著者
吉田 毅
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.43-58, 2010-03-20 (Released:2016-10-05)
参考文献数
18

本稿の目的は、オリンピック金メダリストがどのような競技生活を送って金メダル獲得に至ったのか、また、金メダル獲得は金メダリストのその後の人生にどのような影響を及ぼしているのかについて、競技者のキャリア形成の視点を踏まえ解明することであった。ここでは、冬季オリンピック、ノルディック複合団体で金メダルを獲得した日本チームの1人を事例とし、ライフヒストリー法を用いて検討した。 氏は、スポーツ少年団で本格的なジャンプを、中学時代に複合を専門的に始めた。高校時代にはハードトレーニングに打ち込んだ結果、日本代表としてジュニア世界選手権に出場し、また、インターハイで優勝した。氏の競技者キャリアは、中学時代までは「導入・基礎期」、高校時代は「強化・飛躍期」、大学時代は「停滞期」、そして実業団時代が「仕上げ期」と捉えられる。これは、競技力養成という点で、早期には結果を求めるよりも基礎づくりが重要であることを示唆する1つのモデルとなり得るだろう。また、ピークに達する前段階での停滞が奏功したモデルともいえるが、氏はこの時期にもオリンピックに出場したいとの夢を保持していた。氏が金メダル獲得に至るまでには、金メダル獲得の追い風というべき運命的な要素がいろいろと見出された。おそらく金メダリストの競技者キャリアには、そうした運命的な要素を孕む金メダル獲得に至るストーリーがあるのだろう。 氏のこのストーリーには、さらに各段階の指導者、ならびに両親をはじめとした支援者と様々な他者が登場する。 氏にとって、金メダル獲得は至福の体験であり、ほとんど良い意味で氏の人生を変えるものであった。例えば、世間の注目を浴び、あらゆる面で自信を得、多額の報奨金を得た。現役引退後のセカンドキャリア形成プロセスでは、学校等からの度々の講演依頼、また複合のテレビ解説依頼があり、仕事では知名度の高さが有利に働いた。
著者
杉村 健 吉田 毅
出版者
奈良教育大学教育研究所
雑誌
奈良教育大学教育研究所紀要 (ISSN:13404415)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.33-42, 1986-03-23

研究Iでは、小学2、4、6年生を用いて、京大NX知能検査の下位テストである「日常記憶」の得点が高い者は低い者に比べて、国語、社会、算数、理科の4教科すべての成績がよく、記憶力が学業成績の重要な規定因であることを示した。記憶力と成績の関係は学年と教科によって若干異なっており、例えば、国語と記憶力の関係は2年生よりも4、6年生で強いことが示唆された。記憶力が高い者の学業成績の標準偏差は小さく、記憶力が低い者の標準偏差が大きいことからみて、記憶力が高い場合は高い学業成績を予測できるが、低い者については学業成績が予測しにくいといえる。研究IIでは、数学の学習塾に通っている中学3年生の子どものうちで、小学6年生のときに実施した京大NX知能検査の数因子よりも空間因子の偏差値が5点以上低い者2名(S.Y.とA.H.)と高い者1名(Y.Y.)を選び出し、その指導過程を紹介するとともに、計算を主とするテストの成績と図形を主とするテストの成績(いずれも塾で実施)を中学1年と2年のときに比較し、中学3年のときに再び知能検査を実施した。S.Y.は、小学6年と中学3年の知能検査がともに数因子>図形因子であって、数学の成績も1年生、2年生ともに計算>図形であり、知能の因子と数学の成績の間に完全な対応がみられた。事例A.H.は、小学6年では数因子>空間因子であり、中学1年の成績はそれに対応して計算>図形であったか、中学2年では計算<図形に変わり、それに応じて知能の因子は数因子=空間因子となった。事例Y.Y.は、小学6年、中学3年ともに知能検査では数因子<空間因子であったのに、数学の成績は中学1、2年ともに計算>図形であって知能の因子との対応はみられなかった。数因子と空間因子の偏差値の差があまり大きくない場合には、数学の成績との対応関係があまり明確ではないことが示唆された。
著者
吉田 毅 山本 教人
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

