著者
増間 弘祥 南⾥ 佑太 河端 将司 野﨑 康平 澁⾕ 真⾹ 前⽥ 拓也 代⽥ 武⼤ ⼆瓶 愛実 相川 淳 岩瀬 ⼤ ⾼野 昇太郎 福⽥ 倫也
出版者
一般社団法人 日本運動器理学療法学会
雑誌
運動器理学療法学 (ISSN:24368075)
巻号頁・発行日
pp.202213, (Released:2023-06-12)
参考文献数
26

【⽬的】⼈⼯膝関節全置換術(以下,TKA)後の患者における術後14 ⽇以内の⾃宅退院可否と術前歩⾏速度の関連を明らかにすること。【⽅法】対象は2016 年4 ⽉〜2021 年3 ⽉までにTKA を施⾏された294 例とした。対象者を術後14 ⽇の⾃宅退院を基準に早期退院群と遅延転院群の2 群に分類した。対象者に対して術前歩⾏速度を調査し,2 群間で⽐較を⾏った。さらにロジスティック回帰分析により術前歩⾏速度が術後14 ⽇以内の⾃宅退院を困難とするリスク因⼦となるか検討を⾏った。【結果】遅延転院群の術前歩⾏速度は早期退院群と⽐較して有意に低下していた。さらに,術前歩⾏速度は術後14 ⽇以内の⾃宅退院を困難とするリスク因⼦となることが分かった(オッズ⽐:0.09,95%CI:0.03–0.32)。【結論】TKA 後の患者において,術前歩⾏速度の評価は術後14 ⽇以内の⾃宅退院可否を予測する上で有⽤であることが⽰唆された。
著者
増間 弘祥 南⾥ 佑太 河端 将司 野﨑 康平 澁⾕ 真⾹ 前⽥ 拓也 代⽥ 武⼤ ⼆瓶 愛実 相川 淳 岩瀬 ⼤ ⾼野 昇太郎 福⽥ 倫也
出版者
一般社団法人 日本運動器理学療法学会
雑誌
運動器理学療法学 (ISSN:24368075)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.7-13, 2023 (Released:2023-09-30)
参考文献数
26

【⽬的】⼈⼯膝関節全置換術(以下,TKA)後の患者における術後14 ⽇以内の⾃宅退院可否と術前歩⾏速度の関連を明らかにすること。【⽅法】対象は2016 年4 ⽉〜2021 年3 ⽉までにTKA を施⾏された294 例とした。対象者を術後14 ⽇の⾃宅退院を基準に早期退院群と遅延転院群の2 群に分類した。対象者に対して術前歩⾏速度を調査し,2 群間で⽐較を⾏った。さらにロジスティック回帰分析により術前歩⾏速度が術後14 ⽇以内の⾃宅退院を困難とするリスク因⼦となるか検討を⾏った。【結果】遅延転院群の術前歩⾏速度は早期退院群と⽐較して有意に低下していた。さらに,術前歩⾏速度は術後14 ⽇以内の⾃宅退院を困難とするリスク因⼦となることが分かった(オッズ⽐:0.09,95%CI:0.03–0.32)。【結論】TKA 後の患者において,術前歩⾏速度の評価は術後14 ⽇以内の⾃宅退院可否を予測する上で有⽤であることが⽰唆された。
著者
前田 拓也
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.456-475, 2006-12-31 (Released:2010-04-23)
参考文献数
26
被引用文献数
4 1

1970年代以降, 「新しい社会運動」の一部として実践されてきた日本の障害者運動と, その成果を積極的に織り込んでいこうとする「障害学」の中て目指されてきたことは, 「障害/健常」の差異の相対化であり, また, 健常者に対し, 特権的な立場の相対化を迫ることであった.本稿で焦点を当てるのは, そうした潮流の最も重要な成果の1つである障害者の「自立生活」と, その中で最も身近な健常者として介助者を措定した上で用いられる「介助者=手足」というテーゼである.「自立生活」を志向する障害者が, 「感情の交流」を介助の本質とする健常者のフレームに距離を取り, 介助者の存在を匿名性のうちに留めておこうとしたこのテーゼの意義はいまだ有効である.しかし同時に, 介助者を手段として使うことで「できないこと」を「できる」ようにするという介助の技法のうちには, 「障害者の自己決定」に対する介助者という他者の介入が構造的にはらまれているのてある.本稿では, 筆者自身の介助現場への参与観察から得た知見をもとに, 介助者の存在を透明化することの不可能性を論じることを通じて, 「健常者/障害者」関係と「介助者/利用者」関係という, しばしは同一視されがちな2項軸の相違を指摘する.また, その指摘によって, ともすると「介助」を巡る議論に埋もれがちてあった「介助者のリアリティ」を前景化して論じる意義を示すことを目的とする.
