著者
倉 昂輝有吉 正則山田 大豪
雑誌
第56回日本作業療法学会
巻号頁・発行日
2022-08-29

【はじめに】近年,わが国の発達障害児の支援において,家族支援が重要視されている.このような背景から作業療法(以下,OT)においても家族中心のケアに基づき保護者への支援が実践されている.OTで実践される家族支援の1つにホームプログラム(以下,HP)があり,発達障害領域の作業療法介入に関するシステマティックレビューにおいて,そのエビデンスが示されている(Novak I,2019).しかし,わが国のHPの研究は症例報告が主であり,HPを経験した当事者の視点を報告したものはない.さらに,母親らを対象としたこれまでの研究は,子育てに対する葛藤や困難さに焦点が当てられてきた.そのため家庭内という外部からみえにくい環境の中で母親らが子育てをどのように展開しているのかは不明な点も多く,それらの要因と関連する専門家のサポートも明らかにされていないのが現状である.【目的】本研究の目的は,発達障害児を養育する母親のHPを通じた子育てにおける思いや経験,行動にかかわる諸要因を当事者の視点から明らかにすることである.【方法】研究参加者は,個別の外来OTと並行して目標に基づくHPを実施した母親とした.外来OTは隔週の頻度で1回あたり40分間,全12回,約6ヶ月間,HPは外来OT3回目から10回目まで行った.HPは先行研究で提唱されている5フェーズを参考に実施した(Novak I,2006).データ収集は,母親らを対象に半構造化面接によるインタビューを実施し,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した.サンプリング方法は便宜的サンプリングから理論的サンプリングに移行した.本研究は兵庫医療大学倫理審査委員会の承認(第19028号)を得て実施した.また,研究参加者には書面による同意を得ており,COI関係にある企業等はない.【結果】10人目のデータ分析において新たな概念が生成されなかったため,サンプリングを終了した.分析によって25個の概念,9個のサブカテゴリー,4個のカテゴリーを生成した.以下,概念を〈〉,サブカテゴリーを《》,カテゴリーを【】として示す.発達障害児を養育する母親らは,身体的負担の増加や心理的苦痛,強いストレス,社会的孤立を抱えて子育てを行なっていることが明らかにされた.このような子育て環境に対応するための重要な要因として《否定的感情との折り合い》,《忙殺される日々との折り合い》,《社会的通念との折り合い》の3つのサブカテゴリーから成るコアカテゴリーを生成した.これは母親自身が見つけた問題解消法であり《子育て視点の拡大》の変化<をもたらす働きがあると見出された.この変化は〈わが子と見つけた目標〉と〈できることからスタート〉する《実現可能な一歩》という具体的な支援手段を母親らにもたらし,友人や夫,祖父母などに対して,どのような子育ての支援を求めるかの判断を明確にしていた.【考察】《否定的感情との折り合い》,《忙殺される日々との折り合い》,《社会的通念との折り合い》という問題解消法は,【複雑な子育て環境に対する適応】を促す上で核となる概念であり,子育てにおける視点の拡大に発展する.この視点の拡大が現状に則した目標と活動に対する方略を子どもと見つけることにつながると考える.さらに母親らは友人や祖父母,夫との子育てにおける相互的な関わりのなかで,周囲の人々の役割特性を捉え,臨機応変に依頼するという方略を見つけていたと考える.OTにおける家庭への支援は,母親の子育ての状況や周囲との相互作用を評価し,個々の家庭の営みにかかわる文脈に適した子育て方略を母親自身によって見出せるようにサポートすることが重要である.
