著者
川﨑 翼 荒巻 英文 兎澤 良輔 加藤 宗規
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.42, no.7, pp.569-574, 2015 (Released:2015-12-20)
参考文献数
19
被引用文献数
4

【目的】短時間の運動観察における運動学習効果およびその効果とワーキング・メモリ能力の関連性を検討することである。【方法】若年健常人31名を対象とし,運動観察する群(以下,観察群)20名と,運動観察をしない群(以下,観察なし群)11名に割りつけた。参加者は全員TMT part A(以下,TMT-A)とpart B(以下,TMT-B)の時間を測定された。観察群は,手本の鉄球回し映像を観察する前後における鉄球回しの10回転に要する時間と落下回数を測定された。観察なし群は運動観察を行わず,10回転に要する時間と落下回数を測定された。【結果】観察群は,観察なし群より鉄球回し時間の改善率が有意に高かった。観察群の鉄球回し時間の改善率は,TMT-Bの時間やΔTMT(TMT-B–TMT-A)と有意な相関を認めた。【結論】運動観察は,短時間の介入でも効果を示し,その効果にTMT-Bに示されるワーキング・メモリ能力が関与している可能性を示唆した。
著者
荒巻 英文 加藤 宗規 奥田 裕 伊藤 俊一 高栁 清美
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.171-175, 2015 (Released:2015-06-24)
参考文献数
29

〔目的〕骨格筋の反復伸張における筋肥大および筋力増強効果を,ヒトを対象として検証することとした.〔対象〕健常成人男性20名とした.〔方法〕対象筋は下腿三頭筋とした.反復伸張による等速性筋力測定装置での他動的足関節背屈運動を実施する介入群と対照群との間で,筋形状指標(腓腹筋筋厚・羽状角),下腿三頭筋の筋力,自動足関節背屈可動域を比較した.〔結果〕介入群の腓腹筋筋厚と羽状角は介入前後で有意に増大した.群間では筋力と自動足関節背屈可動域に有意差はみられなかった.〔結語〕健常成人男性の下腿三頭筋には,反復伸張による筋肥大効果があり,筋力増強には筋肥大以外の要素も関与すると考えられる.
著者
柳澤 史人 財前 知典 小関 博久 金子 千秋 小谷 貴子 松田 俊彦 藤原 務 古嶋 美波 加藤 宗規
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C3P3404, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】近年、肩回旋可動域を測定するpositionにおいて、肘関節90°屈曲位(以下1st)、肩関節90°外転・肘関節90°屈曲位(以下2nd)、肩関節・肘関節90°屈曲位(以下3rd)という言葉は定着してきている.しかし、関節可動域についての報告は散見されるものの、各positionにおいて発揮できる筋力について報告されているのは少ない.上記の3つのpositionでの内・外旋筋力を比較・検討したのでここに報告する.【方法】対象は肩関節疾患既往がなく、ヘルシンキ宣言に基づき研究内容を十分に説明し同意を得た健常成人17名(男性10名、女性7名、平均年齢24.5±7.5歳)である.肩関節1st・2nd・3rd positionにおける等尺性最大肩内旋・外旋筋力を検者の手掌に等尺性筋力測定器(アニマ社製μTasF-1)を装着した状態でmake testにて測定した.測定肢位は被検者を端坐位として肘を台上に置き、前腕回内外中間位・手指軽度屈曲位とした.検者は測定器を被検者の前腕遠位部にあてるとともに、対側の手で被検者の肘を固定することにより代償を最小限にして測定を行った.各検査とも検査時間は5秒間、30秒以上の休憩をおき2回ずつ行った.なお各positionの測定順はランダムに実施した.統計的手法としては、連続した2回のtest-retest再現性について級内相関係数(ICC(1,1))を用いて検討し、各positionの比較は2回の高値を採用して一元配置の分散分析と多重比較(Tukey HSD)を用いて検討した.統計はSPSS ver15用い、有意水準は1%以下とした.【結果】等尺性内外旋筋力平均値は、1回目・2回目の順に1st外旋6.29・6.72kg、1st内旋8.64・9.05kg、2nd外旋4.11・3.94kg、2nd内旋5.98・5.94kg、3rd外旋3.78・3.84kg、3rd内旋7.62・7.73kgであった.2回のテストにおけるICCは0.914~0.983であった.外旋は一元配置の分散分析に主効果を認め、多重比較では1st-2nd、1st-3rdで有意差を認め1stが高値を示したが、内旋では主効果を認めなかった.【考察】今回の結果、2回のtest-retestの再現性はいずれも高いことが示唆された.また、各positionでの比較では、内旋筋力にて有意な差は認められなかったが外旋筋力においては2nd・3rdと比較し、1stでの外旋筋力に高値を示すことが示唆された.しかし、今回の測定では外旋で差を呈した要因の特定は困難であり、今後は筋電図を用いた検討などを重ねていきたい.
著者
加藤 宗規
出版者
日本保健科学学会
雑誌
東京保健科学学会誌 (ISSN:13443844)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.71-73, 1998-12-18 (Released:2017-10-27)