著者
前田 拓人
雑誌
日本地震学会2019年度秋季大会
巻号頁・発行日
2019-08-15

WINファイルは卜部・他(1990)により開発された地震波検測システム(WINシステム)の地震波形ファイルである.防災科学技術研究所よって制定されたWIN32を含めたWIN/WIN32(以下まとめてWINと略す)ファイル形式は,現代の日本国内における連続地震波形流通おける事実上の標準である.WINはデータ容量の小ささやデータの結合性など優れた点を持つが,その反面ファイル形式はやや難解であり,WINシステムで地震波形を使う場合以外には,他フォーマットへの波形記録変換ツールを介するのが常であった.しかし,観測網が稠密化したいま,大容量・連続地震波形記録の解析においては,この波形フォーマットの変換がデータ解析における最大のボトルネックであり,その傾向は今後ますます顕著になっていくと予想される.そこで本研究では,これまでよりもはるかに高速にWINファイルの読み出しができるライブラリを作成した.本ライブラリは,Fortran2008言語のモジュールとして作成した.FORTRANは古典的な言語ではあるが,Fortran2003/2008といった最近の規格では,動的なメモリ確保やオブジェクト指向といった現代的な機能が含まれている.特に,Fortran2008で規格が制定され,最近になって多くのコンパイラで実装された非同期入出力は,WINファイルのような複雑かつ多数のファイルの入力にきわめて有効である.本研究で開発したライブラリでは,他形式へのファイルの変換・保存や,複数のWINファイルの結合などの処理を一切必要とせず,時間的に連続した複数のWINファイルから目的のチャネルの記録をFortranの配列として直接取得できる.中間処理が不要になったことで,処理の単純化のみならず高速化に対して劇的な効果が見込まれる.さらに,本ライブラリはWIN形式とWIN32形式の両方に対応し,ファイル形式の簡易自動判定機能も備えている.また,開発したライブラリでは,WINファイルのファイル内容をそのままメモリイメージとして読み込むロード部分と,メモリ上に格納されたWINファイルから必要なデータを抽出するデコード部分を分離実装した.これらとFortran2008の非同期入出力機能を用いて,あるファイル内容のデコード中に次のファイルをメモリに読み込む並列動作を実現した.このことにより,ロードとデコードのうち片方の処理時間を隠蔽することができ,多数のファイルを読み込む場合に高速化が期待される.このような隠蔽処理は並列数値計算においてCPUやGPU間の通信時間の隠蔽にしばしば用いられてきたが,本報告ではこれをファイル入力に対して活用した.開発したライブラリの性能を評価するため,WIN32波形を読み込むdewin_32プログラムを比較対象とした実験を行った.防災科学技術研究所Hi-net により収録された任意の日付時刻の連続速度波形ファイル1時間分を対象とし,そこに含まれる全てのチャネルを読み出す.WIN32ファイルはLAN上のNASに格納されているものとする.dewin_32と同等の機能を持つツールを今回開発したライブラリに基づいて作成し,読み込み速度を比較した.実験の結果,dewin_32で1時間分のファイルの全チャネルの読み込みと出力に最大621秒かかったところ,本ツールでは,非同期入力なしで267秒,非同期入力ありで236秒で読み込めた.また,Fortran言語上で利用する場合は,そもそも読み込んだデータを一旦ファイルに保存する必要がない.そこでデータの出力に掛かる時間を無視すると,読み込み時間は非同期入力なしで38秒,ありで21秒まで短縮された.実際の解析でHi-net全チャネル1時間分データが利用可能になるまでの時間は,本研究で開発したツールではdewin_32と比べて最大約20倍短縮されたことになる.読み込みのみに限定すると,非同期入力の導入によって性能がおおむね倍になった.比較に用いたWIN32ファイルの1時間分の総容量は約1GBであり,この結果はデータ通信速度に換算すると約400Mbpsに相当する.これは実験環境におけるLAN(1Gbps)の通信の実効速度の上限に近い.すなわち,ネットワークファイルシステムに連続記録が配置されている環境においては,もはやこれ以上の劇的な速度向上は望めない.本研究で開発したライブラリは,周辺ツールや利用マニュアル等を整備の上,オープンソースとして公開する予定である.講演ではアルゴリズムの詳細の説明,高速データ読み込みとその利用の実演,およびコードの公開を行う.謝辞 本研究では防災科学技術研究所により登録ユーザーに対して配布されているwin32toolsを利用しました.記して謝意を表します.
