著者
長田 謙一 楠見 清 山口 祥平 後小路 雅弘 加藤 薫 三宅 晶子 吉見 俊哉 小林 真理 山本 和弘 鴻野 わか菜 木田 拓也 神野 真吾 藤川 哲 赤塚 若樹 久木元 拓
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

従来プロパガンダと芸術は、全体主義下のキッチュ対自律的芸術としてのモダニズムの対比図式のもとに考えられがちであった。しかし本研究は、両者の関係について以下の様な新たな認識を多面的に開いた:プロパガンダは、「ホワイト・プロパガンダ」をも視野に入れるならば、冷戦期以降の文化システムの中に東西問わず深く位置付いていき、芸術そのもののありようをも変容させる一要因となるに至った;より具体的に言えば、一方における世界各地の大型国際美術展に示されるグローバルなアートワールドと他方におけるクリエイティブ産業としてのコンテンツ産業振興に見られるように、現代社会の中で芸術/アートはプロパガンダ的要因と分かち難い形で展開している;それに対する対抗性格をも帯びた対抗プロパガンダ、アートプロジェクト、参加型アートなどをも含め、芸術・アートは、プロパガンダとの関係において深部からする変容を遂げつつあるのである。
著者
吉見 俊哉
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.557-573, 2015

デジタル革命は社会的記憶の構造を持続的に変化させる. デジタル技術は同じ情報が大量複製されていっせいに伝播・流通し, 大量消費されていくというマス・コミュニケーションの回路に介入し, <生産→流通→消費> の空間軸の組織化を, <蓄積→検索→再利用> の時間軸の組織化へと転換させる. もはや <過去> は消えなくなり, 無限に集積されていく情報資源となる. ここで必要なのは, 文化の創造的「リサイクル」である. 古い記録映像は, 音や色を与えられて新しい教育の貴重な「資料」となり, 古い脚本のデータは新しいドラマ作品を創造していく基盤となる. この転換には, まず散在するさまざまな形態のメディア資産の財産目録を作成し, 原資料を安定的な保存環境に集めていく取り組みを進める必要がある. また, アーカイブ化されたデジタルデータについて, 共通フォーマットにより標準化を進め, 公開化と横断的な統合化を進めることも重要である. さらに, デジタルアーカイブ運用のための人材育成, 教育カリキュラムにアーキビスト育成を取り込んでいくことも必要となる. デジタル時代のアーカイブでは, 保存の対象はけっして政府・行政機関の公文書に限定されない. アーカイブ化される資料や情報には, 地域の人びとによって撮影されたり語られたりした情報が大量に含まれるし, マスメディアやインターネットの情報がともに保存されていく. それらの情報全体が, 国境を越えて結びついていくのである.
著者
吉見 俊哉
出版者
日本マス・コミュニケーション学会
雑誌
マス・コミュニケーション研究 (ISSN:13411306)
巻号頁・発行日
no.86, pp.19-37, 2015-01-31

In postwar Japan, the Olympic Games were organized as "postwar" events in the strict sense of the term-specifically, the Olympic Games not only symbolized the history of Japan's postwar recovery and economic growth, but also the athletic facilities that provided stages for many national dramas were postwar products created by transforming facilities used for military purposes during the war. Many of the national dramas that unfolded on these stages were also products created by shifting the focus of dramaturgy from military heroism to athletic heroism. The term "postwar period" as used here refers to the transition from militarism (war) to peace. In this paper, we first verify that the major facilities for the 1964 Tokyo Olympic Games were constructed on former Japanese military facility sites. Next, we confirm that throughout Japan, after the war many athletic facilities were constructed in places where military facilities were located during the war. Then, we reveal that in the process of returning Washington Heights in Yoyogi to Japan in order to construct facilities for the Olympics, there was a gap between the intentions of the United States and the Japanese government, which was actually seeking the return of the U.S. base in Asaka. In addition, we also confirm that the Oriental Witches and Kokichi Tsuburaya, who played leading roles in the national dramas of the Olympics, were both closely tied to the process through which a poor nation turned itself into an industrialized country-the Oriental Witches as former female workers of cotton mills, and Tsuburaya as a member of the Self-defense Forces from the Tohoku region. Thus, this paper aims to throw light on the continuous elements from the war period of the 1964 Olympic Games.
著者
能登路 雅子 藤田 文子 シーラ ホンズ 吉見 俊哉 谷川 建司 土屋 由香 矢口 祐人 梅崎 透
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

