著者
藤井 義明 萩原 正敏 加藤 茂明 審良 静男 久武 幸司 半田 宏 大熊 芳明 上田 均 箱嶋 敏雄 梅園 和彦
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本計画研究班の研究課題は、転写因子も含めて転写因子間の相互作用が最終的に遺伝子発現としてどのようにアウトプットされるかというメカニズムを分子のレベルで解明することを主な目的としている。Preinitiation complexの構成成分であるTFllHの9つのsubunitsをリコンビナントDNAを用いて発現させ、再構成に成功し、各々のサブユニットの機能を検討する系が確立された。またこの系を用いてERCC3のヘリカーゼ活性が転写活性化のプロモーターエスケープの段階に重要であることを示した。転写伸長反応もDSlFとNELFの抑制とpTEFbとFACTの活性化系によって精密にコントロールされていることが明らかにされた。DSlFの一つサブユニットp160のC末端の変異はゼブラフィッシュでは神経の発達異常を引き起こすことが分かった。広範な転写因子の共役因子として働くcbpについては、さらにgi3,AhR/Arnt,HlF-1α,lRF3などの共役因子として働くことやβ-カテニンが阻害して,P53の転写活性を抑制することを示した。2ハイブリッド法によってMBFl,UTF1,P68/P72が各々転写因子FT2-F1,RAR,ERα,βの転写共役因子として働くことを明らかにし、その構造を決定した。ノックアウトマウスを作製することによってAhR,AhRR,STAT3などの機能解析を行なった。
著者
加藤 茂明
出版者
東京農業大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1994

核内受容体による転写制御を分子レベルで明らかにすることを目的に複数の視点から解析を進めた。1)核内受容体の組織特異的転写調節機構の解析核内受容体のAF1の活性は一般に組織特異的かつ構成的であるが、この機構を明かにする目的でこの領域をリン酸化するキナーゼに着目した。今回は、AF1のリン酸化が転写活性を調節することが明らかにされERAF1のリン酸化について詳細に解析した。まずリン酸化部位がMAP kinaseのコンセンサス配列であることから、大腸菌で大量合成したERのAB領域タンパクを用いアフリカツメガエル胚より精製した活性型MAP kinaseによるリン酸化を検討したところ、セリン118が特異的にリン酸化されることを見いだした。次にリン酸化の転写活性への効果を検討する目的で、MAP kinaseの上流に存在するRas cDNAを導入したところ、AF1の転写促進能が増強されることがわかった。2)核内受容体の標的配列認識の特異性AGGTCAモチーフはレチノイン酸(RAX,RXR)、ビタミンD(VDR)、甲状腺ホルモン(TR)受容体の標的エンハンサー配列の基本モチーフであり、2個のDirect Repeat型(DR)のAGGTCAモチーフ間の距離を変えることで、標的特異性が生じる。今回はこのモチーフを3個並べた時のDRの標的特異性をCAT assayと精製受容体を用いたin vitro DNA結合実験により調べた。その結果モチーフを3個並べた時には従来報告に有るような標的特異性は消失することがわかった。この他にもいくつかの標的遺伝子のリガンド応答配列の同定、性状を明らかにした。
著者
加藤 茂明
出版者
東京農業大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

ステロイド、甲状腺ホルモン核内レセプター群はリガンド依存性転写制御因子であり、リガンドである脂溶性ホルモンおよび脂溶性ビタミンの信号を遺伝情報に伝達する。このような核内レセプターを介する情報伝達系は組織の分化、増殖に代表される高次生命現象の制御に中心的な役割を果たしている。本研究では核内レセプターによる転写制御を分子レベルで明らかにすることを目的に複数の視点から解析を進めた。1)核内レセプター転写促進に関わる共役転写因子の検索および同定核内レセプターには転写を促進する領域が2箇所存在(AB,E領域)し、各々組織特異的な機能を有することが知られている。そこでビタミンD(VDR)、エストロゲン(ER)、アンドロゲンレセプター(AR)のAB,E領域を酵母転写制御因子GAL4のDNA結合領域に連結し、このキメラタンパクを用い、各領域特異的に作用する共役転写因子をYeastを使ったtwo hybrid systemにより哺乳類cDNAライブラリーから検索した。その結果各々有望な10数個のクローンを得ることに成功した。現在これらクローンについて解析を加えている。2)核内レセプターと基本転写因子との相互作用の検討上記のGAL4とのキメラタンパクあるいはfull length VDR, ER, ARやその欠失タンパクを大腸菌発現ベクターに組み込み、各種タンパクの発現に成功した。また既に得られているTFIIBタンパクとの相互作用を検討する系の確立を行なった。
著者
加藤 茂明 四釜 久隆
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

