著者
高橋誠 吉澤寛之
雑誌
日本教育心理学会第61回総会
巻号頁・発行日
2019-08-29

文部科学省(2015)では,小規模校の児童・生徒の傾向として,集団の中で自己主張をしたり,他者を尊重する経験を積みにくく,社会性やコミュニケーション能力が身につきにくい,児童生徒の人間関係や相互の評価が固定化しやすい,などの特徴を持つ可能性が指摘されている。Sullivan(1953)によると,児童期には,他者に対して偏見をもつ傾向があり,子どもの集団の中では,頭が良い,社交的,運動神経がよい,等によって,「人気がある」,「ふつう」,「不人気」などと児童自身が判定される「社会的批判」がなされるという。これらより,小規模校では流動的な関係をもつことができる環境とは異なり,一度他者を根拠のない一方的で,主観的な見方で捉えるようになると,その関係を変化させることは難しくなると考えられる。全国的に学校の小規模化が予測されていることからも,人間関係の固定化は喫緊の課題に位置づけられる。 本研究では,人間関係が固定化される小規模校の児童における社会性の課題を明らかにするため,ある県内で調査を実施し,自治体統計を指標とした地域クラスター間で子どもの社会性の比較をする。方 法(1) 調査対象校抽出を目的とした小学校の分類 A県内の369校の小学校を,人間関係の固定化に影響すると考えられる自治体統計(人口密度・転入率・転出率)と当該小学校の学級数を指標として,潜在混合分布モデルによる分析を行った。4から7クラスターまでの分析結果を比較し,適合度やエントロピーに基づき6クラスターを採用した(AIC=-1867.870,BIC=-1660.598,SBIC=-1828.748,Entropy=.961)。Figure 1に示す特徴をもつ,6つのクラスターに分類された。対象校については,各クラスターから各市町村の平均学級数に近い学校を2校ずつ,特定の町(第1著者の勤務地域)は全小学校が抽出された。(2) 測定尺度と調査対象 「人間関係形成」はキャリア意識尺度(徳岡他,2010),「自己制御」は社会的自己制御尺度(原田他,2008),「共感性」は児童用多次元共感性尺度(長谷川他,2009),「偏見」は偏見尺度(向田,1998),「権威主義」は権威主義的態度尺度(吉川・轟,1996)を用いて測定した。抽出された小学校(19校)で2018年12月に調査を実施し,回答に不備のない児童1737名(4年男子83名,女子65名;5年男子381名,女子411名;6年男子384名,女子413名)のデータを分析した。結果と考察 分布の非正規性を考慮し,クラスターを独立変数,各尺度を従属変数とした対応のない平均順位の差の検定(クラスカル-ウォリス検定)を実施した結果,すべての変数で有意となった(χ2(5)=11.373~66.463,ps <.01)。多重比較の結果,人口密度や転入,転出が多い地域(クラスター2)は,他地域よりも人間関係形成,自己主張,感情・欲求抑制,共感的関心,権威主義が有意に高かった。流動的な環境であると,様々な人と触れ合う経験を積むことで,人間関係形成能力が高まるといえる。人口密度が高くても転入や転出が少ない地域(クラスター1)は,人間関係形成や自己主張が有意に低かった。人口密度が高くても,流動的でない環境では,人間関係形成能力が向上しにくいと言える。逆に,人口密度が少なくても,転入・転出が多い地域(クラスター3)は,視点取得が有意に高かった。流動性のある環境では,他者の視点で考える能力が高まると言える。また,人口密度や転入・転出が少ない地域(クラスター4,5)は,共感的関心が有意に低かった。固定化された人間関係で生活することで,その集団内での自分の立場が決まってしまい,他者への思いやりも困難になると考えられる。 今後は,地域クラスター間の差に影響する要因を明らかすると同時に,人間関係が固定化される小規模校の子どもの社会性を育成する実践の開発が求められる。
著者
安次富寛貴 村井直人 福地弘文 安里亮 玉城ひかり 照屋渚 稲垣剛史 大嶺快司 与儀哲弘
雑誌
第49回日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
2014-04-29