関節可動域測定では、種々の因子により誤差が生じる。また、検者二人での測定や目測の必要性を感じる場面もある。そこで今回、学生が行う関節可動域測定において、角度計を用いた実測と目測の比較を行った。5つの測定項目の平均値の差は5度程度であるが認められた。ばらつきの範囲は目測で15度程度、実測で10度程度となり、目測がやや大きい値を示した。この結果、現時点では目測は実測と同じ結果が得られるとは言い難いが、実測よりやや大きい誤差が許されるようなおおまかな可動域を測定する場合や、姿勢・動作分析や日常生活活動などの際にはこれらの特性を踏まえたうえで目測を用いることができるのではないかと考えられる。
著者
五味 雅大 平野 正広 加藤 宗規 清水 菜穂
出版者
了德寺大学
雑誌
了德寺大学研究紀要 = The Bulletin of Ryotokuji University (ISSN:18819796)
巻号頁・発行日
no.11, pp.165-170, 2017

[目的]肘関節屈曲筋力の徒手筋力測定における再現性の問題に対して,定量的測定値を得るためにハンドヘルドダイナモメーターを徒手で用いる従来の方法と,考案したハンドヘルドダイナモメーターをベルトで固定した方法における再現性を検討した.[対象]若年健常成人31名の利き手である右上肢31肢であった.[方法]ハンドヘルドダイナモメーターを徒手で固定する従来の方法とベルトで固定する方法による肘関節屈曲筋力測定を行い,測定値を比較,検討した.[結果]ハンドヘルドダイナモメーターをベルトで固定した方法における検者内の級内相関係数は0.90であり,Bland-Altman分析では,1回目と2回目の測定値において系統誤差を認めなかった.[結論]1回練習をした後,1回目,2回目の測定値を採用することで,考案したハンドヘルドダイナモメーターをベルトで固定した肘関節屈曲筋力測定方法は,臨床使用が可能な再現性を有することが示唆された.
著者
白井 智裕 竹内 幸子 福田 憲子 加藤 宗規
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.213-217, 2015 (Released:2015-06-24)
参考文献数
21
被引用文献数
1 2

〔目的〕大腿骨近位部骨折症例に対し,術後1週の歩行能力から退院時歩行能力を予測できる因子について検討した.〔対象〕大腿骨近位部骨折症例119例とした.〔方法〕術後1週の歩行能力から3群に分類し,退院時歩行能力の到達確率を算出した.また年齢や認知症などを加えた予測式を検討した.〔結果〕退院時に杖歩行獲得する確率は,術後1週の歩行能力が平行棒以下では24.2%,歩行器では86.7%,杖歩行以上では100%であった.また,多変量解析により,術後1週の歩行能力が平行棒以下群では年齢,手術までの日数,受傷前barthel index,歩行器群では年齢,認知症が採択された.〔結語〕術後1週歩行能力は大腿骨近位部骨折症例の予後予測をする上での指標となる.
著者
兎澤 良輔 源 裕介 浅田 菜穂 荒井 沙織 平野 正広 川崎 翼 赤木 龍一郎 加藤 宗規
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.543-546, 2021 (Released:2021-08-20)
参考文献数
16

〔目的〕小学校高学年児童におけるmodified Star Excursion Balance Test(mSEBT)の信頼性を検討することを目的とした.〔対象と方法〕健常な小学校高学年児童9名にmSEBT を2回連続で実施し,その際の検者内信頼性およびBland-Altman分析(BAA),誤差範囲を算出した.〔結果〕3つの方向の級内相関係数(ICC)(1,1)は0.797–0.875であった.BAAの結果,前方リーチ,同側後方リーチに固定誤差が認められた.測定の誤差は最大で16 cmであった.〔結語〕小学校高学年児童においてmSEBTのICCは高値を示したが,測定の誤差は測定値から比較して許容できないほど高値となったため,小学校高学年児童に対するmSEBTは慎重に利用すべきである.
著者
宇佐美 太一 加藤 宗規
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.257, 2017