本研究では、核内レセプターの転写促進能に基づいたホルモン評価系を、分子生物学的手法に基づき動物細胞内で構築し、この評価系をもとに以下の2点に焦点を当て、核内レセプターと共役因子との機能的相互作用を中心としたホルモン関連化合物の新たな評価系の構築を試みた。1. ステロイドレセプター群に相互作用する共役因子群の検索及び同定:前年度でクローニングされた共役因子cDNAは断片なので、この断片を用いた生体内での発現部位(臓器)を同定し、発現部位由来〓DNAライブラリーから全長cDNAを取得した。更に全長cDNAを用いることでtransient expression系にてcDNAがコードする因子の転写促進能を調べた。またステロイドレセプターを強発現させた培養細胞(いわゆるstable transformant)を確認し、この細胞核抽出液からレセプター特異的な抗体によりレセプター複合体を免疫沈降させ、この複合体からレセプターと結合している因子群を単離後、ペプチドシークエンンスからcDNAの取得を試みた。取得されたcDNAのコードされた因子の活性は上記の手法と同様に行い、転写共役因子であるか否かを検討した。2. 機能を保持したステロイドホルモンレセプターを用いてのホルモン結合能の評価系の確立:ステロイドレセプターへのステロイドホルモンの結合能は、通常レセプターを含む細胞由来の核抽出液が古くから用いられてきた。しかしながら、生体組織より調製された核抽出液はロット差が大きく、それ以上に調製は煩雑である。本年度では、生合成させたタンパクが最も本来の主体構造を取ると考えられている昆虫細胞内での大量発現を、バキュロウイルス系を用いて行った。次に発現したレセプタータンパクの機能を、in vitro転写系で調べることで検定し、レセプターの主機能である転写促進能を有したレセプターの大量発現系の確立を試みた。
著者
加藤 茂明
出版者
東京農業大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1993

核内受容体による転写制御を分子レベルで明らかにする目的で以下の2点に絞り研究を進めた。1.核内受容体標的エンハンサー配列認識の特異性と非特異性我々はすでに従来より知られてきたコンセンサスエストロゲン応答配列(ERE)とは全く異なるタイプのERE(OV-ERE)が、主要卵白タンパクであるオバルブミン遺伝子プロモーターに存在することを証明した。OV-EREでは多くの核内受容体の標的結合部位であるAGGTCAモチーフが計4個互いに100bp以上も離れて存在していた。そこで、ERのOV-ERE認識の特異性を検討する目的で、2個のAGGTCAモチーフ間のスペースが離れた配列への各核内受容体(VDR,TR,RAR,RXR)の標的特異性を調べた。その結果、2つのモチーフ間のスペースが狭い場合には標的特異性が現れるのに対し、スペースが広い(10bp)場合には、特異性が消失することを見出した。また、この際、DNAに高次構造の変化が生じることも見出している。2.核内受容体群の発現調節レチノイド受容体(RAR,RXR)遺伝子群の発現に及ぼすビタミンA、ビタミンD、甲状腺ホルモンの効果を調べた結果、RXRbetaは正、RXRgammaは負に甲状腺ホルモンによって制御されることを見出した。このことは、核内受容体遺伝子自身の発現が関連するリガンドによって制御される複雑なネットワークが存在することを示したものである。
著者
加藤 茂明 今井 剛
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

ステロイド・甲状腺ホルモン、ビタミンA・D核内レセプタースーパーファミリーは、リガンド誘導性転写制御因子であり、リガンド結合依存的にリガンドのもつ信号を遺伝情報に伝達する。核内レセプターが基本転写因子群とともに転写を促進する際には、これら2者間を機能的に介在し、両者に直接結合されている転写共役因子群の存在が知られている。更に現在までに同定されている転写共役因子と核内レセプターの相互作用は、リガンド活性とほぼ相関することもわかっている。そこで本研究では、核内レセプターによる転写促進能の分子メカニズム解明を目的に、核内レセプターと相互作用する新規共役因子を検索した。またリガンド結合によるレセプターの立体構造変化の可能性についても探った。その結果、ビタミンDレセプター(VDR)に特異的に相互作用する転写共役因子の同定に成功した。これらの因子は核内カルシウム結合タンパクであり、またVDRとの相互作用はカルシウム存在量によって左右されることがわかった。現在これら新規因子と、既に同定されている共役因子群との相互作用についても現在解析しているところである。また同様にエストロゲンレセプター、ミネラルコルチコイドレセプターとの共役転写因子群の同定を急いでいる。またエストロゲンレセプターのリンガド結合による構造変化を調べたところ、レセプターN末端とC末端が、リガンド依存的に相互作用し、かつこの相互作用には共役因子が関与することが明らかになった。
著者
加藤 茂明 武山 健一 北川 浩史
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