一流選手のキャリア・パターンを明らかにするために、16校の一流サッカー選手たちを対象に調査を行った。また、スポーツキャリア形成過程をめぐる日本的特徴を明らかにするために、ユニバ-シア-ド競技大会参加選手を対象に国際比較調査を行った。ここでは、紙幅の都合上、前者についてのみ報告する。選手たちは非常に早期から、ほとんど独占的にサッカーと関わっていた。生活においても、小学校時代よりサッカーが中心を占め、また多くが一流選手になりたいという指向性を持っていた。彼らの主たる活動の場は、地域や学校のクラブであった。始めるきっかけは、自分の判断やメディア、友人の影響が大きかった。サッカーとの関わりで中学校への進学を考えた者は少数であったが、多くの者にとって、進学する高校の選択には、サッカー環境は重要な要因であった。現在、4割以上が遠征に年間1月〜2月を費やしており、そのことが将来の進学や就職、勉強への不安となって現れているようであった。卒業後は4割以上が大学への進学を希望しており、すぐにプロとして活躍したいとする者は意外にも少なかった。スポーツ選手のリタイアメントについては、過去に大学で活躍した人々を対象に調査を行った。その主な結果は次のようなものであった。彼らは大学時代、生活の多くを犠牲にして競技に取り組んでおり、4割以上が将来一流選手になることを強く願っていた。2割は、大学への進学はスポーツの推薦入学であった。8割近くが大学卒業後も実業団・教職員チームなどで競技選手としての活動を続けていた。引退の決断は自発的なもので、体力や意欲の減退、時間的な制約などが主な理由であった。多くは、競技生活について後悔の念を抱いてはいなかった。引退後の職業生活上の困難を感じている者は少数であった。これは、多くが体育やスポーツに関わりのある職業を得ることができたためと考えられる。
著者
吉田 毅郎 古市 大剛 李 僑 北澤 大輔
出版者
環境アセスメント学会
雑誌
環境アセスメント学会誌 (ISSN:13481819)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.52-59, 2021-08-10 (Released:2021-08-31)
参考文献数
33

Offshore wind power plant is one of the promising energy sources as a marine renewable energy. Its effect on marine species including fishes, marine mammals, sea birds and etc. have been researching in the world. The offshore wind power plants could attract or distract marine species. The aggregation of marine species is called reef effect. This paper shows the recent trend of the investigations and researches in terms of aggregation of marine species on and around artificial offshore structures in European and American countries. Especially, reef effect of the offshore wind power plants was summarized in this paper to announce the reef effect for Japanese regulators and stakeholders.
著者
吉田 毅
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.43-58, 2010

<p> 本稿の目的は、オリンピック金メダリストがどのような競技生活を送って金メダル獲得に至ったのか、また、金メダル獲得は金メダリストのその後の人生にどのような影響を及ぼしているのかについて、競技者のキャリア形成の視点を踏まえ解明することであった。ここでは、冬季オリンピック、ノルディック複合団体で金メダルを獲得した日本チームの1人を事例とし、ライフヒストリー法を用いて検討した。<br> 氏は、スポーツ少年団で本格的なジャンプを、中学時代に複合を専門的に始めた。高校時代にはハードトレーニングに打ち込んだ結果、日本代表としてジュニア世界選手権に出場し、また、インターハイで優勝した。氏の競技者キャリアは、中学時代までは「導入・基礎期」、高校時代は「強化・飛躍期」、大学時代は「停滞期」、そして実業団時代が「仕上げ期」と捉えられる。これは、競技力養成という点で、早期には結果を求めるよりも基礎づくりが重要であることを示唆する1つのモデルとなり得るだろう。また、ピークに達する前段階での停滞が奏功したモデルともいえるが、氏はこの時期にもオリンピックに出場したいとの夢を保持していた。氏が金メダル獲得に至るまでには、金メダル獲得の追い風というべき運命的な要素がいろいろと見出された。おそらく金メダリストの競技者キャリアには、そうした運命的な要素を孕む金メダル獲得に至るストーリーがあるのだろう。 氏のこのストーリーには、さらに各段階の指導者、ならびに両親をはじめとした支援者と様々な他者が登場する。<br> 氏にとって、金メダル獲得は至福の体験であり、ほとんど良い意味で氏の人生を変えるものであった。例えば、世間の注目を浴び、あらゆる面で自信を得、多額の報奨金を得た。現役引退後のセカンドキャリア形成プロセスでは、学校等からの度々の講演依頼、また複合のテレビ解説依頼があり、仕事では知名度の高さが有利に働いた。</p>
著者
吉田 毅 工藤 保子
出版者
一般社団法人 日本体育学会
雑誌
日本体育学会大会予稿集
巻号頁・発行日
vol.70, pp.36_1, 2019