著者
前田 拓也 上出 直人 戸﨑 精 柴 喜崇 坂本 美喜
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.29-36, 2021 (Released:2021-02-19)
参考文献数
46

【目的】本研究は地域在住高齢者の呼吸機能に対する運動機能,認知機能,体組成との関連性について検討した。【方法】対象は要介護認定のない65 歳以上の地域在住高齢者347 名とした。呼吸機能として努力性肺活量および1 秒量,運動機能として握力,下肢筋力,Chair Stand Test,Timed Up and Go Test(以下,TUGT),5 m 快適・最速歩行時間,認知機能としてTrail Making Test part A(以下,TMT-A),体組成として骨格筋指数および体脂肪率を評価した。呼吸機能と運動機能,認知機能,体組成との関連を重回帰分析にて分析した。【結果】年齢,性別,体格,喫煙などの交絡因子で調整しても,努力性肺活量は握力,TUGT,TMT-A と有意な関連を示した。同様に,1 秒量は握力,TMT-A と有意な関連を示した。【結論】地域在住高齢者の呼吸機能は運動機能,認知機能が関連することが示唆された。
著者
前田 拓真 大井川 秀聡 小野寺 康暉 佐藤 大樹 鈴木 海馬 栗田 浩樹
出版者
一般社団法人 日本脳卒中の外科学会
雑誌
脳卒中の外科 (ISSN:09145508)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.397-404, 2023 (Released:2023-10-04)
参考文献数
12

神経外視鏡手術が脳神経外科臨床にも導入され,その有用性が報告されている.当科では2021年から脳血管外科手術を神経外視鏡化するプロジェクトに取り組み,2022年は大部分の手術を神経外視鏡下で行っている.今回,顕微鏡手術からの移行期における脳動脈瘤手術の治療成績を検討した.対象は2021年1月から2022年8月までに当院で開頭手術を行った未破裂脳動脈瘤連続134例のうち,開頭クリッピング術を行った132例とした.神経外視鏡と顕微鏡の両群間で患者背景,セットアップ時間,手術時間,周術期合併症の有無,退院時予後について後方視的に検討を行った.神経外視鏡は75例(55.1%)で選択された.両群間で年齢・性別などの患者背景に有意差を認めなかった.両群で専攻医の執刀率が最も高く(65.3% vs. 59.0%),セットアップ時間(63分 vs. 62分),手術時間(295分 vs. 304分),周術期合併症(5.3% vs. 3.3%),退院時予後良好(97.3% vs. 95.1%)は両群間で有意差を認めなかった.アンケート調査では,画質(78.9%),明るさ(84.2%),操作性(73.7%),教育(57.9%)などにおいて,神経外視鏡がより高い評価を得た.一方で,助手の操作性については課題も明らかとなった.神経外視鏡は高画質,デジタルズームによる従来以上の強拡大,head-up surgeryによる疲労軽減,接眼レンズをもたない小型なカメラで視軸の自由度が大きいなどのメリットを有する.神経外視鏡は開頭クリッピング術においても有用であり,trainer,traineeの経験がともに少ない初期経験においても,許容可能な治療成績であった.