本研究は冷戦期を中心にアメリカの文化外交の実態を学際的に解明することを目的とし、特に1940年代から70年代にかけて米国国務省が民間人や民間機関、ハリウッド映画産業や航空機産業などの企業と緊密な連携を保ちつつ、日本を含むアジア地域で積極的な文化外交を展開した実態を3年間を通じて明らかにした。本研究が特に注目したのは文化外交の政策的内容よりも実践レベルにおける当事者の意識・行動とその調整・抵抗といった変容のプロセスである。第二次大戦後、戦略的重要性を高めたアラスカ・ハワイの州昇格の際にアメリカ政府が製作した広報映画の分析も研究成果のひとつであるが、太平洋地域における植民地統治と文化的影響に関する幅広い研究を進めたことも本プロジェクトの学術的貢献としてあげられる。特にサイパンとパラオ共和国における実地調査を通じて、スペイン・ドイツ・日本・アメリカによる統治が現地に残した文化とアイデンティティにおける多層な影響力をポストコロニアルの視点から理解し、文化外交が一国の国益を超えた文化混淆をもたらす実態を長い歴史的スパンで、またローカルな文化実践との関連で捉えることができた。
著者
吉見 俊哉 ディマ クリスティアン ディマー クリスチャン DIMMER Christian
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、高まる世界経済競争と世界の都市部での社会格差の中、いかに政治家、プランナー、デベロッパー、市民に共通する「都市の公共空間」を明らかにすることである。しかし公共空間における過去のネオリベラルな規制緩和や民営化政策の結果、相互依存における発展の影響について適切な理解が深められることなく政府、地方自治体などの行政側から民間セクターへと移行することとなった。本研究では、公共性の高い都市空間の協力的(官民)計画方法、実際の建設、管理という全プロセスの流れを系統的に調査、分析する。研究の中では、現制度や社会的状況における「公開空地(privately owned public space、POPS)」(※「公開空地」は公共性の高い民間所有地)のあり方を特に詳しく精査する。それに加え、より新しい実例として着目しているのは特定地域における公共空間の民間による創出や管理が争いに繋がるケースである。下北沢の道路開発プロジェクトや銀座松坂屋の再開発プロジェクト、渋谷宮下公園の民間化と京都梅小路公園の中の民間デベロッパーで水族館工事といったものが挙げられる。都市化や都市構造の再編が進む中、民間化の拡大は日本に限った問題ではない。都市空間の問題はアメリカ・ニューヨーク、チリ・サンティアゴ、オーストラリア・メルボルン、ドイツ各都市でも見られるため、それらの都市と日本の都市との関連性も共同研究中である。共同研究結果の議論のため、2010年5月27日、28日、29日にはオーストラリア・メルボルンでアーヘン工科大学のペゲレース博士とメルボルン工科大学のヨナス教授主催のワークショップに参加して次の共同のワークショップは12月にドイツのアーヘン市で予定されている。また2010年7月10日上智大学の比較文化研究所主催の『Alternative Politics : Youth, Media, Performance and Activism in Urban Japan日本人若者政治参加と都市空間』と言うコンファレンスで東京における「奪い合われる空間」に関して発表し、複合的観点から見る現代都市日本の公共空間の社会文化特有性について議論した。また同じテーマに関して11月にドイツ、フランクフルト市でのVSJF学会と2011年の3月にホノルル市でのAASの学会発表する予定である。
著者
吉見 俊哉
出版者
関東社会学会
雑誌
年報社会学論集 (ISSN:09194363)
巻号頁・発行日
vol.2005, no.18, pp.2-15, 2005-08-05 (Released:2010-04-21)

In the field of cultural studies, I have been tackling the problem of Americanism in East Asia. My focus is on the everyday cultural reception of “America” among the people of East Asia since the end of the Second World War. I have been reviewing the relationship with America built up especially during the period of the Cold War from a comprehensive regional perspective, taking into account the level of people's everyday consciousness and culture along with the military and politico-economic aspects. Despite the evident importance of research on such a wide-ranging and complex phenomenon, hardly any attempt has been made until very recently to study the significance of “America” in a region-wide context. The new approach we need relates to the field of post-colonial studies in East Asia. The postwar dominance of America in East Asia is, in a certain sense, a reconstruction of the Japanese imperial order that existed until the end of the war. It is essential that the mediating role of “America” be considered in investigations of the further postwar development of colonial consciousness and practice in Asia under the Cold War order.
著者
吉見 俊哉
出版者
アメリカ学会
雑誌
アメリカ研究 (ISSN:03872815)
巻号頁・発行日
vol.2005, no.39, pp.85-103, 2005-03-25 (Released:2010-10-28)
参考文献数
22