染色体構造調節因子複合体について、新規複合体の同定及び構成因子の検索や機能調節を調べる事を目的として、15年度は、前年度の1〜3の課題を継続するとともに、特に課題4に焦点を当て、研究を進めた。1.新規ゲノム発現制御複合体の同定:in vitro転写系及びクロマチンヌクレオソーム再構成系(当研究室で研究済み)を用いてHeLa細胞核抽出液から精製し、精製された複合体構成因子群をMALDI-TOFMASSにより同定した。更にcDNAスクリーニングにより各々の構成因子の機能を調べた。2.細胞種特異的複合体構成因子の同定:これら核内複合体の機能は細胞種特異的と考えられる。そこで既知複合体の既知構成因子を各種組織株に高発現させ、複合体を精製することで細胞種特異的構成因子を同定した。3.染色体構造調節複合体の機能調節の分子メカニズムの解明:最近ではアセチル化、ユビキチン化などの各種タンパク修飾によって機能調節される例が報告されているが、染色体構造調節複合体の構成因子のタンパク修飾による機能調節は全く不明である。そこで、既知核内レセプターコアクチベーター(p160、p68/ファミリー)を用い、各種培養細胞での他の複合体構成因子を同定し、構成因子の複合体構成能とタンパク修飾による機能調節の可能性を検討した。4.ショウジョウバエを用いた新規染色体構造調節のスクリーニング:申請者らは既に、ヒトアンドロゲン(男性ホルモン)レセプターを組織特異的に発現するショウジョウバエのラインを確立し、リガンド依存的な転写促進をGFPで検出することに成功した。本システムを用いることで哺乳類特異的染色体構造調節因子を発現する各種ラインを確立し、次に特定染色体部位を欠失した各種変異体を交配することで、染色体構造調節因子機能に必須な因子を分子遺伝学的にスクリーニングを行った。更に同定された因子をプローブに複合体を同定及び解析した。
著者
加藤 茂明 武山 健一 高田 伊知郎 北川 浩史
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

ステロイドホルモン核内受容体の転写制御機能を分子レベルで理解する目的に、性ステロイドホルモン受容体の転写促進能及び新たな核内受容体転写共役因子の検索・同定を試みた。多くの前立腺癌や乳癌の発症は、アンドロゲンやエストロゲンといった性ステロイドホルモンに依存する。性ステロイドホルモンが標的細胞内において機能を発揮する主要な経路は、核内受容体を介した転写制御である。このような転写制御には転写共役因子複合体群が必須であり、クロマチンリモデリングやヒストン修飾といった様々な異なる機能の複合体群が同定されてきている。性ホルモン依存性癌の発症メカニズムを解明するためには、未知の複合体群の同定とその複合体機能の解明が必要である。そこで我々はエストロゲン受容体α(ERα)と機能的に相互作用する複合体の同定を試み、スプライソソーム主要構成因子複合体を同定した。更に、この複合体とERαとの結合はMAPキナーゼによるERαのリン酸化に依存することを見出した。またこの複合体はERαの標的遺伝子群に対してスプライシング効率を調節する機能をもつ。このような機能は、乳癌に関わりの深いエストロゲンシグナルと成長因子シグナルとのクロストークがmRNAスプライシングの調節を介して乳癌発症に関わる可能性を示唆する。
著者
加藤 茂明 四釜 久隆 柳澤 純
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本研究では、下記の3点に焦点を当て、核内レセプターに基づいた性ホルモン評価系を、分子生物学的手法に基づき動物細胞内での構築を試みた。1.性ステロイドレセプターと転写共役因子群とのin vitro相互作用を利用した性ステロイドホルモン様化合物の評価系:前年度に引続き2種のヒト女性ホルモンレセプター(ERα、ERβ)と男性ホルモンレセプター(AR)のAF-2と、SRC-1、TIF2とのリガンド結合依存的な相互作用を検出するin vitro GST pull-down系を構築し、この2者相互作用を誘導もしくは阻害を測定することで、ホルモン様活性の迅速な評価を試みた。2.転写促進能を利用した性ステロイドホルモン様化合物の高感度生物検定法:1で評価されたステロイドホルモン様化合物が生物活性を有するか否かを、更にステロイドレセプターの転写促進能で検定することで生物検定法とする。ERα、ERβ、ARのAF-2とGAL4DNA結合領域とのキメラタンパクを発現させ、GAL4との結合評価系有するリポーター遺伝子(ルミフェラーゼ)系で、リガンドの転写促進能を調べた。同様な手法で転写共役因子と核内レセプターの相互作用を酵母two-hybrid系にて構築した。この方法でアゴニスト活性のみが検出可能であるが、アンタゴニスト活性は、女性ホルモン(ERα、ERβ)、男性ホルモン(AR)存在下で同様の方法で評価可能であった。3.性ステロイドホルモン活性を規定するレセプター共役因子の同定:性ステロイドレセプター種(ERα、ERβ、AR)固有の共役因子の検索・同定を、酵母two-hybrid法を用いたcDNAスクリーニング、及び生化学的手法を用いて行った。この時第一には転写を促進する因子群の同定を目指したが、同時にクロマチン構造を制御する因子や、細胞周期を制御する因子などの同定も試みた。特に後者の因子の同定は、各種ホルモンの細胞複製・細胞増殖への作用を分子レベルで初めて明らかにできる足掛かりと期待された。
著者
柳澤 純 武山 健一 加藤 茂明
出版者
筑波大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