<p> 東京2020オリンピック・パラリンピック(オリ・パラ)の開催を契機として、さまざまなレガシーの創造が模索されている。学校教育との関わりから言えば、オリ・パラ教育が多様なアクターによって推し進められている。</p><p> 例えば、東京都教育委員会は、育成すべき人間像、教育のレガシーを定め、基本的枠組みとして4つのテーマと、4つのアクションを組み合わせた多様な取り組みから、重点的に育成すべき5つの資質を掲げ、教育を展開している。</p><p> 一方で、ほぼ全ての幼稚園、学校を網羅することもあり、多様な価値観を含み込むオリ・パラについて、一方的、かつ固定化された価値の押しつけにつながるのではないかという懸念もある。また、そのような教育が行われる社会的意義については十分議論されているとは言いがたい。そこで、本シンポジウムでは、オリ・パラ教育の現状について実践例を検討しながら、その社会的意義や課題、向かうべき方向性について体育社会学の観点から議論したい。</p>
著者
吉田 毅
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.53-68, 2016

<p> 本稿の目的は、中途身体障害者の車椅子バスケットボール(以下「車椅子バスケ」)への社会化に関する研究の一環として、交通事故に遭い受傷した後に車椅子バスケとともに他種目への参加というキャリア、言わば複線的スポーツキャリアを形成していった元カーレーサーが、受傷してから車椅子バスケへの社会化を遂げていくプロセスで寄与した主な具象的な他者について解明することであった。それにあたり困難克服の様相にも着目した。方法はライフヒストリー法を用いた。ここでは、対象者へのインタビューで得た語りを基にライフヒストリーを構成した。主な知見は次の通りである。<br> 対象者は受傷したことにより、障害との闘いをめぐる困難及びレース活動からの現役引退をめぐる困難を経験した。氏が前者を克服していくプロセスで寄与した主な他者としては、〈かけがえのない他者〉(父親)及び〈寄り添う他者〉(親友)が見出され、これらは〈親密圏〉を築く他者とも捉えられた。また、氏は車椅子バスケとともに、受傷前に貴重であったレース活動をレクリエーション的に継続することで後者を克服していった。氏にとってはいずれも貴重であり、車椅子バスケへの社会化を遂げていくプロセスはそれらが並行する様相を呈していた。このプロセスで寄与した主な他者としては、車椅子バスケへと〈誘う他者〉(入所仲間)及び〈導く他者〉(車椅子バスケクラブの先輩)、車椅子バスケ活動の精神的支えとなる〈寄り添う他者〉(親友)、それにレクリエーション的なレース活動へと〈つなぐ他者〉(レース仲間)が見出された。これらのうち〈誘う他者〉以外は親密圏を築く他者とも捉えられた。</p>
著者
吉田 毅
出版者
一般社団法人 日本体育学会
雑誌
体育学研究 (ISSN:04846710)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.577-594, 2012 (Released:2012-12-05)
参考文献数
56
被引用文献数
1 1