【はじめに,目的】当院では回復期病棟入院患者に対し,個別リハの提供や病室での自主練習指導,看護・介護スタッフによる離床・起立・歩行練習を行なっている。しかし,高齢者においては個別リハに依存し,病棟生活ではベッド・椅子上に無活動でいることが多く,個別リハ以外で自発的に自主練習を行う,または活動していることが少ない印象を受けた。浜島ら(2004)は高齢入院者の身体活動量は高齢健常者と比べ約1/4しか活動しておらず,さらに廃用性によるものと考えられる体力低下を認めたと報告されている。また,活動性低下は意欲など精神機能の低下にも繋がるともいわれている。これらを踏まえ当院入院高齢患者においても,身体・精神機能低下が廃用として起こっている可能性があるのではないかと考えた。そこで,ADL能力の向上・活動時間の拡大を図ることを目的に,個別リハ以外に病棟リハ室で行う自主練習の提供を午前・午後各1時間程度PT・OTそれぞれ協力して行った。今回この取り組みを実施することで,各患者に及ぼす効果を検証するためにFIM・実用歩行獲得日数を用いて検討したのでここに報告する。【方法】取り組み開始前平成23年8月から平成24年7月の期間と,開始後平成24年8月から平成25年7月の期間に大腿骨頚部・転子部骨折の診断名にて当院回復期病棟に入院し自立歩行獲得達成まで至った者29名を対象とし,開始前14名(以下設定なし群,男性3名,女性11名,年齢81.0±10.18歳),開始後15名(以下設定あり群,男性3名,女性12名,年齢78.4±7.37歳)の2群にわけた。自主練習はレジスタンストレーニング,DYJOC,有酸素運動,バランス練習,立位での作業・課題といった安全に行える方法で複合的な運動内容に設定した。また自主練習は座位・立位といった抗重力姿勢にて行うプログラムを立案した。さらにPT・OTそれぞれ対象者の問題点に沿ったプログラムを立案し,その後の再評価・再立案も徹底した。運動強度は自覚的運動強度を用い,榎本ら(2006)の先行研究を元に10~13(楽~ややきつい)の範囲で低強度に設定し,休息も含め本人のペースで行って頂いた。回数・負荷量なども運動強度の範囲内で徐々に上げ,効果判定としても用いた。対象の2群間における1日当たりの単位数,入院時FIM・FIM効率(合計・運動・認知・歩行・社会的交流)について群間比較を行った。また実用歩行獲得日数については,病棟生活の移動が車椅子から歩行へ変更となった日「監視歩行獲得日数」と,退院時の移動手段で自立となった日「自立歩行獲得日数」をそれぞれ入院時からの日数で算出し,群間比較を行った。各項目における群間比較には,対応のないt検定を用いた。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は主研究者が所属する施設の倫理委員会にて承認を得たものであり,ヘルシンキ宣言に沿った研究である。また患者家族に対し十分な説明を行い,同意を得た。【結果】1日当たりの単位数,入院時FIM共に両群間に有意差を認めなかった。FIM効率(合計・運動・認知・歩行・社会的交流)において,「設定あり群」は「設定なし群」と比べ有意に高値であった(p<0.05)。実用歩行獲得日数については,自立歩行獲得日数には有意差を認めなかったが,監視歩行獲得日数において「設定あり群」は「設定なし群」と比べ平均10日短縮しており有意に高値であった(p<0.05)。【考察】個別リハに加え自主練習の提供も積極的に行うことで,ADL能力の効率向上がより得られ,病棟生活において車椅子から歩行への移動手段獲得が早期にできる可能性が示唆された。今回低負荷で設定した自主練習により運動・活動量を増大させたことが,生活上での活動性低下に伴う廃用性要素の改善や受傷部位の機能回復の一助として効果があったのではないかと考える。また,個別リハとは違い,患者自身が運動・作業を主体的に行い,回数や負荷量・課題難易度などを変更していく中で効果判定としても伝えていったことがリハ・活動意欲の向上や自主練習の継続・個別リハの充実化を可能にした印象がある。さらに病棟リハ室に患者が集まり,活気のある空間で自発的に行える環境が作れたこと,患者どうしの交流が取り易い環境が作れたことが相乗効果を高め,今回の結果に影響を及ぼした可能性があると考える。今回身体機能・心理面の評価指標を用いた具体的な検証ができていないため,今後の課題としたい。【理学療法学研究としての意義】個別リハに加え自主練習の提供もPT・OTにて積極的に行うことで,ADL能力の効率向上や車椅子から歩行への移動手段獲得が早期にできる可能性が示唆されたという点において意義があると考える。
著者
吉川義之
雑誌
第49回日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