<p>【目的】</p><p>発症3 ヶ月時点で,トイレの動作と移乗が全介助でオムツを使用していた重度右片麻痺患者に対して行った,課題指向型の立位訓練による効果を検討した.</p><p>【方法】</p><p>80 代男性,左内頚動脈閉塞による重度片麻痺と全失語.Brunnstrom recovery stage(以下,BRS)は右側上下肢,手指全てI.</p><p>97 病日の基本動作は寝返り・起き上がり:中等度介助,座位:見守り,移乗:重度~中等度介助,立ち上がり:中等度介助,歩行:重度介助であった.トイレ介助を目標に縦手すりを用いた立位保持90 秒を目標として介入を追加した.縦手すりを用いた立位保持をベースライン期として,介入1 期は左肩を壁に寄りかかりながら縦手すり使用,介入2 期は左肩を壁に寄りかかることを除去し,縦手すりのみ使用した.いずれも顔の前方にタイマーを配置した.介入は1 日3 回とし,成功した場合には即時に称賛するとともに,3 回終了後はグラフを提示しながら結果のフィードバックを行い,前回よりも改善した場合も称賛を行った.1 日の3 回連続成功により段階達成と判断した.</p><p>【説明と同意】</p><p>本報告はヘルシンキ宣言に基づき、家族に書面にて説明を行い、同意を得た.【結果】</p><p>95 ~98 病日のベースライン期では30 秒の立位保持も困難,介助数は平均10 回を超していた.99 病日の介入1 期初日より改善がみられ徐々に介助数が減少し,介入15 日目には3 回とも成功,介入2 期初日の介入16 日目には縦手すりのみで3 回とも成功した.これらの期間において,機能的自立度評価法(97 →122 病日)は、トイレ動作1 →2 点,トイレ移乗1 点→3 点となった.その間に失語・BRS の結果に変化はなかった.</p><p>【考察】</p><p>発症後3 ヶ月が経過した重度片麻痺と全失語の患者に対して用いた壁に肩をつけるプロンプト・フェイディング法を用いた立位保持訓練は課題指向型の練習として有効であったと考えられた.</p>
著者
上村 朋美 加藤 宗規
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.P-13, 2020

<p>【目的】段階的難易度調整による麻痺側への移乗練習の効果を検討した.</p><p>【方法】80歳代,男性.診断名は,両側大脳梗塞,右慢性硬膜下血腫,肺炎であり,障害名は右片麻痺,失語症,構音障害,嚥下障害であった.入院後のADLは全介助であり,基本動作も介助を要した。立位は右へ傾き,7病日の立位の荷重率(正中位)は右50%,左43%,最大荷重率は評価困難であった.42病日の立位も荷重率は変化を認めなかった.また,移乗の介助量も変化なく,非麻痺側への方向転換は軽介助であったが,麻痺側への方向転換は全く行なうことができなかった.そこで,非麻痺側への移乗練習を介入1,麻痺側への移乗練習を介入2として練習を開始した.環境は,縦手すりを使用した.そして,車いすに対し椅子を30°に配置し,方向転換開始と終了の足の位置をビニールテープで示した.最終目標は非麻痺側・麻痺側共に90°の方向転換見守りとし,30°,45°,90°の順に実施した.角度の変更は,3日連続成功後に行った.評価は,介助量の変化を身体的ガイダンス0点,タッピング+口頭指示1点,口頭指示2点,見守り3点とし,3回の合計点数を記録した.介入2は,介入1の90°方向転換が実施可能となった後に開始した.</p><p>【倫理的配慮】本研究は,ヘルシンキ宣言に則り行われ,症例の家族から承諾を得た.当院研究倫理委員会の承諾を得た(倫理番号1572).</p><p>【結果】42病日目から非麻痺側への方向転換を開始し,90°の方向転換が50病日目で行見守りとなった.同日に麻痺側への方向転換練習を開始し,90°の方向転換が64 病日目で見守りとなった.なお,この期間に認知機能,運動麻痺は不変であった.</p><p>【考察】今回の移乗練習は,難易度の低くい非麻痺側から再構築したため,無誤学習として有効に機能したと考えられた.</p><p>【まとめ】今後の課題は,難易度調整によって,非麻痺側への移乗練習がより早期に開始できる可能性を検討する必要がある.</p>
著者
藤井 稜二 加藤 宗規
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.P-16, 2020