著者
松本 綾希子 梁 太一 澤泉 雅之 前田 拓摩 棚倉 健太 宮下 宏紀 岩瀬 拓士 五味 直哉
出版者
一般社団法人 日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会
雑誌
Oncoplastic Breast Surgery (ISSN:24324647)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.64-74, 2016-12-26 (Released:2016-12-26)
参考文献数
19

シリコーン乳房インプラント (SBI) による乳房再建後には, 定期的な画像検査を行うことが推奨されている。今回われわれは, SBI による乳房再建および対側豊胸術後3年以上経過し無症状の SBI 829個に対して破損スクリーニング検査として超音波検査を実施し, 10個に明らかな破損を, 17個に軽微な破損を疑う所見を認めた。明らかに破損した症例では, 被膜と外殻の分離および内部シリコーンゲルの高エコー化がおもな超音波検査所見であった。また, 内部の液体貯留所見や外殻のわずかな破綻などの軽微な所見であれば, 注意深い経過観察が必要であると考えられた。明らかに破損した症例については SBI 入れ替えが推奨されるが, 軽微な所見であれば経過観察し, 適切な時期に交換を行って患者の QOL を損なわないように努めるべきである。また, 専門施設のみならず検診施設においてもスクリーニングが可能となるよう, 異常所見を周知する必要がある。
著者
井口 高志 木下 衆 海老田 大五朗 前田 拓也
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は、「地域包括ケア」「地域共生社会」が目指される時代に、地域において障害や病い、または、生きづらさなどを抱える人たちがどのように支援と関わりながら日常生活を送り、それを支える人たちがどのように支援実践や居場所を形成してきた/いるのかを、領域横断的な研究者の経験的調査によって明らかにする。この作業を通じて、現在、政策目標とされている地域包括ケアや地域共生社会に向けた課題の明確化を目指す。中心となる研究領域は認知症ケアおよび障害者支援であり、これらの研究を中核として、さらに他領域の支援実践に関する研究の知見を付き合わせていく。
著者
前田 拓生 阿部 嶺一 保井 俊之
出版者
生活経済学会
雑誌
生活経済学研究 (ISSN:13417347)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.29-44, 2021 (Released:2022-03-31)
参考文献数
17

本研究では、群馬県西毛地域の内、高崎市及び富岡市をコミュニティ経済と捉え、SDGsの「11住み続けるまち」として西毛地域が持続可能であり続け、当該コミュニティの価値や理念の実現に貢献できる地域通貨を如何に設計していくべきかについて考察を行った。その際、地域通貨が、コミュニティ経済の共創と活性化を進めるためには、栗田(2020)がいう互酬性をはかる必要があることから、PEACECOINを模した紙ベースの割引クーポン券を配布し、当該割引クーポン券を利用する人々の主観的ウェルビーイングを観測することにより、互酬性に関する検証を試みた。
著者
前田 拓志 藁谷 哲也
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