2014-05-08

1.はじめに 褥瘡予防・管理ガイドラインに記載されている物理療法には,電気刺激療法,超音波療法,水治療法,光線療法,電磁波刺激療法,陰圧閉鎖療法がある。その中で,本邦の理学療法士が使用可能な物理療法手段は,電気刺激療法,超音波療法,水治療法,光線療法であり,創の縮小や壊死組織の除去など臨床における効果が示されている。しかし,本邦では欧米諸国に比べ実施頻度は非常に低く,電気刺激療法においては実施頻度が低いことが理由で推奨度がAランクからBランクに引き下げられている。今回のシンポジウムでは,褥瘡の創面評価(DESIGN-R)を確認しながら,超音波療法,電気刺激療法,水治療法における理学療法技術を提示し,褥瘡対策チームで活躍している理学療法士と討論したいと考えている。もう一度,物理療法の効果を再考し,褥瘡対策チームにおける理学療法士の役割を再確認したいと考えている。2.創面評価(DESIGN-R) 褥瘡の創面はDESIGN-Rを用いて評価する。Depth(深さ),Exudate(滲出液量),Size(大きさ),Inflammation/Infection(感染/炎症),Granulation tissue(肉芽),Necrotic tissue(壊死組織),Pocket(ポケットの有無)のそれぞれを点数化し合計点が高ければ重症となる。この評価方法により創面が改善しているのか,悪化しているのかを把握することが可能である。褥瘡の創面評価により治療方法の効果判定に用いることが可能である。3.褥瘡局所治療(down stream) 理学療法士が実施可能な褥瘡局所治療(down stream)として物理療法がある。以下に水治療法・超音波療法・電気刺激療法を提示する。 1)水治療法 褥瘡に対する水治療法は日本褥瘡予防・管理ガイドラインの壊死組織の除去および感染・炎症の制御の2要素において推奨度C1とされている。不感温度(35.5~36.6℃)に加温した温水あるいは渦流による物理的な刺激を全身(ハバード浴療法),部分的(渦流浴療法)に与えるものである。また,創洗浄は水治療法の一部であり,創面および創周囲を弱酸性洗剤で洗浄する。その際,褥瘡の創面を直接観察でき評価(DESIGN-R)をする事が可能である。創面の状態や形状を観察することで,物理療法の適応時期や褥瘡発生の原因究明につながる。理学療法士が創の洗浄を実施し,創面を評価することでより加速的な治癒が期待できる。 2)超音波療法 褥瘡に対する超音波療法の有効性については明確な根拠がないとされてきた。しかし,創傷被覆材の超音波透過率を明確にして行った臨床研究において,創の収縮が促進することが確認されている(Maeshige N, et al. J Wound Care, 2010)。この研究結果により,褥瘡予防・管理ガイドラインにおいて推奨度C1となった。その後,創閉鎖の際に必要な線維芽細胞を用いた培養実験において,低出力のパルス超音波が線維芽細胞の活性化を促すことが確認されている(前重伯壮,他。日本物理療法学会誌,2012)。この結果をもとに行った臨床研究においても創収縮が確認されている(Maeshige N, et al. WCPT-AWP&ACPT, 2013)。褥瘡に対する超音波療法は創の収縮において有効であると考えられるため,実施する理学療法士が増え,効果が確認される事で推奨度がBランクになると思われる。 3)電気刺激療法 褥瘡に対する電気刺激療法は褥瘡予防・管理ガイドラインの創の縮小において推奨度がBランクで行うように薦められている。杉元らが行った線維芽細胞の遊走の基礎研究(Sugimoto M, et al. J Wound Care, 2012)を臨床研究に適応した症例研究(吉川義之,他。理学療法学,2013)においても有効性が示されている。また,ポケットを有する褥瘡に対しても有効性が示されている(吉川義之,他。日本物理療法学会誌,2012)。その後,植村らが細胞遊走の最適電流強度を調査するため新たな培養細胞実験を行った。その結果,200µAで細胞遊走が促進され,300µAで抑制することが確認された(Uemura M, et al. WCPT-AWP&ACPT, 2013)。これらの結果をふまえ,現在は創傷治療専用器による治験を実施している。また,基礎研究では細胞遊走に加え細胞増殖の検討を実施している。このように,基礎研究を臨床に適用しながら,褥瘡に対する電気刺激療法の有効性が明らかになってきている。