著者
棚谷 綾介 田浦 太志
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

【目的】カンナビノイドはolivetolic acid(OLA)とモノテルペンから構成される二次代謝産物であり、近年、欧米各国で医薬品応用されるなど高い注目を集めている。本研究ではカンナビノイドの生合成に関与するプレニル転移酵素(CsPT4)1)の基質特異性を検討した。【方法】Pichia pastorisのCsPT4発現株よりミクロソーム画分を調製し、これを粗酵素として各種芳香族基質およびプレニル基質を組合せたアッセイを行った。【結果および考察】CsPT4はOLAのゲラニル化を触媒し、cannabigerolic acid(CBGA)を生成する酵素であるが、前回我々は本酵素がFPPおよびGGPPに対しても活性を示し、プレニル鎖長の異なるCBGAアナログを合成することを報告した2)。今回芳香族基質に対する基質特異性を再検討した結果、CsPT4はOLA以外に、アルキル鎖長の異なるdivarinic acidおよび6-heptylresorcylic acid、フロログルシノール誘導体のphlorocaprophenone、さらにdihydropinosylvin acidを受容し、ゲラニル基の転移を触媒することを確認した。このうちdihydropinosylvin acid からはビベンジルカンナビノイド3)前駆体の3-geranyl dihydropinosylvin acidの生成を確認した。以上からCsPT4は多様なカンナビノイド関連化合物の酵素合成に応用可能と考えられる。1) Luo et al., Nature 567, 123 (2019)2) 棚谷ら、日本生薬学会第66回年会講演要旨集p863) Chicca et al., Sci Adv 4, eaat2166 (2018)
著者
藤井 元輝 大野 博司 植木 あゆみ
雑誌
第46回日本集中治療医学会学術集会
巻号頁・発行日
2019-02-04

【背景】2型糖尿病治療薬のメトホルミンの有害事象に乳酸アシドーシスがある。メトホルミン中毒は死亡率の高い疾患であり、特に高度のアシドーシスによる意識障害・循環不全を伴う場合は、血液浄化療法が有効である。血行動態が不安定な際は持続腎代替療法が考慮されるが、間歇的血液透析と比較し、薬剤のクリアランスが低い欠点がある。今回、我々は血行動態の不安定なメトホルミン中毒に対してprolonged intermittent renal replacement therapy (PIRRT)を施行し、救命した一例を経験したので報告する。【臨床経過】66歳男性。2型糖尿病でメトホルミンを内服中であった。来院1週間前に炎天下での屋外業務で熱中症となり、食事・水分がほとんど摂取できなくなったが内服薬は継続していた。来院日に倦怠感が強く当院救急外来に救急搬送となった。来院時著明な乳酸アシドーシス(pH 6.9,乳酸値124 mg/dl)、腎機能障害、高カリウム血症を認め、メトホルミン中毒、急性腎障害と診断した。意識障害を認め、挿管・人工呼吸器管理の上でICU入室とした。乳酸アシドーシス、急性腎障害に対して血液浄化療法の適応と考え、循環不安定なため、PIRRTを施行した。1回目のPIRRT中に乳酸アシドーシス、意識状態、血行動態の改善を得て、第2病日に抜管した。当初高値であった血中メトホルミン濃度はPIRRTに伴い経時的な低下を認めた。【結論】血行動態が不安定なメトホルミン中毒に対しては、PIRRTが血行動態を悪化させることなく、メトホルミンを除去する選択肢となりうる。
著者
為栗 健 井口 正人 真木 雅之 中道 治久 味喜 大介
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

