others was enhanced at both an intellectual and practical level. It was also suggested that the student's increased sensitivity to the feelings and needs of others had a beneficial effect on both his private and other relationships in a variety of situations.
著者
三輪眞弘
雑誌
情報処理学会研究報告音楽情報科学(MUS)
巻号頁・発行日
vol.1997, no.18(1996-MUS-019), pp.47-48, 1997-02-20

楽器によって演奏された音をピッチ検出し文字に変換する、という基本コンセプトによって構想された作品「Send Mail」の制作課程の報告と挫折した作曲家の嘆きを紹介する。
著者
後藤 真 内藤 求
雑誌
じんもんこん2013論文集
巻号頁・発行日
vol.2013, no.4, pp.79-86, 2013-12-05

筆者らは,正倉院文書トピックマップの開発について,以前に報告を行った.その後も開発と拡張・情報の充実を進めている.知識情報を経典に関するものを中心に充実させた.正倉院文書の中心は写経所の文書であり,経典の情報の充実は正倉院文書の中心部分の研究に役立つことになる.知識情報の充実と,その抽出・可視化の手法によって,奈良時代の経典の所在や,所属の状況を明らかにできるようシステムを作った.また,正倉院文書データベース(SOMODA)の新たなバージョンとしての位置づけも加えられるよう,文書に関する情報も充実させ,より高度な情報派遣を可能にするものとした.
著者
佐藤 貴文 後藤 真 木村 文則 前田 亮
雑誌
じんもんこん2013論文集
巻号頁・発行日
vol.2013, no.4, pp.57-64, 2013-12-05

本稿では,遠隔地にいる複数の人文系研究者によって,文献資料に関する注釈情報を共同で入力するためのWebシステムの試作について述べる.本研究で対象とする文献は『東大寺要録』という歴史資料であり,これに対して注釈作業を行っている人文系研究者による利用を想定している.本システムの特徴として,複数の研究者が同一の史料に対して同時に注釈の付与が可能である点,複数の研究者による注釈が部分的に重なる場合や,離れた文字にまとめて注釈を付与するなど,複雑に入り組んだ注釈への対応を考慮している点が挙げられる.本発表では,実際に利用する人文系研究者の意見を得ながら進めている本システムの構築について,現状の報告および今後の展望について述べる.
著者
神谷 知行 坂本 一憲 鷲崎 弘宜 深澤 良彰
雑誌
情報処理学会論文誌プログラミング(PRO) (ISSN:18827802)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.33-45, 2013-12-20

リファクタリングはコード体質改善の手法として広く知られているが,手動での実行はコストが高く欠陥を埋め込みやすいため,リファクタリングツールが多数提案されている.しかし,これらのツールは単体の単純なリファクタリングの実行を支援するものであり,リファクタリングによるデザインパターンの導入など,複雑なリファクタリングを行うのは難しい.すなわち,単体のリファクタリングを複数種類組み合わせて逐次実行したり,複数箇所に対してあるいは複数回数繰り返してリファクタリングを実行したりすることは困難である.そこで我々は,Javaソースコードを表現可能なモデルを用いて,リファクタリング内容やその適用箇所の指定を記述できるスクリプトおよびその処理系を提案する.複雑なリファクタリングを簡潔に記述でき,少ないコストで複雑なリファクタリングを実行できること,またプロジェクト横断的に再利用できることを評価実験で確認し,本手法の有用性を示した.