超音波療法と同様,実施する理学療法士が増えることにより,推奨度がAとなり褥瘡治癒に貢献できると考えられる。3.おわりに 上記のように,褥瘡に対する物理療法の有効性が示されている。そのため,褥瘡を評価し適応時期にあった物理療法を選択することで創の加速的な治癒に期待である。しかし,物理療法は難しいという固定概念から敬遠されがちである。筆者もその一人であった。しかし,臨床効果を実感することでこれらの固定概念は消失した。物理療法は他の理学療法技術とは異なり,適切な機器を選択し,最適条件の設定ができれば,素晴らしい効果を得ることが可能となる。今回,シンポジウムに参加している方々にこの効果を実感していただきたいと考えている。理学療法士は褥瘡対策チームでポジショニングやシーティングなどの予防(up stream)だけでなく,局所治療(down stream)においても活躍できる場は非常に多いと思われる。
著者
先名 重樹 松山 尚典 神 薫 藤原 広行
雑誌
日本地球惑星科学連合2015年大会
巻号頁・発行日
2015-05-01

1.はじめに防災科研では、南関東全域においてボーリングデータ等の地質・地盤資料に基づく初期地質モデルの構築と、そのモデルを基に地震記録と微動観測記録により、物性値(主にS波速度)を調整し、周期・増幅特性を考慮した浅部・深部統合地盤構造モデルの試作を行ってきている。これらは広域地盤モデル構築手法の標準化の取組として、地震本部にて「地下構造モデル作成のレシピ」を構築している。さらに、地盤モデル高度化の検討として、詳細な地盤モデル(詳細地盤モデル)の構築時に必要となる、活断層近傍における地震動評価やモデル作成時の地盤の不整形性の検討および強震動時の非線形特性を評価できる地盤構造モデルの構築等の構築を検討している。本検討では、南関東地域に存在する深谷断層帯・綾瀬川断層帯を例として詳細地盤モデル構築の検討結果について報告する。2.断層帯周辺の既往調査と地質構造の概要深谷断層帯・綾瀬川断層は、地震本部の長期評価見直しで関東平野北西縁断層帯から変更されている。この断層自体の活動度は低いが、連動するとM8クラスの地震が発生すると予測される。深谷断層は、明瞭な重力異常分布境界となっている。なお、深谷断層については杉山・他(2009)により、反射法地震波探査、ボーリング、トレンチ等の調査を行われており、断層の構造や活動性の検討がなされている。反射法探査や既往の反射断面の解釈により、深谷断層から北東側では、基盤岩上面が深度3km付近まで落ちていること、その上に中新世以降の地層が厚く堆積していることが確認されている。深谷断層は、南側の平井断層、櫛引断層と合わせて地質構造の形成過程が検討されている。3.調査概要上記の断層近傍の地盤構造モデルを構築するために、地震観測および微動観測を実施した。観測は断層を挟むように5測線を展開し、単点微動約200m間隔、極小アレイ1km間隔、大アレイが2km間隔で実施している。大アレイの位置には地震観測も実施した。5測線のうち1測線は、杉山他(2009)における反射法地震波探査断面の測線近傍で実施している。なお、断層の北東側は沖積低地、南東側がローム台地で構成されている。(1)地震観測断層近傍の14か所において臨時地震観測を実施した。観測した記録について、フーリエスペクトルを地点ごとにまとめたところ、地震によって異なる特性が確認できるが、地点ごとにスペクトルに一定の傾向が確認出来た。そこで、各地点とのスペクトル比を取ったところ、各地点ともスペクトル比は地震に寄らず安定しており、サイト増幅特性として利用できる。(2)常時微動観測微動観測の結果、単点のH/Vスペクトルのピーク周期は、断層の両側で異なる傾向を示す。断層の落ち側(北東側)では、上がり側(南西側)に比べて、H/Vスペクトルのピーク周期が周期の長い方へシフトする(周波数が小さくなる)傾向が確認出来た。微動探査(アレイ)地点に近い、地震動のR/Vスペクトルと比較したところ、低周波数域のスペクトル特性も調和的であることを確認している。微動アレイ解析で得られたS波速度構造とJ-SHISの深部地盤モデルのS波速度構造を比較すると、地震基盤相当のVs=3.2km層の上面は、今回の結果の方が全体的に約500m程度深くなっている。一方で、Vs=1.5Km層の上面は、断層落ち側で300~500m程度浅くなっている。また、Vs=0.9km層の上面は、断層落ち側で最大で900m程度深くなることが分かった。工学的基盤以浅の地盤構造では、断層落ち側の断層直近でVs=0.3kmないし0.2km以下の層が厚い(十数m)。