著者
伊藤 渉 沖野 峻也 齋藤 篤志 菖蒲 幸宏 渡部 颯大
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-05-11

1.動機および目的信夫山は福島市民にとって重要なスポットである。信夫山は福島盆地の中央に孤立している珍しい地形を持つが,その成因についてさまざまな議論があり,具体的なことはよくわかっていない。地理的・文化的に重要な信夫山について,市内の学校に通う者が調査し明らかにすることは郷土を認識・理解する上で重要だと考え,研究を開始した。2.研究仮説文献から得られた信夫山の地質情報及び成因として次のような説が挙げられる。・信夫山は東西で地質が異なり,西側は火砕流堆積物,東側は第三紀の堆積岩層から成り立っている。・信夫山は海底で形成された第三紀の海成層が隆起し,流紋岩の貫入を受け硬化した。この海成層は凝灰岩によってできており,信夫山の西側でより硬くなっている。・信夫山の表面には流紋岩が覆いかぶさっている。このように,信夫山の形成過程は諸説存在する。本研究では,どの説が有力かの検討も含め,信夫山がどのようにできたのか考察する。3.研究方法3-1露頭の観察我々は信夫山に登り,12箇所の露頭の観察を行うとともに,付近の転石を採取した。その際の露頭観察地点については図に示す。3-2偏光顕微鏡による岩石薄片の観察採取した転石の一部から岩石薄片を作成した。各露頭から作成し,観察可能な薄片を2つ得ることができた。それ以外の露頭の岩石は,非常にもろく,薄片を作成することが困難であった。3-3走査型電子顕微鏡(SEM)による観察走査型電子顕微鏡を用いて,岩石の表面を観察した。岩石は薄片を作成するこのできた露頭3及び4の岩石薄片を観察した。撮影したSEM画像上でそれぞれの岩石を構成する粒子の大きさを測定した。3-4 XRD装置を用いた鉱物同定西側と東側とが異なる岩石で出来ているのかを調べるため, X線回折(XRD)装置を用いて岩石を構成する鉱物の鑑定を行った。使用した岩石は地点1・2・9・11である。4.研究結果4-1 露頭観察の結果地点1・2・3・7の岩石は,いずれも非常に硬く,ハンマーで叩くと火花が発生した。表面は灰色をしていた。また,いずれも大きな割れ目があった。風化の影響と思われる。また,大きな割れ目があった。地点4・5・6・10・11・12の岩石は手で割ることができるほど脆かった。色はオレンジ色が中心であり,場所によっては赤橙の曲線状の縞模様が観察された。構成する粒子はいずれも泥質でかなり細かい。4-2 薄片観察の結果地点3の岩石を観察した。これらの岩石は,強く偏光した無色鉱物が多くみられた。それらの無色鉱物は表面では観察されず,断面でしか観察されなかった。また,いずれも角が多く,石英がちぎれていると思われる。地点4の岩石は砕屑粒子で構成されていた。大きさは約5μm程度であった。全体的にオレンジ色であり,細かい層構造であるラミナが見られた。幅は約1~2mmであった。4-3 SEMの結果地点3,4の岩石の写真のいずれも数μm程度の小さな尖った粒子で構成されていた。これらの粒子のうち,無作為に選んだ粒子を測長した。その結果,2つの露頭の岩石を構成する砕屑粒子のサイズには違いがないということがわかる。4-4 XRDの結果地点1・2の岩石は少量の長石を含んでいるが,全ての地点の岩石において主成分は石英であることが明らかになった。5.考察今回の研究で新たにわかったことは以下の3点である。ア)信夫山の東西で岩石の硬さ,色が異なる。イ)信夫山の岩石は凝灰岩で,構成粒子はほとんど石英である。ウ)信夫山の西側でカリ長石が見つかった。イの結果からこのカリ長石が熱水によるものではないかと推測した。また,ア・イ・ウの結果より,信夫山の岩石はもともと同じ凝灰岩で構成されていたものの,西側に熱水が貫入し石英・カリ長石が晶出したと考えた。これは信夫山が凝灰岩で構成されているという仮説を支持するものとなる。6.まとめ今回の研究では,既存の地質調査の真偽を確かめながら,信夫山の形成過程についての推定を行った。信夫山の東西の岩質の違うこと,西側に熱水が貫入したことが原因らしいことが本研究では明らかになった。このことをはっきりさせるためにも,今後は福島盆地全体の調査を行っていく必要がある。