著者
近藤 佳代子
出版者
宮城教育大学
雑誌
宮城教育大学紀要 = Bulletin of Miyagi University of Education (ISSN:13461621)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.317-328, 2016-01-29

現行民法第750条は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。」と規定し、「夫婦同氏制」を採用している。夫の氏又は妻の氏のどちらを婚氏=夫婦の氏とするかは、当事者の選択に任されているが、現実には、約96パーセントの夫婦が夫の氏を選択している。他方、この規定は、夫婦同氏を「強制」するものでもある。いずれかの氏を選択しなければ、婚姻届は受理されないのである。この同氏強制を不都合とする夫婦が、次第に増加してきた。1996年(平成8)、法制審議会は、選択的夫婦別氏制を含む民法改正要綱をとりまとめ、法務大臣に答申を行った。しかし、改正は未だ実現していない。現在では「当然」のように言われている夫婦同氏制は、1898(明治31)年の民法施行に始まる。日本は、それまで、夫婦別氏制の国であった。夫婦別氏から同氏への制度転換は、どのような意図を持って為されたのか。そもそも、「氏」が、近代国家政策において、どのような意義を持たされたのか。 本稿は、日本近・現代国家の家族政策を、「氏」とくに「夫婦の氏」の視点から考察する。明治初年、民法典編纂過程、戦後改革、そして現在に至る迄を考察対象とする。本巻においては、戦後改革から現在に至る迄を考察する。
著者
髙良 幸哉
出版者
日本比較法研究所
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.277-303, 2014-12-30

2014年第186回国会において児童買春,児童ポルノにかかる行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下児童ポルノ法)の改正がなされ,児童ポルノの単純所持罪が規定された。性刑法をめぐってはインターネットの発展に伴い,国境を越えた対策が必要となっている。かかる傾向において,我が国でも児童ポルノ規制が強化されるに至った。しかし,改正児童ポルノ法についてはなおも定義の曖昧さなど批判のあるところである。児童ポルノ規制については,欧米においては我が国に先だって,その定義や行為態様について規定がある。我が国の刑法が範とするドイツにおいても,1973年以降数度に渡り,性刑法に関する主要な改正がなされている。その中でも1993年,2003年,2007年改正においては児童ポルノと青少年ポルノに関連して,ドイツ刑法上重要な改正がなされている。その背景となる保護法益に関する議論や行為態様に関する議論は,我が国における児童ポルノ規制に関する法解釈および,今後の刑事立法を含めた議論において参考となる点も多い。本稿は,ドイツにおける性刑法の法状況,とりわけ,児童ポルノ規制(StGB184b条)青少年ポルノ規制(同184c条)をめぐる法状況を概観し,我が国の児童ポルノ単純所持に関して,児童ポルノマーケットへの影響という客観的な基準を用いることで,規制範囲の不当な拡大を制限することを示すものである。
著者
菊池 章夫
雑誌
岩手県立大学社会福祉学部紀要 = Bulletin of the Faculty of Social Welfare, Iwate Prefectural University (ISSN:13448528)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.41-51, 2004-03-30

Over 60 articles and presentations using KiSS-18 (Kikuchi's Scale of Social Skills : 18 items) were critically reviewed. KiSS-18 has been widely used in different research areas ; social, clinical, industrial, and educational psychology as well as nurse-education. Those researches suggest that this scale is highly reliable and valid, and also would be useful to other research topics.
著者
西原 彰一 NISHIHARA Shoichi
出版者
総合研究大学院大学文化科学研究科 / 葉山町(神奈川県)
雑誌
総研大文化科学研究 = SOKENDAI Review of Cultural and Social Studies (ISSN:1883096X)
巻号頁・発行日
no.18, pp.(17)166-(48)135, 2022-03-31