女性ホルモンであるエストロゲンの低下は、女性において骨量の低下を招くことから、エストロゲンは、骨量維持に極めて重要な役割を担っているものと考えられている。エストロゲンは、細胞内に存在するα、βの2つのサブタイプのエストロゲンレセプター(ERα、β)によって受容される。これらのレセプターはリガンド誘導性の転写因子であり、エストロゲン結合によって活性化される。近年、レセプターのユビキチン化とプロテアソームでの分解が、転写活性化に重要であることが示唆され、注目を集めている。本研究では、ERαがエストロゲン存在下でも非存在下でも、ユビキチン・プロテアソーム系によって分解を受けることを明らかにした。エストロゲン非存在下では、ERαはCHIPと呼ばれる蛋白質によってユビキチン化を受け、分解されることが示された。CHIPはhsp70/hsp90/hsp40などのシャペロン蛋白質と複合体を形成し、フォールディングに異常のあるレセプターを選択的にユビキチン化し、分解へと導くことにより、レセプターの品質を向上する役割を担っていることが明らかとなった(EMBO J.Y.Tateishi et al.,2004)。一方、ERβは、ERαと同じくエストロゲン依存的分解を示すものの、その分子機構はERαと異なることが判明した。ERβの分解には、N末端に存在する領域が必須であり、この領域を持たないERβ変異体は、エストロゲン依存的な分解を示さなくなる。本研究者らは、すでにこの領域を認識して結合するユビキチン・リガーゼの単離に成功しており、解析を進めている。また、エストロゲン依存的な分解を示さないERβ変異体も転写活性を示すことから、レセプターの転写活性に分解は必要でないことが示唆された。今後、レセプターの分解と骨代謝制御について研究を進める予定である。
著者
加藤 茂明
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

脳神経の可塑性は数多くの要因によって引き起こされている。その1つに脳の男性化と女性化を引き起こす性ホルモンが挙げられる。性ホルモンであるアンドロゲン(男性ホルモン)やエストロゲン(女性ホルモン)はこのような脳の性分化のみならず、性行動など脳の高次機能にも重要な働きをすることがわかっている。これら性ステロイドホルモンの分子作用メカニズムは、これらのホルモン特異的な核内レセプターを介した標的遺伝子群の発現制御であることがわかっている。そこで本研究では神経可塑性をステロイドホルモンによる脳の性分化という側面から捉え、まず脳で特異的に発現し、性分化を規定すると想定される性ステロイドホルモン1次応答標的遺伝子群の検索・同定を試みた。具体的には周生期もしくは性ステロイドホルモン処理したラットを用い、脳からホルモンに応答する遺伝子cDNAを、PCRを利用したDifferential Display法にて検索し、有望な数クローンを得た。現在これらcDNAクローンの全長cDNAの単離、及びこのcDNAクローニンがコードするタンパクの性状を解析しているところである。またこれらのクローンした因子の中で、特に脳の高次機能に関与していると想定されるものについては、ノックアウトマウスの作出を行い、in vivoでの機能を同定する予定である。一方昨年度、従来のエストロゲンレセプター(ERα)に加え、第2のER(ERβ)が発見されたため、脳内での各部位でのERα、ERβの発現を調べた。その結果、ERβは大脳皮質など、"新しい脳"に、ERαは下垂体など"古い脳"に発現していることがわかった。
著者
加藤 茂明
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