<p>【目的】重度左片麻痺を呈した脳幹梗塞患者に行ったビニールテープの足型を用いたプロンプト・フェイディングによる移乗動作学習の有効性について検討した.</p><p>【方法】90歳代男性.右橋底部の梗塞,前頭葉の萎縮.3 病日に理学療法開始.7病日目で寝返りと起き上がりは中等度介助,端座位は後方へ転倒,起立は手すりにつかまれば可能,移乗は健側への移乗は見守りで可能だが,麻痺側への移乗は方向転換時に膝折れ,あるいはステップが困難なため中等度介助を要した.麻痺側下肢への荷重練習を重ねても,移乗の状態は同様であった.9病日時点でSIAS運動機能は上肢:2/1,下肢:1/0/0.体幹失調を認める.下肢触覚中等度低下,下肢位置覚軽度鈍麻,等尺性膝伸展筋力体重率:非麻痺側42.9%/麻痺側0 %,下肢最大荷重率:非麻痺側95%/麻痺側43.2%,FIM:25/126点であった.そこで10病日から,移乗開始地点と到達地点にビニールテープで足型を示して成功させ,段階的にテープを除去するプロンプト・フェイディングによる3段階の学習を行った.3段階の練習は,段階 ①:足型プロンプトを使用(非麻痺側:赤,麻痺側:青),段階②:足型プロンプトを麻痺側のみ使用,段階③:声掛けのみで実施とした.初日は段階①から3回行い,3回連続の成功した場合には段階を引き上げた.段階と成功回数,成功率を記録し,成功や改善には称賛と身体接触をした.翌日からは,前回の最高段階から実施した.</p><p>【倫理的配慮】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,被検者に本研究の趣旨を説明し同意を得た.当院研究倫理審査委員会の承認を得た(番号1574).</p><p>【結果】介入初日に段階①,②を達成,その後2日連続で段階③が可能であり,介入は終了した.この期間における麻痺,下肢最大荷重率,感覚に改善は認めなかった.</p><p>【考察】介入は移乗動作の獲得に有効であり,難易度としても適切であったと考えられた.</p>
著者
金子 義弘 加藤 宗規
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100178, 2013