同様の傾向は、現在作成中の防災科研の南関東地盤モデルでも確認されている。断層周辺のボーリングデータでみると、本数が少ないので、詳細は不明であるが、断層落ち側の断層直近でN値の小さい完新統(粘性土層など)が厚くなっている傾向があるようにみえ、前述のS波速度構造分布と調和的である。4.まとめと今後の検討本研究の結果、断層の落ち側では、上り側に比べて微動のH/Vスペクトルの周波数が小さくなる傾向が明瞭で双方の構造の変化が比較的良く確認でき、観測された地震動のR/Vスペクトルも同様の特性を示すことがわかる。また、深谷断層を挟む両側の地盤では、スペクトル特性、S波速度構造にも相違が明瞭にみられ、ボーリングデータからも判別できることから、この断層においては地震観測記録・微動記録による詳細地盤モデルの構築・検証は十分に可能であることが分かった。今後、地震観測データを用いた、スペクトルインバージョン等による、断層両側の地盤での地震動の増幅特性の定量的な検討および、ボーリングデータから読み取れる地下浅部の地質構成、地質構造や重力探査結果をふまえた浅部・深部地盤の速度構造モデルの作成を試み、観測された地震動の作成した地盤モデルを用いた検証や工学的基盤の不整形性の影響評価を実施する予定である。
著者
前野 深 中田 節也 吉本 充宏 嶋野 岳人 Zaennudin Akhmad Prambada Oktory
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

スメル火山はインドネシアの中でも最も活動的な火山の一つであるが,噴火履歴については不明な点が多く,活動が活発化した際の推移予測のための基礎データは十分に揃っていない。近年では5-7年毎に比較的規模の大きな火砕流を伴う噴火が発生しているが,過去には噴煙柱を形成する大規模な噴火も発生している。また1884年以降,大規模なラハールが少なくとも5回発生しており,このうち1909年噴火では東方35 kmに位置するルマジャン市が甚大な災害を被った経緯もあり,周辺地域では火山災害も懸念される。本研究では地質学的・岩石学的解析,年代測定,文献調査をもとにスメル火山の噴火履歴および噴火様式・推移の特徴を明らかにし,噴火推移予測のための事象系統樹を作成することを目的としている。スメル火山の主に南東から南西麓,北麓で行った地質調査の結果,山頂または山腹からの比較的規模の大きな爆発的噴火に由来する降下火砕堆積物と火砕流堆積物が複数存在することやそれらの発生年代が明らかになった。11世紀以降現在までは山頂からの安山岩質マグマによる噴火が主体で,このうち15-16世紀頃の活動では南西側に厚い降下スコリアを堆積させ,一連の活動により発生した火砕流がこの地域の遺跡を埋没させた。この時期の堆積物の層序構築には,13世紀のリンジャニ火山噴火に伴う広域テフラも年代指標として重要な役割を果たしている。一方,山腹噴火を示す地形や堆積物が多数存在するが,これらは3-11世紀頃の玄武岩質マグマによる活動によるもので,溶岩流出に続いて爆発的噴火へ移行し山腹でも火砕丘を形成する活動があったことがわかった。またこの時期には山体北側の火砕丘や溶岩流の活動もあったと考えられる。3世紀以前には安山岩質マグマによる爆発的噴火が山頂から発生した。山頂噴火は少なくとも過去およそ2000年間は安山岩質マグマに限られる。このようにスメル火山の活動は,19世紀以前には現在の活動を大きく上回る規模の噴火が繰り返し発生したこと,山腹噴火が噴火様式の重要な一形態であること,安山岩質マグマ(SiO2 56-61 wt.%)と玄武岩質マグマ(SiO2 46-53 wt.%)のバイモーダルな活動により特徴付けられることなどが明らかになった。一方,山体形状や火口地形,溶岩流/ドームの規模の把握は,火砕流の規模やその流下方向を推定する上で重要であるため,衛星画像やドローンによる画像・映像をもとに現在の山体地形の特徴や火口状況を把握し,また過去の火口位置とその移動方向や開口方向の変化についても整理を進めている。噴火事象系統樹は,近年の山頂での繰り返し噴火に加えて,地質学的解析から明らかにした過去の大規模噴火や火口形状や位置についても考慮したものにする必要がある。
著者
道又 元裕
雑誌
第16回日本クリティカルケア看護学会学術集会
巻号頁・発行日
2020-06-19

