著者
藤田 直子
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
vol.116, pp.193-251, 2006

本論文は,2006 年に東京大学に提出した学位論文の前半部分であり,後半における現状の実態分析及び評価のための概念整理と位置づけることができる。本研究の立脚点は「緑地」という視点を通して時間的な軸と空間的な軸から社叢空間を捉えようとするところにある。本論文は五章で構成されており,各章は以下の通りに位置づけられる。第1章においては,本研究の背景と目的ならびに位置づけを明らかにした。まず,問題の所在,本研究に反映させる問題意識を述べ,関連する研究の流れや位置づけを通覧し,それぞれの研究のアプローチ及び方法論を整理することによって,本研究の位置づけを試み,その目的及び方法を明らかにした。設定した本研究の目的は,社叢を緑地という視点で評価することの意義と妥当性を明らかにすることとし,具体的には①空間に対する認識の変遷を「自然」との位置づけの関係から分析することで,日本人の自然に対する空間概念形成を明らかにすること②“神社の屋外空間”を指して用いられる「社叢」「鎮守の森」「社寺林」といった類義語を比較して各々の言葉の意味や意義を分析することにより,同一の空間に対して複数の言葉が用いられる原因とその背景にある意図を明らかにし,神社のオープンスペースに対する緑地の空間概念の差異と特徴を明らかにすること③法の成立・運用における「社叢」の概念及び位置づけを明らかにすることにより,“神社の屋外空間”と“社叢”の空間概念を明確にすること以上の3点を研究目的とした。第2章においては,文献資料調査によって自然・神道・社寺など社叢に関連する歴史や事象及び語彙を明らかにし,本研究において『社叢』を対象とする意図を明らかにした。まず,自然に対する神道の空間認識と日本人の自然に対する空間概念との関係を明らかにするために,分析対象記事(該当記事4,159)を文献(該当文献555)から選出し,神道の空間認識における「自然」の位置づけの変遷や日本人の自然に対する空間の認識の関連を言葉の解釈の変遷や西欧との比較を踏まえて分析した。その結果,日本における自然の概念と神道の精神や空間認識は通じるものが多く,自然に対する神道の空間認識が日本人の自然に対する空間概念の形成に関与していたことが明らかになった。第3章においては,“神社の屋外空間”を指して用いられる類義語に対し,語彙自体の使用の変遷を明らかにするための書籍・論文出現頻度に関する分析と語彙が想定する対象を広く収集分析する語彙の概念に関する分析を組み合わせることによって,量的側面と質的側面の双方から実態を明らかにし,神社のオープンスペースに対する緑地の空間概念の差異と特徴を明らかにした。その結果,数値分析処理による包括的な傾向として「社叢」「鎮守」「社寺」と「森」や「林」といった語が組み合わされる傾向が強まったのは1970 年代中盤以降であり,この時期を契機として“神社の屋外空間”を「緑」の空間として認識しようとする見方が形成された事が示唆された。また,「鎮守の森」や「社寺林」が,元々“聖なる場”や“神社や寺院”などの意味をもつ「ある空間」に対して自然や緑地といった概念を加えることで成立してきた空間概念であるのに対し,「社叢」は元来からそれ自体に自然や緑地といった概念を含む空間概念であることが分かった。また,各々の言葉が対象とする空間概念の範囲に関しては,「社叢」が指し示す空間概念には神社境内内森林の生物生息空間,特に植物生態学的側面に着目するという空間概念が強いこと,「鎮守の森」が指し示す空間概念には古来から地霊をまつる聖なる空間やその神に対して用いられてきた語が生態学的研究対象として地域の本来の潜在自然植生が顕在化している場所として着目されたことなどにより,神社の空間のみならず精神的・文化的な拠り所という広範囲な解釈として捉えられている空間概念が強いこと,「社寺林」が指し示す空間概念には明治期の土地政策・林野政策の中での位置付けに対して用いられた歴史を経て,機能面や制度に着目した場合や現物の空間を表現する場合の対象となる空間に対して求められた空間概念が強いことが示された。第4章においては,「社叢」という言葉の意味や使用されてきた意義を明らかにするために,雑誌史蹟名勝天然紀念物における全記事中,社叢・神社・社寺・及び関連記事を選出して分析対象とし,史蹟名勝天然紀念物保存法の成立・運用の過程における社叢というものの位置づけや,社叢という言葉の使われ方の変遷を分析した。その結果,「社叢」が史蹟名勝天然紀念物保存法の要目の筆頭に採用されたのは,単に植物学・生態学上優れた森林としてのみならず,社叢を複合された価値を有する場として保存していく必要があるという意識と,当時巻き起こった神社合祀令への反対とが相まった結果であることが明らかになった。更には,その後時代を経るにつれ「社叢」という言葉に含まれる意味は変化してゆき,それに対する複合的な意味合いは消え忘れられ,次第に原始林に準ずる森林かつ神社に所属するものを「社叢」として指すようになったことが明らかになった。第5章では,第2章から第4章の結果をまとめるとともに本研究の結論を述べた。以上の研究から本論文では,神社の屋外空間に対する空間概念を明確化しその空間を表現するに相応しい語彙が示されたことで,意味的側面から神社の空間を緑地という視点で評価することの意義と妥当性を明らかにした。なお次報においては,都市における社叢の実態を明らかにするために,東京都区部を対象にマクロ・メソ・ミクロの異なる3つの空間スケールを設定し,現地調査と数値情報をもとにGIS を用いて定量的に都市の社叢を分析した研究結果を著すると共に,本研究における結論を述べる。
著者
浜中 雅俊 Hamanaka Masatoshi
巻号頁・発行日
2003