【はじめに、目的】ハンドヘルドダイナモメーター(以下,HHD)は安価で簡便な筋力測定方法である一方,膝伸展筋力など高い筋力値を測定する場合においては,徒手による固定方法では検者間による測定誤差が生じる可能性がある.この欠点を補うため,徒手に代わり運動を固定する固定用ベルトを使用した計測方法が考案され,先行研究では同一日でのtest-retest再現性について,若年および高齢健常者,脳血管疾患患者において良好な結果であったことが報告されている.しかし,運動器疾患を有する患者における再現性については報告されていない.そこで,本研究では,大腿骨近位部骨折術後の入院患者における本法のtest-retest再現性を検討するとともに,膝伸展筋力値による病棟内杖歩行自立のカットオフ値について検討した.【方法】対象は,大腿骨近位部骨折にて当院入院中で重度な認知症状がなく,免荷指示やその他の影響する疾患を有さない76名(女性60名,男性16名)である.内訳は,平均年齢80歳(55-97歳),平均体重46.7±10.3kg,手術内容は全人工関節置換術1名,人工骨頭置換術41名,骨接合術34名,手術から計測までの平均日数は26.5±8.4日であった.骨折に至った転倒原因は不明だが,計測時の移動能力は病棟内杖歩行自立以上が31名,杖歩行監視以下が45名であった.大腿四頭筋筋力の測定は椅子座位でアニマ社製等尺性筋力測定器 μTas MF-01を使用した.測定にあたり,被検者は体幹をベッドと垂直にして座り,両側上肢は体側両脇に位置して手をベッド面につき体幹を支持した.そして,パッドを含めセンサーを面ファスナーで被検者の下腿遠位部前面で足関節内果上縁の高さに固定し,さらに固定用ベルトでセンサーおよび下腿をベッド脚に固定した.測定肢の膝窩に折りたたんだバスタオルを入れ,測定時に大腿が床面と水平になるようにしたとともに,膝関節が90°屈曲位になるようにベルトの長さを調節した.等尺性膝伸展筋力は,5秒間の最大努力中における最大値として,健側および患側について各3回実施した.そして得られた結果から,3回の測定における再現性について,級内相関係数[The intraclass correlation coefficient;以下,ICC]と対応のある因子の一元配置分散分析により検討した.また,3回の最大値を採用した膝伸展筋力体重比を算出し,Receiver Operatorating Characteristic curveを用いて膝伸展筋力体重比による病棟内杖歩行自立のカットオフ値を検討した.なお,危険率は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】対象者や家族には,研究の目的と方法,およびデータの管理と使用について書面を用いた説明を行い,同意を得た.【結果】膝伸展筋力測定の結果,健側の平均値(±標準偏差)は,1回目12.6±7.6 kgf/kg,2回目13.6±7.8 kgf/kg,3回目13.6±7.4 kgf/kg,患側の平均値は1回目7.6±4.3 kgf/kg,2回目8.2±4.3 kgf/kg,3回目8.5±4.4 kgf/kgであり,一元配置分散分析では両側ともに主効果を認めなかった.3回の測定の再現性について,ICC(1,1)の値は,健側が0.944(95%信頼区間;0.920-0.962),患側がICC=0.953(95%信頼区間;0.932-0.968)であった.また,3回の最大値を採用した体重比の平均値は,健側0.30±0.14 kgf/kg,患側0.19±0.08 kgf/kg,両側の平均値は0.24±0.10 kgf/kgであった.体重比による病棟内杖歩行自立のカットオフ値について,健側0.25 kgf/kg(感度0.65,特異度0.80),患側0.17 kgf/kg(感度0.80,特異度0.73),健患平均0.20 kgf/kg(感度0.70,特異度0.79)であった.【考察】固定用ベルトを用いたHHDによる等尺性膝伸展筋力測定は,大腿骨近位部骨折受傷後の入院患者においても,先行研究に報告された若年および高齢健常者,脳血管疾患患者と同様にtest-retestの再現性が高いことが考えられた.また,病棟内杖歩行自立のカットオフ値として今回示された膝伸展筋力体重比は,臨床における病棟内杖歩行自立の検討に関する一指標となると考えられた.【理学療法学研究としての意義】固定用ベルトを用いたHHDによる筋力測定方法は,大腿骨近位部骨折術後患者においても有効であることが示唆された.
著者
富田 駿 山﨑 裕司 加藤 宗規
出版者
学校法人高知学園 高知リハビリテーション学院
雑誌
高知リハビリテーション学院紀要 (ISSN:13455648)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.17-20, 2015-03-31 (Released:2019-06-18)
参考文献数
9