桜島火山では1955年以降、山頂火口においてブルカノ式と呼ばれる爆発的噴火を繰り返している。東側山腹の昭和火口では2006年に58年ぶりに噴火が再開し、2009年以降は特に噴火活動が活発化していた。2018年以降は昭和火口から南岳山頂火口に噴火活動が再度移行している。爆発的噴火の特徴として、火山弾の放出、衝撃波の発生、急激な火山灰や火山ガスの放出が上げられる。他にも、頻度は少ないものの南岳山頂火口や昭和火口の爆発的噴火では小規模な火砕流の発生が上げられる。火砕流は高温の火砕物や火山ガスが山腹斜面を高速で流れ下るもので、火山噴火の中で最も危険な現象の一つであり、火山防災上、その発生予測は必要不可欠である。1967年以降~1985年の間に南岳山頂火口における噴火に伴い7回の火砕流が確認されている(加茂・石原,1986)。さらに、気象庁によると2006年~2014年に昭和火口の噴火に伴い37回の火砕流発生が報告されている。いずれの火砕流も流下距離は2km未満で小規模なものであった。活発な噴火活動を続ける桜島であるが、火砕流はすべての噴火に伴うわけではなく、同規模の噴火でも火砕流が発生しない場合が多く、桜島における火砕流発生メカニズムの解明には至っていない。今後、噴火活動が活発化した際には大規模な火砕流の発生も考慮する必要があり、火砕流を伴う噴火の発生メカニズムの解明と噴火の前兆現象から火砕流が発生した場合の規模予測をすることが重要である。本研究では2012年~2018年に昭和火口で発生した火砕流、および2018年6月16日に南岳山頂火口において発生した爆発的噴火に伴う火砕流について前兆地震活動や地盤変動データの特徴を明らかにする。また、観測される前兆地震や地盤変動から火砕流が発生した場合の流下予測が可能かについて検証を行う。6月16日に発生した南岳山頂火口における爆発的噴火では噴煙高度4700mに達した。噴石が6合目まで飛散し、火砕流が南西方向に1.3 km流下した。噴火の発生約18時間前から地盤の膨張が観測されていた。噴火の1時間ほど前から散発的に前駆地震が発生していたが、昭和火口の噴火の際に観測される前駆地震と比較するとあまり明瞭な群発活動ではなかった。噴火時の映像から火砕流は噴煙が上昇し始めた約1分後に噴煙柱の根元から降下した噴出物が斜面に流れ下って発生していたことが分かる。火砕流は噴火と同時に発生しているわけではなく、これは南岳活動期に発生していた火砕流と同じ特徴を持っている(加茂・石原,1986)。噴火による地盤変動の収縮量から噴出物量は28万m3と推定される。それら噴出物の全てが火砕流となるわけではなく、火山灰として飛散していくものもある。地盤変動の膨張量から噴火による噴出物量の予測は可能であるが、火砕流の流下予測を行うためには斜面を流下する噴出物量を推定する必要がある。気象レーダーを使用した空中に放出された火山灰量の測定や降下火山灰の実測値などから火砕流となった噴出物量の推定を行うことが可能である。これにより前兆現象である地盤膨張量から火砕流発生時の最大流下距離の予測を行う。
著者
山田 俊弘
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

本発表では昨年逝去した地球物理学者で環境学者の島津康男の地学思想を再考する――日本でも「人新世」の問題についての議論が広がりをみせてきている。これを単なる層序学上の問題として、あるいは人文学者たちの「新しい意匠」としてだけみるのではなく、同種の問題に取り組んだ日本人科学者の先駆性に学ぶことから対処法を考えてみたい。昨年92歳で死去された島津康男氏(1926-2019)の学問的人生の歩みは、ある意味で‘論理的’にみえる。父親の転勤のため転校を繰り返した学齢期を一時松本で過ごしており、地学的な関心を抱いたとみられる。五高を経て東大地球物理学科に進むと、坪井忠二に師事し、先輩格の竹内均とともに重力測定や物理計算にあけくれた。名古屋大学理学部地球科学科に地球物理学担当の助教授として赴任、「国際地球内部開発計画 UMP」にからんで「地球内部の物理学」を推進する一方(島津 1962)、統一された地球科学をめざして「シームレスな地球科学」というスローガンを掲げた。一つの到達点を教科書『地球の進化』(島津 1967)に見ることができる。そこでは、第I部「現在の地球」(地球物性論)、第II部「地質時代の地球」(地球熱力学)、第III部「先地質時代の地球」(地球進化学)が整然と展開され、地球理論を形づくった。第II部では地殻-マントル系の発展過程がグローバルテクトニクスと関連づけて議論されている。この「10年間における精一杯の勉強の成果」と大型化した計算機を使いこなすことで、地球科学の最前線を切り開く道があったはずだが、1970年代の島津は「シームレス」を「社会地球科学」のほうへ拡張し、本格的に環境問題に取り組み始める。具体的には、国際的な環境アセスメントのマニュアル作りと中京圏での「環境の現場監督」の実践だった。それは一方では巨大化する科学のあり方を見すえた環境政策へのコミットを意味し、他方では広い意味での科学教育を展望するものだった(山田 2015)。この時期の島津の進路を理解するには「社会地球科学」だけでなく、「自然のシステム工学」という発想を考慮しておく必要がある(竹内・島津 1969)。そこでは、自然現象のシミュレーションや地球化学的循環、惑星科学、生物圏といった概念から現実の問題に対処する「システム制御としての」災害・環境科学が見通されていた。 この路線の延長上で1980年代の「核の冬」や「核融合炉」シミュレーションへの関与を解釈するのは容易だ。実際、核融合炉研究では、アカデミズム内の研究者として、研究開発を支援するアセスメント・システムの構築を議論している(島津 1985)。だが、島津のその後は、ボヌイユ&フレソズ(2018)が人新世問題で言及する「ジオテクノクラート」の役割を担う方には行かなかった。むしろ林(2018)が指摘するように、公害問題に端を発する社会的課題としての環境問題に市民が向き合うためのアセスメントを提唱し「アセス助っ人」と自称して活躍した。 おそらくその転換の倫理的な根拠をなすのが、「核の冬」ENUWARシミュレーション時のヒロシマ体験ではないかと考えられる。日本での会議のコーディネーターを務めた島津は、「コンピューター・ゲーム」を断念し、「“核戦争はわれわれ人間自身がおこす”のであり、“もしおこったら”の第三者的立場は正しくない」「日本SCOPE[環境科学委員会]はそれに代わり、“核戦争を決しておこしてはならない”の原則に立つことを求め、この線にそってENUWARの結果を利用すべき」と主張した(島津 1985b)。もちろん一方で、1970年代の実践から「住民参加ゲーム」などを通した環境アセスと意思決定の問題を考え抜いてきたという背景があってのことだが(島津 1982)、その後「人新世」をとなえることになるクルッツェンとともに議論していた島津の思想と行動は、この問題における日本の貢献を考えるときあらためてふり返っておくべきと思われる。 【文献】ボヌイユ, C. & フレソズ, J.-B. 2018: 人新世とは何か, 野坂しおり訳, 青土社.林能成 2018: 地質学史懇話会会報, 50, 31-34.島津康男 1962: 国際地球内部開発計画資料, 1, 7-15.島津康男 1967: 地球の進化, 岩波書店.島津康男 1982: 環境情報科学, 11-1, 26-34.島津康男 1985a: 日本物理学会誌, 40-12, 972-975.島津康男 1985b: 科学, 55-12, 766-771.竹内均・島津康男 1969: 現代地球科学, 筑摩書房.山田俊弘 2015: 東京大学大学院教育学研究科基礎教育学研究室研究室紀要, 41, 183-194.
著者
中田 節也
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