本研究では以下の4点に焦点を当て、核内レセプターの高次機能を明らかにする目的で標的組換えマウスを用い解析を行った。また核内レセプターの細胞核内での機能を明確にする目的で、核内レセプターのリガンド結合による構造変化の解析、及びこの変化を認識する共役因子の同定を行なった。1)脂溶性ビタミンレセプターの高次機能の解析:脂溶性ビタミンDレセプター(VDR)は1種、ビタミンAには6種のレセプター(RARa,b,g及びRXRa,b,g)が存在する。VDRはホモ2量体もしくはRXRa,b,gのいずれかとヘテロ2量体を形成し、ビタミンD標的遺伝子の転写を制御する。このVDR KOマウスは授乳期以降にのみ障害を示すことが明らかになった他、性生殖系に障害がみられ、全く予期されなかった表現型がみられ更に解析を進めた。2)核内レセプターのリガンド結合による構造変化:核内レセプターはリガンド結合により転写促進能を得るが、この際レセプターの立体構造変化を伴うと考えられている。特にレセプターN末端とC末端に存在する2箇所の転写促進領域はリガンド結合依存的な機能上の相互作用が予想されている。そこでERのAF-1、AF-2の相互作用をyeast、mammalian two-hybrid法にて検討し、さらに相互作用する領域を同定した。3)核内レセプターの共役転写因子の検索:ER、VDR、アンドロゲンレセプター(AR)、ミネラルコルチコイド(MR)のAF-1、AF-2をプローブに、yeast two-hybrid法にて各種cDNAライブラリーから共役因子を検索した。特にER、ARのAF-1蛋白を細胞内で大量発現させ、結合する核内因子を生化学的に精製した。4)細胞周期と核内レセプター機能との相関:ER及びARの、AF-1とAF-2への細胞周期特異的なキナーゼ(サイクリン/CDK等)によるリン酸化の可能性を探った。
著者
尾形 悦郎 柳澤 純 市川 智彦 名和田 新 首藤 紘一 梅園 和彦 加藤 茂明 大薗 恵一
出版者
(財)癌研究会
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

ホルモン療法における作用機序及び耐性化の機序につき検討し、以下の結果を得た。1.ステロイド・ホルモンによる遺伝子抑制の機序をVDとPTHrP遺伝子とを例に検討し、PTHrP遺伝子上の責任promoter構造を決定。ついでそこにVDRとKu抗原が結合すること、Ku抗原によるVDRのリン酸化が抑制の作用機序である可能性を示した(尾形)。2.オーファン・レセプターとしてTixを新たに単離・同定した。Tixが神経芽細胞腫や結腸癌に発現すること、これの過剰発現が細胞増殖を強く誘導することを示した(梅園)。3.RAR・RXRに比較的特異的に結合・作用する薬物を合成し、それによりRAR・RXRの機能の解析を行った(首藤)。4.白血病細胞のグルココルチコイド抵抗性との関係で、PPARγの発現が極めて高いこと,増加が認められるGRβは核内で機能することを観察した(名和田)。5.ホルモン療法抵抗性前立腺癌の14%にAR遺伝子codon877の点突然変異を見出しこの変異を持つ癌細胞がアンチアンドロゲンによっても増殖刺激を受けることを示した(市川)。6.ビタミンD作用に拮抗する新規化合物(TEI9647)について検討し、これがVDRと結合し、そのco-activatorとの作用を阻害する可能性を示した(大薗)。7.乳癌患者に化療を施した場合のestrogenレベルの動態を明らかにした(堀越)。8.核受容体をめぐるステロイド・ホルモンと成長因子・サイトカインとの間のクロス・トークの例としてERがMAP-kinaseによりリン酸化され、AF1の転写活性が高まることを示し、このためのco-activatorの候補として68KD蛋白を見出した。また、TGFβの作用に関与するSmad蛋白がVDRと相互作用し、VDRの転写活性を増強することを見出した(柳澤)。
著者
加藤 茂明 河野 博隆 川口 浩 山本 愛一郎 山田 高嗣 中村 耕三 加藤 茂明
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