逆方向連鎖化の技法を用いた寝返り動作練習では,動作の獲得に至らなかった重度片麻痺患者を経験した.この患者に対して,両下腿を台上に挙上することで寝返りの難易度を下げた練習を導入し,その効果について検討した. 介入前には寝返り動作を3段階に分け,肩甲帯及び骨盤帯にクッションを挿入し半側臥位にした状態より寝返り練習を実施した.そして,クッション数を減らしていくことで難易度調整を行った.しかし,失敗を繰り返す結果となった. 今回の介入では,クッションの挿入に加え,両下腿を台上に載せた.これによって下肢重心位置を上げ,寝返りに有利な状態を作り出した.連続して成功するようになれば下肢挙上用の台の高さを下げ,台無しでできた場合にクッション数を減少させた.これによって6日間計23回の寝返り練習によって寝返り動作は自立した.この間の身体機能,他の基本動作能力,日常生活動作の介助量に変化はみられなかった. 以上のことから,通常の逆方向連鎖化の技法では失敗が繰り返される重症片麻痺症例に対しては本介入が有用なものと考えられた.
著者
上薗 紗映 加藤 宗規
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0372, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】認知症は大腿骨頚部骨折・大腿骨転子部骨折の術後成績を悪化させる要因とされている。しかし,認知症以外の精神疾患については明らかではない。当院は常勤理学療法士11名がいる精神科の病院で,精神疾患に対応しながらの理学療法が提供できる環境にある。そこで,本研究は一般病院では対応が困難であったために当院に転院してきた大腿骨頚部骨折術後の患者を対象として,歩行自立率と歩行自立予測について検討することを目的とした。【方法】対象は2007年1月から2014年3月までの間に当院で大腿骨頚部骨折の術後リハビリテーションを受けた108名のうち,脳血管疾患による明らかな運動麻痺がある患者,調査期間終了時点でリハビリテーションを終了していない患者を除いた87名。リハ終了時の歩行FIM予測に用いる重回帰式を求めた。その際,終了時歩行FIMを従属変数とし,その他項目(年齢,性別,精神疾患名,術後からリハビリテーション開始までの期間,受傷前の移動機能)を独立変数とした。精神疾患名は,疾患ごと(統合失調症,うつ病・双極性感情障害,アルコール依存症,認知症,その他)の有無に分けた。そして,終了時歩行自立率,および終了時歩行FIM予測値が6以上である場合の感度,特異度を求めた。【結果】最終時歩行FIMが6点以上で自立に至った人数は33名であり,自立率38%であった。得らえた予測式は「終了時歩行FIM=2.48+うつ病・双極性障害×1.254+開始時歩行FIM×0.674(R2=0.353)」であり,予測値が6以上は8名,うち最終時歩行が自立していたのは7名であった。予測式による予測は感度0.21,特異度0.98,陽性的中率0.88,陰性的中率0.67であった。【結論】結果より,一般病院で対応ができない精神疾患を有する大腿骨頸部骨折術後患者であっても,精神科において理学療法士が対応できる環境であれば40%近くが歩行自立に至り,精神科領域における理学療法士配属の意義が考えられた。しかし,予測式の感度が低いため,得られた予測値の解釈に際しては予測値が6以上であった場合の歩行自立率は約90%,6未満であった場合の歩行自立率は約30%とする程度が適切と考えられえた。今後はさらに精度の高い予測について検討が望まれる。
著者
柊 幸伸 加藤 宗規
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0572, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】膝関節屈曲伸展に伴う膝関節の回旋運動は終末強制回旋運動(SHM)として知られている。SHMは水平面上の小さな動きであり,先行研究には,X線,MRI,CT等を用いた詳細な計測研究もあるが,その対象は屍体下肢標本や模型モデル,動作の一部を再現した生体の静止姿勢であることが多い。動作中の膝関節の回旋運動を計測した先行研究には,3次元動作解析装置や,X線による2方向イメージマッチング法を利用したもの等がある。しかし,これら先行研究でも,下肢に荷重のかからない開放性運動連鎖(OKC)の環境での計測がほとんどであり,下肢に荷重がかかり末端が固定された閉鎖性運動連鎖(CKC)の環境で膝関節の回旋を計測したものは少ない。動作時のSHMの存在の有無とその程度は,膝関節軟骨への負荷や前十字靱帯をはじめとする膝関節周囲の靱帯への負担を考慮する上で非常に重要な要素となる。そこで本研究の目的は,OKCとCKCの異なる環境下で,膝関節屈曲伸展に伴う回旋運動を計測し,SHMの存在を確認し,その特性を明らかにすることとした。【方法】被験者は,理学療法士養成大学学生43名(男性32名,女性11名)であった。計測にはモーションセンサを2セット使用し,左下肢の腓骨小頭下部,および大腿骨外側上顆上部のそれぞれ矢状面上に固定した。OKC環境下では,足底を浮かせた端座位姿勢で,膝関節伸展および屈曲運動を計測した。CKC環境下では,端座位姿勢から立位姿勢,および立位姿勢から着座し端座位姿勢となるまでの動作を計測した。計測した角速度データを積分し,動作中の角度変化を算出した。【結果】OKC環境下での膝関節伸展時,大腿に対する下腿の相対的な回旋運動は外旋運動であり,その最終肢位の外旋角度は15.16±7.85度であった。CKC環境下では,6名の被験者を除き内旋運動を伴い,その最終肢位の内旋角度は12.15±6.54度であった。外旋運動を伴った6名の外旋角度は5.74±4.20度であった。OKC環境下での膝関節屈曲時,大腿に対する下腿の相対的な回旋運動は内旋運動であり,その最終肢位の内旋角度は13.26±8.04度であった。CKC環境下では,5名の被験者を除き外旋運動を伴い,その最終肢位の外旋角度は12.54±7.34度であった。内旋運動を伴った5名の内旋角度は6.79±5.86度であった。OKCとCKCの異なる環境における膝関節屈曲・伸展に伴う外旋・内旋角度には有意な差を認めた。【結論】SHMはOKC環境のみで認められる現象であり,CKC環境下では逆の運動となることが分かった。このことは,膝の靱帯損傷後の理学療法においては,注意を要する基礎データとなると考えた。たとえば,CKC環境下での膝関節伸展は,相対的な内旋運動を伴い,前十字靱帯へのストレスが増加する可能性があることが理解できる。このように,本研究の結果は,従来のSHMの定義と異なる点や,付加すべき情報を含み,臨床への貴重なエビデンスになると考えた。
著者
長井 梨香 富田 駿 加藤 宗規 山﨑 裕司
出版者
学校法人高知学園 高知リハビリテーション学院
雑誌
高知リハビリテーション学院紀要 (ISSN:13455648)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.31-35, 2017-09-30 (Released:2019-07-24)
参考文献数
13