第1章 序論 科学技術の発達に伴い、工学的手法を用いて人間の様々な能力を計算機上で実現しようとする試みが進められている. このような試みは、その成果の実応用が期待されるばかりでなく、人間の仕組みを解明する上でも重要である. 本論文では、計算機上の仮想演奏者と人間の演奏者とが即興演奏によりインタラクションできるようなジャムセッションシステムについて論じる. 音楽を通した人間と人間との ...
著者
松山 あゆみ
出版者
京都大学大学院人間・環境学研究科
雑誌
人間・環境学 (ISSN:09182829)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.11-24, 2010-12-20

ジークムント・フロイト(1856-1939)の初期の草稿である「心理学草案J(1950 [1895]) は再評価されているが,それに対し,その他の初期の草稿には,いまだ十分な光があてられておら ず,正確な読解すらほとんどなされていない.本稿では,メランコリーというテーマに着目し,晦 渋な初期草稿のうちの一つ,草稿GIメランコリーJ(1895)を取り上げる.フロイトがメランコ リーを主題として扱ったのは,この草稿以外には,メタサイコロジー諸編のー論稿「喪とメランコ リーJ(1917 [1915J) だけである.両者には約20年もの歳月の隔たりがあるにもかかわらず, リ ビード経済論的見地から両者を比較してみれば,メランコリーに対するその基本的見解はほとんど 一致している.これを明らかにすることにより,精神分析理論に対する草稿G のリビード論的意 義を見出すことが本稿の狙いである.
著者
Duan Lian Hong Young-Joo Yasuno Yoshiaki
出版者
Optical Society of America
雑誌
Optics Express (ISSN:10944087)
巻号頁・発行日
vol.21, no.13, pp.15787-15808, 2013-06
被引用文献数
25

An automated choroidal vessel segmentation and quantification method for high-penetration optical coherence tomography (OCT) was developed for advanced visualization and evaluation of the choroidal vasculature. This method uses scattering OCT volumes for the segmentation of choroidal vessels by using a multi-scale adaptive threshold. The segmented choroidal vessels are then processed by multi-scale morphological analysis to quantify the vessel diameters. The three-dimensional structure and the diameter distribution of the choroidal vasculature were then obtained. The usefulness of the method was then evaluated by analyzing the OCT volumes of normal subjects.
著者
町田 実
出版者
早稲田商学同攻会
雑誌
早稲田商学=The Waseda commercial review (ISSN:03873404)
巻号頁・発行日
vol.224・225合併号, pp.13-48, 1971-12
著者
Sezawa Katsutada Kanai Kiyoshi
出版者
東京帝国大学地震研究所
雑誌
東京帝国大学地震研究所彙報 (ISSN:00408972)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.190-207, 1939-06-30