侵襲によって組織へのダメージが生じると、そのダメージが末梢組織の受容体や末梢神経への刺激となって、末梢からの刺激や興奮が中枢神経へ伝達されます。ダメージを受けた組織や周辺組織では、細胞膜酵素の活性化が起こり、肥満細胞からヒスタミンやロイコトリエンなどの種々のchemical mediatorが遊離され、血管透過性亢進(血管内皮細胞間隙の膨化開大)をはじめとして平滑筋収縮、血管拡張、腺分泌促進などをもたらします。これらの変化が刺激となって細胞膜酵素の活性化が一層促進されるとともに炎症性サイトカインがアラキドン酸カスケードを活性化して様々な生理活性を有するエイコサノイド産生します。一方、同じカスケードにリポキシゲナーゼが作用し、ロイコトリエンを産生させます。他方、アラキドン酸カスケードは、血小板機能を凝集するPAFをも産生し、産生されたPAFがアラキドン酸カスケードを活性化します。PAFは血小板凝集のほか、気管支平滑筋の収縮や気道過敏性の亢進、また、心拍出力の 低下と血管透過性亢進などの作用を持つため、血栓症、気管支喘息などのアレルギー疾患、エンドトキシンショックのメディエータでもあり、種々の受容体拮抗薬が治療薬として開発されてきています。ダメージを受けた組織からはカリクレインが遊出し、血清タンパクの一部が分解されブラジキニンが生成されます。ブラジキニンは、血管内皮細胞収縮を起こし、間隙を開大させ血管透過性亢進を引き起こす他、発熱や痛み、一酸化窒素合成酵素(NOS)を活性化させます。NOSは血管内皮細胞内でアルギニンから血管平滑筋に対して強い弛緩作用を有する(血管拡張)NOを産生します。NOは敗血症性ショック時の血管拡張やニトログリセリン製剤の血管拡張の機序でも知られています。アラキドン酸カスケードの活性は、炎症反応に強く関与しており、発熱、痛み、血管拡張(特に細動脈)、血管透過性亢進、凝固・線溶系の不調和、脂肪代謝、Na+-K+チャネルの変調、サイトカインの生成と抑制、好中球などの免疫細胞の活性と不活化、好中球の化学遊走性などをもたらします。末梢神経の刺激は、交感神経の興奮を引き起こし、神経伝達物質であるカテコールアミンがストレスホルモンとして血中に放出されます。その結果、以下に示すようなそれぞれが有する生物活性を示し、優位な作用が標的組織・器官に強く表れます。各種chemical mediatorの遊離は、ダメージ部位を中心とした局所におけるマクロファージ)、顆粒球(特に好中球)、血管内皮細胞などを刺激し、それぞれから免疫情報伝達物質であるサイトカインを分泌産生します。そのサイトカインネットワークが侵襲時における急性相反応を大きく修飾しています。炎症部位では、サイトカインに活性化されたマクロファ-ジ、好中球、補体が、さらには、それら自身が炎症性サイトカインやNOを分泌します。その一方では、炎症性サイトカインの産生によって、細胞性免疫(リンパ球群)の活性は抑制されます。炎症性サイトカインは、血液循環によって全身にデリバリーされ、各臓器の血管内皮細胞に存在する転写因子であるNF-κBを活性化し、接着分子(ligand)を発現させ(NF-κBがサイトカインの発現を増加させる)、免疫細胞は、接着因子を介して血管外へ遊走する。その結果、手術部位を中心とした局所の炎症反応が惹起され、それは数時間後に全身へと波及していき、SIRSの状態を形成します。このような生体反応の仕組みの中で、最近における話題や注目すべき事柄について若干の示唆を含めて述べさせて頂きます。
著者
鈴木 健太 山本 正伸 入野 智久 南 承一 山中 寿朗
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

氷期の急激な気候変動やイベントとして,ダンスガード・オシュガーサイクル(DOサイクル)とハインリッヒ・イベント(HE)が知られている.HEの氷山流出がDOサイクルの温暖化を引き起こしたという考えが有力であるが,すべてのDOサイクルの温暖化がHEに対応しているわけではない.またDOサイクルの寒冷化速度は時期によりさまざまであり,その速度の支配因子は不明である.このような疑問を明らかにするには,ローレンタイド氷床の北極セクターの崩壊と氷山流出イベントを復元する必要がある. 本研究では,過去7万6千年間の西部北極海堆積物層序を確立し,堆積物の起源と運搬過程を推定した.これにもとづきカナダ北極諸島側からの氷山流出イベントを検出し,氷山流出が起きる条件を考察した.また,西部北極海への氷山流出イベントと温暖化との関係,ローレンタイド氷床北極セクターの崩壊と寒冷化速度の関係を考察した.