転写共役因子の骨組織における機能を解明する目的で、SRC-1(Steroid receptor coactivator-1)遺伝子欠損(KO)マウスを作出し、その骨組織の解析を昨年に引き続き行った。昨年、SRC-1KOマウスは、雄・雌ともに、代謝回転が亢進した高回転型の骨量減少を呈し、この原因はアンドロゲン及びエストロゲンによる骨量維持作用が抑制されているためであることを報告した。この骨量減少について、24週齢の大腿骨を用い、pQCTとμCTを用い、更に詳細に検討を行ったところ、海面骨の骨量は約40%低下していたにも関わらず、皮質骨の骨量は野生型(WT)とあまり差がみられなかった。海面骨・皮質骨におけるエストロゲン受容体(ER)の2種類のisoformの発現を免疫染色で確認したところ、海面骨ではERα・ERβ共に同程度に発現していたにも関わらず、皮質骨では主にERαのみが発現していた。骨芽細胞の培養系において、SRC-1はERβの転写活性は上げるが、ERαの転写活性にはあまり影響がみられなかったことから、海面骨・皮質骨でみられた表現型の違いは、SRC-1が主にERβによる骨量維持作用に関与しており、ERβの発現が多い海面骨で主に機能しているためと考えられた。雄においても、骨量の維持はアンドロゲン受容体(AR)のみでなく、ERにも依存していることが明らかになっており、ERのisoformの局在の違いが、雌同様に海面骨・皮質骨における表現型の違いを生じていると考えられた。また、KOで観察された骨量減少は、12週齢の時点では有意差がみられず、高齢化に伴い骨量減少が顕著になっていることが明らかとなった。これは、高齢化に伴い、フィードバック機構によって上昇した性ホルモンがシグナル伝達の障害を代償しきれなくなっているためと考えられた。また、性ホルモンと同じステロイドホルモンの一種であるプレドニゾロンの負荷実験では、骨量減少がWTとKOで同程度に見られたことより、SRC-1のグルココルチコイドシグナルへの関与は小さいことが明らかになった。
著者
加藤 茂明
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

本研究では神経可塑性を性ステロイドホルモンによる脳の性分化という側面から捉え、以下の3点に焦点を当て、特に脳で特異的に発現する性ステロイドホルモンの1次標的遺伝子群の検索を試みた。1)脳内で特異的に発現する性ステロイドホルモン標的遺伝子群の検索:出生直後の実験動物に大量の性ステロイドホルモンを投与すると、その後の性行動に性転換が見られる。そこでこのような性ステロイドホルモンの効果が見られる胎児あるいは出生直後のラットを用い、大量の性ステロイドホルモン投与直後の脳より、急速に誘導される標的遺伝子群をDifferential Display法(D.D.法)にて検索した。同時にこの時期での野生型ラットを用い、雌雄いずれか特異的に発現する遺伝子を同様の手法で検索した。得られたcDNAクローンは定法に従い、コードするタンパクの機能や脳内での局在をin situ法などにより調べた。2)新たなエストロゲンレセプター(ERβ)の脳での発現部位の同定:既知のエストロゲンレセプター(ERα)の発現部位は、視床下部、下垂体等に限定されており、内分泌系でのエストロゲン作用を裏付けるものであった。そこで既にPCR法によって取得したラットERβcDNAを用い、脳の各部位での発現を検討した。3)脳特異的な核内レセプター共役転写因子の検索:核内レセプターは転写制御因子として作用する時には、いわゆる共役転写因子とともに転写制御を行うと考えられる様になってきている。そこで脳特異的な核内レセプター共役因子を、ER及びアンドロゲンレセプター(AR)をプローブに酵母two-hybridシステムにより脳由来cDNAライブラリーより検索した。
著者
加藤 茂明
出版者
東京農業大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