<b>1</b><b>.目的</b> <br> 新第三紀から第四紀の堆積岩を基盤に持つ,房総半島および新潟県中越地域の河川において,近世以降人為的な蛇行切断が行われてきた.これらは,房総半島では「川廻し」,中越地域では「瀬替え」と呼称され,一般に蛇行頚状部を掘削して新たに直線的な流路をつける(曲流短絡する)ことで,廃棄河道を新田として開発する目的で行われた.曲流短絡による一連の地形(以下,曲流短絡地形)には以下のような特徴があると考えた.①切断された流路(旧流路)は,無能河川となり,その後下刻作用を受けない.つまり,旧流路の河床面(旧河床面)は短絡以前の地形面を保存している.②一方,旧河床面と対比される(かつて連続していた)現河床面は,その後も下刻作用を受ける.つまり,現河床面と旧河床面の比高を,曲流短絡以降の下刻による河床の低下量とみなすことができる.また,短絡以降の時間は,下刻作用継続期間とみなすことができる.そこで本研究では,現・旧河床面における比高を<i>H</i> ,下刻作用継続時間を<i>T</i>として,短絡以降の平均下刻速度<i>H/T</i>を求め,さらにそれを制約する要素を検討した. &nbsp; <br> <b>2</b><b>.研究方法</b> <br> 既存文献および史料より,房総丘陵と魚沼丘陵から流路の短絡時期が推定できた7地点を研究対象として選定した. 7地点はいずれも,おもに受食性の大きい新第三系の泥岩を基盤に持つ渓流部である.それぞれの地点において,現地調査のもと現・旧河床面の比高を測量した.また,下刻速度を制約する変数を考察するために河床勾配,流域面積,年降水量の情報を取得した.一方,河床を構成する岩石の力学的強度を求めるために,シュミットハンマーKS型を用いて反発強度を測定するとともに,岩石試料をもとに圧裂引張強度を測定した. &nbsp; <br> <b>3</b><b>.結果と考察</b> <br> 現・旧河床面の比高および下刻作用継続時間は,それぞれ0.11~2.05m,103~235年間であることがわかり,平均下刻速度1.08~15.89mm/yが得られた.下刻速度は,河床を構成する岩石の抵抗力<i>R</i>に対する下刻侵食力<i>F</i>の比に制約を受けると考えられる.そこでまず,下刻侵食力<i>F</i>と侵食に対する抵抗力<i>R</i>の変数について検討した.下刻侵食力<i>F</i>は,流水が河床底面にあたえる力,すなわち流体の強さである掃流力として表すことができると考えられる.掃流力は,水深,河床勾配および流体の密度に比例して増大する.入手できた変数を用いて下刻侵食力<i>F</i>を以下のように考えた. <br> <i>F</i> &prop;(&gamma;,<i>A</i>,<i>P</i>,tan&theta;,<i>W<sup> </sup></i><sup>-1</sup>) <br> ここで,&gamma;:流水の単位体積重量(9810N/m<sup>3</sup>と仮定),<i>A</i>:流域面積,<i>P</i>:年間降水量,tan&theta;:河床勾配,<i>W</i>:河床幅員である.一方,侵食に対する抵抗力<i>R</i>は,河床を構成する岩石の力学的強度によって表すことができると考えられる.流水によって,岩盤には河床に沿ってせん断力が作用する.したがって,侵食に対する抵抗力<i>R</i>は,河床を構成する岩石のせん断強度(<i>S</i><sub>s</sub>)によって次のように表すことができると考えた. <br> <i>R</i> &prop;<i>S</i><sub>s</sub> <br>以上を整理すると,基盤岩石の抵抗力<i>R</i>に対する下刻侵食力<i>F</i>の比を表す変数が,以下に示す速度の次元をもつ指標(<i>F/R</i> index)として表される. <br> <i>F/R </i>= &gamma;<i>A P</i> tan&theta; <i>W </i><sup>-1</sup> <i>S</i><sub>s</sub><sup>-1</sup> <br>それぞれの地点について<i>F/R</i> index値を計算し,下刻速度との関係を分析した.その結果,短絡区間の上流側では下刻速度と<i>F/R</i> indexとの間に関係性が認められないのに対して,下流側では両者の間に高い相関(r=0.92)が認められた.これは,短絡区間の上流側と下流側の地形条件の違いが,下刻速度に影響を与えたと推察される.曲流を短絡しているので短絡区間の河床勾配は,その前後の河床勾配に比べて大きくなり,遷急区間となる.したがって,短絡の下流側の下刻速度は,この遷急区間の河床勾配が優位に作用していることが示唆された.