日本の火山研究者、特に若い科学者は、IAVCEIとIUGGの関係をよく認識していないようだ。その理由は、IAVCEIと比較して、IUGGが彼らには可視的ではないためである。彼らが最初に挑戦することができるという国際会議としてIAVCEIが指導教官から紹介されることが多い。IAVCEIの存在は彼らが会員である日本火山学会(VSJ)でもよく見えている。この100年間、IAVCEIに対しては、久野 久、荒牧重雄、中田節也らの会長など、日本の研究者がIAVCEI理事を務め、IAVCEI学術総会が1962年に東京、1981年に東京・箱根、2013年に鹿児島で開催された。IAVCEIの2番目に大きい会議である火山都市国際会議(COV)は、科学者と非科学者が集って火山災害を軽減するために議論するフォーラムで、1998年以降、IAVCEI総会と学術総会の合間の2年ごとに開催されるものであるが、1988年に鹿児島市で開催された国際火山会議に端を発するものである。2007年には島原市で第5回COVを開催した。IUGG総会は2003年に札幌で開催されたが、それでもIUGGは若い火山研究者、ひょっとしたら中堅の研究者の間でもあまり知られていない。例えば、最近のIAVCEI学術総会は1000人以上の参加者を集めるが、IUGG総会時のIAVCEI総会には300人程度の参加者しかいない。この数は最近のCOVの約1000人の参加者よりはるかに少ない。この理由の1つはIUGG総会では組織される火山巡検がないということがあるかもしれないが、それよりも単純に会議の規模が理由であろう。IUGGの各アソシエーション自体の研究分野が十分に広いので、8アソシエーションの集まりは若い研究者が参加するには分野が広すぎる。彼らは、自分たちの学会では心地よく感じるが、AGUやEGUではビジネスライクに映るかもしれない。これはJpGUと個々の国内学会との関係にも似ているかもしれない。私たちは多くの分野のアソシエーションが集まって会議を開催することのメリットを確認し共有することが必要であろう。さらに、IUGGや国際学術会議(ISC)のような政府が分担金を払う団体の役割についても私たちの間で確認し直すべきである。この場合、会議への参加者数を増やすことが優先課題ではない。地球規模の気候変動、および大地震や火山噴火などの地域の地質学的危害は、リスクを軽減するために世界的に最優先課題となっている。このような状況の下で、国連は2030年までの持続可能な開発目標(SDGs)を明確にしており、政府によって活動が保証されているIUGGやISCの任務はこれらの課題解決でも拡大しているといえる。
著者
小出 昌秋 渡邊 一正 神崎 智仁 植田 ちひろ 岡本 卓也 古田 晃久 森 善樹 中嶌 八隅 金子 幸栄 井上 奈緒 村上 知隆
雑誌
第51回日本小児循環器学会総会・学術集会
巻号頁・発行日
2015-04-21

