著者
伊藤 毅志 松原 仁
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告ゲーム情報学(GI) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2004, no.64, pp.9-15, 2004-06-18
被引用文献数
6

将棋の熟達者は、どのように将棋を捉えているのだろうか?我々は、これまで、将棋を題材にして、伝統的な認知科学的手法で研究を行ってきた。その結果、棋力の違う被験者間で、認知的な違いが明らかになってきた。しかし、熟達者が具体的にどのようにその卓越したパフォーマンスを示すことができるのかは不明な点が多い。本研究では、将棋トッププロ棋士である羽生善治氏に対して行ったインタビューの発話データから、将棋の熟達者の思考過程、認知過程、学習過程について新しい知見を得ることができた。本稿では、その詳細について述べる。How does the expert player recognize Shogi? We have so far researched by the traditional cognitive science method on the theme of Shogi. As the result, the cognitive difference has become clear among the subjects from whom Shogi skill is different. However, it isn't clear how an expert player can show the advanced performance concretely. In this research, we could acquire some new knowledge about the thinking process, a cognitive process, and a learning process of the expert player of Shogi from the verbal data of the interview held to Mr. Yoshiharu Habu who is a top professional player of Shogi. We give the details in this paper.
著者
浅田 麻菜 伊藤 毅志
雑誌
研究報告ゲーム情報学(GI)
巻号頁・発行日
vol.2011-GI-26, no.7, pp.1-7, 2011-06-24

駒の効き情報の視覚化が初心者の思考過程に与える影響について
著者
龐 遠豊 伊藤 毅志
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.1286-1294, 2018-04-15

囲碁の認識や学習において,囲碁用語が果たしている役割は大きい.しかし初学者が囲碁用語を覚えるのには大きな負担がかかる.本研究では,局面に対応する囲碁用語を自動表示するシステムを提案する.囲碁用語には,石の「形」だけでなく,石の「勢い」を含む局面解析との組合せが必要なものもある.我々は,囲碁プログラム“Ray”の協力を得て,これらも実装した.先行研究を参考に比較的利用頻度の高い囲碁用語を自動的に視覚的表示するシステムを実現した.その性能をプロ棋士に評価してもらったところ,プロ棋士の判断と90%を超える高い一致率を示した.
著者
伊藤 毅志 小幡 拓弥 杉山 卓弥 保木 邦仁
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.52, no.11, pp.3030-3037, 2011-11-15

本論文では,将棋プログラムの新たな並列処理手法を提案する.このアルゴリズムは,複数の思考プログラムの候補手の中から一つの手を選択する手法である.このアルゴリズムを合議アルゴリズムと呼ぶ.本論文では,将棋における合議手法の提案と評価を行い,また単一プログラムからでも乱数を用いた合議手法を提案しその有効性も示した.さらに,YSS,GPS将棋,Bonanza等の有名な強豪プログラムをこの合議アルゴリズムで組み合わせることで,その各々のプログラムよりも強くなることを示した.
著者
齋藤 雅史 伊藤 毅志
雑誌
研究報告ゲーム情報学(GI) (ISSN:21888736)
巻号頁・発行日
vol.2023-GI-49, no.14, pp.1-6, 2023-03-10

人間を超えるレベルの将棋 AI が出現して,プロ棋士はそれを学習に利用するようになって久しい.将棋 AI がプロ棋士の棋譜に与えた影響について,将棋AIを用いてプロ棋士の定量的分析を行ってきた.その結果,将棋 AI との一致率が高くなることが判明した.一方,中盤以降の拮抗した局面における平均損失は変化がないことが確認された.本研究では,同様の分析をレーティング上位の 9 名(トッププロ棋士)について行い,全体のプロ棋士の結果と比較した.その結果,プロ棋士全体の順位戦の棋譜の結果に比べて,トッププロ棋士の定量的データが有意に高いことが示された.
著者
伊藤 毅志
雑誌
ゲームプログラミングワークショップ1999論文集
巻号頁・発行日
vol.1999, no.14, pp.177-184, 1999-10-15

将棋のような複雑な問題解決では,先読みしきれない膨大な局面に対する論理的思考を補うために,人間は経験に基づく直観や大局観を利用した思考をしている.本研究では,将棋におけるある局面において,人間がどのように考えて,次の一手を決定していくのかを詳細に調べて,人間の直感的思考のメカニズムを明らかにしていく.心理実験の結果,アマチュア5級程度になると,すでに上級者と同様の思考過程(将棋対局者スクリプト)を辿れることが明らかになった.また,上級者になるほど大局的に局面を見ることが出来るようになり,注目すべき箇所への言及が多く,深い先読みを行う以前に,有力な指し手であることが感じ取れるようになっていることがわかった.
著者
齋藤 雅史 伊藤 毅志
雑誌
研究報告ゲーム情報学(GI) (ISSN:21888736)
巻号頁・発行日
vol.2021-GI-46, no.3, pp.1-6, 2021-06-12