著者
前田 拓志 藁谷 哲也
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100140, 2015 (Released:2015-04-13)

1.目的 新第三紀から第四紀の堆積岩を基盤に持つ,房総半島および新潟県中越地域の河川において,近世以降人為的な蛇行切断が行われてきた.これらは,房総半島では「川廻し」,中越地域では「瀬替え」と呼称され,一般に蛇行頚状部を掘削して新たに直線的な流路をつける(曲流短絡する)ことで,廃棄河道を新田として開発する目的で行われた.曲流短絡による一連の地形(以下,曲流短絡地形)には以下のような特徴があると考えた.①切断された流路(旧流路)は,無能河川となり,その後下刻作用を受けない.つまり,旧流路の河床面(旧河床面)は短絡以前の地形面を保存している.②一方,旧河床面と対比される(かつて連続していた)現河床面は,その後も下刻作用を受ける.つまり,現河床面と旧河床面の比高を,曲流短絡以降の下刻による河床の低下量とみなすことができる.また,短絡以降の時間は,下刻作用継続期間とみなすことができる.そこで本研究では,現・旧河床面における比高をH ,下刻作用継続時間をTとして,短絡以降の平均下刻速度H/Tを求め,さらにそれを制約する要素を検討した.   2.研究方法 既存文献および史料より,房総丘陵と魚沼丘陵から流路の短絡時期が推定できた7地点を研究対象として選定した. 7地点はいずれも,おもに受食性の大きい新第三系の泥岩を基盤に持つ渓流部である.それぞれの地点において,現地調査のもと現・旧河床面の比高を測量した.また,下刻速度を制約する変数を考察するために河床勾配,流域面積,年降水量の情報を取得した.一方,河床を構成する岩石の力学的強度を求めるために,シュミットハンマーKS型を用いて反発強度を測定するとともに,岩石試料をもとに圧裂引張強度を測定した.   3.結果と考察 現・旧河床面の比高および下刻作用継続時間は,それぞれ0.11~2.05m,103~235年間であることがわかり,平均下刻速度1.08~15.89mm/yが得られた.下刻速度は,河床を構成する岩石の抵抗力Rに対する下刻侵食力Fの比に制約を受けると考えられる.そこでまず,下刻侵食力Fと侵食に対する抵抗力Rの変数について検討した.下刻侵食力Fは,流水が河床底面にあたえる力,すなわち流体の強さである掃流力として表すことができると考えられる.掃流力は,水深,河床勾配および流体の密度に比例して増大する.入手できた変数を用いて下刻侵食力Fを以下のように考えた. F ∝(γ,A,P,tanθ,W -1) ここで,γ:流水の単位体積重量(9810N/m3と仮定),A:流域面積,P:年間降水量,tanθ:河床勾配,W:河床幅員である.一方,侵食に対する抵抗力Rは,河床を構成する岩石の力学的強度によって表すことができると考えられる.流水によって,岩盤には河床に沿ってせん断力が作用する.したがって,侵食に対する抵抗力Rは,河床を構成する岩石のせん断強度(Ss)によって次のように表すことができると考えた. R ∝Ss 以上を整理すると,基盤岩石の抵抗力Rに対する下刻侵食力Fの比を表す変数が,以下に示す速度の次元をもつ指標(F/R index)として表される. F/R = γA P tanθ W -1 Ss-1 それぞれの地点についてF/R index値を計算し,下刻速度との関係を分析した.その結果,短絡区間の上流側では下刻速度とF/R indexとの間に関係性が認められないのに対して,下流側では両者の間に高い相関(r=0.92)が認められた.これは,短絡区間の上流側と下流側の地形条件の違いが,下刻速度に影響を与えたと推察される.曲流を短絡しているので短絡区間の河床勾配は,その前後の河床勾配に比べて大きくなり,遷急区間となる.したがって,短絡の下流側の下刻速度は,この遷急区間の河床勾配が優位に作用していることが示唆された.
著者
今井 茂雄 久野 裕明 山田 剛 前田 拓也 高麗 寛紀
出版者
無機マテリアル学会
雑誌
無機マテリアル (ISSN:2185436X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.283, pp.451-456, 1999-11-01 (Released:2011-03-07)
参考文献数
14

The silver-doped ceramics is the whitewares coated with low-temperature lime zinc glaze containing silver, and has bactericidal activity. In this study, the mechanism of the bactericidal action of the silver-doped ceramics against bacteria, mainly Escherichia coli K12 W3110, was investigated. The silver-doped ceramics had high bactericidal activity when it was irradiated by visible light. Since the eluted silver ions from the surface of ceramics were not detected by ICP measurement and the supernatant had no bactericidal activity, it was proved that the eluted silver ions do not contribute to the bactericidal action of the ceramics. The bactericidal activity was extremely inhibited in the presence of radical scavengers such as L-cysteine, L-alanine or I-. After the silver-doped ceramics was removed from the cell suspension irradiated for 60 min, the bactericidal activity was still maintained, and was inhibited by L-cysteine. The silver-doped ceramics also had bactericidal activity against Bacillus subtilis ATCC6633.These results suggest that the bactericidal action of silver-doped ceramics is caused by the hydroxyl radical which is generated on the surface of the ceramics by light irradiation and is converted to a living radical in bacterial cells.
