著者
長田 謙一 木村 理恵子 椎原 伸博 佐藤 道信 山本 和弘 楠見 清 山崎 明子 加藤 薫 木田 拓也 熊倉 純子 藤川 哲 鴻野 わか菜 後小路 雅弘 水越 伸 山口 祥平 毛利 嘉孝 森 司 暮沢 剛巳 神野 真吾 竹中 悠美
出版者
名古屋芸術大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究は、個別研究およびその総合を通して、以下の知見を獲得するに至った。近代社会において「自律性」を有する独自システムを形成したと理解されてきた芸術は、1980年代以降、アジア諸国、ロシア・旧東欧圏、そしてアフリカまでをも包含して成立する「グローバル・アートワールド」を成立させ、それは非西洋圏に進む「ビエンナーレ現象」に象徴される。今や芸術は、グローバル経済進捗に導かれグローバル/ローカルな政治に支えられて、経済・政治との相互分立的境界を溶解させ、諸領域相互溶融的な性格を強めている。しかし、それゆえにまた、現代の芸術は、それ自体が政治的・経済的等々の社会性格を顕在化させることともなる。
著者
長田 謙一 楠見 清 山口 祥平 後小路 雅弘 加藤 薫 三宅 晶子 吉見 俊哉 小林 真理 山本 和弘 鴻野 わか菜 木田 拓也 神野 真吾 藤川 哲 赤塚 若樹 久木元 拓
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

従来プロパガンダと芸術は、全体主義下のキッチュ対自律的芸術としてのモダニズムの対比図式のもとに考えられがちであった。しかし本研究は、両者の関係について以下の様な新たな認識を多面的に開いた:プロパガンダは、「ホワイト・プロパガンダ」をも視野に入れるならば、冷戦期以降の文化システムの中に東西問わず深く位置付いていき、芸術そのもののありようをも変容させる一要因となるに至った;より具体的に言えば、一方における世界各地の大型国際美術展に示されるグローバルなアートワールドと他方におけるクリエイティブ産業としてのコンテンツ産業振興に見られるように、現代社会の中で芸術/アートはプロパガンダ的要因と分かち難い形で展開している;それに対する対抗性格をも帯びた対抗プロパガンダ、アートプロジェクト、参加型アートなどをも含め、芸術・アートは、プロパガンダとの関係において深部からする変容を遂げつつあるのである。
著者
鴻野 わか菜
出版者
日本スラヴ・東欧学会
雑誌
Japanese Slavic and East European studies (ISSN:03891186)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.83-102, 2003-05-31

アンドレイ・ベールイの『銀の鳩』の<酩酊>のトポス(=野、居酒屋)を、文学・文化的コンテクストにおいて検討することは、作品の主題、他の文学作品との影響関係を明確にするだけでなく、作品の根底にある世界観が同時代の思潮にどのように村峙させられているかを示唆する。第一に<野>の描写を、『銀の鳩』ではワインがセクトの奥義のメタファーであることを念頭に考察する。<野>は、物語の冒頭では「空ろな空間」だが、主人公ダリヤリスキーがセクトに眩惑されると同時に「夕焼けのワイン」で満たされ、彼がセクトに幻滅すると同時に「空ろな灰色の野」に戻る。<野>とダリヤリスキーの精神状態をパラレルに措くことで、作者はダリヤリスキーの悲劇と死をロシアの野に投影している。<野>は、チュッチェフ、メレシコフスキー、ベールイ自身が、ロシア的イデー創生の場として夢みたトポスであり、他ならぬこの場に終末の色彩を付与することによって、古い理念の失墜が暗示される。また<野の酩酊>の描写は、ベールイが傾倒したアルゴナウタイ神話やオカルトの文脈で理解することもできる。第二に<村の居酒屋>の描写を、ロシア文学で措かれる酒場のイメージと比較することにより、『銀の鳩』では<居酒屋>が「主人公の運命を決定する場所」というドストエフスキー的な酒場の要素と、「酩酊してもう一つの世界をかいまみる」というブロークの『見知らぬ女』的要素を持つことを示す。しかしブロークの詩では、酒場は酩酊した主人公=夢想者が夢の世界と現実世界を行き来するトポスであるのに対し、『銀の鳩』の<居酒屋>は間接的に<セクトへの扉>として機能している。粗野で地獄絵のような<居酒屋>の描写は、ブロークの措く高貴な神秘的酩酊に村するアイロニーでもあり、あらゆる<酩酊>、すなわち<神話>信仰全般(ソフィア崇拝、新興宗教、当時文壇に蔓延していたオカルト主義等)に対する痛烈な批判として読むことができる。
著者
Молодяков Василий 鴻野 わか菜
出版者
ナウカ
雑誌
(ISSN:13438018)
巻号頁・発行日
no.106, pp.6-9, 1998-09
著者
鴻野 わか菜
出版者
千葉大学大学院人文社会科学研究科
雑誌
千葉大学人文社会科学研究 (ISSN:18834744)
巻号頁・発行日
no.28, pp.205-217, 2014-03