ステロイドホルモン核内受容体群はリガンド誘導性転写制御因子である。ステロイドホルモン作用発現を理解する上で、これら受容体の性状を明らかにすることは必須の課題である。特に核内受容体の主たる機能である転写促進能の機構は、主としてトランスフェクション転写系により詳細な解析が行なわれてきたが、今尚不明な点が多いのが現状である。特に核内受容体の標的エンハンサーは数多くのコンセンサス配列の同定が行なわれてきたが、核内受容体タンパク群の共通機能の理解に比較し、今だに統一的な法則が得られていない。我々はすでにオバルブミン遺伝子5′上流に新しいタイプのエストロゲン応答配列(OV-ERE)を見出した。OV-EREは、従来知られていたエストロゲン応答配列とはDNA構造が大きく異なりむしろレチノイン酸(RAR、RXR)、ビタミンD(VDR)、甲状腺ホルモン(TR)受容体の標的配列に近い構造であった。そこで本来のOV-ERE配列とともに合成DNAを用いた人工的な配列を用い、エストロゲン受容体(ER)、RAR、RXR、TR、VDR、による転写促進能を調べた。その結果従来より知られていたコンセンサス配列の他に、TRを除く他の核内受容体すべての標的エンハンサーになりうる配列を見出した。これらの知見が、トランスフェクション転写系(CAT assay)によるものであったので、次にin vitro DNA結合実験(ゲルシフト法)により受容体とDNAとの結合能を調べた。その結果転写促進能とほぼ比例して各受容体はDNAと結合することがわかった。以上の結果からある種の標的エンハンサーは一種の受容体のみならず複数の受容体によりその機能が調節されることがわかった。このことは、ステロイドホルモンや脂溶性ホルモン間のクロストーク機構の一端を明らかにするものであった。
著者
河野 博隆 中村 耕三 山本 愛一郎 川口 浩 加藤 茂明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

男性ホルモン・女性ホルモンそれぞれの骨量維持作用及び骨量の性差については、これまで不明な点が多く残されていた。主要男性ホルモンであるテストステロンが男性ホルモン受容体(AR)を介して機能しているばかりでなく、アロマターゼによって女性ホルモンに変換されてERを介しても機能する代謝系を持つことが、性ホルモンそれぞれの骨代謝機能に関する解釈を複雑にする一因となっていたと考えられる。我々はCre-loxP systemを用いて、従来の標的遺伝子組み替え法では不可能であった雌雄の男性ホルモン受容体遺伝子欠損(ARKO)マウスを作出した。骨組織を解析したところ、雄性ARKOマウスは雌雄両方の同胞野生型(WT)マウスに比べて、高代謝回転型の著しい骨粗鬆化を呈していた。これに対して、雌性ARKOマウスの骨量は雌性WTマウスと同等であり、骨量減少は見られなかった。雄性ARKOマウスの去勢実験からは骨代謝を調節している男性ホルモンは副腎由来ではなく精巣由来であることが示唆された。また、性ホルモンの負荷実験結果から、女性ホルモン受容体を介さない男性ホルモンシグナル固有の骨量維持作用が明らかとなり,雄性個体の骨量維持に男性ホルモンと女性ホルモンの両者が関与していることが定量的に示された。初代細胞培養系の解析では、男性ホルモンの骨量維持作用は、男性ホルモンが破骨細胞に直接作用するのでなく、骨芽細胞の破骨細胞形成支持能を抑制することで発揮されることが示された。
著者
加藤 茂明 柳澤 純
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本研究では、下記の3点に焦点を当て、核内レセプターリガンドとして働く新規低分子量脂溶性生理活性物質同定を試みた。1.RXRとのヘテロ2量体化を利用した新たな核内レセプターの検索:VDRをはじめとした非ステロイドホルモン型レセプターは、RXRとヘテロ2量体化することでDNAに結合、レセプター機能を発揮することが知られている。このヘテロ2量体化に着目し、RXRをプローブとしてこれと会合するレセプターを検索し、これを酵母内で発現させ、RXRとのヘテロ2量体は、タンパク-タンパク相互作用に基づくtwo-hybrid法にて検出した。取得されたcDNA断片を用い、cDNAライブラリーから全長cDNAの取得を試みた。2.組織特異的ビタミンDレセプター欠損マウスの作出と表現型の解析:標的組換えによるVDR欠損マウスの表現型の解析を行った結果、重篤なクル病を呈しており、骨形成、皮膚などに明らかな異常が認められた。更にRXRβとRXRγの2重欠損マウス(VDR-RXRβ、VDR-RXRγ)を作製し、これらの異常がVDR単独欠失より軟骨で強調されることを見出した。これら動物の表現型を詳細に解析することで、皮膚、軟骨組織においてはビタミンDが血中カルシウムを介さず直接作用することがわかった。既にCreを発現させる皮膚特異的プロモーター(K_1、K_2、K_5、K_<10>遺伝子プロモーター)や軟骨特異的プロモーター(プロコラーゲンII型遺伝子プロモーター)をもつ発現ベクターの作製に成功しており、現在共同研究者であるフランス・パスツール大学、P.Chambon教授らのグループとともに、このようなCreをもつトランスジェニックマウスを分担して作製しているところである。3.新規核内レセプターリガンドの同定:上記の方法にて得られた新たなレセプターリガンド同定を目的にレセプターの転写促進能を活性化するリガンドを検索した。得られた新規レセプターcDNAを用いた発現ベクターにより、動物細胞内もしくは酵母内で発現させ、血清あるいは食物中の低分子量脂溶性画分を培地中に加えて、転写促進能を指標にリガンドを検索した。
著者
竹下 克志 阿久根 徹 佐藤 和強 星 和人 川口 浩 中村 耕三 加藤 茂明 池川 志郎 竹下 克志
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究では骨・軟骨の形成、再生におけるcystatin10(Cst10)の役割と制御機構を解明し、Cst10の医療応用を実現することを目的として行われた。Cst10はマウス軟骨細胞からクローニングされ、cysteine protease inhibitorであるcystatin familyに属する分子で、形態学的、分子生物学的手法を用いた解析により、軟骨細胞の分化後期に発現し、軟骨細胞の後期分化・アポトーシスの誘導に働くことを見いだした。更にCst10の生体内における高次機能を解明する目的で、Cst10ノックアウトマウス(Cst10KO)を作製した。Cst10KOは、成長・外見ともに、野生型マウス(WT)との顕著な差は見出されなかったが、骨組織を各種画像検査、および組織形態計測によって解析した結果、骨成長や骨代謝の著しい障害は見られなかったものの、成長板での石灰化層および一次海綿骨の減少が見られた。Cst10KOの成長板から単離した軟骨細胞培養により、分化に障害がみられたことから、軟骨細胞に発現しているCst10の役割は、細胞の最終分化の促進と基質の石灰化であることが明らかとなった。また、内軟骨性骨化が関与すると考えられる骨折治癒、変形性関節症における骨棘形成や、高齢化に伴う異所性石灰化においても、Cst10KOではWTに比し石灰化の著明な低下が認められた。またWTでは、これらの病態における石灰化部位においてX型コラーゲンを発現している肥大化した細胞に、Cst10が強く発現していた。これらの所見から、Cst10は、軟骨細胞石灰化作用を有し、生理的な骨成長や骨代謝には影響を及ぼさないものの、変形性関節症や異所性石灰化の病態に関与している事が明らかとなった。
著者
加藤 茂明 武山 健一 北川 浩史 高田 伊知郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