The purposes of this study were to identify, from a sociological perspective, the main factors involved in the process that a former J-League soccer player overcame the challenges and difficulties over retirement, and to find features that would be informative for athletes facing problems related to retirement from sport. This J-Leaguer became wheelchair-bound after being severely disabled in a traffic accident, and was able to overcome various challenges and difficulties through a career transition to wheelchair basketball. His life history was investigated on the basis of data recorded mainly during interviews. This study was based on the subjective socialization theory, especially Erikson's theory of identity related to subjective action, which is considered to partly overcome the problems associated with contemporary socialization theory, with special reference to the specific significance of individuals who helped the subject to overcome his difficulties. The difficulties he experienced were related to both retirement and life with a walking disability, the former being in conflict with the subject's strong self-identity as an elite soccer player. The presence of “irreplaceable others”, including his wife who devoted herself to his support and their newborn baby, his sense of responsibility for them, and his pride based on self-identity enabled him to exercise his subjectivity (reflexivity), allowing him to overcome his difficulties. In terms of his career transition to wheelchair basketball, “leading others” and “associates” in a wheelchair basketball club played important roles. When athletes retire as players, the following points are considered important for overcoming their associated difficulties. It is vital that the new change of career is well balanced with the athlete's self-identity. The role of others such as “leading others” is influential in finding a suitable career field. Furthermore, it should not be overlooked that the feelings of athletes that allow them to exercise their subjectivity to overcome their difficulties, “irreplaceable others”, self-identity which is the main source of such inner feelings, and “associates” in a supporting role are all valuable in this respect.
著者
吉田 毅
出版者
常葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

後天的身体障害者がスポーツへの社会化を遂げていくプロセスで寄与する他者について、車椅子バスケットボール男女競技者および車椅子バスケットボールと車椅子マラソンの男子競技者の差異に着目し、インタビューで得た語りに基づき具象的レベルで解明することを試みた。ここで導出された他者は主に、スポーツに参加できる状態になるまでは、気を許せる他者、かけがえのない他者、癒す他者であった。その後スポーツに励むようになるまでは、スポーツ活動へ誘う他者と導く他者、それにスポーツ活動のサポート役というべき仲間であった。このうち誘う他者は、車椅子バスケットボール女子と車椅子マラソンでは数少なく上記のような差異が認められた。
著者
平田 雅之 柳澤 琢史 松下 光次郎 Shayne Morris 神谷 之康 鈴木 隆文 吉田 毅 佐藤 文博 齋藤 洋一 貴島 晴彦 後藤 哲 影山 悠 川人 光男 吉峰 俊樹
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.7, pp.541-549, 2012-07-20

ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)は脳信号から運動意図・内容を読み取って外部機器を制御する技術である.われわれは脳表電極を用いたBMIにより,筋萎縮性側索硬化症等の重症身体障害者に対する機能再建を目指して研究開発を行っている.これまでにγ帯域活動を用いた連続的な解読制御手法により,ロボットアームのリアルタイム制御システムを開発し,脳表電極留置患者による物体の把握・把握解除に成功した.感染リスク回避のためにはワイヤレス体内埋込化が必須であり,ワイヤレス埋込装置のプロトタイプを開発した.今後は,重症の筋萎縮性側索硬化症を対象として,有線・ワイヤレス埋込の2段階での臨床試験を経て実用化を目指す.
著者
吉田 毅
出版者
東北工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

車椅子バスケット日本代表クラスの後天的身体障害者を対象に、彼ら/彼女らのアスリートキャリア形成に関して検討した。このプロセスでの性差として、主に車椅子バスケットに参加する契機の相違が認められた。男子は他律的な面が顕著であるのに対し、女子は自律的な面が顕著であった。その後の車椅子バスケットに定期的、継続的に参加するようになる要因としては、良き仲間を得たことや車椅子バスケットそれ自体の魅力が、参加し続ける要因としては、向上心とともに、身近にアスリートとしての同志や役割モデルを得たことが認められた。こうした一連のアスリートキャリア形成をめぐる主な問題点として、競技活動と仕事や家庭との両立、また練習場所や資金といった物的な側面が認められた。