ロシア現代美術を代表する作家の一人であり、アーティスト、パフォーマー、詩人、小説家、脚本家、絵本作家、出版家、キュレーターとして多彩な活動を続けるレオニート・チシコフ(Леонид Тишков 1953年生)の作品を解説する。チシコフの創作世界の特徴を、共生のユートピア、「新しい世界」の創出、美術と文学の融合、世界文化への関心という観点から分析する。
著者
鴻野 わか菜
出版者
Japanese Society for Slavic and East European Studies
雑誌
Japanese Slavic and East European studies (ISSN:03891186)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.1-16, 157-158, 2002

アンドレイ・ベールイの『銀の鳩』には、物語の鍵となるいくつかの船のイメージがあり、作者は船を描くにあたって、様々な文化的コンテクスト、1)ロシア民話、2)聖書、3)ロシア異教、4)西洋文化のシンボル体系、5)ワーグナーのオペラ『さまよえるオランダ人』、6)ピョートル大帝、7)ギリシャ神話のアルゴー船、を用いている。第一に、物語に登場する新興宗教〈鳩の宗〉の教義の中心に、「信徒が集う〈船〉を建造する」というモチーフがある。新興宗教のリーダー、クデヤーロフは、共同体としての船を語る際、船を削る鑿の音を表す擬音語として「Tyap-Lyap」という言葉を用いているが、これはロシア民話で魔法の船を建造する時に使われる表現である。新興宗教のリーダーがこの言葉を使って船の建造を語った時点では、彼の持つ魔術的力について読者はまだ知らされていないが、実はロシア民話の魔法の船のモチーフによって、クデヤーロフの魔術者的性格はすでに暗示されているのである。作者自身語っているように、〈鳩の宗〉は架空の宗教であるが、鞭身派をイメージの源泉としている。鞭身派の信者は、信徒の共同体を〈船〉と呼ぶことが広く知られている。ベールイは、文化学者プルガーヴィン、ボンチ=ブルーエヴィチの著作を通じて鞭身派の教義について知識を得ており、〈鳩の宗〉のイメージ形成にあたって明らかに実際の新興宗教をモデルにしていた。物語にはもうひとつ重要な船のイメージがある。主人公ダリヤリスキーは、婚約者カーチャの邸宅を追放されたことを契機として〈鳩の宗〉に身を投じることになるが、彼は邸宅を追われる際、ふりかえって「船のように飛び去る邸宅」を眺める。ここには、船を愛の住処、幸せの象徴として位置づける西洋のシンボル体系が影響している。また、注意したいのは、ダリヤリスキーにとっては、純情な乙女カーチャの愛も、セクトの魅惑的な教義も、同じ船のメタファーで捉えられていることである。ダリヤリスキーは、救済、幸福を求めて〈船〉を渡り歩く旅人であり、永遠の航海者という点では、ロシア象徴主義詩人の愛好したワーグナーの『さまよえるオランダ人』と重なりあう。ベールイは20世紀初頭、ギリシャ神話のアルゴー船物語に惹かれ、「アルゴナウタイ同盟」というグループを作り「日常の神話化」をめざした。特に1904年前後にこの理想に強く惹かれたベールイは、ギリシャ神話をモチーフにした詩を数多く残しているが(詩集『瑠璃のなかの黄金』)、『銀の鳩』を執筆した1909年の時点では、若き日の理想に苦い幻滅を感じていた。『銀の鳩』で船がセクトの共同体、不幸な「さまよえるオランダ人」の船として登場するのも、アルゴー船へのアイロニーとして捉えることができる。旧来の理想に飽き足らず、新しい救済を求める旅に出ようとするのは、ダリヤリスキーだけでなく作家自身の姿でもある。
著者
鴻野 わか菜
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では,20世紀ロシアにおける文学と文化(主に映画と美術)の相関性を例示し,分析することを目的として,ソ連地下芸術の一派であるモスクワ・コンセプチュアリズム美術(イリヤ・カバコフ),20世紀初頭のロシア象徴主義文学(アンドレイ・ベールイ),現代映画,現代詩について,文化史的な観点から分析を行った。研究成果の一部は,日本語とロシア語で,国内外の学術誌,書籍,研究会等で発表された。
著者
望月 哲男 亀山 郁夫 松里 公孝 三谷 惠子 楯岡 求美 沼野 充義 貝澤 哉 杉浦 秀一 岩本 和久 鴻野 わか菜 宇山 智彦 前田 弘毅 中村 唯史 坂井 弘紀
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

ロシア、中央アジア、コーカサス地域など旧ソ連圏スラブ・ユーラシアの文化的アイデンティティの問題を、東西文化の対話と対抗という位相で性格づけるため、フィールドワークと文献研究の手法を併用して研究を行った。その結果、この地域の文化意識のダイナミズム、帝国イメージやオリエンタリズム現象の独自性、複数の社会統合イデオロギー間の相互関係、国家の空間イメージの重要性、歴史伝統と現代の表現文化との複雑な関係などに関して、豊かな認識を得ることが出来た。