脈動の原因について多くの人の議論があるが未だに一致しないやうに見える.海岸を打つ波の衝擊が彈性波として傳播するといふ説と,大氣中の振動が壓力波又は彈性波として傳播するといふ説とは互に相讓らぬやうである.只今の研究では,海岸を打つ波の場合には勿論彈性波として傳播してよいけれども,大氣中の振動はやはり大氣波として傳播しなくてはならぬといふ結論に達するのである.尤も何れの場合にも波動が2次元的でないと充分な振動勢力が傳はらない.波が海岸を打つて出る波についてはに多くの研究が試みられてあるから茲では取扱はない.
著者
Suzuki Jun Denning Daniel P Imanishi Eiichi Horvitz H Robert Nagata Shigekazu
出版者
American Association for the Advancement of Science
雑誌
Science (ISSN:00368075)
巻号頁・発行日
2013-07-11
被引用文献数
434

アポトーシス時のリン脂質暴露に関与する因子の同定. 京都大学プレスリリース. 2013-07-12.
著者
鄭 顕志
出版者
Waseda University
巻号頁・発行日
2005-02-02

MANET上で位置依存情報を省資源で収集するシステムを提案する。MANETは携帯端末で構築されているため、資源消費量を抑えた情報収集手法が必要である。情報収集地域内にモバイルエージェントを派遣し、情報収集を行うことで省資源な情報収集が可能となる。モバイルエージェントに滞在すべき物理地域を設定し、設定された地域内にとどまるようモバイルエージェントが移動を行うことで、端末が物理的に移動するMANETにおいても長時間にわたり最適な場所で情報収集を行うことができる。また、モバイルエージェントの移動に関する遅延を低減する手法を提案する。さらに、シミュレータ上で実験を行い、本手法を用いることで省資源かつ効率的な情報収集が行えることを確認した。
著者
小倉 孝誠
出版者
東京大学仏語仏文学研究会
雑誌
仏語仏文学研究 (ISSN:09190473)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.171-186, 1991-06-30

菅野昭正先生退官記念特集号
著者
Hara K. O. Usami N. Toh K. Baba M. Toko K. Suemasu T.
出版者
American Institute of Physics
雑誌
Journal of applied physics (ISSN:00218979)
巻号頁・発行日
vol.112, no.08, pp.083108, 2012-10
被引用文献数
83

Excess-carrier recombination mechanisms in undoped BaSi2 epitaxial films grown by molecular beam epitaxy on n-type silicon substrates have been studied by the microwave-detected photoconductivity decay measurement. The measured excess-carrier decay is multiexponential, and we divided it into three parts in terms of the decay rate. Measurement with various excitation laser intensities indicates that initial rapid decay is due to Auger recombination, while the second decay mode with approximately constant decay to Shockley-Read-Hall recombination. Slow decay of the third decay mode is attributed to the carrier trapping effect. To analyze Shockley-Read-Hall recombination, the formulae are developed to calculate the effective lifetime (time constant of decay) from average carrier concentration. The measurement on the films with the thickness of 50–600 nm shows that the decay due to Shockley-Read-Hall recombination is the slower in the thicker films, which is consistent with the formulae. By fitting the calculated effective lifetime to experimental ones, the recombination probability is extracted. The recombination probability is found to be positively correlated with the full width at half-maximum of the X-ray rocking curves, suggesting that dislocations are acting as recombination centers.
著者
井上 博之
出版者
東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻
雑誌
言語情報科学 (ISSN:13478931)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.183-199, 2010-03-01

This paper aims to examine the relationship between the state of exile and Mexican representation in Cormac McCarthy's All the Pretty Horses (1992), which is the story of a modern Texan young man who loses his home and crosses the border south to Mexico in search of a "paradise" for cowboys. The protagonist, John Grady Cole, projects his own vision onto Mexico and then gets "betrayed" by the violent reality of Mexico. It is true that Mexico appears here as "the Infernal Paradise," but the country is also "another country," where foreigners can only know of the Otherness of Mexico, and at the same time functions as a "mirror" which reflects the reality of the U. S. John Grady loses his Mexican "paradise" and returns to Texas, where there is no place for home; he comes to be a cowboy on the border, who cannot belong to the U. S. nor to Mexico. This homelessness seems to join him to some Mexican-Americans who appear in the story, such as Luisa, Arturo, Abuela and a "Mexican" who has never been to Mexico. Thus, his "failed" crossing, paradoxically, makes him into a true border-crosser.