重症片麻痺と失語症を合併した70歳代女性に対して改良した起居動作練習を適応し,その効果について検討した.寝返り練習は,20cmの台上にスライディングボードとクッションを置いた状態から開始する7段階の段階的な難易度調整を適応した.起き上がり練習には,6段階からなる逆方向連鎖化の技法を適応した.寝返り動作は,1日目に段階④まで可能となった.2日目には段階⑥まで,4日目には段階⑦まで到達した.合計4日間の介入でプラットフォーム上の寝返りは可能となった.起き上がり動作は,1日目に段階③まで可能になり,3日目には動作が可能となった.介入期間中に運動麻痺,高次脳機能障害の改善はみられなかったことから,今回の介入は起居動作を学習させるうえで有効なものと考えられた.
著者
豊田 輝 山崎 裕司 加藤 宗規 宮城 新吾 吉葉 崇
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.67-71, 2008 (Released:2008-04-05)
参考文献数
11
被引用文献数
9 7

本研究では模擬大腿義足歩行を課題として,シェイピングとチェイニング法,プロンプト・フェイディング法を活用した練習プログラムを考案した。そのプログラムを課した介入群の運動効果と自身による反復練習を課した対照群の運動効果について比較検討した。結果,対照群,介入群の両群ともに練習後有意な10 m歩行時間の短縮と,膝折れ回数,外転歩行回数,および体幹の側屈歩行回数の減少を認めた。しかし,その改善度合はいずれの項目も介入群において大きく,伸び上がり歩行回数については,介入群でのみ改善を認めた。したがって,今回のシェイピングとチェイニング法,プロンプト・フェイディング法を用いた歩行練習は,口頭説明と対象者自身による反復練習に比べ,より早期に模擬大腿義足歩行のスキルを向上させるものと考えられた。
著者
佐藤 仁 高橋 輝雄 加藤 宗規
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.28, no.6, pp.286-287, 2001
被引用文献数
1

学内において,学生が抱く障害イメージを教員が客観的に把握する指標を見出すことを目的とし,Barthel Index(以下,BI)を用いて検討した。「脊髄損傷に対する理学療法」の授業初日および最終日において,学生33名に対麻痺者に対するイメージをBIで得点化させた。BI平均点は,授業初日50.0 ± 12.4点,授業最終日には77.9 ± 12.4点と増加した(p<0.01)。授業最終日には,上肢機能を要する日常生活活動を自立のイメージとした学生数が増加した。また学生は授業聴講以前より,対麻痺者に対して整容は自立,移動は車椅子というイメージを抱いている傾向にあり,他の教科やマスメディアによる先行学習が形成されていることが推察された。学生が抱く障害イメージを客観的に把握するには,BIがひとつの指標として利用できることが示唆された。
著者
松井 剛 加藤 宗規 山﨑 裕司
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.103-106, 2019 (Released:2019-02-26)
参考文献数
9

〔目的〕立位保持が困難な重症片麻痺者における立位保持時間を平行棒把持条件と垂直棒把持条件において比較した.〔対象と方法〕対象は,平行棒内立位保持が困難な脳卒中片麻痺患者9症例とした.平行棒片手把持での立位条件(条件A)と,垂直棒片手把持での立位条件(条件B)における立位保持時間を5日間にわたって計測し,比較した.〔結果〕5日間とも条件Aに比較して条件Bにおいて立位保持時間は有意に長かった(p<0.05).6例は,5日目の条件Bにおいて60秒の立位保持が可能となったが,条件Aでは不可能であった.〔結語〕平行棒での立位保持が困難な重症片麻痺者に対しては,垂直棒の利用を検討すべきである.