【背景】成人先天性心疾患に心房細動(AF)を合併するケースが少なくない。AFは放置すれば脳梗塞のリスクとなるため、可能であれば積極的に治療することが望ましく、当院では以前より積極的にメイズ手術を行っている。【目的】当院におけるメイズ手術の成績について報告する。【対象と方法】2000年1月~2014年12月に経験した成人先天性心疾患手術88例(平均年齢40.5±17.2歳)を対象とし後方視的に検討。メイズ手術はCox Maze IIIに準じてCryoとRFにて行った。【結果】88例中21例(23.9%)に術前AF(慢性または発作性)を合併しており、AF合併例の平均年齢は55.7±15.6歳でAF非合併例の35.7±14.8歳と比較して有意に高齢であった。AFは慢性12例、発作性9例であった。AF合併例の心内病変はASD 6例、ASD+TR±MR4例、VSD1例、術後残存ASD1例、AVSD術後MR3例、VSD術後TR1例、TOF術後PR±MR2例、PPA術後1例、MR1例。全例で右房拡大を認め、左房径も43.9±10.5mmと拡大傾向がみられた。21例中初期の2例とAtrial Standstillであった1例を除く18例に対してメイズ手術を行った。手術死亡なし。メイズ術後観察期間平均36.0ヶ月(1~101ヶ月)で、1例で術直後からATが持続して術後5ヶ月でカテーテルアブレーションを行い洞調律に復帰。1例で術直後洞不全ありAAI PM植込み施行。1例で術後7年目に心房粗動となりカテーテルアブレーションを計画中。残りの15例では洞調律を維持しており発作性AFの出現もなかった。AF症例でメイズ手術を行わなかった3例のうち1例が術後遠隔期に脳梗塞を発症し死亡した。【考察】成人先天性心疾患手術症例の約1/4にAFを合併しており、メイズ手術を行った全例でAFは消失した。術後上室性不整脈に対してはカテーテルアブレーションやペースメーカーで対処することが有効であった。AFを合併した成人先天性心疾患症例に対するメイズ手術の成績は良好であり、積極的に行うべきであると考えられた。
著者
石橋 璃子 古澤 之裕 本田 裕恵 渡邉 康春 藤坂 志帆 戸邉 一之 高津 聖志 栗原 新 田渕 圭章 長井 良憲
雑誌
日本薬学会第142年会(名古屋)
巻号頁・発行日
2022-02-01

ヒトの腸内には約40 兆個もの細菌が存在しており、腸内細菌の異常が代謝内分泌疾患の発症と関連することが明らかになっている。近年、抗炎症作用や代謝調節改善作用を示すポリフェノールが、腸内細菌叢に影響することでメタボリックシンドロームを改善することが示されており、天然物由来成分の作用メカニズムの1つとして腸内細菌叢の変動が注目を集めている。我々は、甘草由来ポリフェノールであるイソリクイリチゲニン (Isoliquiritigenin: ILG)が、抗炎症・抗メタボリックシンドローム作用を示すことを明らかにしたが、ILGの作用メカニズムについては不明な点が多い。本研究では、ILGが腸内細菌叢の変化を介して抗メタボリックシンドローム効果を示すか検証した。 野生型C57BL/6マウスに高脂肪食(HFD)を摂餌させて誘導される肥満や糖尿病が、0.5% ILGの混餌(HFD+ILG)により改善した。内臓脂肪組織における炎症マーカーについては、ILGによりCD11cやTNFaの発現が減少し、大腸組織において腸管バリア機能関連遺伝子であるTjp1の発現増加が認められた。さらに、ILGにより腸管のムチン産生の増加も確認できたことから、ILGには腸管バリア機能改善効果があると考えられた。16s rRNAシークエンスによる腸内細菌叢解析では、ILGにより腸管バリア機能向上や抗肥満・高糖尿病効果を示すParabacteroides goldsteiniiとAkkermansia muciniphilaの増加が確認された。 ILGによる抗肥満・抗糖尿病効果が腸内細菌叢の変化によるものか調べるため、HFD群およびHFD+ILG群糞便を用いた腸内細菌叢移植 (Fecal Microbita Transplantation: FMT)を行った。ILG群からFMTを受けたC57BL/6マウスは、HFD群からのFMTを受けたマウスと比較して、体重増加の軽減や、移植8週後の内臓脂肪重量と内臓脂肪組織における炎症マーカーの発現の低下や抗糖尿病効果がみられた。以上のことから、ILGが抗メタボリックシンドローム効果を示す機序として、腸内細菌叢が寄与していると考えられた。