沖縄県女子師範学校・沖縄県立(第一)高等女学校女学生の「改名」とは、伝統的な個人名「童名(ワラビナー)」の日本的な名「ヤマト名(ヤマトナー)」への改変をさすが、1900年代初頭に始まり、大正年間には両校女学生の間で流行したことが、教員・女学生の語り等からみてとれる。この改名は、改変の方向が「ヤマト(日本)化」である以上、沖縄の同化、統合化という文脈上に配置される事象であることは間違いない。しかしながら、改名についての個々の女学生の語りからは、同化、統合化といった「大きな物語」に回収しきれない、それぞれの「近代」への憧憬や、「自身による「名付け」」=「名乗り」としての意味などの、いわば「小さな物語」をみて取ることができる。本稿では、同窓会誌・回想録、同窓会名簿等を資料として、そこから女学生の改名についての「大きな物語」、「小さな物語」を読むことにより改名の意味するところを探り、それを通して個人の名前のあり方を視座として琉球処分・併合以後の沖縄の歴史を読むことを試みた。そのために、まず沖縄の伝統的女子個人名「童名」についての概観を行い、「童名」が個別識別機能よりも継承されることを重視した存在であったこと、また琉球処分・併合直後も、女子個人名は男子のそれと比して変化の少ない存在であったことを指摘した。ついで、女学生の「改名」の苗床となった女子中等教育の展開過程、また県女師・県立(一)高女の沿革を整理し、両校の、女子中等教育におけるトップエンド、また近代とのコンタクトゾーンとしての位置づけを明らかにした。これらを踏まえて、教員・卒業生による語り等から、当事者にとっての県女師・県立(一)高女の教育・生活の実相を、さらに、彼女らの改名に係る語りを読み込み、また『県立一高女同窓会名簿』上の改名事例の整理を行い、それらを踏まえ、1900年代初頭の沖縄での女子個人名の変化と女学生の「改名」との関連を指摘した。さらに、女学生個々の「小さな物語」としての改名を、女学校教育が図らずも育んだ「個」の感覚において理解することで、改名が内胎した「名乗り」としての意味を指摘した。しかし、両校女学生たちは、沖縄の女子の典型では決してなく、本稿の大枠での目的:名前を視座として歴史を読むためには、出稼ぎ女工の名前の問題等へ射程を広げてゆくことが、今後大きな課題となることがより明瞭となった。According to the narratives of teachers and students at Okinawa Prefectural Women’s Normal School and Okinawa Prefectural (First) Girls’ High School, renaming of the schoolgirls, which refers to a change from a traditional individual name, referred to as warabina (childhood name), to a Japanese-style name, referred to as yamatona, began in the early 1900s and was a trend among students at both schools in the Taisho era. As the change was toward Japanization, there is no doubt that renaming was an event in the context of assimilation and incorporation of Okinawa. However, the schoolgirls’ narratives about renaming imply “small stories” of their adoration of modernity and the significance of ‘naming’ oneself or ‘claiming a name’. The small stories may not be integrated into big stories of assimilation and/or incorporation. By using materials such as alumnae magazines, memoirs, and alumnae lists for finding schoolgirls’ big stories and small stories about renaming, this research aims to explore its meaning and then view the history of Okinawa after the Ryukyu Disposition and Annexation from the perspective of the state of individual names. The research provides an overview of traditional girls’ names of Okinawa, warabina first, then points out that warabina was considered more important as a name to be acquired than as an individual identification functionality, and that the pace of change of girls’ individual names was slower than that of boys’ names immediately after the Ryukyu Disposition and Annexation. The research then discusses the development of girls’ secondary education that served as a seedbed for schoolgirls’ renaming and the history of the two schools, and clarifies the status of both schools as topnotch girls’ secondary educational institutions and contact zones with modernity. Based on this exploration, the research uses narratives of teachers and alumnae to find the real state of education and life at the schools as well as stories about renaming. The research also organized examples of renaming on the Prefectural (First) Girls High School alumnae list to clarify, based on the findings, the relationship between the changes of girls’ names in Okinawa in the early 1900s and the renaming of schoolgirls. By studying renaming as a small story of each schoolgirl in the sense of individuality, which girls’ education unexpectedly fostered, the research indicates the significance of claiming a name involved in renaming. Given that students at both schools were never typical Okinawa girls, it became clearer that extending the research range to include the name issue of girls working at factories away from home will be important for the general goal of the research to view history from the perspective of names.