この目的のため,2011年と2012年に韓国極地研究所の砕氷調査船ARAONによって西部北極海チュクチボーダーランドから採取された5本の堆積物コアについて,IRD含有量と鉱物組成,粒度分布,色,GDGT濃度と組成,有機物量の分析を行った. IRD含有量と鉱物組成が西部北極海チュクチボーダーランドの堆積物層序の確立に有用であることが示され,イベント層としてドロマイト濃集層とカオリナイト単独濃集層が認められた.ドロマイト濃集層は9,000年前と11,000年前,42,000~35,000年前,45,000年前,76,000年前に認められ,カナダ北極諸島からの氷山により運搬されたと考えられる.ドロマイト濃集層堆積時は海水準が現在と比較して40mから80m低かった時期に対応していた.ローレンタイド氷床の縁が北極海に達し,かつ北極海が厚い棚氷や海氷に覆われていなかった時期にのみ,ローレンタイド氷床の北極セクターの崩壊が起きたと考えられる.9000年前のドロマイト濃集層の堆積はH0に,45000年前のドロマイト濃集層の堆積はH5と年代誤差の範囲内でほぼ同時であった.30,000~12,000年前にはローレンタイド氷床の北極セクターの崩壊は起きておらず,亜間氷期1~4の温暖化には北極セクターの崩壊は関与していないと考えられる.45000年前にはローレンタイド氷床の北極側とハドソン湾側の両方で崩壊が起きたと推定されるが,直後の亜間氷期の寒冷化速度は,他の亜間氷期に比べて長い.ローレンタイド氷床の大規模な崩壊により,氷床の成長に時間がかかり,寒冷化に時間がかかったと考えられる.14,000年前のカオリナイト単独濃集層は,その堆積学的特徴から氷河湖の崩壊に伴う淡水の大量流出により形成された可能性がある.
著者
高倉京子 藤本晃司 木戸晶 伏見育崇 岡田知久 坂下尚孝 木村徳典 富樫かおり
雑誌
第42回日本磁気共鳴医学会大会
巻号頁・発行日
2014-09-11

【背景・目的】ASL(Arterial Spin Labeling)は造影剤を用いない灌流画像取得法であり、非侵襲的で繰り返し撮像が可能である。脳のみならず、腎臓においても様々な定量方法が研究、報告されている。ASLの撮像手法はRFパルスの印加方法によりPASL(pulsed-ASL)とCASL(Continuous-ASL)があり、異なるモデルを用いた定量評価がなされている。ASL画像の信号強度のシミュレーションは行われているが、PASLを用いて得たASL画像のカーブフィッティングを行ったという報告は少ない。今回我々は、前回の本大会で発表した定量評価についての検討を継続し、3D-SSFP-ASL(ASTAR法)の定量評価法として各TI(Inversion Time)におけるASL画像における腎実質の信号強度のカーブフィッティグを行うことによる腎血流量の計測を試みた。【方法】3T MRI装置(東芝メディカルシステムズ社)において、同意の得られた11名の健常ボランティアの撮像を施行。呼吸同期でASL画像を取得。ASLの撮像条件は、TR/TE:4.3/2.2 ms, フリップ角:94-116度, バンド幅:±390 Hz, FOV:36 cm,スライス厚:4 mm, matrix:192×192, SPEEDER Factor:2, 積算回数:2,非選択IR(nSSIR): 2とし、TIを800-2400まで400 ms毎に撮像。また、プロトン密度強調画像を取得。自作Matlabソフトを用い、腎皮質の信号強度を測定し、TI 5点の計測から、single compartment modelに基づいたASL信号強度のカーブフィッティグを行い、ラベルされたスピンが腎臓に到達する時間を考慮したみかけの腎血流量を算出した。【結果】全被検者の平均のみかけの腎血流量は、188.97±47.02[ml/100cc/min]であり、変動係数は25%未満であった。【結論】3D-SSFP-ASL手法による、腎血流量の計測方法としてカーブフィッティグは妥当な方法であると考えられる。
著者
池田 由實 前田 茉利佳 矢野 紗彩
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-05-11