近年,将棋 AI はプロ棋士をはるかに凌駕するレベルにある.その結果,多くのプロ棋士が将棋 AI を自身の研究に取り入れるようになってきている.AI が賢くなるにつれて,我々人間は AI の影響を受け,その思考にも変化が生じている可能性がある.一方で近年の賢い AI が人間の思考に与える影響に関する研究はまだ少ない.将棋 AI は 2015 年頃に人間のトップを超えたと言われ,特に勝負の世界で生きているプロ棋士はその影響を強く受けていることが予想される.そこで,本研究では,人智を超えた将棋 AI の登場がプロ棋士に与えている影響について調査する.具体的には,プロ棋士の棋譜に注目し,将棋 AI を用いて AI との着手一致率や評価値の推移などを調べ,どのような変化が現れているのかを定量的なデータをもとに考察していく.
著者
伊藤 毅志 古郡廷治
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告ゲーム情報学(GI) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.1999, no.53, pp.1-5, 1999-06-24
参考文献数
2

従来、人間の問題解決において、問題を解くために、色々な図を描いたり道具を使ったりするような、様々な別の表現を持っていることが問題解決に有効に働くことは指摘されてきた。本稿では、思考支援を促すために、将棋の駒の効きを視覚的に示す新しい表現を提案する。我々は、この新しい表現をコンピュータ上で実現し、4つのレベル(初心者、初級者、中級者、上級者)の将棋プレーヤーにこのシステムを使わせて、思考過程に与える影響について調査した。その結果、初級者が最もこのシステムを積極的に利用しようとする過程が見られ、システムに対する評価も高かった。It is known that the problem solver who has various kinds of representations of the problem like diagrams gains the advantage to solve it. In this article, we propose a new visual representation on SHOGI that shows on colors the move of pieces of a position. We realized this system on computer to examine how four levels of players (beginners, novice, middle-grade and expert )use it and how they are influenced by using it. As the result, novice players took a most positive attitude about this system and they prized it most highly.
著者
伊藤 毅志 松原 仁 ライエルグリンベルゲン
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.43, no.10, pp.2998-3011, 2002-10-15
参考文献数
10
被引用文献数
14

人間の問題解決の認知過程については数多くの研究が行われてきた.ゲームおよびゲーム理論は昔から人間の問題解決行動の研究において重要な役割を演じてきた.認知研究の題材にゲームを用いることの利点は,ゲームが良定義問題で対戦による評価が容易なことである.チェスで最もよく知られた認知実験は局面の記憶に関するものでDe Grootによって行われた.この研究を継いだSimonとChaseはチャンクという概念を用いてエキスパートの認知能力を説明した.チャンクは一種の情報のかたまりで,チェスでいうとチェス盤上の典型的な駒の配置パターンのかたまりをチャンクと呼んでいる.彼らは強いプレイヤは弱いプレイヤよりも広い配置パターンをチャンクとして記憶していることを示した.将棋の認知研究の第1歩として,我々はまずチェスで行われた認知実験を追試してみることにした.チェスと将棋には認識の点からいくつかの違いがあるので,この追試実験を一度は実施することが必要だと考えた.本論文では将棋を対象とした時間無制限と時間制限の記憶実験を行った.強いプレイヤが弱いプレイヤより成績が良いこと,すなわち広い配置パターンをチャンクとして記憶しているというチェスとほぼ同様の結果が得られた.In the past, there have been numerous studies into the cognitive processes involved in human problem solving. From the start, games and game theory have played an important role in the study of human problem solving behavior. The advantage of using games for the study of cognitive behavior is that games provide a complex but well-defined problem in which evaluation of results is relatively easy. In chess, one of the most well-known cognitive experiments was the study by De Groot on memorizing positions. As a follow-up to De Groot's work, Chase and Simon introduced the theory of chunking to explain why expert game players perform so well on memory tasks. Chunking is the process of dividing a chess position into smaller parts that have meaning. Chase and Simon showed that stronger players have bigger chunks of chess knowledge than weaker players. As a first step in our cognitive study of Shogi, we repeated some experiments that were conducted in chess. We felt that repeating these experiments was necessary as there are some important differences between chess and Shogi from perceptual point of view (for example, shogi has a 9×9 board with all squares having the same color, shogi pieces are two-dimensional and in shogi captured pieces remain part of the game). Because of these differences, it could not be assumed that the results for chess would carry over to shogi. In this paper we give the experimental results of memory tasks in shogi, both with and without a time limit. Our results were similar to the ones obtained in chess. As in chess, there is a correlation between playing strength and the performance on the memory tasks. From this we can draw a similar conclusion for shogi as for chess: stronger players have bigger chunks of shogi knowledge than weaker players.
著者
伊藤 毅志 板倉 貴章
雑誌
エンタテインメントコンピューティングシンポジウム2015論文集
巻号頁・発行日
vol.2015, pp.31-36, 2015-09-18