著者
山下 昌宏 澤泉 雅之 前田 拓摩 棚倉 健太 宮下 宏紀 松本 綾希子 岩瀬 拓士 大野 真司
出版者
一般社団法人 日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会
雑誌
Oncoplastic Breast Surgery (ISSN:24324647)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.25-31, 2016-12-25 (Released:2016-12-26)
参考文献数
10

ティッシュエキスパンダー (以下TE) の留置は, さまざまな要因により延長される場合がある。今回われわれは留置が2年以上経過した症例を長期例とし, 期間, 要因および合併症を検討した。2006年1月から2012年12月の期間に TE を挿入した一次乳房再建例は740例であり, このうち長期例は30例 (4.1%) であった。長期留置30例の関連合併症は破損が4例 (13%) で, いずれも生理食塩水の漏出が緩徐な slow puncture であった。ほかに入れ替えを要する感染等は認められなかった。 長期留置の要因としては, 化学療法の影響やその合併症等が多数を占めたが, 他疾患の合併や患者事情により延期せざるを得ないことがある。その結果, TE の破損率は上昇すると予想されるが, 合併症によって緊急な処置を迫られるものではなく, 患者への IC を含め状況に応じた対応が必要である。
著者
大峡 充己 古村 孝志 前田 拓人
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

本研究では、強震観測データと地震波伝播シミュレーションの同化に基づく長周期地震動の即時予測の実現に向け、データ同化手法の高速化に向けた検討を行った。これまでFurumura et al. (2019)は、K-NETとKiK-net強震観測と3次元差分法による地震波伝播シミュレーションのデータ同化に基づき、2007年新潟県中越沖地震と2011年東北地方太平洋地震における、都心の長周期地震動の即時予測実験を行った。データ同化には、震度の即時予測(Hoshiba and Aoki, 2015)や津波の即時予測(Maeda et al., 2015; Gusman et al., 2016)などで広く用いられている最適内挿法が用いられ、長周期地震動の計算は3次元地下構造モデルを用いた差分法計算により行われている。近年の高速計算機により、日本列島規模の長周期地震動のシミュレーションは、地震波(表面波の基本モード)の伝播速度の数倍以上の速度で行うことは十分可能になった。しかし、長周期地震動の予測から揺れが実際に始まるまでの十分な時間的猶予を確保するためには、コストの高い地震波伝播計算を、より高速に行うための研究開発が必要である。そこで、本研究は従来のデータ同化・予測に表面波伝播のGreen関数を活用して高速化する手法の有効性を検討した。この手法はWang et al. (2017)でGreen’s Function-Based Tsunami Data Assimilation (GFTDA)として、沖合津波計を用いた津波の高速データ同化・予測手法として提案されている。GFTDAでは、予めデータ同化地点と最終予測地点の間の津波伝播のGreen関数を計算しておき、これをデータ同化地点での観測データとシミュレーション結果との残差に畳み込み積分することで、予測地点の波形を計算する。差分法によって残差を時間発展させていく計算過程を予め計算されたGreen関数で代用するため、最終予測地点の津波波形を瞬時に求めることができる。通常のデータ同化に基づく予測手順と数学的に等価であることはWang et al. (2017)により証明されている。 本研究では、まずこの手法の長周期地震動への適用性を確かめるために、2004年紀伊半島南東沖地震(M7.4)のK-NET, KiK-net強震観測データを用いたデータ同化の数値実験を行い、K-NET新宿地点(TKY007)の長周期地震動の予測を行った。同化・予測計算はJ-SHIS地下構造モデルに対して行った。Green関数の計算を効率的に進めるために、相反定理を用いた震源と観測点を入れ替えた計算を行った。実験より、従来のデータ同化手法による予測とGreen関数を併用した本手法による予測が同一となることを確認した。本手法の活用により、震源域近傍の和歌山県〜三重県の観測データの同化後、直ちに遠地の最終予測地点の長周期地震動が得られることから、猶予時間を大幅に拡大することができる。さらに、熊野灘沖のDONET観測網を利用することで、より即時予測の精度の向上と猶予時間の確保が期待できることも確認した。 続いて、Green関数を併用した手法を用いた南海トラフ地震の長周期地震動の即時予測実験を行った。最終予測地点はKiK-net此花(OSKH02)、K-NET津島(AIC003)、新宿(TKY007)の3点である。震源モデルに内閣府(2016)の1944年東南海地震と1946年南海地震、そして想定最大級(M9)のものを用いた。それぞれの地震の長周期地震動は3次元差分法計算により求め、これを想定観測データとみなして実験に用いた。本実験ではK-NET, KiK-netに加え、DONET、気象庁海底ケーブル地震計、及び高知県沖〜日向灘に展開が計画されている海底津波地震観測網N-netの予想地点での想定観測データも用いた。最終予測地点の長周期地震動の強さは、水平動の速度応答スペクトルのGMRotD50 (水平2成分の波形記録を0~90°回転させたときのそれぞれの速度応答スペクトルの幾何平均のメディアンの値; Boore et al., 2006)により評価した。