背景国語の授業で永井荷風の「断腸亭日乗」を知った。断腸亭日乗の日々の記録には天気が記されていることを知った。古文書の日付にも天気が書き添えられていることに着目し、江戸時代の天気を分析したいと考えた。一昨年、江戸時代の神奈川の古文書「関口日記」を、昨年は京都の「二條家内々御番所日次記」を分析した。今年は「妙法院日次記」と、鹿児島の「守屋舎人日帳」を分析した。「妙法院日次記」は京都東山七条の天台宗の妙法院の坊官が、1672年より1876年まで、約200年にわたって書き継いできた記録である。「守屋舎人日帳」は薩摩藩の守屋舎人重尭の日記で、1825から1871年までの、村の統治、生活慣行などが記録されている。研究の目的(1)「妙法院日次記と「守屋舎人日帳」の天気を分析して飢饉の年と原因を考える。(2)天気の出現率から地球温暖化の兆候を調べる。研究の方法(1)天気は現代の気象庁の判断に近づけて、雪>雨>曇>晴れと分類した。ただし、24時間のうち、9割以上曇っていれば「曇り」、9割(21.6時間)未満であれば「晴れ」と、雲量を時間に換算して判断した。(2)明治以降は京都と鹿児島の気象台の記録をデータ化して分析した。データ(1)「妙法院日次記」の1694年から1794年までの晴れと雨の出現率のグラフをみると元禄・享保・天明の飢饉の期間に晴れの出現率は下がります。この傾向は他の古文書でも同じである。1732年は享保の飢饉で、晴れは49.3%と低く、雨は30.4%と高くなっている。データ(2)「守屋舎人日帳」の晴れと雨の出現率のデータからは天保の飢饉の1833年の晴れの出現率が低いが、翌年から古文書の欠落があり、晴れの出現率が下がったかははっきりしない。データ(3)京都の明治以降の天気の出現率を出すと30年ごとに見て晴れの出現率が一番低いのは1981年以降である。雪の出現率は年々上がっている。考察(1)「妙法院日次記」などの古文書から見ると、飢饉の期間の晴れの出現率は下がります。日照不足が飢饉をもたらす要因の1つであったと推定される。(2)温暖化が進む現代の京都と鹿児島で雪の日が多くなっています。背景に、南岸低気圧の発生回数が多くなったことが推定される。結論(1)「妙法院日次記」他の古文書も飢饉の期間に晴れの出現率が下がる。それに伴う日照時間の低下は、元禄・享保・天明の飢饉発生と対応していると思われる。(2)京都・鹿児島の雪の出現率は江戸時代に大きな変動はないが、明治以降は時代とともに上昇する。原因として、特定な気圧配置の出現分布の違いが考えられ、背景に地球温暖化の影響が推定される。今後の課題これまでは太平洋側の天気を中心に分析したが、今後は日本海低気圧の影響を見るために、石川県の江戸時代の古文書「鶴村日記」をデータ化して分析する。
著者
吉兼 隆生 芳村 圭
雑誌
2019年度 人工知能学会全国大会(第33回)
巻号頁・発行日
2019-04-08

今いる場所の天気がどうなるのか。天気の変化が自然災害や経済活動に直結するため、古くから局地気象予報の実現が期待されてきた。しかし,局地気象予報については多くの問題があり、未だに実現できていない。本研究では、大規模スケールでの気象現象(季節風や低気圧など)に伴う天気パターンに領域での気温や地上風分布が対応しており、領域内のシミュレーションと観測のそれぞれの気象分布パターンがお互いに強く関係することを利用して、機械学習を用いた局地気象予測法を開発し推定値の評価を行った。その結果、降水だけでなく、気温や地上風についても本手法によりモデルバイアスを低減し高い精度で予測できることを示した。機械学習と数値シミュレーションを組み合わせた本手法は、お互いの長所を活かすことにより局地気象予測の実現に大きく貢献するだろう。
著者
水岡 良彰 中田 康太 折原 良平
雑誌
2018年度人工知能学会全国大会(第32回)
巻号頁・発行日
2018-04-12

テレビ視聴者の長期的な視聴パターンの推移に関する調査・分析は,シーズンやイベント,ライフステージといった視聴者の長期的な習慣の変化を考慮した番組やCMの制作に有効と考えられる.近年のネットワーク対応テレビの普及により,ユーザの利用許諾を得たテレビ機器から視聴データの取得が可能となっている.本研究では,まず視聴パターンにクラスタリング手法を適用することで特定の期間から典型的な視聴パターンを抽出する.次に抽出した視聴パターンをテンプレート化し,特定の期間以上の長期間に渡ってテンプレートに合致するか判定する.さらに判定結果を再度クラスタリングすることで多くの視聴者に共通する視聴パターンの推移を抽出し,抽出した視聴パターンの長期的な推移を分析する.この推移は,長期間継続する習慣や習慣が変化したタイミングなどを一目で把握できるよう可視化して観察する.1年以上に渡る実データの分析結果を示し,本アプローチがテレビメディアの魅力向上に活用できる可能性を示す.