染色体構造調節複合体について、新規核内複合体群の検索及び機能解析を目的として、本年度は下記の3点に焦点をあて、研究を進めた。1.細胞種特異的複合体構成因子の同定:核内複合体の機能は細胞種特異的と考えられる。そこで既知複合体の既知構成因子を各種組織株に高発現させ、複合体を再精製することで細胞種特異的構成因子の同定を試みた結果、組織特異的な発現因子を含む複合体の存在が明らかになった。2.染色体構造調節複合体を共役する因子の分子遺伝子学的検索:染色体構造調節複合体と転写共役因子複合体の協調作用により、ヒストンタンパクの修飾やヌクレオソーム配列の再整備が行われ、その結果としてより転写制御反応を潤滑化もしくは難化すると予想されている。機能未知因子を検索・同定することを目的とし、ショウジョウバエに男性ホルモン受容体を発現するハエラインを確立している。そこで、特定染色体領域欠失、あるいは遺伝子が機能的に欠損したハエラインと掛け合わせることで、受容体機能に必須な共役因子を分子遺伝子的に検索・同定し、いくつかの候補因子を同定した。今後このようなアプローチによって同定された修補因子については、前述した生化学的アプローチにより、その核内複合体の同定、機能解析を行う予定である。3.染色体構造調節複合体構成因子群の生体内機能の解明:染色体構造調節複合体は、同様の活性を有するものが複数見出されており、in vitro系での解析では、その機能的生理的な差異は見出されないでいる。一方、多くの転写共役因子複合体構成因子群のノックアウトについては、胎生致死となるか、もしくは全く異変が見出されない例が多い。従って、これら複合体種特異的な機能を評価する強力なアプローチの一つとして、構成因子遺伝子欠損マウス(ノックアウトマウス)の作出が挙げられる。本年度は、染色体構造調節複合体種特異的構成因子に焦点を合わせ、Cre-loxP系を用いた時期・組織特異的遺伝子破壊法により胎生致死を回避し、当該因子の生体内高次機能を評価した。特に、前年度で同定された有力候補因子を同様な手法により、骨を中心に解析した。