また、長周期地震動の継続時間の影響を評価するために、地動の累積変動量も計算した。これらの長周期地震動の予測精度は同化の経過とともに一様に高まる。例えば昭和南海地震の震源断層モデルと破壊が東側(熊野灘沖)から進行する地震シナリオでは、地震発生から70秒後の新宿地点の速度応答スペクトル(固有周期10秒)と累積変動量の予測は、大きな揺れが始まる約80秒前に実際の7割のレベルまで達成することを確認した。一方、破壊が西(足摺岬沖)から始まるシナリオでは、最終予測地点が遠い分、同等の予測精度を得る時点でより長い猶予時間(約120秒)が確保できることがわかった。しかしながら、断層破壊が都心に近づくにつれ、長周期地震動レベルが増大するため、より長時間(100秒間)の同化時間が必要であった。いずれにせよ、精度の高い予測と猶予時間の両方を確保するためには、震源域近傍での強震観測とともに、巨大地震の断層破壊の拡大に合わせてデータ同化を一定時間続け、予測を更新し続けることが必要である。
著者
王 宇晨 佐竹 健治 三反畑 修 前田 拓人
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-05-17

The 2015 Torishima earthquake (M5.9) occurred at the Smith caldera, on May 2, 2015. It had a CLVD-type focal mechanism and generated larger tsunami waves compared to its seismic magnitude (Sandanbata et al., 2018). Therefore, it was regarded as a ‘volcanic tsunami earthquake’ – a tsunami earthquake with volcanic origin. The tsunami reached Hachijo Island, Boso Peninsula and Shikoku Island, and were recorded by tide gauges and ocean bottom pressure gauges (Kubota, 2018). Fukao et al. (2018) proposed an opening horizontal sill model to explain its origin. The abnormal mechanism makes it difficult to forecast tsunami from its seismic magnitude.Tsunami data assimilation forecasts the tsunami by assimilating offshore observed data into a numerical simulation, without the need of calculating the initial sea surface height at the source (Maeda et al., 2015). In the Nankai region, the Dense Oceanfloor Network System for Earthquakes and Tsunamis (DONET) records the water pressure and has real-time data transmission. Synthetic experiments showed that this observational system was able to forecast the waveforms at Shikoku Island by tsunami data assimilation approach (Wang et al., 2018). Here, we performed this method to retroactively forecast the tsunami of the 2015 Torishima earthquake. We assimilated the observations of 16 DONET stations and two ocean bottom gauges off Muroto. The tsunami waveforms at the tide gauges Tosashimizu and Kushimoto were forecasted, and compared with the actual records.The comparison between forecasted and observed waveforms at two tide gauges suggested that our method could forecast the tsunami amplitudes and arrival time accurately. The tsunami warning could be issued to local residents of Shikoku Island more than one hour before its arrival. Our method is merely based on offshore observations, and could be implemented for future tsunami warning systems.