チェスや囲碁・将棋のような完全情報確定ゲームを題材にした認知科学研究として,様々なレベルのプレイヤごとの思考過程の違いを比較した研究が行われてきた.本研究では,「氷上のチェス」と呼ばれるほど高度な戦略的思考を必要とされるカーリングを題材にして,プレイヤの思考過程の研究を行った.カーリングは,将棋などとは異なり,不確定要素を含むゲームであるが,その思考過程について確定ゲームと違いがあるかどうかを,「次の一手問題」を用いた認知科学的実験から検証していく.
著者
伊藤 毅志
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理 (ISSN:04478053)
巻号頁・発行日
vol.50, no.9, pp.887-894, 2009-09-15
被引用文献数
4

多くの幸運が重なり,電気通信大学情報工学科伊藤研究室の開発した「文殊」は,第19回世界コンピュータ将棋選手権において,初出場で第3位という成績を残すに至った.この解説では,「文殊」の誕生までの歩みと文殊で行った「合議アルゴリズム」の技術的な工夫と,いくつかの実験結果について紹介する.
著者
伊藤 毅
出版者
一般社団法人日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文報告集 (ISSN:09108017)
巻号頁・発行日
no.380, pp.p125-134, 1987-10

Tenma Honganji Jinaimachi was consisted of Honganji Temple (the Gobo) and its town. Hongariji Temple was considered to be located on the eastern part of the Jinaimachi, and the circumference around the Jinaimachi was not permitted to be fortified by Hideyoshi. Such a construction cannot be regarded as the regular style of Honganji and it symbolically shows the change in quality of Honganji Jinaimachi under the severe control of Hideyoshi. Honganji Jinaimachi was in turn compelled to remove to Kyoto in 1591. After the removal, Tenma district didnot go to ruin, but continued as the town. Tenma-kumi (one of the regional community of Osaka in the Edo era) came into being laying the foundation of Tenma Houganji Jinaimachi.
著者
伊藤 毅志
出版者
電気通信大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、5五将棋と呼ばれる小路盤の将棋を題材に知識を直観的に記述できるシステムKIDS (Knowledge Intuitive Description System)を構築した。現在のところ、システムは完成し、実用に足るレベルに到達した。ユーザの直観的知識記述が可能で、ユーザが記述した知識ファイル通りに、自動的に対局できるシステムが構成され、ユーザの期待通りの指し手が生成されることが確認された。電気通信大学において、5五将棋の大会を数回開催し、5五将棋に関心を持つプレーヤーが増え、KIDSをネット上で公開することにより、KIDSを用いた大会も行われた。
著者
金泉 則天 伊藤 毅志
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第36回 (2022)
巻号頁・発行日
pp.4I3OS26b02, 2022 (Released:2022-07-11)

多人数不完全情報ゲームである人狼は、人工知能の様々なテーマを含んでいるため、近年注目を集めている。人狼をプレイするAIの研究は、人狼知能プロジェクトとして進んでいるが、人間の高度な意思決定のプロセスについては、わかっていないことが多い。本研究の目的は、人狼における熟達者の意思決定方法を明らかにすることである。 人狼は勝敗を競うだけでなくプレイを楽しむというパーティーゲームとしての特徴を持つので、必ずしも強さを競うだけのプロプレイヤは存在しない。しかし演劇として人狼をプレイする「人狼TLPT」と呼ばれるプロのプレイヤ集団がいる。彼らは、役者としての能力だけでなく、人狼プレイにも長けており、観客に高度なプレイを見せることを生業としている。彼らのプレイは観客から見ても卓越したものであり、高度な思考過程が見られる。 本研究では、このTLPTプレイヤに5人人狼をプレイさせ、そのプレイの発話を記録し、彼らの思考過程を分析した。結果として、熟達者ならではの状況を素早く理解し、的確な意思決定を行っている過程を確認した。それらの思考過程を他のゲームの熟達者の思考と比較することで、その特徴を明らかにしていく。
著者
伊藤 毅志 斎藤 大 高橋 克吉 村松 正和 松原 仁
雑誌
情報処理学会研究報告ゲーム情報学(GI)
巻号頁・発行日
vol.2006, no.23(2006-GI-015), pp.17-24, 2006-03-07

本研究では、囲碁を題材にして2つの認知科学的実験を行った。1つ目の実験では、アマチュア初心者(ルールを覚えたて)の被験者に対して、初心者向けの囲碁プログラムを用いて学習させ、その視線と発話データを分析した。その結果、初心者は相手の打った場所周辺に視線が集まっているのに対して、上達するにつれて相手の手につられずに広く盤面を見られるようになることがわかった。2つ目の実験では、アマチュア中級者(級位程度)の被験者から上級者(五段程度)の被験者に対して次の一手課題を与え、どのように思考するのかを視線と発話データを分析した。この結果から、上級者ほど盤面を広く見る傾向が見られた。一方、先行研究から、将棋では局面認識の過程では上級者ほどあまり広く盤面を見ずに思考していることがわかっている。このことは、囲碁と将棋のゲームとしての違いを表わしていると考えられる。