著者
角 一典
出版者
北海道教育大学
雑誌
北海道教育大学紀要. 人文科学・社会科学編 (ISSN:13442562)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.47-62, 2021-02

本稿では,河川行政において激動の時代であった1990年代に河川局長を務めた近藤徹および青山俊樹の二氏の言説を手掛かりにして,河川官僚の考え・思想を読み解こうと試みた。以下では,長良川河口堰問題以前の河川行政に対する振り返り,従来の河川行政に欠いていたもの(=これからの河川行政に求められるもの),3つの個別政策(総合治水・利水安全度・スーパー堤防)に対する認識の三点について検討を加えた。そこからは,脱ダム時代に批判の対象となった河川官僚たちが,少なくとも意識の上ではきわめて開明的であり,官僚的な独善を脱して民主的なプロセスを重視していかなければならないという認識を有し,また,環境や生態系を重視することを当然と捉えていたことが明らかとなった。その一方で,治水や利水においては,巨大構造物がその基礎をなすという意識を強く持っていることも垣間見えた。
著者
児玉 圭司
出版者
法制史学会
雑誌
法制史研究 (ISSN:04412508)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.1-57,en3, 2015-03-30 (Released:2021-03-20)

本稿は、明治前期における監獄制度の展開を、受刑者に対する規律という観点から捉えようと試みるものである。 本稿ではまず、日本における死刑の不可視化と、身体刑から自由刑への完全な切り替えが、いずれも一八八二年の旧刑法施行によって達成されたことを明らかにした。 監獄の規律に関する最初の変化は、一八七三年以降にあらわれる。その内容は、以前と比べて、受刑者の生活や行動に関するルールが厳格化されるというものであった。これは、自由刑の採用によって受刑者が急増したこと、およびそれにともなって彼らを管理・統制する必要が生じたことによるものである。 一八七六年以降、東京警視庁や内務省による主導のもと、各地の監獄において、受刑者をその習熟度に合わせて教育し、あるいは服役態度を評価するといった統治技術が新たに導入されている。その背景には、西洋の法制度に関する知識の流入と、これによって生じた改革機運があった。 その後、一八八二年になると、監獄制度の設計者は、監獄の目的は受刑者を「良民」に作りかえることにあると理解するようになる。そして彼らは、規律への順応に応じた優遇措置など、受刑者の内面に働きかけるさまざまな統治技術を、法制度の中に組み込んだのである。 しかし、少なくとも一八八七年にいたるまで、監獄行政の現場では、過酷な労働を科すなど、肉体的苦痛を与えて懲ら しめることによってこそ受刑者の改善がもたらされるとの主張が根強く、先に記した統治技術は十分に活用されるにはいたらなかった。その背景には、国家が受刑者の労働力を求めていたという実情や、当時流行していた、刑罰に対する復古的な思潮が影響を与えていたものと考えられる。
著者
鈴木 則子 鈴木 則子
出版者
奈良女子大学大学院人間文化総合科学研究科
雑誌
人間文化総合科学研究科年報 (ISSN:09132201)
巻号頁・発行日
no.36, pp.49-61, 2021-03-31

This paper rewrites the entire text of the funny Nagauta "Shiniyuki Mikka Korori Aiaishishi" into modern characters and analyzes it. This book was published in 1858, the year when cholera was prevalent. Until now, historical research on cholera in the Edo period has mainly been based on medical historical materials or local diary historical materials. Therefore, I analyze the literary work of the Edo period, funny Nagauta, as a historical material, and clarify how people at that time experienced the plague, especially from the aspect of their communality. There are many incidents that people are said to have experienced in common, even for things that seem absurd to modern people. The cholera experience of the people of Edo, including the incidents that seemed to be fake news.
著者
橘木 修志 河村 悟
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.70-79, 2017-09-21 (Released:2017-10-06)
参考文献数
48
被引用文献数
1

脊椎動物の網膜には桿体と錐体の2種類の視細胞が存在する。いずれも光を検出して神経情報に変換する働きをしている細胞であり,互いによく似ている細胞である。その一方,光に対する応答の仕方には2つの点で大きな違いがある。一つめの違いは光に対する感度の違いである。光に対する感度は錐体よりも桿体のほうが著しく高い。このため,我々は暗いところで桿体を使って物を見ることが出来る。もう一つの違いは応答の持続時間の違いである。同じ光刺激に対して,錐体は桿体より短く応答する。このため,錐体が働く明るい光環境下では,より高い時間分解能で光刺激の変化を見ることが出来る。応答の異なる2種類の視細胞を使い分けることにより,我々は様々な光環境で物を見ている。ところが,桿体と錐体の応答の違いがどのような分子メカニズムで決まっているのかについては長らく不明であった。著者らは魚類のコイの網膜から精製した桿体と錐体を材料として,その違いの生じる分子メカニズムを研究している。本稿では著者らの成果を中心に,これまでにわかってきたことを紹介したい。
著者
オチャンテ 村井 ロサ メルセデス オチャンテ カルロス
出版者
奈良学園大学
雑誌
奈良学園大学紀要 = Bulletin of Naragakuen University (ISSN:2188918X)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.167-177, 2017-09-29

本論文では日本のカトリック教会にニューカマーがやってきてからどのように変化したのかを論じる。ニューカマーの増加が教会での信者数へ影響し始めたのは90年代である。その後、外国人集住都市と呼ばれる地域の教会では主にブラジル人、ペルー人、フィリピン人などのカトリックコミュニティ(共同体)が誕生し、数十年の歴史を持っているものも多い。ニューカマーの増加によって多民族化した教会ではミサなどの行事が多言語で行われるなど様々な対応と支援が行われている。本論文で対象にした伊賀市カトリック教会はこれまで多文化共生を課題に発展したケースであり、成功例でもある。
著者
岡本 隆典
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.89, no.9, pp.704-709, 1994-09-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
10

バイオリアクターによるビ-ル連続醸造に関する研究は1970年代前半から始まり, 数多くの研究結果が発表されている。しかし, 商業べースでの実用化はほとんど例がなく (ビールの後発酵工程で7インランドのビール工場が実用化している), キリンビールがサイパンにおいて世界で初めて主発酵も含めたビール醸造を連続発酵法により成功させている。バイオリアクターを用いると酵母密度等が従来の回分式発酵と大きく異なるため, 品質や成分も大きく影響を受ける。これらの問題点をどのようにして解決し, 実用化に槽ぎつけたか。その興味ある経過を解説していたたいた。